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社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新

社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新

「省エネ」「少子高齢化」「インフラの老朽化」「防災/減災」など、ここにきて大きな社会課題が次々と顕在化してきた。これとともにクローズアップされてきたのが、こうした社会課題の解決に貢献する電子デバイス技術。いわゆる「ソーシャル・デバイス」の存在である。そのソーシャル・デバイスの今後の可能性などについて、代表的な社会インフラである鉄道の技術をリードしている鉄道総合技術研究所の会長を務める正田英介氏と、社会とのかかわりを意識しながら先進的な電子デバイスを展開するローム代表取締役社長の澤村諭氏が議論した。

正田英介氏
公益財団法人 鉄道総合技術研究所
会長

澤村氏 近年、人類のサステナビリティにかかわる地球規模の社会問題が相次いで浮上してきました。その多くは、従来の考え方や過去の技術の延長では簡単に解決することはできません。こうした状況の中で、企業が果たすべき役割も変わるべきだと思っています。半導体・電子部品メーカーのロームは、「省エネルギー」や「小型化」の技術を追求しながら、様々 な形で社会に貢献するつもりです。基本的な社会インフラの一つである鉄道の分野でも、新しい社会課題に直面する機会が増えているのではないでしょうか。

正田氏 鉄道の場合、「安全」と「信頼性」を極めることが最終的な課題であることは、今も昔も、これからも変わりません。目下のところ特に意識している課題は、大きく三つあります。一つは、「エネルギー」です。エネルギーの利用にともなう環境負荷の低減は、分野を問わず世界全体の大きな課題ではないでしょうか。鉄道においても、これは避けて通れない問題です。特に日本では東日本大震災以降、エネルギーの供給体制を強化することが一つの課題として持ち上がっています。このため、エネルギーの問題をますます意識せざるを得ません。

 もう一つの課題は、「保守安全」。鉄道は巨大なシステムです。これを安全な状態に維持することは並大抵のことではありません。しかも、現状では保守安全のための仕組みは人に依存しているところが少なくありません。このままで保守安全の技術レベルを、これまで以上に高めるのには限界があります。新しい仕組みが必要だと考えています。

 三つ目の課題は、ICT(情報通信技術)の導入を加速することです。例えば、鉄道で移動している最中にモバイル機器を利用したいという人が増えてきました。こうした人たちのニーズに対応するICT環境を整備する必要があります。これは鉄道の利用者を維持するうえでも重要です。人口が集中している日本の都市部では、自然に多くの人々が鉄道を利用しています。ところが、自動車社会と言われる米国では、必ずしも鉄道を利用しなくてもよいという人が少なくありません。モバイル機器が利用できる環境を重視する人たちが増えてきたときに、そのニーズに対応できていないと利用者が減ってしまう可能性があります。

 ITツールを使って情報収集する利用者が増えれば、鉄道に関する情報発信の仕方も変えなくてはならないと思います。つまり、これまでのように駅などに情報を掲示するだけでなく、様々なメディアを利用した情報発信や、ICT技術を使った利用者との新しいコミュニケーションの仕組みを用意する必要があります。

電力危機を契機に一段と強く意識

澤村氏 最近では、社会における価値と企業から見た価値を両立させながら、事業活動を通じて社会が抱える課題を解決することを目指すCSV(Creating Shared Value)という理念を重視する機運が企業の間で高まっています。こうした中でロームも、社会とのかかわりを常に意識しながら事業を進めています。実はロームの「企業目的」や「経営基本方針」には、社会に貢献することが明示されています。これに基づき、ものを消費するエネルギーの省エネだけでなく、ものをつくるエネルギーの省エネ・省材料を心掛けて製品を開発してきました。

 例えば、AC-DCコンバータICやDC-DCコンバータICといった電力変換に不可欠なアナログICやパワー半導体の効率を高めることは、電子機器の消費電力削減にダイレクトに貢献します。

図1●世界最小部品RASMID®シリーズ
[画像のクリックで拡大表示]

 また、新開発の加工技術によって世界最小を実現した小型の抵抗器やダイオード「RASMID®(ラスミッド)シリーズ」(図1)は、スマートフォンなどのモバイル機器に搭載されていますが、この製品は材料の削減に貢献します。部品を小型にすることで、実装する基板や外付け部品も小さくできるので、省材料の効果はさらに広がるはずです。

 製品のアウトプットだけでなく、製造過程における環境負荷低減、トレーサビリティや紛争鉱物不使用の徹底などにも努めています。こうした社会を意識した取り組みは、東日本大震災や、その後の電力危機などを契機に一段と強く意識するようになりました。社員一人ひとりが、社会に対する使命感を持ってものづくりに取り組むステージにきていると強く感じています。

 先ほど鉄道における課題を挙げていただきましたが、その課題に関する研究開発は始まっているのですか。

正田氏 すでに始まっています。例えば、電力を供給する電線に使う超電導ケーブルです。現在は電線の材料には銅が使われています。ところが銅線の場合、電気抵抗をもっており、これが電線に電気を流したときにエネルギー損失を発生させます。しかも、電線が長くなればなるほど抵抗値が増えて、損失は大きくなります。これに対して、超電導ケーブルを使えば、電線の電気抵抗をほぼゼロにすることができます。つまり電線に発生するエネルギー損失をゼロにできるわけです。実用化されれば、鉄道の電力供給システムの合理化を図れるうえに、省エネを一気に進めることができます。

 保守管理の効率化を図るために、エレクトロニクスやICTの技術を利用するための研究も始まっています。例えば、様々なセンサなどを使って、車両や線路の状態を管理する技術の研究です。鉄道の保守管理では、人間の五感に頼っている作業が数多くあります。例えば、外観や内部を眼で見て確認する目視検査や、ハンマーで叩いたときに発生する音を聞いて異常を検知する打音検査です。いち早く異常を検知するためには、においも重要な情報です。様々なセンサを利用して、従来は人の感覚に頼っていた、こうした作業を自動化すれば、保守管理にともなう作業の効率化を図れます。感覚に頼っているノウハウを可視化できるので現場の技術を継承するうえでも有利です。こうしたシステムの実用化を進めるに当たっては、ロームの技術が多いに役立つのではないでしょうか。

澤村氏 そうですね。インフラの管理をはじめ、社会的な課題の解決に貢献する製品は既存製品にも数多くあります。実際に社会のシステムにかかわりが深い分野のお客様が着実に増えています。例えば、様々な自然界の情報をデジタル化するセンサや、センサが収集した情報を集めるためのワイヤレス通信システムに関連する技術や製品です。スマートフォンなどのモバイル機器、セキュリティシステム、医療機器、建築・土木など幅広い分野で需要が高まっています。先ほど、お話が出ていたセンサを利用した保守管理システムの実現にも貢献できるのではないでしょうか。

 ワイヤレス通信技術では、超低電力の無線通信「EnOcean(エンオーシャン)」というユニークな技術も展開しています。身のまわりの環境に存在する光や運動などを電力に変換するエナジー・ハーベスティング(環境発電)技術と組み合わせて、電源や配線が不要の無線スイッチを実現できます。この技術を利用して、あらゆるところにスイッチを設置すれば、状況に応じてこまめに電源をオンオフできる環境が整うでしょう。

インフラの融合が需要を後押し

澤村諭氏
ローム
代表取締役 社長

正田氏 ロームが注力しているパワーデバイスは、エネルギーに関連する重要な分野の一つですね。

澤村氏  そうです。特に力を入れています。パワーデバイスは、電力変換する回路の中核部品で、電気を使用する機器のほとんどで使われているものです。例えば、多くの機器では、発電所から送られてきた電力をそのままで使うのではなく、家庭や事業所で使用する機器に合わせて変換します。機器の内部にも、必要な電流や電圧を作るために様々な変換処理回路が組み込まれています。つまり、エレクトロニクス・システムでは、至るところで変換回路が必要になるわけです。ところが、電力変換の際に必ず無駄になる電力、いわゆる損失が発生します。これを抑えることができれば省エネを進めることができます。

 このためにロームが開発しているのが、次世代の半導体材料と言われているシリコン・カーバイド(SiC)を使ったパワーデバイスです。SiCパワーデバイスは、従来の半導体に比べて損失が小さいうえに、高い信頼性を発揮するのが特長です。従来のパワーデバイスから置き換えると、エネルギーの利用効率を大幅に高めることができ、冷却機構の劇的な小型化にも貢献します。これによって単にエネルギーのムダが少ないということだけではなく、それに伴う放熱機構・冷却機構の小型化を図れます。これは機器や設備全体の小型化にも貢献するでしょう。

図2●業界をリードするロームのSiCパワーデバイス
[画像のクリックで拡大表示]

 数年前から実用化が始まっていますが、普及が本格化するのは、これからです。すでに電気自動車やハイブリッド車などの次世代自動車、産業用機器、太陽光発電システムなど、多くの分野で採用の動きが進んでいます。実は、ロームは、SiCパワーデバイスの製品化で世界をリードしている企業の一つです(図2)。パワーデバイス分野のさらなる強化で社会の省エネに貢献するつもりです。

 他にもパワーデバイスの分野では、MOSFETとバイポーラトランジスタのそれぞれの特性の「良いとこ取り」をしたHybridMOS(ハイブリッドモス)など、新たな用途を生む可能性がある革新的な製品も提供しています。こうしたユニークな製品を積極的に展開することで、パワーデバイス分野の市場シェアを拡大するつもりです。

正田氏 電力を変換する技術や、関連するデバイスは、これからますます重要になるでしょう。例えば、今まで鉄道や電力網など、様々なインフラはそれぞれ別々に進化してきました。今後は、効率化や合理化を追求するために、これらのインフラが統合される方向に進むとみています。そこに、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーも組み込まれるのではないでしょうか。こうして生まれる大規模なシステムでは、随所で電力の変換が必要になるはずです。これを受けて電力を変換するパワーデバイスの重要性は、確実に高まるはずです。

 鉄道向けの市場だけでも、パワーデバイスの需要はかなり伸びるでしょう。新興国で鉄道の整備が、これから加速するからです。鉄道の整備に関連する投資額は、世界全体で年間20兆円にも上ると言われています。これから整備する鉄道は、地球環境の観点から電気鉄道が中心になります。そうなれば、そこだけでもかなりの規模のパワーデバイス市場が生まれるはずです。

社会を変える技術が続々

澤村氏 パワーデバイス以外にも、社会の課題解決に役立つ新しい技術・製品を数多く展開しています。新規事業としてアクアフェアリー社と共同で開発を進めている固体水素源型燃料電池は、非常時の代替電源として利用できます。発電時に有害廃棄物や騒音を出さないクリーンエネルギーで、しかも、既存の電池に比べて軽量で、20年の長期保存が可能です。すでに、モバイル機器向け小型タイプ、Liイオン2次電池も内蔵したハイブリッド高出力型、半年以上の長時間にわたって連続稼働させる計測器などに向けた長時間使用タイプなどを試作済みです。

 数多く手掛けているセンシング技術は、社会の高齢化とともにクローズアップされている医療・ヘルスケアの分野における課題解決に貢献します。唾液から健康状態を調べることができるデジタル免疫チップ、人体に影響を与えずに体の内部を撮影できる広帯域CIGSイメージセンサ、いつでもどこでも体の状態をチェックできるウェアラブル脈波センサ、有害な紫外線をチェックできるUVセンサなどを開発中です。

異分野との交流が進化を加速

正田氏 それらの技術と具体的なニーズを、どのように結びつけるかが技術を社会に生かすための一つのカギではないでしょうか。

澤村氏 その通りだと思います。大きな可能性を秘めた技術を数多く展開していますが、その技術を生かせるニーズをすべて把握しているわけではありません。むしろ私たちが知らないニーズが、社会のいたるところにあるのではないかと思っています。そこで、これまでかかわりが少なかった異分野や他の業界の皆さんと交流する機会を増やすつもりです。それによって私たちの技術の応用を広げ、社会の発展に一段と貢献したいと思っています。

 本日は、ありがとうございました。

お問い合わせ
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