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世界が直面する課題に挑む医療機器、次世代半導体が技術革新に貢献

世界が直面する課題に挑む医療機器,次世代半導体が技術革新に貢献

「誰もが健やか生活を送ることのできる未来」の実現を目指すイニシアティブ「ヘルシーマジネーション(healthymagination)」を推進する世界最大のコングロマリットGeneral Electric(GE)。その傘下で医療機器などを手掛けるGEヘルスケア・ジャパンの執行役員で技術本部長を務める星野和哉氏と、半導体メーカーのロームで新材料SiC(シリコンカーバイド)を使った電子デバイスの事業を担当するSiCパワーデバイス製造部副部長の伊野和英氏が、医療機器の革新に半導体デバイスが貢献する可能性について議論した。

星野和哉氏
GEヘルスケア・ジャパン
執行役員 技術本部長

伊野氏 ここにきて先進国を中心に医療に関連する様々な社会問題が浮上してきました。これを受けて医療に関連する新しい取り組みを始める企業が様々な分野で増えています。医療とのかかわりが長いGEも、「ヘルシーマジネーション」というキーワードを掲げて新しい取り組みを進めておられるようですね。

星野氏 GEの成長戦略として2009年5月に発表しました。2009年から2015年までの6年間に60億米ドルを投資し、医療の分野で世界が直面している大きな課題を解決する様々な技術革新を実現。これによってGE全体の成長を図るというものです。

 この戦略の大きなカギを握る研究開発には30億米ドルを投資。100件以上のイノベーションを実現することを目指しています。この取り組みのポイントは、三つあります。一つは「アクセス」。医療サービスを受けるうえでの様々な格差を世界中から排除することです。二つ目は「コスト」。先進国を中心に上昇している医療コストの低減を目指します。医療機器の低価格化や医療にまつわるプロセスの合理化など様々なアプローチを視野に入れています。三つ目は「クオリティ」。医療機器の性能向上や医療過誤を防止する技術の開発など様々な方向から医療の質の向上を目指す考えです。

伊野氏 医療分野を担当されているGEヘルスケアは、ヘルシーマジネーションにまつわる様々な活動の中で中心的な役割を担うことになるのではないでしょうか。一言で医療機器と言っても、その種類やコアとなる技術は様々です。GEヘルスケアが展開している機器について教えていただけますか。

星野氏 X線撮影装置、MRI(磁気共鳴画像装置)、CT(コンピュータ断層撮影装置)、PET(陽電子放射断層撮影)、超音波診断装置などの画像診断装置や麻酔器、モニターなどをはじめとする医療機器、医療施設向けITシステム、画像診断用の放射性薬剤、ライフサイエンスや創薬など最先端の研究開発に向けた機器などを手掛けています(図1)。

図1 GEヘルスケア・ジャパンの主な製品
[画像のクリックで拡大表示]

 日本法人のGEヘルスケア・ジャパンは、CT、MRI、超音波診断装置用プローブの開発および製造を担当しており、手掛けた製品は日本から世界各地に出荷されています。いずれも最も需要が多いミッドレンジの機種が中心です。同じ装置でも性能を追求したハイエンド機や比較的低価格の製品は、海外の別の拠点が担当しています。

 このように開発から製造まで一貫して手掛けているのは、国内で医療用画像診断装置を扱う外資系企業の中で唯一ではないかと思います。日本は世界でも高齢化がもっとも早く進んでいる国です。このためGEヘルスケア・ジャパンは高齢化にともなって浮上する問題にかかわる技術や製品の開発に積極的に取り組んでいます。

医療機器向けデバイスの展開加速

伊野和英氏
ローム
SiCパワーデバイス製造部
副部長

伊野氏 ロームも医療とのかかわりを深めようとしています。1958年に抵抗器メーカーとして創業したロームは今では売上の80%を半導体デバイスが占めています。そのほかに、抵抗・タンタルコンデンサなどの受動部品や各種モジュールを提供しています。これまでは主に情報通信分野をターゲットに製品を展開してきましたが、さらなる成長に向けて新しい分野の市場開拓に取り組んでいるところです。新しい市場を開拓するために戦略的に取り組んでいるのが、これまでかかわってきた半導体の技術と、バイオテクノロジーなど私たちにとって新しい分野の技術を融合することで、革新的なデバイスやソリューションを創出することです。そのターゲットの一つが「医療」です。

 こうした取り組みの成果の一つと言えるのが、2008年に製品化した微量血液検査システム「バナリスト」です。指先などから採種した微量の血液を注入した検査チップを測定装置に装填するだけで、健康状態が分かります。検査時間が約7分間と短いうえに、卓上型の装置なので、小規模な医療機関でも設置可能です。ベッドサイドや身近な診療所などで検査を実施する『POCT(Point of Care Testing)』の実現に貢献するでしょう。この装置の検査チップは、ロームが半導体で培った微細加工技術を応用したものです。このほか、赤外から紫外まで幅広い波長を網羅する数多くのセンサー・デバイスの技術をそろえています。この中には医療の分野に展開できる技術が数多くあるはずです。

図2 ロームのSiCパワーデバイス

 私が担当しているSiCパワーデバイスも医療の分野に様々なメリットをご提供できると思っています(図2)。パワーデバイスは、電源や電気自動車の駆動システムなど大きな電力を扱う電気回路に使われる電子デバイスです。SiCを使ったパワーデバイスは、Si(シリコン)を使った従来のパワーデバイスに比べて低損失で消費電力が小さいのが特長です。このため空冷ファンやヒートシンクなど放熱部品を削減できるといった利点もあります。これらの利点を生かすことで、パワーデバイスを使うシステムの小型化や低電力化を進めることができます。

低消費電力と小型化が医療機器開発の焦点に

星野氏 医療機器を開発するうえで小型化や低電力化は重要な課題だと思います。一般に高性能や高機能を追求すると装置全体が大きくなるうえに消費電力が増える傾向があります。ところが、すべての医療機関で医療機器を設置するスペースが十分に確保できるとは限りません。既存の電源設備で十分な電力を供給できなくなる恐れもあります。小型化や低電力化を進めれば、こうした問題を回避しながら、より高性能で高機能な装置を多くの医療施設が導入できるようになるでしょう。

 低電力化は災害時の対策強化にも役立つのではないでしょうか。災害などによって停電が生じたときのために多くの病院が非常用電源を設置しています。ただし、非常用電源が供給できる電力は必ずしも十分ではないことから、稼動させることができる医療機器は、ごく一部に限られているのが現状です。医療機器の低電力化が進めば、非常用電源でより多くの医療機器を動かせるようになるはずです。

パワーデバイスの品種が拡大

伊野氏 現在製品化されているSiCパワーデバイスには、ショットキーバリアダイオード、MOSFET、パワーモジュールがあります。定格電圧1200Vで定格電流180Aまでの品種で、主に発電設備や電源装置などで採用が進んでいます。2013年から、いよいよ自動車にも搭載される見込みです。2016年以降になると自動車の基本システムであるパワートレイン系にも採用が広がり、2020年になるころには自動車向けを中心にSiCパワーデバイスの市場が本格的に拡大すると見ています。

図3 SiCパワーデバイスの開発ロードマップ

 今後、定格電圧および定格電流の大きい素子を開発し、幅広いニーズに対応できるようにすることで用途を開拓する考えです。当面は定格電圧1200Vまたは1700Vで定格電流600AのフルSiCパワーモジュールの量産出荷を2014年中に始めることを目標に開発を進めています(図3)。

図4 携帯型超音波診断装置「Vscan」
[画像のクリックで拡大表示]

星野氏 SiCパワーデバイスの普及を図るうえでコストの低減も重要です。私たちが手掛けているミッドレンジの医療機器は市場競争が激しいのでコストに対する見方は、どうしても厳しくなります。コスト増につながる部品は、なかなか採用できません。

 自動車への採用が進めば、SiCパワーデバイスの低価格化が一気に進むことが期待できます。自動車に使われるSiCパワーデバイスに求められる定格の条件は、医療機器向けの条件に比較的近いと思います。しかも、高い信頼性が求められる車載用に開発したデバイスならば、そのまま医療機器に展開することもできるのではないでしょうか。

 ある分野で培われた技術が、別の分野の機器の進化に貢献した例は数多くあります。例えば私たちが2010年に発表した携帯型超音波診断装置「Vscan」です。135mm×73mm×28mmと超音波診断装置に対する従来の概念を変えるほど小型でしかも簡単に使えてすぐれた機能を備えていたことから業界で大きな話題になりました(図4)。実は、この装置には携帯電話などのモバイル機器向けに開発された低消費電力のマイクロプロセッサを採用しています。自社のコア技術と他分野の技術の融合によって生まれた製品の一つといえるでしょう。

伊野氏 異分野の技術を取り入れることで画期的な製品や技術が生まれる可能性はぐっと高まります。いま社会が直面している様々な課題の中には、従来技術の延長で対応できない問題は多いでしょう。こうした問題に挑むうえで、従来の枠組みを超えた活動をすることは重要なことかもしれません。

本日は、どうもありがとうございました。

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