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日経テクノロジーonline SPECIAL

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し

飯田氏
飯田聡氏
クボタ 常務執行役員 研究開発本部長、水・環境総合研究所長

 1890年に鋳物の製造・販売事業で創業したクボタは、水道用鋳鉄管から農業機械や環境機器などへ業容を広げながら事業を拡大してきました。農業とのかかわりは、すでに90年以上に及びます。1922年から製造を開始した農工用エンジンを皮切りに、耕うん機や国産乗用トラクタ、稲や麦を刈り取りながら脱穀する自脱型コンバインなどを製品化。日本の農業における機械化をリードしてきました。

松本氏

 ロームは、1958年に抵抗器メーカーとして創業しましたが、いまや売上の80%を半導体デバイスが占めています。半導体デバイス以外で提供しているのは、創業当初から手掛ける抵抗器をはじめ、タンタルコンデンサなどの受動部品や各種モジュールです。

 こうした製品を、従来は民生機器を中心に展開してきましたが、最近は車載機器向けや産業機器向けの売上が伸びています。さらに新しいビジネスを開拓するために、有望な市場の一つとして注目しているのが農業です。ICTを活用して農業を改革する動きが始まったからです。

大規模化や生産性向上は必須
飯田氏

 農業にICTを導入する動きが活発化している背景には、日本の農業が様々な課題を抱えていることがあります。最も大きな課題は就農者の高齢化にともなう就農人口の減少です。また、平均耕作面積が比較的小さいので規模を拡大しにくく、なかなか生産性が上げられないという問題もあります。

 こうした課題を解決するために、小規模な耕作地を集約して大規模化を図ると同時に、できるだけ作業効率や生産性を高める工夫が必要になっています。これを実現するうえで重要な役割を担うのがICTです。ICTを利用して、合理化や効率化を推進することで、農業の生産性や作物の品質とコスト競争力を高めることができるからです。こうした考えに基づいて開発したのが営農・サービス支援システム「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」です。

松本氏

 KSASの概要を教えていただけますか。

農業機械から直接データ収集
飯田氏

 KSASは、農業経営の「見える化」を支援するシステムです(図1)。稲作農業の現場(ほ場)から様々なデータを収集してクラウド・サーバーに蓄積。これを作業者や管理者が共有できるようにすると同時に、このデータを分析して得られる様々な情報を、パソコンや無線LANで接続された携帯端末を通じて分かりやすい形で提供します。

図1 クボタスマートアグリシステム(KSAS)の仕組み
[画像のクリックで拡大表示]

 最大の特長は、作業者によるデータ入力だけでなく、無線LANを介して稼働中の農業機械からリアルタイムでデータを収集できるようにしたことです。特に食味(水分とタンパク量)や収穫量を測定できるセンサーを取り付けた業界発のコンバインと共に作業指示に基づいて可変施肥できる田植機やトラクタを新たに開発しました。

 2014年6月の発売以来、情報システムだけを導入する「基本コース」と、KSAS対応の農業機械を組み合わせた「本格コース」の両コースを合わせてすでに500軒以上の農家がKSASを導入して下さいました。これは予想を上回る反応でした。

松本氏

 ほ場の状況をリアルタイムで「見える化」できるKSASは、どのような効果を農家にもたらすのでしょうか。

飯田氏

 例えば、この仕組みを利用すると、ほ場1枚ごとに、作物の収穫量や食味を管理することができます。それらのデータを基に、ほ場ごとに作業を最適化することができます。例えば、データを基に翌年に撒く肥料の量を、ほ場ごとに調整することが可能です。食味センサーは、収穫した作物のタンパク量と共に水分量を測定できるので、収穫時に発生する籾を乾燥する工程で水分量に応じて乾燥機を制御すれば、乾燥に要するエネルギーのムダを省けます。このように作業を徹底的に最適化することで、作業効率を改善できるだけでなく、省エネを進めることもできます。またタンパク量を基に、食味を追求することで作物の付加価値を高めることも可能です。作物のトレーサビリティを明確にし、安全安心な食糧生産をアピールすることもできます。

ICTを実現する技術
松本氏
松本功氏
ローム  取締役 LSI生産本部 本部長

 「見える化」を進めるうえで重要な役割を担う電子デバイスがセンサーです。ロームはセンサー分野にも注力し、ラインアップを拡充してきました。周囲の環境を把握するために役立つ距離、照度、UV(紫外線)、温度のセンサーや、動きの変化を的確に検出する加速度センサーやジャイロといった様々なセンサー・デバイスを提供しています。さらに、可視光から近赤外領域まで広い範囲で高感度にセンシングすることができる「超高感度CIGSイメージ・センサー」や生体情報をセンシングする「脈波センサー」など次世代のセンサーも開発しました。こうしたセンサーは、医療やセキュリティ、産業機器など幅広い分野に展開できると考えています。

 グループ会社の米Kionix Inc.は、微小な機構系を使ったMEMSセンサーの世界的なパイオニアとしても知られています。グループ全体で培ったこれらセンサーの技術は農業の発展にも活かせるはずです。

飯田氏

 KSAS対応のコンバインに搭載した食味センサーや収量センサーは自社で開発しましたが、これらのセンサーは農業のICT化によって重要なデバイスです。

松本氏

 最近ではセンサ・ネットワークを農業に応用する動きがありますが、ここで問題になるのが配線です。田畑やビニールハウスに、やたらに電源ラインや信号線を張り巡らせるわけにはいきません。こうした問題の解決に役立つ無線通信技術も提供しています。例えば、次世代の無線通信技術として期待されている「EnOcean」。身の回りの環境に偏在する光や運動などを電力に変換するエナジー・ハーベスティング技術を組み合わせることで、電源や配線が不要でメンテナンスの必要もないセンサ・ネットワークを構築することが可能です。すでに、この技術と小型太陽電池を組み合わせた小型の温度センサー・モジュールなどを提供しています。

 また、グループ会社のラピスセミコンダクタでは、長距離のデータ通信に向いている920MHz帯の特定省電力無線や無線LAN、スマートフォンなどモバイル機器を連携させるときに役立つBluetooth Low Energy(BLE)など多彩な技術を揃えているので、センサ・ネットワークの構築に必要な様々な無線通信技術を一括して提供することが可能です。

飯田氏

 それらの技術や製品は、すでに農業向けに展開しているのですか。

松本氏

 本格的な展開は、これからです。実は農業関連の市場を開拓するための取り組みの一貫として、福岡県筑後市の半導体工場内に半導体の生産技術をベースにした植物工場を建設して、いちごの栽培をはじめました(図2)。この植物工場は、半導体工場のクリーンルームを活用したもので、発光ダイオード(LED)を光源にした照明や、温度や湿度を自動調整するシステムを導入するなど、自社のデバイスを利用した新しいシステムを随所に組み込みました。これにより、農薬の使用量は露地栽培の10分の1以下で済みます。この工場を利用しつつ、もっと農業の現場におけるニーズをつかみ、新しい技術やソリューションを開発する考えです。

図2 ロームの植物工場
[画像のクリックで拡大表示]
重さを増すメーカーの責任
飯田氏

 農業経営に深くかかわるKSASを市場に展開したことで、お客様や社会に対する責任が一段と大きくなったと感じています。農業に向けた電子デバイス事業が伸びると同じように、より重い責任を感じるのではないでしょうか。

松本氏

 創業時より、高品質の製品やものづくりを通じて、文化の進歩や向上に貢献することを企業目的として掲げています。これを実践するために、多くの製品は材料から製造設備まで一貫して社内で手掛けてきました。品質を厳しく管理するとともに、トレーサビリティを確保することが、ものづくりを通じた安心の提供と考えています。

 こうした創業以来の取り組みに加えて、新しい領域に事業を広げるに当たってBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の強化を図っています。東日本大震災やタイの洪水で自社工場が被災した際に、思うように製品が出荷できなくなりました。このときに、社会に対する責任とBCPの重要性を一段と強く感じたからです。

飯田氏

 長年、農業にかかわってきたクボタですが、農業経営に踏み込んだソリューションを提供するにあたって、従来と違う考え方や体制で臨みました。例えば、KSASを開発する際には、農家のニーズや考え方を徹底的に重視しました。具体的には、開発技術者が、特定の農家に3年間にわたって頻繁に足を運び、現場の声を丁寧に吸い上げました。これだけ長期にわたって頻繁に農家とコミュニケーションを図りながら製品を開発したのはKSASが初めてでした。

 農家のニーズに応えるソリューションを実現するには、社内の様々な部門に分散していた技術やノウハウを結集する必要があったので、組織の壁を越えた開発プロジェクトを立ち上げました。これも初めての取り組みでした。

様々な先進技術を提供
松本氏

 社会の仕組みにかかわる大規模なソリューションを実現するとなると、社内の組織あるいは企業といった、従来の枠を超えて様々な技術を集める必要がどうしても出てくると思います。

飯田氏

 現状のKSASは、主に日本の稲作向けの機能を提供していますが、今後は畑作向けに機能を拡張するつもりです。また、より多くの情報を収集・分析し、制御の精度を高めるためにシステムの機能を高める必要もあります。海外市場への展開も視野に入れています。このようにKSASを発展させるうえで、センサーの技術をはじめ自社だけではカバーしきれない技術が必要になる可能性があります。ロームさんのように先進的なデバイスを数多く抱えている企業の皆さんとの連携も必要になると思います。

松本氏

 作物を作る作業は長期間にわたります。こうした作業にエレクトロニクスを応用する際には、省エネという観点も大切です。電気/電子機器の省エネに貢献する電子デバイスの一つに、電源やモーター駆動システムなど大きな電力を扱う電気回路に使われるパワーデバイスがあります。このパワーデバイスを、ロームは数多く手掛けており、いま車載機器や産業機械の分野に向けて積極的に展開しているところです。その中でも従来のパワーデバイスに比べて電力損失が格段に小さいSiCパワーデバイスは、省エネに大きく貢献することから特に力を入れています。こうしたパワーデバイスは、農業における省エネに役立つでしょう。

 農業においてICTを導入する動きが進むにつれて、電子デバイスに対する新しいニーズが、今後も続々と出てくると思います。そのような時には、是非協力させていただきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。

お問い合わせ
  • ローム株式会社
    ローム株式会社

    本社/ 〒615-8585 京都市右京区西院溝崎町21

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    URL:http://www.rohm.co.jp/