• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「共創」は感動・感心の連続

業界を超えた「共創」で新しいビジネスを生み出す場「ビズラボ presented by FUJITSU(以下ビズラボ)」。その第2回が、前回にも増してバラエティーに富んだ業界から26人の参加者を集めて開催された。「ノーを言わないこと」「無責任な開発をすること」というたった2つのルールの下、自由闊達な議論を尽くし、それぞれの知恵を絞り出して新規事業創出に挑んだ。2回構成でお伝えするレポートの前編である今回は、「気づき編」と題して、普段いかに“見えない枠”に縛られて仕事をしてきたのか、それぞれの参加者が気づき、とまどいながら抜け出していった過程をレポートする。

 業界や企業が違えば、そこで仕事をしている人の価値観や発想、仕事の進め方は大きく異なる。他業界に就職した学生時代の友人と久しぶりに再会して話すとき、転職して新しい会社に身を投じたとき、そして他業種の企業と協業するとき——。

  一方、多くの言葉を交わさなくても阿吽の呼吸で仕事を進めることができる同業種、同じ企業の人とだけ仕事をすれば、効率がよいことこの上ない。しかし、同じ業界の人がいくら話し合っても、新市場を生み出すようなイノベーションはなかなか創出できない。日々の仕事をこなすときも、新規顧客を開拓するときも、新しいビジネスを考えるときも。知らず知らずのうちに、それぞれの業界や企業だけで通用する“見えない枠”の中だけで考えるようになってしまっているのではないだろうか。

「延長線上」では生き残れない

 今回ビズラボに参加した多くの参加者が、「これからの時代は、今の仕事の延長線上では成長はおろか、生き残ることさえできないのではないかと感じています」と口々に言った。確かに近年の日本では、業界を代表するような大企業が、時代の変化に適応できなかったがゆえに、思わぬ苦境に陥るケースが増えてきた。ビズラボの参加者は、身を置く業界は違っても、こうした時代の気分を共有していたのだ(図1)。

図1 2回目の「ビズラボ presented by FUJITSU」

 強いビジネスを継続的に生み出し続けるために、異業種と「共創」し、“見えない枠”を取り払うことがとても重要になっている。しかし、価値観も仕事の進め方も違う異業種と一緒に新しいビジネスを創出することは、それほどたやすいことではない。異業種との「共創」は、お互いがそれぞれの業界での実績があればあるほど、凝り固まった発想から抜けられない。

 異業種の人材を半ば強制的にひとまとめにして、そこで思ってもみなかったようなイノベーションが生まれ、ビジネスとして形になっていくプロセスを経験していく場。これがビズラボである。今回の参加者が属している業界は、製薬、カメラ、時計、産業機械、駐車場の運営、住宅、コンビニ、水産、オフィス機器、商社、銀行、IT企業、そして気象協会と多種多様だ。これほど広い業界から人材が「共創」することで一体何が生まれるのか。皆目見当がつかない。予想不可能だからこそ、そこで生まれるビジネスは、イノベーションとなる。

 ビズラボは、異業種交流の楽しさを次世代ビジネスリーダーが体感する場でもある。「共創」は、言葉の通じない外国を旅するときのように、新しい見聞が得られる代償として、大きなストレスを「共創」する者に加える。感じていることを相手に伝えられない、相手の言っていることが一向にピンとこない。このような経験の連続だ。だからこそ、そのストレスを克服した向こう側に、これまで気づかなかった新しい価値が待っていること、異質な人たちと一緒に考える作業自体が楽しいことを体験として知ることがとても重要になる。

「共創」での戸惑いは、よい兆し

図2 システム・インテグレーション 代表取締役 多喜義彦氏

 ビズラボはいつも、参加者の戸惑いと共に始まる。ビズラボでは、参加者の普段の仕事の中から潜在的な課題やニーズを抽出して、グループワークで議論する開発テーマの案とする。そのためのネタ出しの作業が、「公開コンサルティング」である(図2)。多くのビズラボの参加者は、そこで大きな戸惑いを感じたようだ。

 公開コンサルティングでは、他の参加者が見守る中で、ビズラボを主宰する「開発の鉄人」ことシステム・インテグレーション 代表取締役 多喜義彦氏と参加者一人ひとりが、順番に話していく(図2)。話す内容は、それぞれの参加者が普段取り組んでいる仕事や所属企業の得意技術、そこで抱えている悩みなどである。話し相手となる多喜氏は、約3000件の新規事業開発を支援してきた経験を持ち、さまざまな業界や企業の価値観やニーズ、仕事の進め方を熟知している。公開コンサルティングは、言わば参加者が最初に行う「共創」なのだ。

 多喜氏との会話は、最初はただの雑談のように見える。しかし、話す内容の展開に応じて、次第に参加者が知らない世界へと入っていく。自分の仕事の話をしていたはずなのに、話の展開は想定外の方向に進んでいく。参加者はみんな、身を置いている業界、企業、部署の常識やお作法に沿って普段仕事を進めている。予定調和から外れた話に、戸惑いを感じて当たり前だ。

 参加者の一人であるキヤノンの山本陽子氏は「最初、多喜先生が言っていることが、全くピンときませんでした。そんな意味不明なアイデアをどうやってビジネスにしたらよいのか。これから先のグループワークも全く不安だった」と振り返っている。しかし、こと「共創」においては、戸惑いは確実によい兆しであると言える。先が予想できたり、すぐに理解できたりしまうようなテーマが、イノベーションにつながるはずがないからだ。

 今回のビズラボで行われた公開コンサルティングの例を、3つほど紹介したい。これら3つは、その後のグループワークのテーマにはならなかった。しかし、コンサルタントとして多くのビジネス開発で実績を挙げてきた多喜氏の視点と、それを聞いた参加者の戸惑いが端的に表れたものだ。多喜氏は、ビズラボの講義の中で、「ニーズが分かれば、ビジネスの開発は終わったようなもの」と繰り返し言っている。参加者の所属企業が持っている技術や強みが生かせるニーズを、他の業界が抱えている課題の中から探っている様子が見える。

新たな開発の視点の可能性を探る

 1番目は、製薬会社であるエーザイの田中俊大氏に対する公開コンサルティング。この例では、あえて市場を特化することで、ユーザーへの訴求力を高めたテーマを抽出した(図3)。

図3 公開コンサルティングを受ける田中氏

 「エーザイは肌荒れなどに向けた医薬品『チョコラBB』が有名だね。この製品は、最初から年配の女性をターゲットにして開発していたの」(多喜氏)。

 「ビタミンを商品として強化したいと考えた会社の戦略を進める中から生まれた製品です。エーザイでは、肩こりに効く医薬品『ナボリン』など、その他にもさまざまなビタミン系の製品を開発し、投入しています」(田中氏)。

 「薬品を開発するときには、まず目的ありきなのですか」(多喜氏)。
「ある程度の目的は定めます。会社として強化したい、癌の薬のように国が開発に注力したいなど、さまざまな目的がありますが、国として対策が必要な病気についての薬の開発が優先される傾向があります」(田中氏)。

 「特定の業界向けの薬を開発することはありますか。例えば、警備会社で働く人は、生活が不規則ですし、寒暖の差が激しい屋外で働いため疲れやすく、暴飲暴食に走りがちです。この職業に就いている人には、固有の職場環境と生活習慣があるのです。特定の人に特化したビタミン剤という商品がビジネスになる可能性はあり得ませんか」(多喜氏)。

 「女性向けのビタミン剤はあります。特定業種向けという商品はないですね」(田中氏)。

 「対象が明確な商品は、購入者の背中を強力に押すと思います。しかも例えば警部会社が対象ならば、就業者数もかなり多いと思います。対象を細分化して、特定業種に特化したビタミン剤を作ると新しい薬品市場の可能性が見えてくるのではないでしょうか」(多喜氏)。

 「確かに、新しい切り口ではありますね」(田中氏)。

 「ではテーマは『ガテン薬』にして検討してみましょう」(多喜氏)。

モノに物語と歴史を付け加える

 2番目は、セイコークロックの山口英樹氏に対する公開コンサルティング。この例では、商品の価値をモノの機能や品質から、コトへと変えたテーマを抽出した。

図4 公開コンサルティングを受ける山口氏

 「セイコーの時計は儲かっているのですか」(多喜氏)。

 「掛け時計などクロックは日本では需要が飽和していますが、腕時計のウォッチは爆買いの効果で好調です」(山口氏)。

 「グランドセイコー」のような高級品は儲かるでしょう」(多喜氏)。

 「私は父の形見のグランドセイコーを使っているのですが、定期的にメンテナンスすれば日差10秒以内を維持できます。そうした高品質が価値として認められて、おかげさまで利益が出ています」(山口氏)。

 「最も高級な時計はどのようなものですか」(多喜氏)。

 「1点モノを除けば、時刻を鐘の音で知らせてくれる機構を備えた初年度生産数3本約3500万円の製品がありました。当社製ではありませんが、有名な職人が作る1点モノは、億単位の値がつくものもありますし」(山口氏)。

 「価値のある時計というのはとんでもない値がつくね。商品そのものの価値も高く評価されるが、先ほど父の形見という話が出たように、時計には機能や宝飾品としての価値以外の価値が宿るのが面白いね。これはとても大切なことだ。例えば、あこがれている人やあやかりたい人が着けた時計は欲しくなるよね。時計に物語や歴史を付けることをビジネスにすると面白いかもしれない」(多喜氏)。

 「時計というモノではなく、コトを付けるビジネスですか。いいですね」(山口氏)。

  「新しい価値を付け加える時計は、安い時計にはならないだろうしね。では、テーマは『セイコーヒストリー』で考えてみましょう」(多喜氏)。

ネットの戸締まりの悪さを知らせる

 3番目は、富士通アドバンスドエンジニアリングの関本克理氏に対するコンサルティングの例である。この例では、ユーザーに商品の価値を気づかせること自体をビジネスにするテーマを抽出した。

 「富士通アドバンストエンジニアリングは、何をやっている会社なのですか」(多喜氏)。

 「主力はITシステムを構築するエンジニアリング事業です。私は、コンピューター端末のセキュリティに向けたパッケージソフトの開発をしています。端末からの情報漏洩を防ぐためのものです」(関本氏)。

 「悪意を持った侵入者よりも常に上を行かないといけないので、結構やっかいな仕事ですね」(多喜氏)。

 「そうですね。ただし、情報漏洩事件が起きると、抱えているリスクが実感できるようになるため、セキュリティ関連市場が喚起される側面もありますね。セキュリティの重要性を認識しておらず、十分な対策を取っていない企業が本当に多いのです」(関本氏)。

  「そのような企業の経営者にセキュリティ対策の充実を説得するのは大変でしょ」(多喜氏)。

 「本当に大変です」(関本氏)。

 「そのような意識の低い経営者に、抱えているリスクを自覚させるために、外部から試験的に攻撃して、脆弱な部分を発見してあげると、かえって喜ばれるのではないか。社会的に大きなインパクトがある事件が発生する前に、リスクをこっそり知らせるおせっかいが求められる時代になっていると思うよ」(多喜氏)。

 「その通りかもしれませんね」(関本氏)。

  「社会の戸締まりを確認するビジネスは、富士通のような信用の高い会社でなければできない。では、テーマは『富士通ハック』でいきましょう」(多喜氏)。

方法論ではなく、場こそが大切

 参加者の戸惑いは、公開コンサルティングだけで終わらない。開発テーマを決め、グループワークが始まると、また大きな戸惑いを感じることになる。

 ビズラボでは、さまざまな業界の約5人が一緒に1つのテーマを受け持って、グループワークを進めて製品やサービスのコンセプトや訴求点を設計し、具体的なビジネスモデルに落とし込んでいく。グループワークを進める過程では、必要な知識を解説する講義が割り込むように設けられている。異業種連携の意義とそれを進めていく上での視点、経営資源を生かした新事業開発の視点、ビジネスモデルの重要性、ブランド・知財戦略の勘所などを、適宜学んでいく。

グループワークを始めてください」といった感じで始まる。用意されるのは、各グループ1つのホワイトボードと、「ノーを言わない」「責任のない開発」という2つのルールだけだ。つまり、「共創」の場があるだけなのだ。グループワークの進め方から参加者が考えていかなければならない。この点は、ビズラボの大きな特徴である。

 こうした突き放した手法に参加者のとまどいはなかったのだろうか。参加者の一人であるソニー銀行の井上真秀氏は、このように言っている。「グループワークのメンバーは、それぞれの会社で培った新しいビジネスを考えていくときの視点、価値観、フレームワークを持っていました。それぞれが得意な方法を持ち寄ることで、さまざまな角度からテーマを検討できました。自社とは違った議論の進め方や、情報を整理する方法に触れることができて、とても参考になりました」(井上氏)。

 グループワークを開始した当初は、よそ行きの社交術と探り探りの自己主張が入り交じった、出身地や出身校が異なる人が集まる大学のオリエンテーションや企業の導入教育のような雰囲気だった。それが時間とともに、いずれのグループも、議論を活発化させようとリードする人、ネットなどで積極的に情報収集をする人、ホワイトボードで分かりやすく整理する人などが自然発生的に現れていった。そして、さびた歯車がきしみながらも動き始め、徐々になめらかに動き出すように、議論が加速していった(図5)。

図5 グループワークを通じて変化する参加者

 異業種の人材が集まり「共創」していくうえで、議論の方向性を合わせるための方法論はもちろん重要だ。しかし、ビズラボでは、いかに議論しやすい場を整えるかが、最も大切であることを、参加者は経験から感じ取ったようだ。(後編「転換・深化編」に続く)