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「地方」と「都市」が共創、世界を視野に入れた新ビジネスを開発

「第2回 ビズラボ presented by FUJITSU(以下ビズラボ)」の成果発表会を終えた参加者たちは、高度な金属や樹脂の加工技術を保有していることで、世界中にその名をとどろかせる新潟県 三条市を訪問。ビズラボを主宰する「開発の鉄人」こと多喜義彦氏が講師を務める共創講座「三条市リアル開発ラボ」の成果発表会で、ビズラボの成果も披露した。そこでビズラボの参加者が見たものは、自分たちの力で新しい事業を創出できるようになりたいという情熱があふれた三条市と同市の企業、そして机上のアイデアをすぐに形にしてしまう日本のものづくりの底力だった。

 悪戦苦闘の末に作り上げたビジネスモデルを披露した成果発表会を終えたビズラボの参加者たち。それまで話したこともなかった業界の仲間との「共創」を経験し、普段の仕事では知り得ない広い世界を実感したようだ。そんな参加者たちは、3月半ばに「ビズラボツアー」と題して、1泊2日の日程で新潟県三条市を訪れた。訪問の目的は、三条市が主催している地元企業を対象にした「共創」の講座「三条市リアル開発ラボ」の成果発表会において、ビズラボの成果も披露することだ。

 三条市リアル開発ラボは、ビズラボを主宰する多喜氏が講師を務めている。言わばビズラボの姉妹講座である。そこには、ところは違えども、「共創」によって新規ビジネスの創出を目指す同じ志を持った仲間がいる。そんな三条市の企業と親交を深め、「共創」の視野をさらに広げようというのも、このツアーの狙いである。さらに日程には、地元を代表する企業への訪問や、企業間連携による新商品・新事業が創出の促進に精力的に取り組んでいる三条市市長との面談など、盛りだくさんのイベントも盛り込まれた。

三条市が「共創」に取り組むわけ

図1 三条市市長 國定勇人氏

 三条市と言えば、お隣の燕市と併せて、金属加工などの高度な技術やノウハウを持つ企業が数多く集まることで、世界中に名前がとどろいている。まさに、日本のものづくりの代名詞と言える技術を誇る地域である。その三条市では今、なぜ自治体と企業が団結して「共創」に取り組んでいるのか。その理由を語る三条市 市長の國定勇人氏の言葉の中には、今の日本のものづくりの現場が置かれている状況と、時代観がよく表れている(図1)。

 「三条市は、ものづくりの街であることに大きな誇りを持っています。数年前までの私たちは、優れた加工技術を持つだけではなく、自らの力で顧客を開拓できる力さえも持っていると信じていました。しかし、リーマンショックによってその自信は大きく揺らぎました。結局は、日本の主要産業である自動車産業が苦境に陥れば、一緒に沈んでしまう存在だったのです。新しい市場を自ら生み出せる骨太な産業構造に変わらなければ、誇りあるものづくりの街であり続けることができないと痛感しました。

 今、日本だけではなく世界中で、大企業が中小企業に仕事を出す従来の産業構造が、大企業と中小企業が協力して新しい市場を生み出す産業構造へと変わってきています。大企業と肩を並べ、共に市場を切り拓く役割を担える力が、中小企業にも求められるようになっています。迅速な意思決定と行動ができる身軽な中小企業は、市場の変化に合わせて大胆に変化できます。これは、大企業にはない力です。その力を生かすため、地域企業が自在に連携し、中小企業ならではの市場創出ができる力を三条市に養いたいのです」(國定氏)。

 現在の三条市のものづくり企業の業務からみた内訳は、部品加工が7割、最終製品の製造が3割だという。そして日本の地方都市のご多分に漏れず、人口減少による人手不足や技術継承の難しさといった課題を抱えている。三条市にとって「共創」は、同市企業の生き残りをかけた戦いでもあるのだ。

 あるビズラボの参加者は、國定市長や三条市の企業の人たちが取り組む姿を見て、「腕に覚えがあるものづくり企業が苦境を脱する場合、これまで実績のある技術に磨きを掛けようというのが普通の発想でしょう。その方が、何となく安心感があります。しかし、長年の仕事のあり方を自ら変え、新しい市場を自ら切り拓いていく力を養い、先に進んもうというのです。その勇気に感動しました」と言った。当のビズラボの参加者たちも、従来の自社事業の延長だけに頼っていては生き残れないという問題意識を持って、ビズラボという「共創」の場に身を投じた例が多い。東京と三条、大企業と中小企業の間という身を置く場所こそ違うが、その志に違いはない。

世界を動かした燕三条の技

 ビズラボのメンバーが訪れた燕三条地域には、大企業と地元企業の連携で、巨大な新市場を作り上げた先例がある。それは、音楽ライフのスタイルと流通のあり方を一変させた「iPod」と、人々と情報のかかわりを一変させた「iPhone」でのApple社との連携だ。同社がそれらの事業を立ち上げる初期段階で、燕三条地域の企業は大きな役割を果たした。

 記憶している人も多いと思うが、iPodとiPhoneはいずれも、初期の製品で筐体の裏側に鏡面仕上げの金属素材を採用した。見た目のかっこよさとインパクトにApple社がこだわった末の判断だ。この筐体裏の部品を磨いたのが燕三条地域の企業である。一つひとつ手磨きする工程は、当然コストのかかる作業になる。しかし、この地域の洋食器職人の技を知っていた故スティーブ・ジョブズ氏は「少々コストが掛かっても、磨いてもらうように」と指示したという。

 このエピソードは、疑いようのない2つの事実を示唆している。1つは、イノベーションを起こそうとする世界のリーディングカンパニーが、燕三条地域の企業の技術力に大きな価値を見いだしていること。もう一つは、燕三条地域の企業の技術は、実際に世界中の人々を感動させるだけの力を秘めていると言うことである。こうした実績を考えれば、燕三条地区の企業は、声が掛かるのを待つだけではなく、大企業と一緒にイノベーションを仕掛けることができるかもしれない。また、日本の大企業は、海外の企業がこの地域の技術を活用するのを傍観することなく、自社のイノベーションの武器として積極的に活用すべきではないか。

技術を磨くだけではなく仕事を変える

 三条市リアル開発ラボの成果発表会の会場には、「共創」に参加したメンバー以外にも参加企業の関係者、三条市関係者、そしてビズラボのメンバーなど100人以上の聴衆が集まった。さらに、NHKの取材カメラも会場入りして翌日の朝のニュースで紹介されるなど、地元の注目度の高さがうかがわれた(図2)。

図2 三条市リアル開発ラボ成果発表会の様子
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 今回の三条市リアル開発ラボには、地元を代表するものづくり企業に加え、銀行、信用金庫も含めた17社が参加。4つのグループに分かれて、新市場につながる商品開発に取り組んだ。商品や事業の検討は、ビズラボと同様の手順で進められた。ただし、さすがはものづくりの街、三条である。まず具体的な商品企画に重点を置く開発テーマが多かった。

 三条市のものづくり企業は、鍛造専門、研磨専門、表面処理専門と、特定工程に特化した企業が連携し、1つの製品を作り上げることが多い。元々、企業間連携の素地がある土地柄だ。しかし、三条市リアル開発ラボへの参加企業は「今回のように出会い頭のような組み合わせで集まった企業が、商品開発の段階から真剣に知恵を出し合ったことはありませんでした」という。

 東京から訪れたビズラボの参加者は、三条市リアル開発ラボの成果発表を聞き、ここに自分たちが行ってきたものとは別の「共創」のかたちがあることを感じ取ったようだ。三条市の人たちは、机上で検討するだけではなく、3次元プリンターや自社の加工設備を使って試作品を作り、具体的なモノを通じて共に検討を進めていた。ビズラボの参加者は、「専門分野が違う人が集まって1つのものを検討するとき、具体的なモノがあるとイメージが膨らみやすいですし、机の上では見えなかったようなことも見えてくると思います。このようなフットワークの軽さは、うらやましく感じました」と感心していた。

すぐ作る三条流のフットワーク

 ここで、三条市リアル開発ラボの各グループが発表した成果を簡単に紹介したい。登壇したのはA~Dの4つのグループだ。

 Aグループでは、「もっとかっこいいキャンプ」というテーマに、自動車部品製造の外山製作所、建具製造の鈴文、金属表面処理のテーエム、工具一貫生産のマルト長谷川工作所に、第四銀行が取り組んだ(図3)。このテーマで目指したのは、キャンプが好きなバイカー(バイクのライダー)をターゲットにした、バイクで引っ張れるキャンプ用品をスマートに運ぶトレーラーである。参加メンバーは、商品のデザインから設計、製作に取り組み、3Dプリンターで試作して詳細な構造まで検討した。同グループによると、「バイクとトレーラーの連結部品で特許を取得できるのでは」という。そして、「型式認定を目指し、事業化できるまで続けたい」とした。

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図3 3Dプリンターで試作したAグループ

 Bグループでは、「シーンとタオル(静音JETタオル)」というテーマに、樹脂製品成型加工の川崎合成樹脂、機械部品メーカーのシマト工業、大光銀行が取り組んだ。トイレの手洗いで手を乾かすジェットタオルを静音化した商品の開発を目指した。Bチームでは、ジェットタオルの騒音の原因をキッチリと実験で基礎調査し、風切り音よりもモーター音の低減が、静音化の効果が高いことを突き止めた。そして、ふいごを使って小さなモーターで強い風を起こす仕組みで、人が会話している状態と同程度の60dBに抑えるための方法を検討した。多喜氏によると、こうした静音の送風装置は「病院や家庭などに確実に需要があり、手の乾燥以外にも応用が広がる可能性を秘めている」という。

図4 静音型送風装置を発表したBグループ
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 Cグループでは、「50万円のステッキ」というテーマに、溶接のアークリバー、プレス加工の田辺プレス、機械部品の商社である梨本商店、切削加工の渡明製作所、北越銀行が取り組んだ。マグネシウムを材料にした、付加価値の高い富裕層向けステッキの商品化を検討した。マグネシウムは、軽くて強い、道具の材料として優れた特長があるが、発火しやすい難加工材の代表でもある。Cチームでは、想定販売価格に見合った付加価値を付けるため、センサーの組み込みによる多機能化、コンシェルジェサービスの付加、彫金を施した装飾なども検討したようだ。しかし、最終的には、シンプルなデザインでクールジャパンを感じさせる製品を目指すことになったという。Cグループのメンバーは、「三条市の技術力の象徴になるような製品を作りたい」と意気込んでいた。

図5 難加工材をつかったステッキを発表したCグループ
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 Dグループは、「どこでも花壇」というテーマに、機械電気制御の新井田製作所、レーザー精密加工の板垣金属、機械製作の三條機械製作所、三条信用金庫が取り組んだ。目指したのは、花の成長条件を自動的に整えることで、生育条件に関わらず設置できて、手間いらずにした花壇である。温度、溶接、液肥管理、水量管理、ネットを介した遠隔管理など制御系システムを検討。さらに3Dプリンターで構造案を試作して、さまざまな大きさ・形状の花壇を構成できて、ユーザーが設置しやすい、ユニット形状を検討した。Dグループのメンバーは、「これまで取り組んだことがない商品の開発に取り組んで、地域の新たな可能性が見え、自分の仕事の強みも再発見できました。何とか事業化まで持って行きたいですね」と語っていた。

図6 3Dプリンターを利用して新基軸の花壇を検討したDグループ
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もっと多く、もっと広い「共創」を

 三条市リアル開発ラボの各グループの発表に続いて、ビズラボの5グループが、「Space Index」「Famiマイル」「アキナイアキヤ」「PlatPark」「GETA」の各テーマの成果を披露した。ビズラボで検討した東京組のテーマは、サービスやビジネスモデルの新しさに焦点を絞ったものが多い。初めて聞くものづくりの街の人たちに、その価値をうまく伝えようと、各グループの代表者は限られた時間の中で丁寧に説明していった。

 三条市リアル開発ラボの参加者もまた、ビズラボの成果発表から、自分たちとは違う「共創」のかたちを感じ、さまざまな気づきが得られたようだ。「作ったビジネスモデルが、とても洗練されていますね。ものづくりの現場にいる参加者が多い三条市リアル開発ラボでは出てこない、営業や企画の人たちならではの発想がありました。また、新しい事業の作り方がよく分かっていると感心しました。こうした人たちと連携できると私たちが考えた事業は、もっと洗練されるのではと思いました」と言う。

 三条市 経済部 商工課 主幹の瀬戸祐志氏は、「富士通のような大企業が、さまざまな企業と同じテーブルについて、新しい事業を「共創」していこうという姿勢が、とてもありがたいと思いました。東京の企業と三条市の企業、大企業と中小企業が「共創」することで、それぞれだけではできないビジネスが生まれるのではないでしょうか。私たち三条市は、こうした立場や役割、得意分野が異なる企業同士をつなぐ施策がとても重要になると考えています。協力関係が広がっていくことを期待します」とした。

 成果発表会後に開催された懇親会では、発表を終えた安堵感も相まって、東京組と三条組の隔てなく、大いに会話が弾んだ。「共創」によってこれまでとは違った事業を生み出したいという同じ志を持った仲間、そして自分たちとは違った「共創」のかたちを知っている仲間。懇親会は、東京と三条のそれぞれで広がった「共創」の輪が、さらに大きな輪へと広がっていく場になっていった。

企業訪問1:マルト長谷川工作所
得意な技術が生きる市場を徹底的に掘り返す
図A マルト長谷川工作所 代表取締約社長 長谷川直哉氏

 マルト長谷川工作所は、デザイン、製造から販売まで一貫した事業を行う力を持った工具や爪切りなどのメーカーである。薄刃ニッパをはじめとする世界中の職人やエンジニアが認める工具「KEIBA」、プロのネイリストが愛用するネイルニッパ「MARTO」という独自ブランドで、世界中に製品を販売している。同社の強みの源泉は、素材メーカーに特注した材料と丁寧な仕上げで作る鋭い刃先、それを高精度でかみ合わせるための考え抜かれた独自の加工法にある。同社 代表取締役社長の長谷川 直哉氏は、「私たちの技術だからこそできる圧倒的な切れ味を生かせる市場を、地道に切り開き、自社ブランドを育て上げてきました」という。

図B 工場内の様子
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 職人が時間をかけて作る一点モノの工芸品の中には、同社以上の高品質を誇る道具があるかもしれない。しかし、年間15万丁という大量生産する製品を、これほど高い品質で作り上げる力を持ったメーカーは少ない。練り上げた生産工程と熟練工の技の絶妙なマッチングで、工業製品を極限の高みにまで押し上げている点が同社の強みであり、独自ブランドを築き上げることができた理由でもある。同社を訪問したビズラボのメンバーは、同社の工程一つひとつと、人手で行われる丁寧な仕上げを食い入るように見ていた。そして、工場を見学した後には、同社製の爪切りを競うように買い求めていた。それはそうだ。あのような見事な仕事ぶりを目の前で見せつけられてしまったら、誰だって欲しくなる。

企業訪問2:スノーピークス
こだわりの商品企画で熱狂的ファンを獲得
図C 本社社屋の外観
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 スノーピークは、「スノーピーカー」と呼ばれる同社製品の熱狂的なファンを抱える、アウトドア用具のメーカーである。社員数が200人にも満たない企業だが、2015年12月には堂々と東証一部への上場を果たした。ビズラボのメンバーは、2011年のグッドデザイン賞を受賞した新社屋を訪問し、同社社員の仕事ぶりを見学した。同社製品の評価が世界中で高まるキッカケとなった製品が、1998年に発売した小型のストーブ「ギガパワーストーブ“地”」である。それは「胸ポケットに入るストーブをつくろう」という単純明快な目標を掲げ、開発した、使い手が価値を実感しやすい製品だった。使い手目線での製品開発は、今も変わらない。誰もが欲しがる商品を開発することで、安売りしなくても、喜んでユーザーが購入する状況を作り上げている。

図D 本社内の様子
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 そうした開発ができる秘密は、同社の仕事の環境にある。同社の社屋はキャンプ場の中にあり、社員が実際にキャンプして、試作品を試しながら商品開発している。また、オフィスは決まった席を設けないフリーアドレス制を採用し、社員は支給されたノートパソコンを持って、毎日違う席に着いて仕事をする決まりがある。さまざまな部署の社員の横に座り、そこで交わされるささいな会話の中から新しい商品を生み出すキッカケを作る配慮だ。日常業務の中で自然に「共創」が行われる環境が作られているのだ。同社の製品は永久保証をうたっており、修理に持ち込まれた商品は、1日で送り返すように心がけているという。これは、キャンプから帰ってから修理に出しても、翌週のキャンプでまた使えるようにするためだ。こうした徹底した使い手目線のサービスは、同社独自の仕事の環境の中から生まれている。