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「おなじみさん同士の連携に解はない」見知らぬ相手のアイデアこそ革新を生む

「おなじみさん同士の連携に解はない」見知らぬ相手のアイデアこそ革新を生む

企業内部と外部のアイデアを組み合わせて、革新的で新しい価値を創り出すことを目指す「オープンイノベーション」。このコンセプトを基に、企業や研究機関の間の連携を後押しするサービスを提供している米NinSigmaの日本法人であるナインシグマ・ジャパン 代表取締役の諏訪暁彦氏に、新ビジネス創出に向けた取り組みにおけるオープンイノベーションの重要性について聞いた。同氏は、既存の関係を基にした連携からは、イノベーションはなかなか生まれないと言い切る。

——現在、なぜオープンイノベーションが注目されているのでしょうか。

諏訪暁彦氏
ナインシグマ・ジャパン
代表取締役 

諏訪氏 ものづくりにしても、サービスにしても、必要とされる技術やアイデアが、とても多様化、高度化、複雑化しています。どんな大手企業であっても、1社ですべてのリソースを賄える状況ではなくなってきているのです。

 例えば、自動車を作るためには、機械工学こそが最重要でしたが、自動運転などでは情報工学、燃料電池車では化学の最先端の知識が必須になっています。しかし、必要な知見を、時間を掛けて自社内だけで会得する余裕はありません。逆に製品の市場投入のサイクルは短くなる一方です。このため、ますます自社だけでは、時代や市場の要請に応えられなくなっています。

——ビジネスの商材や方法自体が、複雑になっているのですね。

諏訪氏 日本には、さらに他の地域とは異なる別の事情もあります。特に電子分野で顕著ですが、かつては日本企業が事業も技術開発も世界の先頭を走っていたため、最先端の技術やアイデアが黙っていても集まる状況がありました。しかし、今では、ITではGoogle社、ものづくりではSamsung Electronics社と、海外企業に持ち込まれます。日本企業は二の次です。

——日本こそ、技術開発やアイデア創出に大きな課題を抱えているということですか。

諏訪氏 その通りです。日本では、求められる技術やアイデアと、手に入ることの間に、他の国や地域よりも大きなギャップが生まれています。しかも、最先端のエンジニアや研究者は、硬直化した人事制度などが災いして、海外にどんどん流出しています。日本企業が、自社だけで技術やアイデアを賄うのは、ますます困難になっています。

「おなじみさん」では解決できない

——そうした危機的な状況をどのように打破したらよいのでしょうか。

諏訪氏 企業は、外部から技術やアイデアを取り込むため、さまざまな方法を試みています。M&Aもそのひとつです。しかし、技術が欲しくて会社ごと買ってしまうのは、かなり乱暴な方法だと言えます。目的とする技術に関連していない事業が足かせになる場合もあるでしょうし、技術者が抜けてしまい、期待していた効果が得られない可能性もあります。また将来を見越して、人材を採用・育成する方法もありますが、成果が出るまでに長い時間を要します。このため、必要な技術だけ、ライセンスや技術指導を受ける方法が現実的かつ効果的になります。オープンイノベーションは、それを効果的かつ効率的に進めるための手法です。

——オープンイノベーションは、従来の企業連携や産学連携とはどこが違うのでしょうか。

諏訪氏 明確な違いがあります。特に日本企業で顕著ですが、外部連携に積極的に取り組んでいると言いながら、連携しているのはいつも同じ顔ぶれということが多いのではないでしょうか。長い付き合いがあるサプライヤー、親密な顧客、知り合いの大学の先生といった相手との連携です。顔見知りなので、安心して連携できます。しかし、問題は、自分で独自に設定していると思っている目標も、今時点で達成できると思っている技術レベルも、すでに連携している相手の技術やアイデアは織り込み済みだということです。 そのため、世界や時代の要請をより良く映した目標を設定したいと思っても、目標をより短期間で高い成功率で達成したいと思っても、すでに付き合っている企業や大学の先生と付き合い続けても、今以上に前進することは無いのです。 

 より優れた目標設定をしたり、今以上に実現性を高めたりするには、目標の精度を高められる、もしくは、目標とのギャップをより大きく埋められる技術やアイデアをもった、新しい相手を見つけて、その技術やアイデアを取り入れることが不可欠です。より良い目標を定めるため、また想定を超えるような成果を得るため、今まで付き合ったことのないところと連携することこそが、とても重要です。私は、ここにオープンイノベーションの本質があると考えています。

——オープンという言葉に懸念や不安を感じる日本企業が多いように思えます。

諏訪氏 オープンイノベーションは、自社技術の外部流出につながると考える人がいます。これは、アウトソーシングとの違いを理解していないことから生じる懸念ではないでしょうか。オープンイノベーションは、外部から知見を社内に取り込み、改良して役立てていくことに主眼が置かれています。研究開発の成果を外に出すのではなく、外部から自社への情報の流れが重要なのです。ここが、情報を外に出し、従来は社内で実施していた作業を、社外に任せるアウトソーシングとの明確な違いです。

 また、何でもかんでもオープンにしなければならないという誤解もあります。明確な戦略の下、自社開発する部分と外部の知見を求める部分を分けて、機密情報をコントロールしながら、オープンイノベーションに踏み切ればよいのです。

見定めるべきは問題解決能力

——ナインシグマでは、オープンイノベーションに取り組む企業をどのように支援しているのですか。

諏訪氏 まず、見つけにくい技術やアイデアを探し出すお手伝いをしています。現在、知的な活動をしている人材は、世界中で爆発的に増えています。これまでのように、日米欧の大企業や大きな研究所だけをウオッチしていれば、最先端を走れる時代ではなくなりました。昔よりも、技術やアイデアを発掘しにくくなっています。

 私たちは、大企業が見つけられなかった技術やアイデアを探し出し、既に約4000件以上のマッチングを実現してきました。そのための基盤となっているのが、長年にわたって蓄積した200万人に達する世界中の研究者や技術者のデータベースです。その中の特に活動的な1万人を対象にして、大手企業とのマッチングの可能性を打診します。

——どのような基準で相手を選ぶのですか。

諏訪氏 見定めるのは、既に手元にある成果ではなく、新しい知見を生み出す在野の問題解決能力です。こうした相手を見つけるため、打診先に、顧客が抱える課題に対する解決策の提案を求めます。より大きなビジネスを求めて、ベンチャー企業や大学なども、大手企業との連携に興味を持っています。ただし打診先も、冷やかしで情報提供を求められたらたまらないので、私たちが依頼側である大手企業の本気度を精査します。こうして打診先との信頼関係を築いたことで、ひとつの課題に対して、平均して20件~30件の提案が集まってくるようになりました。

戸惑いや苦労は通過儀礼

——価値観も専門分野も企業文化も違う相手と、スムーズに連携できるのでしょうか。

諏訪氏 最初は上手く行きませんね。しかし、徐々にオープンコラボレーションの経験値が上がっていくと、うまくいくようになります。これは実感できます。まず公募するための課題を作る段階です。外部から知見を得るためには、どのような気構えで、何をすべきかに、気付きます。相手は阿吽の呼吸で通じるおなじみさんではないので、依頼側も相応のお作法を学ぶ必要があるのです。

 特に大企業は、小さな企業と連携する時に、力関係に強弱があるサプライヤーと同じように扱いがちです。その場合、相手が不満に感じていても、パワーで押し切ってしまいかねません。しかし、オープンイノベーションにおいては、ベンチャー企業といえども、対等な関係で大企業との連携に臨んでいるのです。それを力で押し切ろうとすれば、当然相手は離れていきます。実際、大手企業側の至らない点が原因で、大企業がベンチャー企業にフラレてしまうこともありました。しかし、心配する必要はありません。大きな成果を上げている欧米の企業も、最初からオープンイノベーションで成功していたわけではありません。うまくいくまでに多くの戸惑いや、相手との様々な摩擦を乗り越えているのです。

——そのような戸惑いや苦労は、一種の通過儀礼なのですね。

諏訪氏 経験を重ね、社内の組織や制度作りにオープンイノベーションを織り込んでいる企業も欧米では出てきました。

 例えば、アライアンスマネージャーというポジションを置く企業が出てきています。連携先とWin-Winの関係を築くことができるように取りまとめるのがミッションです。役員直轄など力を持った立場になっていることが多いようです。自社の利益を優先し、連携先が何の利益も得られない状況を放置していると、相手は疑心暗鬼に陥り、必ず手を抜くことになります。結局は誰も得をしなくなります。アライアンスマネージャーは、相手の利益を守るとともに、連携するうえで共有すべき情報はキッチリと出すよう、社内の部署に積極的に働きかけます。

 また、オープンイノベーションにかかわる人たちの人事評価を、加点評価にしているところがほとんどです。減点評価では、やったことのない新しい活動など誰もやりたがりません。オープンイノベーションがある程度不可欠となっている今日、失敗から学べば、将来の成功確率が高まる、という考えをもとにした加点評価は必要です。実際に、こうした考えに基づく評価を採り入れている先進企業では、過去の失敗から学んだオープンイノベーションの仕組みや工夫がたくさん生まれています。

成功のカギは「本気」

——最近のオープンイノベーションの事例には、どのような傾向がありますか。

諏訪氏 米国の大手企業は、解決すべき課題が絞りこまれたテーマではなく、中長期で腰を据えて取り組むテーマを、オープンイノベーションの枠組みで進める動きが目立ってきました。連携先と対等の関係を築きながら問題解決に当たるためには、拙速に成果を求めることはできません。オープンイノベーションの真価を損なってしまいます。

 一方、日本企業は、欧米には見られないオープンイノベーションのニーズがあります。抱えている課題を解決する“How”を探る手段ではなく、取り組むべき課題“What”を考えるために外部の知見を借りたいというものです。例えば自動車メーカーは、世界的に高い競争力を持っていますが、挑戦者の視点から今の技術の動きを見直したいと考えています。また、国内市場を中心にしてきた食品メーカーは、海外進出をする時の視点を求めています。私たちは、こうしたニーズに応えるサービスも提供しています。

——さまざまなオープンイノベーションの事例をご覧になって、成功のカギは何だと思われますか。

諏訪氏 かかわる企業が、どこまで本気で取り組むかですね。重要なプロジェクトであればあるほど、成功確率が上がります。予算もつきやすいですし、しっかりとリソースを割けるので、プロジェクトを動かす手法の選択肢の幅が広がるからです。

 ただし、そうは言っても、重要なプロジェクトの命運を、見知らぬ人や企業に託すことは難しい経営判断になります。ついつい、おなじみさんだけで目標設定し、外部連携を進めてしまうのは、課題解決の見通しが立ちやすいからなのです。

 ここを克服するためには、まずオープンイノベーションでの成功体験を重ねて、社外とうまく連携できる風土を作ることが重要になります。今までの狭い世界から解き放たれて、新たな知見が得られ、思ってもみなかった成果が得られると、自信を持って知見を外に求めることができるようになります。