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オープンイノベーションのリードするキーパーソンに聞く

取り巻く環境が激変する中で高い競争力を維持するために、いま多くの大企業が既存のコア事業の枠を超えた新しいビジネスを生み、育てることを迫られている。そのための有力なアプローチの1つとして「共創」に注目する企業が増えている。その「共創」を企業が実践する上で、大切なことは何か。コンセラクス、キュレーションズ、amadana という3つの会社に籍を置き、あるときは大企業と対峙するための「共創」を考え、あるときは大企業の「共創」を支援する住友滋氏に、企業にとっての「共創」のあり方などについて聞いた。

——「共創」に関連した多くのお仕事をされていると聞いています。どのようなことをされているのでしょうか。

住友 滋氏
コンセラクス
代表取締役 キュレーションズ 取締役会長 amadana 顧問

住友氏 「パラレルワーク(複業)」と呼んでいますが、私は主に3つの会社に籍を置いています。いずれも「共創」に関連する事業を展開する企業です。

 1つは、amadanaというデザイン家電の会社の顧問をしています。新卒後、私はソニーに在籍していました。そして、大企業であるが故の不自由さが新しいビジネスを生み出す上での障害になっていることを目の当たりにしてきました。工場などの資産を持たないファブレスメーカーならば、大企業ではできない挑戦的な家電ビジネスができるはず。こうした思いをベースにしてamadanaのビジネスを考えています。機能で勝負する家電製品ではなく、化粧品やバッグのようにブランド力を備え、消費者の情緒に訴求できる製品を追求しています。

 その一方で、ベンチャー企業には資本力がないので、自社だけでは大きなビジネスができません。大きなビジネスをしようとすると、バリューチェーン上の大企業と協業する必要があるのです。実際に作ってくれる会社や流通関連の会社との連携は必須ですし、大手の電機メーカーにライセンスしてそこの製品として販売する場合もあります。amadanaは、豊富な資金力とリソースを持つ複数の大企業とアライアンスを組みながら、まさに事業を「共創」しています。

大企業のジレンマがない“出島”を用意

——家電製品の新しいバリューチェーンを「共創」しているのですね。2つ目のお仕事は。

住友氏 キュレーションズという、ソニー時代の後輩と一緒に創業した会社で、IoT時代のサービス事業を「共創」しています。ここでは、大手企業の新規ビジネスを、IoT時代に合ったビジネスモデルへと進化させるお手伝いをしています。

 企業の規模がある程度以上になると、間尺に合った規模以上のビジネスしかできなくなる傾向があります。また、コンプライアンス、リスクマネジメント、レピュテーション(世評)マネジメント、既存の利害関係など、制約も増えてきます。このため簡単、迅速、安価には新しいサービスを立ち上げることがなかなかできません。つまり、事業規模が小さく、失敗するリスクも高いビジネスには、いかに先の成長が期待できようとも容易に参入することができないのです。そこで、大手企業に代わって、新しいビジネスを実験的かつ実際に立ち上げる場を提供するのがこの会社の狙いです。

 キュレーションズは、大企業のお作法に沿わない仕事を実験・実践できる、いわば“出島”のような会社です。大企業のビジネス開発を下請けとして受託するのではなく、ビジネスパートナーとして一緒に汗を流します。ここでは、大企業の担当者は、上司の顔ではなく、サービスのユーザーである生活者の顔を思い浮かべて、かつ、実際に生活者を巻き込んで新しいビジネスを「共創」することができます。

——日本企業の実情に合った取り組みですね。3つ目のお仕事はどのようなものでしょうか。

住友氏 コンセラクスという、CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)事業を「共創」する会社です。ここでいうCSV事業は、「経済価値と社会価値の向上を同時に実現できる事業の共創」という意味で使っています。コンセラクスでは、「子供たちの未来が楽しみになる成長事業」をテーマに共有価値の「共創」に取り組んでいます。企業の論理ではなく、生活者の求めを起点として、多様なコミュニティと多様な企業が成長事業を「共創」していくための仲間づくりと成長事業プロジェクトの開発を進めています。

 かつての日本のようなモノが足りない社会では、よいモノを安く供給し、多くの人が分け隔てなくモノを利用できるようにする「水道哲学」こそが、企業と社会の共有価値でした。しかし、世の中が満たされ、さらに生活者の価値観が多様化し、状況が変わってきました。企業と社会が共有できる価値が何なのか、見つけにくくなったのです。コンセラクスでは、企業と社会が共有できる事業の姿を探るため、生活者のインサイト(潜在的な欲求や本音)を知っている人と、インサイトを知りたい企業を結びつけ、新しいテーマを「共創」していく環境を作り出しています。

かつての日本企業では「共創」は日常

——本当にさまざまな切り口から「共創」に取り組んでいるのですね。今、企業の間で「共創」が求められているのは何故でしょうか。

住友氏 確かに、さまざまなかたちでの「共創」が求められています。企業が「共創」と呼んでいる取り組みを3つに分類して、時代観をお話します。

 1番目は、「企業内の共創」です。ほかの部署や事業本部、あるいは社内カンパニーやグループ企業といった組織を超えて協業・協働して共有価値を生み出す取り組みです。縦割りの組織が当たり前の日本企業では、これこそが「共創」であると見る人も多いように見受けます。しかし、本来同じ企業の組織なのですから、普通の業務だと言えるでしょう。

 2番目は、「企業間の共創」です。資本関係のない企業同士が、共有価値を生み出す取り組みがこれに当たります。時代の要請に応えるビジネスを作るためには、切実な課題や期待を潜在的に持っている顧客層(市場)に向き合って、最適な「企業間の共創」を実現できれば、近道です。しかし、この当たり前の近道になかなか進めません。多くの企業のビジネス・プロデューサーは、貴重な時間やエネルギーの多くを社内上層部への説明に費やし、潜在的な顧客層に向き合って事業開発に取り組む時間が取れない状況に陥りがちです。全く本末転倒な話です。結果として、顧客の本音・本心とかけ離れた「上層部が理解でき説明しやすい」だけの「企業間の共創」と商品・サービスが量産されてしまいます。

 3番目は、「企業と生活者・コミュニティの共創」です。企業と生活者や社会が、共有価値を生み出す取り組みです。先ほど、コンセラクスの仕事を紹介したときにお話したように、生活者のインサイトを知らないと、企業と社会が共有できる価値を持った事業が作れない時代になりました。多くの企業は、生活者のインサイトを知るために、ハッカソンやアイデアソンのようなアイデア共創の場を作っています。しかし、これを効果的に機能させるには、参加者が審査員である「主催企業の方」ではなく、ターゲットとする「生活者の方」を向いて、本音かつ本気で取り組める環境を用意することが重要です。これは、簡単なことではありません。最近では、こうした問題に気が付き、解消するための手法を模索している企業が増えているように感じます。

——お話をうかがっていると、ここにきて「共創」が重要性を増しているというより、企業が「共創」できない状況に陥っているように聞こえます。

住友氏 その通りですね。パートナー企業やお客様との「共創」が重要なのは、今も昔も変わらないのではないかと思います。昨今、ことさら「共創」という言葉を掲げてパートナー企業やお客様と企業の結びつきを強めるように努力しなければならなくなったのは、市場環境が変わったからというよりも、むしろ製品やサービスを提供する企業の側が変質してしまったからと見ています。先に挙げた3つの「共創」は、少なくとも日本企業は、昔から自然に実践していた当然の取り組みだったと思っています。それが近年は、その当然のことができなくなった。そこにこそ、問題の本質があるのです。

 多くの企業は、同じビジネスモデルを繰り返す時代が長く続いたことで、3つの「共創」によって新しいビジネスを生み出すよりも、既存ビジネスの効率化・最大化を図った方が成果を上げやすいと考えるようになりました。このため、それまで当たり前だった「共創」を、成果が上がらない非効率な仕事として、阻害する内部環境やシステムを作り上げてしまったのではないでしょうか。具体的には、短期株主も含む株主重視、四半期決算、過度のコンプライアンスやリスクマネジメント、効率型人材向けの人事制度、組織のサイロ化や官僚化など、「共創」を阻害する企業の仕組みを挙げればキリがありません。

 それでも近年、あらためて「共創」が注目されるようになったのは、そのような社内メカニズムや既存のビジネスモデルが、いよいよ持続不可能になってしまったことを、経営者が認めざるを得なくなったからではないでしょうか。

必要なのは自由闊達な場と失敗の評価

——「共創」できなくなった企業は、どのように顧客や生活者のインサイトに応える新しいビジネスを作り、立ち上げればよいのでしょうか。

住友氏 まずお伝えしたいのは、企業にとっての「共創」は、目的ではないということです。企業の目的は事業活動であり、継続的な顧客創造です。目的とする事業の成功に向けて、既存のビジネスモデルが持続できないことを前提に、かつての日本企業ができていたCSV経営を改めて実践すればよいのです。決して昔の方法をそのまま取り入れる回顧主義を勧めているのではありません。目的に応じて変えるべきところは変えながらも、時代を超えて通用する先達の知恵はしっかりと引き継ぎ、活用すべきだと思います。

——過去の「共創」にかかわる知見を生かし、今風に進化させるためには、企業内にどのような仕組みを作ればよいのでしょうか。

住友氏 仕組みは、後から用意すればよいと思います。「共創」に専ら取り組む部署を作ったり、イノベーションの創出を支援するような新しいツールの開発や導入を、つい急ぎがちです。しかし、そのような仕組みづくりやツールの導入を本格的にやればやるほど、早期の成果を求められ、導入したツールや手法にしばられ、かえって本質的な共創活動ができなくなったり、協力者を得られなくなったりします。

 私が大切だと思うのは、「小さな成功事例」を作るための「場」と「制度」を用意することです。ツールは、そこで実際にやってみて何が必要になったのかを見定めてから選べばいい。むしろ、事業成功のためには、ターゲット顧客に向き合い、成功事例を作れるまで、小さな失敗を繰り返し、学んでいく人たちをポジティブに評価する制度が不可欠だと思います。

 こうした「場」と「制度」は、既存の組織環境の中に収めることは難しいことでしょう。だから、大企業の組織と切り離して実験・実践できる“出島”を用意することを勧めています。冒頭でお話したように、私はキュレーションズという会社を通じて、大企業に“出島”を提供しています。実際に“出島”を運用する中で、多くの学びがありました。今、それらを教訓にして、さらなる発展形を準備しています。

「共創」の前提はWin-Winの関係

——時代を超えて通用する先達の知恵を引き継ぎ、活用すべきとおっしゃっていました。たとえば、今も色あせない知恵として、具体的にどのような例が挙がりますか。

住友氏 私が、ソニーに在籍していた時に体験した「共創」の成功モデルをご紹介したいと思います。

 1990年代にソニーの資材購買部で経験した、ソニーとサプライヤーの互恵関係です。当時、ソニーに部品を収めるサプライヤーは、共同でVA(Value Analysis)に取り組んでいました。製品を構成する部品の機能や品質を落とさずにコストを下げる方法を、取引先も含めて知識や知恵を出し合って実現するというものです。そして、VAによって生み出された原価低減によるコストメリットは、ソニーと取引先で公平に分配するという紳士協定がありました。つまり、資材部を介して、ソニーと取引先が共有価値を「共創」していたわけです。コストダウンで得をするのが、ソニーだけではないという点がポイントです。

 ソニーは、潜在的な顧客ニーズに向き合い、時代の先端をいく製品開発に取り組んでいましたから、最先端の部品を必要としていました。サプライヤーにとってみれば、ソニーの製品で実績ができれば、追随する他社も採用してくれます。このため、ソニーとの優先的な「共創」の生態系が自然と出来上がっていたのだと思います。そして、こうした生態系を成り立たせていたのが、パートナー企業や顧客との共有価値なのです。

常におせっかいやきが必要

——これから「共創」にかかわる人たちは、効果的な「共創」を進めるために、どのような点に留意したらよいのでしょうか。

住友氏 確かソニーの入社式のスピーチだったと思うのですが、創業者の盛田昭夫氏が「ほかの組織や事業部の業務や人に興味を持って、『おせっかい』をするように」という話をしたのを覚えています。「共創」を進める上では、相手のことを本気で思い、進んでおせっかいできる人が必要なのだと思います。本質的な目的の実現に情熱を持ち、組織や文化を超えた多くの相手と共有できる共通のゴールを設定し、かつ共有価値を創造できる能力を持った人です。ちなみに、私は、こういう相手思いのおせっかいやきを自分で作った造語で、「インタープレナー(Interpreneur)」と呼んでいます。「共創」を支援する私たちは、常にインタープレナーでありたいと願っています。