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新次元ものづくりワークショップ レビュー

「新次元ものづくりワークショップ」レビュー

日本の地方都市では少子高齢化や過疎化が進み、地域の経済や生活に対する影響が目に見えて大きくなっている。暮らしや社会活動に活気がなくなるだけではなく、近い将来に消滅の危機を迎える自治体も出てくると指摘されている。その一方で、行政の視点や産業構造を再定義して、観光客や大都市からの移住者の増加に成功したところもある。地方の都市や町は、新たな競争の時代に入ったとも言える。富士通が主催する業種を超えた「共創」によって革新的ビジネスの創出を目指す「新次元ものづくりワークショップ」。第6回を迎えた今回は、「社会課題と知財から新たなサービスモデルを考える」と題して、地方都市が抱える社会問題の解決につながるサービスモデルの創出に挑んだ。

 今回の新次元ものづくりワークショップには、地方都市を元気にするための方策を考えるべく、ICT(情報通信技術)、化学、機械といったさまざまな業種のものづくり企業、大学などからも参加者が集まった(図1)。これら参加者が、どのようにして解決すべき課題を定め、アイデアを出し合い、具体的なサービスモデルへとまとめていったのか。その過程を追う。

図1 多彩なメンバーが集まった「新次元ものづくりワークショップ」
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 今回の課題となった地方都市は、奈良県橿原市、宮崎県日南市、兵庫県洲本市、福島県会津若松市、長野県飯山市の5カ所。いずれも観光地、居住地としてのアピールポイントを持ちながら、訪れる観光客の減少、住民の高齢化や若者離れなど、典型的な地方都市の問題を抱えている。参加者は、担当する都市をあらかじめ指定され、一つの都市を4人もしくは5人で構成されるグループで受け持った。担当した都市が、どのような問題を抱えているのか、そしてどのような美点があるのか、全く分からない状態から、ワークショップはスタートした。

まずは担当した都市についてよく知ることから

 社会問題を解決するには、対象となる都市が今抱える問題を的確に把握し、どのように解決、改善を図っていくのか、開発テーマを定めなければならない。そのためには、まずは担当した都市についてよく知ることだ。本来ならばそれぞれの都市を訪れて、フィールドワークを実施して現場の状況を実感したいところだ。しかし、開発テーマの設定からアイデア抽出、具体的なビジネスモデルの策定まで、半日で進める今回のワークショップでは、そうはいかない。そこで、それぞれの街についての資料を集めるだけ集めて、これを精査する擬似フィールドワークを行った(図2)。

図2 資料を使った疑似フィールドワークを実施
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 ここで、参加者がどのような背景を持った都市について考えたのか、題材となった都市の特徴と課題を、それぞれ簡単に紹介する。

 奈良県橿原市。飛鳥時代に、平城京や平安京よりも早くできた日本最初の都城である藤原京の跡、香具山・畝傍山・耳成山など万葉集の歌に読まれた大和三山がある、誇るべき歴史を持った街である。また江戸の街並みの面影を残す地域もあり、観光資源は豊富だ。しかし、京都や奈良と比較すると、その利点を今ひとつ生かし切れておらず、知名度は今ひとつ。訪れる観光客もシニア層が中心で、近年は特に街ににぎわいがなくなってきたことが悩みである。

 兵庫県洲本市。淡路島である。本州と四国をつなぐ神戸淡路鳴門自動車道が、島内を縦断している。鳴門海峡のうずしお、パワースポットとされる伊弉諾(いざなぎ)神宮など見どころが多い。また、淡路牛や玉ねぎなど特産品を活かした牛丼を新名物として育成中。しかし、自動車道を通る通行車は、単なる通過点とみなしているようだ。また、景観に優れていた別荘地の崖が、波の侵食で崩れるなど新たな問題も出てきた。

 宮崎県日南市。自然が豊かで青い海と緑の山々に囲まれている、日本で最も日照に恵まれた地域である。運玉で有名な鵜戸神宮や鬼の洗濯板と呼ばれる奇岩の海岸線、東洋一のマグロ漁港と言われた油津港、飫肥藩の城下町など観光資源も多い。ただし、隣接する宮崎市と比較すると、知名度の点で見劣りし、鉄道など陸上の交通手段も不便だ。また、地元の高校生は、卒業とともに大学進学や就職で都会に出ていき、高齢者だけの世帯や未婚者が急増している。

 福島県会津若松市。NHKの大河ドラマ「八重の桜」の舞台ともなった土地であり、会津藩の鶴ケ城、白虎隊ゆかりの地など数々の史跡がある。また、会津の藩校で培われた独自の文化を持ち、新島八重や野口英世といった歴史上の有名人も排出した。全国的に知られた多くの観光資源があるものの、多くの観光客を呼びこむほどの訴求力がない。また、地場産業として地元経済を支えてきた半導体産業が衰退し、大型小売店が撤退するなど活気がなくなってきている。

 長野県飯山市。2015年3月に開業した北陸新幹線の停車駅「飯山駅」がある。冬には斑尾高原、戸狩温泉など大きなスキー場に多くのスキーヤーが訪れ、夏も長距離自然歩道「信越トレイル」で、景観や自然、歴史を感じる街並みに触れる楽しみがある。内山紙や飯山仏壇など国指定伝統工芸品もある。ただし、スキーブームが去って以来、観光客数は目に見えて減少。また、頼みの綱の新幹線の駅も、金沢や富山に向かう乗客の通過駅に過ぎなくなっている。

名前は知っていたけれど・・・

 担当する都市ごとのグループに分かれた参加者は、壁に貼られた各都市の特徴、そして気付いた点を、ポジティブなものは黄色い付箋に、ネガティブなものはピンクの付箋に書き記していった(図3)。資料からは、地域の紹介、人口の推移など基本的な地域情報の他に、観光地、グルメ、名産品、移住者の声などさまざまな角度から、各都市の今の姿を知ることができる。

図3 気づいた点を付箋に書き記す
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 参加者の多くは、担当した都市についてほとんど知らない状態からスタートした。都市の名前は知っていても、「意外と夏は暑いんだな」「この有名人は、ここの出身だったのか」「教科書で習ったあの事件は、ここで起こったとは」と知らないことばかり。でも、こうした参加者の目線は、大都市に住んでいる一般の観光客の目線そのものでもあるとも言える。

 例えば橿原市を担当した参加者が書き出した付箋を見てみると、ポジティブな点として「古墳好きにはたまらない」「歴女が好きそう」「額田王、中大兄皇子、大海人皇子」といった歴史上重要な場所であったことに対する気付きや「サイクリング」「パワースポット」「近鉄 交通の要衝」「落ち着いた大人の楽しみがある街」といった別の角度からの観光地としての魅力などが挙がった。一方、ネガティブな点として、「若者の街ではない」「単独で目的地にはなりにくい」「家族連れでは行きにくい」「散策がメインでお金が落ちそうな名所がない」といった意見が出されていた。

短所は、見方次第で長所に

 次に、付箋に書き出したことをグループ内で共有し、話し合い、その都市で解決すべき課題を模造紙にまとめた。同じ資料を読んでも、参加者それぞれの気付きは千差万別だ。例えば、先に挙げた橿原市を担当したグループでも、ある参加者は、悠久の歴史を持つ同市を「落ち着いた大人の楽しみがある街」とポジティブに捉え、ある参加者は「若者の街ではない」とネガティブに捉えた。

 こうした見方の相違を擦り合わせていくと、「誇るべき歴史を、若い人にも魅力的に伝えることはできないのだろうか」と、解決すべき課題の視点が徐々に明確になっていった。欠点と長所は表裏一体だ。解決しないといけないと考えていた問題も、見方を変えれば新しいビジネスを生み出すネタになり得る(講演1参照)。

 グループ内で参加者同士が気付きを共有した後、参加者それぞれが解決すべき課題を絞り込み、それを解決するためのアイデアを、図解しながらワークシートにまとめた(図4)。ワークショプの運営をしている富士通デザインは、「新しいアイデアは、さまざまな要素の組み合わせ」と言う。グループ内で共有した付箋に記した気付き、他の人が書いたワークシートを覗き、そして時には他のグループのアイデアをちら見しながら、思い思いのアイデアをまとめていった。

図4 アイデアをワークシートにまとめる
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特許を投入してアイデアをより具体化

 今回のワークショップでは、アイデアをさらにブラッシュアップするための特別な工夫が用意されていた。富士通が保有する有償開放特許を、問題の解決につながるアイデアの種として提供したのである。有償開放特許とは、自社開発した技術だが、自らのビジネスには利用していないため外部企業にライセンス供与している特許のこと(講演2参照)。雰囲気センサー、チタンアパタイト、マスコットロボットなど、16件の特許を簡単に解説した特許カードを各グループに配布し、ワークシートの作成に利用した。こうして有償開放特許を投入し、具体的な技術の要素が加わったことで、参加者のアイデアはより具現化されていった。

逆転の発想による意外性と知財の力による完成度

 そして、数あるアイデアの中から、グループ内でより具体的に検討を進めるものを1案か2案にしぼりサービスモデルへと仕上げるプロトタイピングのプロセスに移った。今回、プロトタイピングは、アプローチの異なる3つの方法で同時に進めていった。

 一つ目は、レゴやモールなどを使って、サービスモデルを図示する方法(図5)。この方法を使うと、事業にかかわる人や企業のポジションや関係性、周辺環境が一目瞭然に把握できる。二つ目は、4コマ漫画によって、製品やサービスの利用シーンを図示する方法。アイデアを、具体的な場面設定でのストリーを通じて説明することで、どのような課題を解決する、どのような価値を持ったサービスなのか、実感しやすくなる。三つ目は、ビジネスモデルを構成する9つの要素を明確にするためのツール、ビジネスモデル・キャンバスを使った方法。この方法では、複雑なサービスモデルを過不足なく簡潔に表現できる。

図5 サービスモデルを形にして表現
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 久しぶりに手にしたレゴでのモデル作りに嬉々として取り組む、いい年の大人たち。必要以上にリアルに表現されたビジネスモデルに、練り上げたアイデアに対する思い入れがこもる。今回、3つのアプローチでサービスモデルを表現することにした理由は、「特性の異なる表現手法を併用することで、アイデアを違った角度から考え直して、さらに深化させることにある」という。

 名所を見て回るだけが観光ではない、観光客が参加し、体験できる新しい形の観光が人を呼び込む。自動車道の通過点や新幹線の通過駅も、寄り道しやすい工夫を凝らせば、人を呼び込むことができる。いきなり移住者を増やそうとしても無理、まずは移住を前提にしたお試しの観光から。スマホゲームやネットでのプロモーションビデオの公開と、リアルなイベントを連動させた「O2O(Online 2 Offline)」的な町おこし。各グループが生み出したサービスモデルは、とても半日でまとめたとは思えない意外性と完成度のものばかりだった。(各チームの発表内容

 欠点と思っていたことも、見方を変えれば、人を呼び込むサービスを生み出す利点になる。自由な発想で生み出したアイデアが、具体的な技術と結びつくことで、より実現性の高いサービスへと変わっていく。「共創」の場で得られる新たな気付きが、解決困難と感じていた悩みを霧散させるサービスを生み出すことをまざまざと見せつけたワークショップだった。

各グループの提案一覧

橿原市グループの提案:飛鳥時代を体験する観光
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 橿原市の中にある史跡をただ回るのではなく、観光客が大和朝廷時代の生活や仕事、文化、出来事を実際に体験できる体験型観光の実現を目指す。藤原京の時代には、中大兄皇子や大海人皇子など、魅力的な歴史上のキャラクターが数多くいる。こうした人物を美形化してゲームを制作し、若い層、特に女性の関心を喚起する。

 そして、観光客として訪れた人は、身分や職業、属する豪族の勢力など歴史の中での役割を決め、それに合わせて服装や髪型などを替えて、勢力同士で争ったり、短歌を読んだりと、昔の生活を体験できるようにする。藤原京の様子は、CGによって表現し、AR端末などで昔の街並みを見ながら、いにしえの雰囲気を実感できるようにする。

淡路島グループの提案:島中をSAにして、神様が名所名産をガイド
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 淡路島を丸ごと、神戸淡路鳴門自動車道のサービスエリアにしてしまい、地元の商業や観光の活性化を目指す。これによって、通過してしまうと知ることができない名物や名所を、気軽に楽しめるようにする。

 また、自動車道から降りる時、ゲートで伊弉諾(いざなぎ)神宮にちなんだ神様のマスコットを渡す。このマスコットを通じて、ドライバーや同乗者と会話しながら、地元の観光地や名産品、グルメを提供する店をガイドする。島内にたくさんある名物の牛丼屋の選択に困ったときなどは、要望に応じて、適した店を、“お告げ”を伝えるかたちでプロモーションする。

日南市グループの提案:幸福度を発信して移住体験者を募る
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 自然に恵まれ、気候も良い日南市のライフスタイルを全国に発信し、住民の笑顔とともに幸福度の高さをアピールする。地元のイケメンが登場し、生き生きと生活し、仕事に取り組んでいる様子をプロモーションビデオにして、ネットで公開する。また、都会にいる人が、ドローンを遠隔操縦し、日南市のありのままの様子を自由に見ることができるようにもする。

 同時に、ネットから日南市での生活に興味を持った人が、気軽に移住者体験できる期間限定の移住を観光の一環として育成する。自治体の協力で仮の住まいを、地元企業の協力で仮の仕事を用意し、日南市での日常生活を知ってもらい、若い人たちの移住を促す。

会津若松市グループの提案:ゲームで認知度向上、そして地場産業に
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 日本初のコンピューター専門学校だった会津大学のノウハウを用いて、ゲームを通じた町興しと地場産業の育成を目指す。広い年齢層に親しみやすいスマホゲームの中に、会津若松の著名人、史跡、文化、方言などを盛り込むことで、全国規模の知名度向上を刷り込んでいく。

 また、ゲームを実際の街と連動させるイベントも用意し、全国から人を集める。優秀なプレイヤーを年に一度集め、実際の街を利用したリアルゲームを行うゲーム甲子園を開催する。ゲームを作り、題材に盛り込み、ゲームプレイヤーが集まる場として認知されることを契機に、ゲーム産業の企業を誘致し、集積地として地場産業として育成する。

飯山市グループの提案:新幹線の駅をフル活用し、途中下車を観光に
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 北陸新幹線の駅があることをフル活用し、金沢や富山に向かう人たちも、気軽に新幹線から途中下車してもらい、飯山市の良さを体験し、実感してもらえる短期滞在型の観光プログラムを充実させる。

 具体的には、JRの協力などを得て、指定したエリアには、乗客が自由に行き来できるようにする。冬は栂池高原などでのスキー、夏はテニスや千曲川や棚田の里の観光などを、ちょっとだけ楽しんでいけるように施設や交通機関を工夫して提供する。また、顔認識システムを導入して、おなじみさんを増やす。