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「ミサワ総研×富士通×ハナラボ 未来のくらしプロジェクト ワークショップ」レビュー

「ミサワ総研×富士通×ハナラボ 未来のくらしプロジェクト ワークショップ」レビュー

新しい事業やサービスを開発するとき、それを利用する人の価値観に視線を合わせることは、思いのほか難しい。大手住宅メーカーであるミサワホームも、こうした悩みを抱える企業のひとつだ。同社には、住まいや暮らしの一歩先を見据えるシンクタンク、ミサワホーム総合研究所(以下、ミサワ総研)フューチャーセンターがあり、暮らしに関連した「未来に必要なコトづくり」として、新しい企業価値の創造に取り組んでいる。今回の企画は未来の生活スタイルと、そこに住む人たちの考え方からビジネスシーズを発掘するもので、パートナーに社会課題に取り組む女子大生が集うNPO法人ハナラボを交え、「未来のくらしプロジェクト ワークショップ」が開催された。同ワークショップでは、ミサワ総研、富士通、ハナラボの女子大生が、将来のシナリオを描きながら、未来の人々の価値観を探った。

 今回開催した「ミサワ総研×富士通×ハナラボ 未来のくらしプロジェクト ワークショップ」のテーマは、「女子大生の未来シナリオをつくる」である。これから住宅を購入し、その中で長く暮らすであろう女子大生が、これからの生活環境や社会環境の変化の中で、どのような判断を下し、どのような想いで生きていくのか考え、実感するのが狙いだ(図1)。女子大生と一緒に考えることで、未来を生きる人の価値観を間近で感じようという趣向である。

図1 未来シナリオを描くワークショップを開催
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いきなり丸腰になったのは・・・

 ワークショップの会場には、ミサワホームの新規ビジネス開発に携わっている人たち、富士通の社員、ハナラボの女子大生が集まり、それぞれ4つのチームに分かれた。世代も、立場も、生活も違うメンバーの自己紹介からワークショップが始まった。初対面の人たちを相手に、まだ参加者の面持ちは固い。なかでも緊張しているのは、ベテラン男性社員の面々。いつもの会議とは明らかに違う。和やかで、華やかな雰囲気に、話す声もいつもより1オクターブ高い感じだ。

 今回のワークショップのファシリテーターは、ハナラボ代表理事の角めぐみ氏。同氏は、冒頭に議論中に守るべき3つのルール、「同じ目線で」「みんなで話す」「否定しない」を告げた。「君たちは若いから分からないかもしれないけど、世の中そんな甘いものじゃないんだよ」としたり顔でたしなめて議論を支配しようとするのは、人生の先輩が若者と議論するときの常套手段。3つのルールで、彼らは、いきなり丸腰になってしまった。

 未来シナリオは、「女子大生の価値観」「未来の兆し」「ライフカード」と名づけた3つの情報を掛け合わせて、4つのワークを通じて段階的に具体化して作成していった。

「今どきの女子大生」と十把一絡げは大間違い

 ワーク1は、各チーム一人ずつ配した未来シナリオを考える対象となる女子大生が、今の生活の中でどのような選択をしているのかを知り、それを分析することで、その「女子大生の価値観」を探る作業だ。

 対象となる女子大生は、あらかじめ7項目の質問に対する答えを用意し、全員の前で披露した(図2)。質問項目は、「どんなところで、服を買う?」「将来住みたい場所は?」「外食するときはどんな店を選ぶ?」「理想の父親像、母親像は?」「アルバイトの選び方は?」「大学で学んでいることは?」「今、がんばっていることは?」である。

図2 7項目に質問に対する答えを女子大生が披露
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 日常の些細な決断は、その人の価値観をあからさまに反映する。決断が些細で日常であればあるほど、その傾向は強い。住宅の中で暮らす時に感じる満足や不満は、こうした日常の中で感じられるものだろう。

 それにしても女子大生の選択は、びっくりするほど多様だ。「姉のお下がりが多いので、自分で服を買うことは少ないです」「外国人に憧れて、服の選択も影響を受けています」「都会の人混みは嫌いで、離島とか田舎に住みたい」「外食は無線LANが使える長居できるところを選びます」「両親が理想」「友達みたいに話せる親がいい」「持っているスキルを活かせるアルバイトを探しました」などなど。今どきの女子大生はこんなことを考えそうだ、といったステレオタイプの見方は、およそ見当違いである。

 そして、プレゼンテーションを聞いた後、チームのメンバーが女子大生の価値観を分析していく。分析される側は、感心したり、驚いたり、納得したり。どんなに親しい友人相手でも、これほど自分の価値観について、客観的に語られる機会はないのかもしれない。

20年前にスマホの登場を前提に生きた人はいない

 ワーク2は、今開発されている将来の実用化を目指した技術についての100件の報道記事の中から、気になる話題を「未来の兆し」として選び出す作業だ(図3)。挙げられた記事は、「火星のコロニー」「NYと東京を数時間でつなぐ夢の『超音速飛行』実現へ」「大気汚染をなくすセメント」「顔で決済できるアプリ」「柔らかくて丈夫なトランジスタ」「10万円のスモールハウス」「自動運転」等々。

図3 気になる将来の技術を選び出す
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 このワークは、女子大生が将来について考える場面があったとしても、絶対に考慮に入れないようなものばかりだ。しかし、考えてみて欲しい。20年前にスマートフォンがこれほど生活のあり様を変えることを想定して、人生設計した人がいただろうか。もしいたとしたら、それは余程の変人か、スティーブ・ジョブズだ。しかし、実際には、技術をはじめとする様々な変化が着実に人々の生活や社会活動を変えている。そこで暮らす個人の価値観も、当然変わっていく。変化の兆しを起点に、思ってもみなかった自分の未来を想像することは意外と大切かもしれない。

 こうした技術の話題で俄然勢いづいたのはおじさんたち。その技術はどんなものなのか、何を変えるのか、雄弁に説明し始める。それを聞いた女子大生も「10万円で家が買えるのなら、住むところを1カ所に決めてしまうことはないね」と、それぞれの視点から考えていく。

人生、思い通りにいかないこともある

 ワーク3は、いよいよ未来シナリオを作成する作業だ。ここまで「女子大生の価値観」と「未来の兆し」について考えてきたことを、大学卒業後の人生を10年おきに年代で区切り、それぞれの時代を私生活と仕事の両面から大きな模造紙にまとめていった(図4)。

図4 未来シナリオを作成
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 だが、人生そう思い通りに進むものではない。シナリオをつくる上でのもう一つの要素として、人生に起こりがちは不測の事態を記した「ライフカード」を無作為に選び、人生のシナリオ(模造紙)上に組み込まなければならない。ライフカードに書かれていることは、「結婚した」「離婚した」「子どもは2人」「パートナーがリストラに遭う」「起業に誘われる」「ウガンダに転勤」といったことだ。

 人生の中のさまざまな場面、対象となった女子大生はどのような決断をし、暮らしや社会的地位はどのように変わっていくのか。家族は、仕事は、住んでいるところは、収入は・・・。メンバーが想像力をフル回転させ考えていく。自分の人生でも、他人の人生でも、自由に具体的なシナリオを描いていくのは、結構楽しい。楽しさが創造力を膨らまし、対象になった女子大生も、思ってもみなかった展開のシナリオに、思わず「おもしろい」と口に出すほど。

女子大生の未来を考えるおじさんに親心

 ワーク4は、出来上がったシナリオを見て、人生の岐路になった場面で、対象になった女子大生やその家族、友人はどのように感じるのか、具体的なシーンを描く作業だ。気になる場面をイラストなどでイメージしやすいかたちにして、ワーク1で分析した女子大生の価値観を考慮しながら、どのような気持ちで人生の選択をしていったのか思いやる。

 ここまで一人の女子大生の未来について考えを深めていくと、他人の人生とはいえ、切り離せなくなっている。「この時点で外国に住むのは、結構しんどいと思うよ」。男性陣からの発言にも、親心がちらほら見え隠れする。真剣に、他人の価値観を考えるというのは、こうしたことなのかもしれない。

決断を繰り返した上でのそれぞれの人生

 そして、それぞれのチームが描いた「女子大生の未来シナリオ」を発表会で披露した。波瀾万丈の人生、結構堅実な人生、それぞれだ。以降、簡単にまとめた発表内容を読んでいただければ分かるが、結構、荒唐無稽に感じるものもある。でも笑うことなかれ。それらは一人ひとりの女子大生が、それぞれの等身大の価値観で選択を重ねた上で描かれた、潜在的な願望を映したシナリオでもある。

 1番目は、「チーム セルビシエ」(図5)。大学を卒業後、特殊な酵母菌を研究してその事業化を進めていたが、ウガンダに転勤になる。現地で成果を上げて、帰国後に結婚。夫が37歳で独立を宣言し、実家のある四国に戻ると言い出した。家族や友人は心配したが、今の家族を優先してついていく。そこで2人で研究を続けて、メタンガスを食べる微生物を事業化する。事業は大成功し、経済的な余裕が出てきて、子どもを海外留学させる。子どもの手がかからなくなったら地元で、受験のためではなく、人を育てる場所を目指す理系塾を開講。海外に定着した子どもが行き来する中、悠々自適の生活をしていく。

図5 海外勤務後に四国で創業
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 2番目は「チーム ミズP」(図6)。現在している学生記者の延長で、大学卒業後もライター兼ブロガーになる。その仕事を通じて出会いがあり、結婚。しかしそれが困った男で、男性不信に陥る。傷心を癒すため離島に移り住み、そこでソーシャルネットワークを通じて教育に関する情報を発信していく。さらに、自然環境を生かして、自然型冷蔵庫、10万円のスモールハウスと立て続けに商品を開発し成功。特にスモールハウス事業では、インドで大量に売れ、子供を笑顔にしたいという使命感から、貧困層をターゲットにした寺子屋を開く。そして三つ子を養子に取る。この三つ子がとても優秀で、事業を手伝ってくれるようになる。事業から手を離せるようになり、離島感覚で火星に移り住む。火星では若いママもシングルママも一緒に楽しめるコミュニティを主宰する。

図6 海外で教育事業を立ち上げてから火星に移住
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 3番目は、「チーム ダンボ」(図7)。大学を卒業してビール会社に就職。22歳で上司の35歳のフランス人と結婚した。夫はお金持ちだったので、京都に一戸建てを建てる。子どもはいなかったため、仕事がてら飲み歩くが、フランス人と文化の違いで、アラフォー離婚。でもすぐに趣味のマラソンで知り合った日本人と再婚する。その後、東北に転勤し、別居婚になる。仕事は順調で、青森支店で支店長に昇進し、その後、サプリを入れた若返りビールの開発で成功した。しかし、会社が粉飾決算で傾き、退職。それを契機に夫婦で横浜に移ることにする。一戸建てを建てて、カフェ兼バーを開き、そこでヤサイとビールのセミナーも開催して、タレント活動もするようになる。

図7 離婚と再婚を経てタレントに
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 4番目は、「チーム もぎたて巨峰」(図8)。大学卒業後は、デザイナーとして安定した企業に就職。他部署の2つ上の人と結婚したが仕事も大切にしたいので事実婚に。家は賃貸のまま、バリバリ仕事をしていく。30歳で第1子となる女の子をもうけ、2年後には第2子も生まれる。仕事よりも子育て中心の生活になっていく。埼玉県浦和市に先進的な家を35年ローンで建てる。35年ローンを返せるか不安だったが、家がある安心感の方が勝る。しかし会社の業績が悪くなって、給料が下がってきた。そんな時、パートナーがベンチャー企業に転職するがその後リストラ。だが天の助け、宝くじで3億円が当たる。経済的な憂いがなくなり、海外留学に出した子どもは、海外で仕事をするようになる。自分はお金ができたので海外を渡り歩く。その後仕事をしたくなり、自分のオフィスを持って地元密着の仕事を持つ。裕福になったので両親に家をプレゼント、でも同居はいやなので介護に配慮した家にした。

図8 宝くじで一発逆転
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望みを叶えることの重要性は増している

 もしもあなたが、住宅メーカーの社員ならば、ここで描かれた女子大生の未来シナリオから何を感じ取るだろうか。「1カ所に定住しないとは、考えていない」「都会の便利な暮らしには意外にこだわりがない」「家族など人とのつながりを中心に行動していきたいと考えている」「仕事と生活の両立をとても重視している」「一戸建ては人気があるな」など色々感じることがあるだろう(図9)。これを見て、現実はそう簡単にはいかないとしたり顔に戻ってしまったら、イノベーションは起こせない。これは、消費者の等身大の価値観を映したシナリオなのだから。

図9 ワークショップに参加した面々
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 今回のワークショップで生まれた4つのシナリオを見て、消費者の価値観が絶え間無く変化していることを参加者の多くが実感したはすだ。同時に、新しいビジネスを創出するには、既成概念にとらわれず、市場や消費者の動向を冷静かつ丁寧に見極めながら柔軟に発想することが重要であることを改めて認識したのではないだろうか。