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共創コミュニティ「innovation farm」座談会レビュー 前編:思考法の学習・体験編

ビジネスモデル分析手法を活用
自社の可能性を広げる異業種連携の姿を探る

異業種の企業による革新的な新規事業の「共創」を目指す富士通のプロジェクト「イノベーション・ファーム(略称イノバタ)」。共創のプロセスを疑似体験するワークショップを開催している同社が、今回はオープンイノベーションの普及に取り組むコクヨと連携し、チームでビジネスモデルを検討するのに役立つ手法の1つ「ビジネスモデル・キャンバス」を使ったワークショップを開催した。ここでは、全3日の日程で開催されたワークショップのうち、ビジネスモデル・キャンバスを活用した思考法を学ぶ1日目と2日目の様子をレポートする。

 今回のワークショップには、業界や立場は違えど、異業種との連携によってこれまでとは一味違うビジネスを効果的に創出したい企業の新規ビジネスリーダーが多数集まった。そこで、テーマをイノベーション創出のための強力なツールであるビジネスモデル・キャンバスの活用法にフォーカス。その使い方と効能を学び、実際に使ってみて勘所をつかむことが目的である。

まずはビジネスモデルの要素を整理

 全3回の日程で開催される今回のワークショップ。その第1回は、身近なネタを題材に、ビジネスモデル・キャンバスの使い方とその効能を実際に体験を通して学んだ。

 まず、肝心のビジネスモデル・キャンバスとは何なのか、それを使うとどのような効能があるのか分からないと始まらない。ワークショップに先駆けて、オープンイノベーションを軸に他社とのコラボレーションによって様々な新規商材開発に取り組んできたコクヨ株式会社の曽根原士郎氏が、「ビジネスモデル・ジェネレーションの基礎」と題して講演。ここでビジネスモデル・キャンバスを使ってビジネスモデルを検討するための思考法を学んだ(図1)。そのエッセンスを紹介する。

図1 ビジネスモデルを検討するための思考法を学ぶ

 ビジネスモデル・キャンバスとは、さまざまな要素が複雑に絡み合ったビジネスの構造・機能を9つの要素へと分解し、それぞれがどのように関わり合っているかを図示する、ワークシートである(図2)。ビジネスモデルの特性を視覚的に理解するうえで役に立つ手法だ。新規事業の開発に取り組む企業の現場で、注目を集めている。

図2 「ビジネスモデル・キャンパス」のワークシート
[画像のクリックで拡大表示]

 ビジネスモデル・キャンバスを利用することで、複雑に見えるビジネスの仕組みを整理し、ビジネスモデルの全体像が分かりやすい形で俯瞰できるようになる。しかも、ここで分解した9つの要素は、あらゆる業界で共通する基本的なことばかりなので、業界が違う人たちが議論するときの共通言語になる。これが、異業種連携を図る際に役立つ。  

 ビジネスモデル・キャンバスの概要と効能をひと通り学んだうえで、いよいよワークに入った。まず参加者が取り組んだのは、最も身近で熟知している自社のビジネスを、ビジネスモデル・キャンバスで表現する個人ワークである(図3)。自社のことなのだから、ワークの対象が分からないはずがない。それでいて、ワークを通じて、何か新しい気付きが得られれば、それがすなわちビジネスモデル・キャンバスの効能となる。

図3 自社のビジネスモデルを分析

意外と自分の仕事が分かっていない

 個人ワークは、2段階の手順で進めた。

 手順1では、ビジネスモデル・キャンバスのワークシートを埋めた。このとき重要な点は、まず「顧客セグメント(CS)」と「価値提案(VP)」を書くことである。誰に何を売っているのかを、真っ先に明確にする必要があるのだ。次に、自分の担当業務を考えて「主要業務(KA)」を埋めた。今回集まった参加者の所属企業は、さまざまなビジネスを行っている。自分の担当業務を中心に考えることで、ビジネスモデルをより身近に、明確に考えられるようになる。これら3要素を固めたうえで、他の要素を逐次埋めていった。

 手順2では、描いたビジネスモデル・キャンバスから、自社の強みと弱みを評価。自信を持って自分が担当する主要業務に強みの印を付ける参加者、ビジネスモデル・キャンバスいっぱいに弱みの印を付ける謙虚な参加者、さまざまだ。社内での業務上の会議や、ちょっとした会話などでは、ビジネスを基本的な要素に分解しないまま話すことが多いので、強みも弱みも一緒くたに語られがちだ。強みと弱みの所在をキッチリと整理すると、なぜ強みを生かす工夫がなされないのか、弱みがそのまま放置されているのか、にわかに疑問に感じてくるから面白い。

ビジネスモデルがアイデアより先にできる

 次は、グループワーク。4~5人ごとに分けた各グループで、参加者それぞれが描いた自社のビジネスモデルを持ち寄り、その要素を他の参加者のものと組み合わせて、新しいビジネスモデルを考えた。グループの参加者の所属企業の業種はさまざま。まさに異業種連携での新しい協業モデルを考えようという試みだ。

図4 組み合わせで新たなビジネスモデル

 参加者それぞれの企業のビジネスモデルが基本要素に分解され、しかも強みと弱みが明確になっているので、組み合わせるときの指針が得られやすい。しかも面白いのは、先に自社と他社の強み/弱みを組み合わせてビジネスモデルの骨格を作ることで、新ビジネスのアイデアが生み出し易くなる点だ。従来のアイデア発散型からスタートするよりも、短期間で特定企業同士がモデル案を作り上げる為の1つのテクニックと言える。

 奇想天外な組み合わせを考える作業は、驚きと気付きに満ちている。同時に、無条件に楽しい。各グループの議論は、初対面の参加者が集ったとは思えないほどの盛り上がりだ。組み合わせるモデルの業種が違えば違うほど、魅力的な案が出てくる。各グループが考えたビジネスモデルの中から、2つほど紹介しよう。

 まずは、花王、JVCケンウッド、富士通の混成チームが考えたアイデア(図5)。迷子の犬、猫、自発的に、ある時は地域の人たちの協力を得ながら自宅へと導くシステムを創り出した。遠隔で「猫脱走中」といった表示させて周囲の人に支援を求めたり、猫じゃらしを投影して導いたり、匂いで自発的な動きを促したりと、あの手この手で誘導する。デジタルと香りという異質な技術を組み合わせたサービスを作ることで、簡単に競合が入りにくい事業を目指す。

図5 徘徊者や迷子のペットを自宅に導くビジネスを考案

 次は、メタウォーター、リコー、安川電機の混成チームが考えたアイデア。安心安全でおいしい水を使った野菜、フルーツを、ドバイの5つ星高層ホテルに置いた野菜工場で作ろうというビジネスを創り出した。水や野菜が不足しがちな砂漠の近くの都市に水や野菜農園を作ることで、その価値を高める。高級ホテルにはロットで買ってもらって、安定的な収益も得るビジネスモデルだ。
 ここで、第1日目のワークショップは終了した。

顧客の顔を想像しながらモデルを磨く

 約4週間後に実施された第2日目のワークショップは、グループワークで始まった。ここではでは、新しいビジネスの価値を伝えたい顧客、ビジネスモデル・キャンバス上では「顧客セグメント(CS)」の欄に記入する内容を具体化。そのうえで、今のビジネスモデルをどのようにブラッシュアップしていったらよいのか考えていく。第1日目に引き続き講師を務めた曽根原氏は、ワークに入る前にビジネスモデルを磨くための幾つかのポイントを挙げて、顧客が抱える課題や事業を取り巻く環境に思いを巡らせながら考え進めるように導いた(図6)。

図6 ビジネスモデルを磨くためのポイントを紹介

 最初のポイントは、なるべく具体的な顧客像(ペルソナ)を作り上げることだ。「◯◯業界のエンジニア」といった設定ではまだ漠然としすぎているのだという。「☓☓☓を製造する会社の、□□□に困っている△△部の部長と若い担当者」といった、とにかく具体的な設定をすることが重要になる。また次のポイントとして、今後事業状況が最も変化しそうな顧客、業界を対象にするとよいというアドバイスもした。変化している業界、分野では対応すべき新たな課題が生まれ、そこに新しいビジネスモデルが入り込む余地ができるからだ。

 更に幾つかのポイントにもとづいて「顧客の状態・状況」を仮定・仮決めしながらペルソナを設定すれば、顧客が抱える困りごとを想像しやすくなると同時に、メンバー間での理解も深まってゆく。そして、顧客の生活や事業を取り巻く背景、事業環境の変化を、徹底的に話し合うことができる。こうした議論を進めビジネスチャンスを明確にしながら、そこに訴求するビジネスを一直線に目指すようにモデルを磨いていけばよい。

視点の切り替えで価値を高める

 ペルソナが明確になったところで、次のグループワーク、ビジネスモデルをブラッシュアップする作業に移った(図7)。特にビジネスモデル・キャンバス上の「価値提案(VP)」の部分を、よりシャープで、想定したペルソナに響くものへと磨くことが重要になる。

図7 ビジネスモデルをブラッシュアップするグループワーク

 まず、ここで曽根原氏は、ビジネスの価値を高めるための「視点の切り替えテクニックリスト」を示した。すなわち、「製品やサービスを構成する要素を取り替えたら」「他のパターンに変えたら」「原因と結果を入れ替えたら」などである。

 こうしたアイデアを出すうえでの視点の転換は、アイデア創出をするときに誰もが無意識に行っていることだろう。こうして、体系的にまとめて、チェックリストのようにして検討を進めると、思ってもみなかった可能性が見えてくる。

21世紀型ビジネスモデルを知り取り入れる

 曽根原氏は、ビジネスモデルを磨くうえでの参考として、21世紀に入って新たに生み出されたビジネスモデルの特徴について言及した。例えば、スマートフォンやインターネットなどICT技術の普及によって、商品やサービスを、これまでにないほど迅速に提供できるようになった。同時に、利用者も手軽に、時や場所を問わず活用できるようになった。こうした変化が、オンラインの音楽配信をはじめ実際に多くの新しいビジネスモデルを生み出している。

 この他にも、最初は廉価または無料の製品やサービスなのだが、あるレベルを境にして、そこを上位版として提供したり、有料化したりするモデルも、消費者が商品を試しやすいモデルとして多用されている。さらに、商品を消費者が入手した時だけではなく、購入後に使い続けていく中で新たな価値が出てくるサービス、消費者は無料で利用できるが、広告など消費者以外から収益を得るサービスも増えているなどと語った。

 最後に各グループが考えたビジネスモデルの名称を発表して2日目のワークショップは終った(図8)。終了後、参加者は様々な感想を述べていた。「ビジネスモデルを作り上げるプロセスを実際に体験できてよかった」「初めて会った人たちと、短時間で、これほど多様な意見を出し合えるとは驚いた。“共創”の威力を改めて感じた」「参加者の本業とは全然違うモデルが出来上がったのが、とても面白かった」などである。おしなべて貴重な体験ができたようだ。

図8 ビジネスモデルの名称を発表
【第1回講演】「IoT/ビッグデータを活用したパナソニック様との共創プロジェクト」
本当に消費者が求めている家電製品を追求
元榮維久磨氏
富士通
イノベーションビジネス本部
コンバージェンスサービス統括部 コンバージェンス特定プロジェクト部 アシスタントマネージャー

 パナソニックと富士通は、生活者の生の様子を把握し、本当に消費者が求めているサービスを実現するための共創プロジェクトに取り組んだ。許諾を得たモニター世帯からIoT対応家電・スマートフォンを活用して、生活者の調理のタイミング、食卓の内容を把握できるIoT対応家電の仕組みを実現した。

 本プロジェクトでは、家電とITを活用した新しいサービスという視点に基づき、まず1000件を超える新しい製品やサービスのアイデアを抽出。その後、製品化までのフレームワークを作り、次世代製品の具体的な製品企画を練っていった。アイデアの抽出とブラッシュアップの過程で、パナソニックと富士通がアイデアを共有し、観点漏れを埋めながら議論するためにビジネスモデル・キャンバスを活用した。実際の利用実態を把握することで、小売業で活用されているPOSでは分からない、購入した食品をいつ誰が作って誰が食べたか、どのように食卓に上げたかが把握でき、食品メーカ様や食品卸様は、実際の食べられ方の視点で商品開発や小売りへの拡販提案ができる。

【第2回講演】「UXデザインプロセスによる上下水道事業向けインフラ管理コンテンツのプロモーション活動」
インフラ運営の効率化に貢献するサービスを共創で実現
小林朋秀氏
メタウォーター
サービスソリューション事業本部
サービス企画室

 日本ガイシと富士電機が創設したメタウォーターは、上下水道の運営を円滑に進めるためのクラウドサービス、「ウォータービジネスクラウド(WBC)」を提供している。WBCでは、クラウド上で事業運営に役立つサービスをコンテンツとして提供し、複数の事業運営者で情報をシェアして上下水道の効率的かつ効果的な運営を支援する。上下水道の運営では、多様化する市民の要求、職員の減少という二律背反する事態に対応しなくてはならなくなっている。こうした困難に対応できる熟練者だけが持つ技能を、クラウドセンターに収集整理、これを継承していくサービスのビジネスモデルを開発し、そのコンセプトを伝えるプロモーションビデオを制作した。

 メタウォーターと富士通は、ビジネスモデルの創出からサービスとデバイスの開発、プロモーションまで、一貫して「共創」している。コンセプト・ビデオは、その最終段階として制作した。サービスの対象は、必ずしもITに詳しくない人も含まれるが、開発初期から一貫して“共創”してきたため、意図が伝わるビデオを1カ月という短期間で制作し、マーケティング・提案活動に投入できた。