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「第2回 共創コミュニティ「INNOVATION FARM」座談会 コクヨ×富士通」レビュー:表現法の学習・体験編

目標は共感を呼ぶ新規ビジネスの創出、価値と魅力を表現するストーリーを構築

全3日の構成で開催された「第2回 共創コミュニティ『innovation farm』座談会 コクヨ×富士通」。その3日目は、「ビジネスモデルをストーリーで伝える」と題して、前回までに創り上げてきた新規事業の価値と魅力を、外部の人に伝えるための表現法を学んだ。そのワークショップの様子をレポートする。

 「新規事業の提案で一番重要なことは、ストーリーを明確にすること」。今回のワークショップの講師を務めたクリエイブル 代表の瀬川秀樹氏はワークショップの冒頭で断言した。数々の新規ビジネスの創出に携わってきた同氏は、簡潔で、分かりやすく、魅力があるストーリーで、聞く相手の心を掴まなければ、顧客もパートナーも得られないという。今回のワークショップでは、前回までビジネスモデル・キャンバスを使って作り上げた新規ビジネスのモデルをストーリー化し、「4コママンガ」と「エレベーターピッチ」という、2つの表現法で伝える方法を学び、実践した。(図1)

図1 新規ビジネスを伝える技術を学ぶワークショップ
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「4コマ」の表現でモデルを洗練

 瀬川氏は、表では新規事業の創出を支援するコンサルタント、裏では4コママンガの漫画家という2つの顔を持っている(図2)。そして、新規事業の価値や魅力を表現するプロセスは、4コママンガを描くプロセスと極めて似ているという。4コママンガは、ストーリーを端的に伝えるための熟成したフォーマットが確立されている表現法である。4コマそれぞれに与えられた「起・承・転・結」という役割をキッチリと押さえたストーリーを考えることで、提案力が増すだけではなく、ビジネスモデル自体の洗練度向上も期待できるという。

図2 講師を務めたクリエイブル代表の瀬川秀樹氏
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 そもそも、新規事業のビジネスモデルを「起・承・転・結」の4コマでストーリー化するというのは、どのような作業を行うことなのか。瀬川氏は、Apple社の「iPod」と「iTunes」のビジネスモデルを例にとりながら、4コマそれぞれの役割を解説し、何を表現するのか示した。

 「起」は、表現したいストーリーの状況説明をするコマである。ビジネスモデルに照らし合わせると、市場や技術の動向、社会変化などがそれに当たる。

 「承」は、「起」を受けて視野を広げたり、ストーリーの方向性を決めたりする役割を持ったコマである。ビジネスモデルでは、市場や技術の動きを受けてのユーザーの評価や競合他社の動きに当たる。

 「転」は、それまでの展開をガラリと変える視点を提示するコマである。この「転」こそがストーリーで説明したいビジネスモデルの核心である。差異化のポイントや新しいアプローチを端的に表現すべきコマだ。

 「結」は、ストーリーのオチを提示して、「なるほど」と思わせるためのコマである。いわば、説得力を高めるひと押しをする部分だ。ビジネスモデルのストーリーでは、どのような成功を結果的に得るのか、端的に示すことになる。

まずは「転」をどう表現するか

 4コママンガでビジネスモデルをストーリー化するとき、「最初に考えるべきことは『転』を明確にすることです」と瀬川氏はいう。「起」や「承」は後から整理すればよく、「結」は成功をどのように表現するかを考えればよいとする(図3)。

図3 4コマ漫画でビジネスモデルをストーリー化
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 ビジネスモデル・キャンバスの作成は、モデルを構成する9つの要素のうち、「顧客セグメント(CS)」と「価値提案(VP)」を真っ先に明確にして、誰に何を売るのかを定めることから始めた。ここがビジネスモデルの核心であるからだ。ビジネスモデルを創出する時も、出来上がったモデルの価値を他の人に伝えるストーリーを考える時も、核心は変わらない。すなわち、4コママンガでの「転」のコマは、ビジネスモデル・キャンバスでの「価値提案(VP)」になる。

 ビジネスモデルの価値を人に伝える手段が数多くある。では、4コママンガ固有の長所とは何なのか。瀬川氏は2つの長所を挙げた。

 1つは、4コママンガを作るために、アイデアメモを作ったり、4コマ案を実際に描いたりすることで、新しいアイデアを思いつきやすくなることだ。頭を抱えてじっくり考えるのではなく、とにかく手を動かすことが重要だとする。コマの中に何をどのように表現していくのか。また、文字などで書き添えることがあるとすると、何を付け加えたらよいのか。表現法を選んだりしている過程で、自然とビジネスを構成する要素の重み付けがが見えてくる。

 もう1つは、「アナロジー」や「メタファー」を使って、伝える相手の共感を得やすい表現ができることだ。「アナロジー」とは例示、例え、比喩のことである。相手にとって身近で、分かりやすい、説明したいことに似た例を提示して、ピンと感じやすくする表現法である。「メタファー」とは隠喩、暗喩のことであり、全く異なるモノを比較したり関連付けたりすることで、両者に共通する本質的な部分を感じやすくする表現法だ。4コママンガでは、言葉ではなく、これを絵で示せるため、より直感的に価値を感じやすくできる。

絵が下手だからこそ表現が尖鋭的に

 ひと通り、4コママンガでビジネスモデルをストーリー化する方法を学んだうえで、いよいよグループワークを開始した。課題は、前回までに検討してきたビジネスモデルを4コママンガで表現することだ(図4)。

図4 実際にビジネスモデルを表現する4コママンガを書く
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 各グループが検討したモデルの「価値提案(VP)」を「転」に使い、ここをいかに魅力的に見せるかを考える。

 ビジネスモデルの価値や魅力を人に伝えようとすると、ビジネスモデルを検討していた時には見えなかったものが見えてくるようだ。核心部分である「価値提案(VP)」を、伝える相手の目線を感じながら表現すると、相手にとって本当に大切で価値あるものを中心に描くようになる。しかも、4コママンガを描く担当者は、いくつかある「価値提案(VP)」のうちの1つに絞って、ストーリーを作った。このため、より具体的なモデルへとブラッシュアップされていったようだ。

 また、下手なりに絞り出すようにして描いた絵は、自然と無駄が削ぎ落とされ、伝えたい部分がストレートに表現される傾向があるようだ。4コママンガを使ったビジネスモデルの表現は、絵が上手だったり、ストーリーの構築が得意な人には、強力な表現手法になることは間違いない。しかし、絵が下手だったり、ストーリーの構築が不得意な人にとっても、モデルを効果的にブラッシュアップする手法として予想外の効果を発揮するようだ。

 4コママンガが完成したところで各グループが発表(図5)。それを受けて瀬川氏は、次ぎのようにコメントした。「グループワークでは、ビジネスモデルが成功することを前提にストーリーを4コママンガで表現しました。しかし、失敗することを前提にして描くと、また違ったことが見えてきます」。失敗するケースを笑い話として4コママンガにすることで、無意識に感じている事業の危うさ、欠かせないと感じている要因(Key Factor for Success:KFS)、大きな社内変化などに、思いを馳せる力がついてくるのだという。

図5 グループごとに完成した4コママンガを発表
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「エレベーターピッチ」を体験

 次に、ビジネスモデルの価値や魅力を人に伝える手段の一つとして、エレベーターピッチに挑戦した(図6)。エレベーターピッチとは、エレベーターでたまたま一緒になった経営者やベンチャーキャピタルの担当者に、事業案を端的に説明することを目的とした表現法だ。与えられる時間が極めて短いため、ビジネスモデル・キャンバスに書いている要素を詳しく、網羅的に伝えることなどできない。話す相手に、「面白そうだな。時間を作るから、後日詳しく話しを聞かせてくれ」と言わせたら成功である。

図6 参加者がエレベーターピッチに挑戦
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 瀬川氏は、エレベーターピッチの押さえどころとして、以下の点に着目してストーリーを作るようにアドバイスをした。4コママンガの「転」。ビジネスモデル・キャンバスの「価値提案(VP)」を基にした新事業の魅力。経営陣に刺さるツボである会社へのインパクト。対象となる市場のポテンシャル、活用できる社内のリソース(技術、販路など)。競合他社の動向や人材育成など副次効果である。

 各班で新規事業のモデルの魅力を端的に伝えるストーリーを検討した後、瀬川氏を社長役にして発表会を行った。通常のエレベーターピッチでは、30秒が持ち時間になるが、今回は1分間での説明を試みた。実際に経験してみると、「人に興味を持ってもらうことの、何と難しいことか」と参加者は一様に感じたようだ。ストーリーを作り込めば作り込むほど、社長の想定外の反応に対処できなくなる。分かりやすい背景説明を最初に入れて時間を割いてしまい、核心の「転」、「価値提案(VP)」まで行き着かない。

 挑戦したメンバーは、実践を終え席に戻ると、一様に嘆息をもらしていた。まだまだ、繰り返しの訓練と、エレベーターピッチに向けたストーリーの洗練が求められるようだ。ただし、こうした訓練と洗練が、ビジネスモデルをさらに磨くうえで、また協力者を集めるうえでとても重要になることは、強烈に実感できたことも確かだ。

 3日間にわたる今回のワークショップの内容は、分かりやすいビジネスモデル分析手法であるビジネスモデル・キャンバスを利用した新しいビジネスの創出だけでなく、新たなビジネスモデルを人に伝える手法にまで及んだ。これまで「共創」を軸に富士通が実施してきた数多くのワークショップに比べて一段と踏み込んだ内容になっている。「共創」を巡る同社の取り組みが着実に進んでいることをうかがわせたワークショップだった。

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