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研究所ハッカソン「富士通×サッポロ」(前編)

テーマは『乾杯★をもっとHack!!』 食文化の発展に貢献する新ビジネス創出に挑戦 ~富士通研究所とサッポログループがハッカソンを共同開催~

富士通グループとサッポログループは、食文化や食生活の発展につながる新ビジネス創出をテーマにしたハッカソンを開催した。2日間に分けて実施されたプログラムの初日、2016年2月12日には、大量のアイデアを生み出し、短時間でブラッシュアップと選別を繰り返すことで、アイデア実現に向けたチームをつくるワークショップが行われた。

 本ハッカソンは、「研究所ハッカソン」と呼ばれる社内イベントとして富士通研究所有志が定期的に開催しているものだ。従来、参加していたのは富士通グループのメンバーだけだったが、今回の挑戦は「お客様と共に」。社外からサッポログループのメンバーを迎え、初めて共同開催した。参加したのは富士通グループから57人、サッポログループから16人である(図1)。

図1 富士通グループとサッポログループのメンバーが参加したハッカソン

 2日間にわたるハッカソンプログラムの、最初の山場は「1分ピッチ」だ。ハッカソンのテーマと最新技術のインプットをもとに、参加者がそれぞれ自分のアイデアをまとめ、1分で発表する。この場で発表されたアイデアに対して全員が投票を行い、そこで選ばれたアイデアだけが、具現化の対象になる。1分という時間の制約の中で説得力のある発表が要求されるため、アイデアのユニークさだけでなく、どれだけ人を巻き込める発表を行うかという点にも、参加者の工夫が求められる。

テーマと技術を深く知ることで、アイデアを着想する

 1分ピッチに向けて、この日のプログラムが始まった。まず、サッポログループ参加者の一人、サッポロ不動産開発 事業開発本部担当役員の佐藤弘人氏が、ハッカソンに臨むにあたってのテーマを定義した。佐藤氏は日ごろ、「新しい何かを生み出していくには、もっと外とつながっていく必要がある」と感じていた。今回のハッカソンでグループ内にはない視点に触れることを楽しみにしていたという佐藤氏が提示したのは、「飲食店」「健康」「ビジネス」「不動産」「理念」「イベント」「売り場」「個客接点」の8つのテーマである。

  サッポログループでは、「お客様の生活を、より楽しく豊かに」をキーコンセプトに、不動産は、「グループが運営する恵比寿ガーデンプレイスでさらなるわくわくを提供する」、ビール等の売り場では、「試食コーナーなどで、買い物のお客様ともっとつながる。」、個客接点という点では、「自動販売機とお客様の新しい関係性を創り出す。」などの課題を持つ。佐藤氏はこれらテーマに対するアイデアを参加者に求めた。続いて、富士通グループからは自社提供できるICT関連技術が紹介された(別掲のコラム『アイデアの具現化に有効な技術を紹介』参照)。

プレゼン資料を短時間で作成し、ブラッシュアップする

 この後、参加者は1分ピッチに向けたプレゼン資料作成に取りかかった(図2)。A3判の紙にマジックペンでアイデアを表現する作業には、「3分」という時間制限が課せられている。ここでは、事前に考えたアイデアと提示されたテーマを融合して表現することが求められる。

図2 3分以内でプレゼン資料を作成

 作成した資料を用いて、1分ピッチの予行練習とブラッシュアップが行われた。2人ペアになり、一人が作った資料を1分間でもう一人に説明し、感想や疑問などをぶつけてもらうもの。説明する側は1分というピッチ時間の短さを体感するとともに、相手の考え方もプレゼン内容に反映できるようになる。

 その後の資料修正時間には、アイデアのビジョンと、コンセプトをシンプルかつ明確に表す絵を、それぞれ資料に盛り込むことが推奨された。アイデアが具体的なものでなければ難しい作業だが、ペアでの予行練習でその部分はクリアになったようで、参加者の筆は順調に進んだ。最初の段階ではペン一色、文字だけで書いたアイデアを、何種類ものペンを使ってカラフルな図に発展させていた参加者も少なくなかった。

「1分」の緊張感の中で発表

 アイデアのプレゼン資料が完成した後は、いよいよ前半戦のメインイベント「1分ピッチ」の時間だ(図3)。作ったA3判の資料をスクリーンで映し出しながら、参加者がそのアイデアを説明する。アイデアの説明は希望者のみが前提だが、予行練習で発表内容に自信を持ったのか、ほぼ全員が発表に挑んでいた。

図3 1分以内でアイデアを紹介

 1分ピッチでは1分という制限時間は厳守。プレゼン途中でもオーバーすれば打ち切られるが、予行練習の効果からか実際にオーバーする参加者は少なかった。いずれのアイデアも1分という緊張感の中で説明されるため、発表者側の話からはムダな情報が省かれ、聞く側はポイントを絞って理解することができる。中には、「先日飲み過ぎで失態をやらかしまして」など自身の体験を交えてドラマチックに語る発表者や、1分で複数のアイデアを説明する発表者もいた。

 こうして1分ピッチで発表されたアイデアは全部で73個。この中から具現化するアイデアを選出するため、参加者全員による投票が行われた。壁一面に貼られた73個のアイデアに参加者がシールで投票。それにより「最寄りの自販機を教えてくれるアプリ」「独創的な手法で追加注文できるジョッキ」「恵比寿をダンスと音楽の街にするサービス」など、12個のアイデアが選ばれた。それとは別に、選ばれなかった中から自己推薦アイデア5個を「情熱枠」として加えた17個のアイデアが、次のステップに進むことになった。

アイデア実現に必要なメンバーを集める

 本ハッカソンの大きな特長は、アイデアを机上のものに終わらせず、実際のプロトタイプ作りまで行う点だ。会場では17個のアイデアを実現するためのメンバー集めが始まった(図4)。

図4 アイデアを実現するためのメンバーを集める

 アイデア起案者にはそれぞれブースが与えられ、そこでアイデアを説明する。その他の参加者は興味のあるブースを複数まわり、起案者とディスカッションすること で、各自が参加するブースを決める。起案者はこの時間に、富士通グループのICTエンジニア、デザイナー、サッポログループの事業企画者など、多様な参加者の中か ら、アイデアの実現に必要な人材を集めなくてはならない。

 メンバーが集まらないブースは、別のチームに合流する光景も見られ、最終的には14個のアイデアに集約されると同時に、各チームのメンバーが固まった。

核となるアイデアを固め、その実現を具体的に考える

 ここで、アイデアに対するチーム内の認識のすりあわせが行われた。

 早速、チーム毎に、概要設計と詳細設計が始まった。アイデアの対象ユーザーや使用イメージなどから、必要な仕様を固めていく。特に使用イメージからはアイデアの具体化が進み、人の行動に応じて情報を提示するアイデアを検討しているチームでは、「一通り見終わった後でレストランに案内されると嬉しいですよね。だとしたら、この地点で通知した方が良くないですか?」など、ユーザーの気持ちに沿った仕様作りが進んだ。

 会場には富士通グループが用意した、「Arduino」や「Raspberry Pi」といった制御用の小型コンピュータの他、サッポログループが用意した自販機やビアサーバー等、様々な物が準備されており、自販機に関連したアイデアのチームは実物を見ながら仕様を具体化していた。

 自販機の飲み物を投票でランク付けする「自販機★総選挙」のチームは、処理フロー図の作成に着手。3次元映像を駆使したサービスアイデアのチームは、実際の投影の仕方や投影する情報などの検討に入った。

  チームの中には、機能が詳細化する過程でメンバーに不足な技能が明らかになり、「マイコンから情報を収集して表示するプログラム作れる人いませんか?」など、人材のリクルーティングを行うチームもあった。

 こうして、プロトタイプ開発に必要な情報を整理し、役割分担を決めた頃、ハッカソンの前半戦は終了した。後半戦の2日目が行われるのは3週間後。その間の自由活動期間に、各チームはオンラインなどでコミュニケーションを取りながらアイデアを形にし、後半戦の発表会を目指すことになる。(別掲のコラム『実用化の手応えを現場で確認、「恵比寿ガーデンプレイス」で実証実験』参照

実用化の手応えを現場で確認
「恵比寿ガーデンプレイス」で実証実験
図B 恵比寿ガーデンプレイスで実証実験を実施

 今回のハッカソンで与えられたテーマの一つ「不動産」では、サッポロ不動産開発が運営する不動産に関連するビジネス創出や課題解決が求められた。このテーマに取り組んだチーム「“Hack”enガーデンプレイス」が、1日目のプログラム終了後の自由活動期間中に、サッポログループが運営する商業施設である恵比寿ガーデンプレイスでの実証実験を実施した。

 同チームが考案したアイデアは、同施設および、恵比寿駅から同施設をつなぐ歩道「恵比寿スカイウォーク」にいる人々のスマートフォンに小型ビーコンを介して、イベントなどの様々な情報を送信するというもの。ビーコンに近づくとスマートフォンに情報を送信する従来のプッシュ型サービスだけでなく、指定した時間になると情報を送信する仕組みも備えている。「より柔軟な情報発信を可能にするシステムです」(チーム・メンバーの富士通ユビキタスシステム研究所 ユビキタスインテグレーションプロジェクトの板崎輝氏)。

 実証実験では、恵比寿スカイウォークと恵比寿ガーテンプレイスの中央広場の十数カ所に、切手サイズ大の小型ビーコンを仮設置。試作アプリを実装したスマートフォンを持った人が、歩きながら実際に情報を取得できることを確認した。この実験には、チーム・メンバーのほか、サッポロ不動産開発の社員、十数名が参加し、利用者視点でこのサービスを実際に体験した。

  今回の実験に参加したサッポロ不動産開発恵比寿事業本部企画部長の松下靖弘氏は以下のように語った。「施設を訪れるできるだけ多くのお客様に、イベントなどの情報を伝えたいと思っています。しかし、むやみにポスターや看板を置くと景観を損ねてしまいます。スマートフォンを使った情報提供は、こうした問題を解決する手段として関心があります。」

 一方、実証実験を実施したメンバーは、サービスを体験した参加者の反応を見て、チームで考案したアイデアを実際にビジネス展開できるという手応えが得られたという。

 「“Hack”enガーデンプレイス」のメンバーは、今回の実証実験の成果を携えてハッカソン2日目のプログラムに臨む。「利用者の声を聴くことで、課題や改良点が見つかりました。これを活かし、アイデアをブラッシュアップすることで優勝を目指します。」(板崎氏)

アイデアの具現化に有効な技術を紹介

 研究所ハッカソンでは、アイデア出しだけでなくプロトタイプの開発が求められる。このための材料として、富士通グループ内外の先進技術が提供された。具体的には、指による直感的な操作を可能にする「FingerLink」、見えない形で照明に情報を埋め込む「FlowSign Light」、視線を検出する技術、「FUJITSU Cloud Service IoT Platform」、薄型のセンサーロガー「ちょいロガ」、時間や場所に応じて必要なサービスを自動的に利用可能にする「プレイスサービス基盤」、「フィジカルコンピューティング環境」などが提供された。

 FingerLinkは、テーブルやモノなどにプロジェクターで情報を表示し、カメラで人間の手の形状と指の位置を認識することで、テーブルやモノをタッチパネルのように扱える技術。特殊なテーブルやガジェットは不要で、直感的な操作が行えるのが特徴だ。

図A 指による操作を可能にする「FingerLink」

 FlowSign Lightは、LEDの光の中に情報を盛り込むことで、あたかも被写体に直接情報が付与されているかのように感じさせることができる技術。例えば美術館において、スマホのカメラで美術品を撮ることで、その美術品の由来などをスマホに表示させるなどの使い方が可能になる。視線検出技術は、人間がどの部分をどれぐらい見ているかを、人間に意識させることなく検出するもので、ユーザーの関心などを自然に読み取ることができる。IoTデータ活用基盤サービス「FUJITSU Cloud Service IoT Platform」は、人やモノからの大量のセンサーデータをリアルタイムかつ効率的に扱うための各種機能を提供するクラウドサービスだ。これを利用することで、短期間にコストを抑えて、IoTを活用したビジネスを開発可能だ。

 ちょいロガは薄型軽量のセンサーロガーで、位置情報の見える化などに効果を発揮する。フィジカルコンピューティング環境は、ネットワークを介してセンサ情報を伝達、分析するプラットフォームとして活用が可能だ。

 会場にはこれらの他に3Dプリンタやドローン、研究所独自の音声合成ツールなども用意され、ハッカソン参加者のアイデア具現化をツールの面から支援した。