• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

新事業創出を目指す異業種連携ハッカソンのレビュー

「食文化や食生活の発展につながる新ビジネス創出」をテーマに、サッポログループと富士通グループが共同で開催したハッカソン。約3週間にわたる自由活動期間を経た2日目は、最終審査が開催された。各チームは、アイデアを具現化させたプロトタイプを完成させたうえで、参加メンバーおよびゲスト審査員の前で、これまでに磨きをかけたアイデアとデモを披露。その評価を競い合った。

図1 ハッカソン会場2日目の様子
[画像のクリックで拡大表示]
図2 電波暗室内での作業
[画像のクリックで拡大表示]
図3 プロトタイプの動作試験
[画像のクリックで拡大表示]

 ワークショップの2日目は、最終審査を兼ねたプログラム最後のプレゼンテーションに向けて、14チームそれぞれが初日に設計したアイデアのプロトタイプを完成させると同時に、アイデアを紹介するプレゼンテーションの作成に取り組んだ(図1)。

 いずれのチームも自由活動期間に準備を進めており、すでに仕上げの段階を迎えているチームも多かった。例えば、プロジェクションマッピングを使ったイベントを企画したチームは、前日までに作成した恵比寿ガーデンプレイスの模型を持参。「模型に映像を写して撮影したいので、どこか暗い場所ないですかね?」と関係者にあたりながら探した結果、本来は通信機器などの測定に使う電波暗室内を提供され、そこで作業を進めた(図2)。

 ビールジョッキを使うチームは、「治具から設計して加工をお願いしていたものが、昨日やっと出来上がったんですよ」と言いながら部品を見せてくれた。その後は早速システムに組み込んで、自分たちのアイデアの実現状況を確認していた。

 一方で、自販機の画面上でお客さんとのコミュニケーションを図るアイデアに取組んだチームは、当日購入したメタルラックとボール紙で疑似的な自販機の筐体を作成し、そこにディスプレイとPCを組み込んだ装置を1日で作成していた(図3)。  

 通常のハッカソンでは、フリーのソフトウェアや100円ショップで購入した物でモックを作成し、実現性を問うところだが、富士通は工場を持つ巨大な企業である。例えば、「先進加工センター」という社内のハードウェア試作を一手に担っている組織がある。この組織はテックショップジャパンの母体にもなっており、人材や設備の支援を行っている。彼らの設計能力や工場設備をちょっとだけ借りることで、段違いに高いクオリティのプロトタイピングができる。富士通のハッカソンは大企業を小回りに動かす実験という側面も持っている(図4)。

図4 デザインから設計、加工までを進める様子

プレゼンテーションの仕方を議論

 前編で紹介した「”Hack”enガーデンプレイス」チームも、前日までに現場での撮影や実証は済ませている。このため、この日はそこで得られた知見をまとめ、資料を作成するのに注力する予定だった。プレゼンテーションの時間は4分と決められているため、朝イチの打ち合わせではその割振りを議論していた。「冒頭の体験談は30秒で話せますか?」「コンセプトムービーは2分半ありますが、30秒短縮できませんか?」と秒刻みで発表時間を調整している。だが、他のチームの状況を見てきたメンバーの一人が、「このまま資料だけ説明しても勝てない。何かデモやりませんか?」と唐突に提案した。常識的に考えると、デモに割く時間は残っていないが、メンバーは誰もその案に反対しない。「今あるのと同じ機能を使って全く違うデモを見せられないかな」「最後の1分間でデモしましょう」「私が内容を考えてみます」と、すぐに役割分担を決め、ゼロからデモの作成に取り掛かった。

 最終的に、タブレット8台を利用する大掛かりなデモの構成が決まったのがお昼前。残り5時間程度でデモを完成させるため、昼食もそこそこに慌ただしく開発がおこなわれていた。

 最終審査では、その内容を参加者同士が評価し合い、その結果に応じて表彰することになっている。このため、どのチームもプレゼン内容のブラッシュアップには妥協がない様子だった。ステージでの寸劇を予定しているチームは、「この部分の動作が小さすぎて、観客席から見ると何が起きているかよく分からないですよね。なんか効果的な見せ方はないですかね?」など、単にプロトタイプを紹介するだけでなく、利用技術をいかに効果的に見せるかというところまでこだわって、議論を進めていた。

 プレゼンテーションまで残り1時間を切った頃から、各チームは最終調整に入っていた。「”Hack”enガーデンプレイス」のデモも構成を一部変更し、動くことを最優先して安全サイドに倒した仕様でギリギリまで動作確認を行っていた。そして、タイムアップ。進行役を務める司会者から「5、4、3、2、1、終了!お疲れ様でした!」との声がかけられると、会場は拍手に包まれた。

動くプロトタイプを使ってアピール

 会場をホールに移して、いよいよ今回のハッカソンの最終プログラム、全14チームによるプレゼンテーションが始まった(図5)。サッポログループと富士通グループそれぞれの役員など参加者以外のギャラリーも集まった会場では、各チームが趣向を凝らしたプレゼンテーションを披露した。いずれも実際に動くプロトタイプを用意しており、その実現に様々なICTが寄与している。

図5 自販機を模したデモ のプレゼンテーション
[画像のクリックで拡大表示]

 開発時間を最大限確保するため、ハッカソンの発表時間は極めて短い。僅か4分という時間ではデモの不具合や接続ミスすらも致命的な失敗となってしまう。実際、ほとんどのチームが何らかのトラブルをかかえ、発表に苦戦していた。

 「恵比寿を音楽の街に」というイベントを考えたチームの発表では、デモシステムから音が出ないというトラブルが発生。音源をPCに切り替えて対応する様子が見られたが、発表者がアドリブでカバー。その他のデモは概ね動作し、最後は予定通りの発表を終える事が出来た。

 「泥酔防止バンド」というチームは、自らの武勇伝を披露しつつ、二日酔いしないレベルで飲酒をやめられるように、酔いの度合いを計測するシステムを企画。富士通の生体センサー(バイタルセンシングバンド)で取得した情報をIoTデータ活用基盤サービスに送信し、ミニゲームの結果を解析することで、酩酊度を測定する仕組みを作り上げた。このチームは「本当に飲んでるんじゃないの?」と疑われるほど寸劇の完成度が高く、会場を沸かせていた。

 卓上のビアサーバでビールを量り売りするサービスを企画したチームでは、ICカードでユーザー認証するシステムを作るとともに、流量計をコンピュータで管理して販売量を制御するシステムを開発し、実際に液体を流して流量を測定し、PCで表示するデモを行った。

「すぐに使いたい」という講評も

 14チームのプレゼンテーションの後は、いよいよ結果発表だ。

図6 参加者の投票で1位になった「自販機総選挙」チーム
[画像のクリックで拡大表示]

 投票により、優勝を勝ち取ったのは「自販機★総選挙」チーム(図6)。自販機のショーケースに並んだ商品が人気度を競うもので、アイドルグループの総選挙をモデルにしたサービスだ。購入するとその商品のランキングが上がる様子が分かるようになっている。社内外の技術を駆使した高い技術力と、ビジネスを感じさせるアイデアが抜きんでていた。賞品のプレゼンターを務めた富士通株式会社共通ソフトウェア技術本部長の長倉浩士氏は、「自販機に人格を持たせるというところに、新しい世界を感じることができた」と評価した。

 2位は「”Hack”enガーデンプレイス」チームが受賞(図7)。恵比寿ガーデンプレイスを訪れた消費者のスマートフォンに、場所や時間に応じて適切な情報を提供することで、新たなガーデンプレイスの魅力に気づいてもらうシステムを開発し、現場での実証まで行ったことが評価されたようだ。プレゼンでは、当日作成したデモも無事に動作していた。3位には、宴会の幹事を支援する「幹事アシストAIちゃん」チームが選ばれた。また、発表会に参加した役員からの特別賞も発表され、「完成度が高く、すぐにでも使いたい」と講評されるなど、大いに盛り上がった発表会であった。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
図7 2位の「"Hack"en ガーデンプレイス」チームと3位の「幹事アシストAIちゃん」チーム

 IT業界の富士通グループと食品業界のサッポログループが共同開催した今回のハッカソン。それぞれの知見を生かした革新的なアイデアが数多く登場した。しかも、実際の市場に展開できそうなアイデアも少なくなかったことから、異業種企業による「共創」の可能性を強く感じさせるイベントだった。

[画像のクリックで拡大表示]
ハッカソン主催者からの寄稿

 「大企業ではイノベーションは起きない」とよく言われます。これは本当なのでしょうか?大企業には先端技術と潤沢な設備があり、優秀な人も揃っているのですから、新興企業よりもイノベーションを起こしやすいと私は思います。ですが、様々な部門の方と会話する中で、多数の方が「自分たちの部署だけで新しいことをするのは難しい」と感じていることが分かってきました。そこで、部署の枠を超えて一緒に新しいことに挑戦するため、「研究所ハッカソン」を始めました。 すべての社員が、業務の枠に収まらない課題や能力を秘めています。アイデアから実装、人脈から収益モデルの構築まで、その内容は多彩です。それらをうまくまとめれば、社会の未来を創る、新しい事業も生まれるのではないでしょうか。

 今回の挑戦は、サッポロ様との共催でした。富士通は社会基盤であるICTシステムを開発する会社です。一方、サッポロ様は一人一人のお客さまに日常から価値を提供している会社です。この両社が共創することで、社会で暮らす多くの人々に潤いと豊かさを提供できるのではないかと感じています。 このハッカソンをイベントとして消費するのではなく、明日を創る礎にしたい。そんな思いで、今もサッポロ様と共に挑戦し続けています。

ハッカソン技術提供者からの寄稿

 私は「FUJITSU Cloud Service IoT Platform」の技術提供者兼チームリーダーとして参加しました(別掲のコラム『アイデアの具現化に有効な技術を紹介』参照)。ハッカソンに社外秘技術を提供するためには、いくつもの社内手続きが必要ですし、提供しても、アイデアに盛り込まれなければ使われないというリスクもあります。それでも技術を提供したのは、ハッカソンが品質向上に役立つと感じたからです。

 私が携わっているIoTは、誰も経験した事のない領域です。実際にやってみなければ分からないことばかりなので、手を動かしてトライ&エラーを繰り返すプロセスが重要であると私は考えています。

 ハッカソンの場で、私はお客様と会話をしながら短期間でプロトタイプを作りました。この体験を通して、技術の利用者視点、その先のお客様視点で、数多くの気付きを得ることができました。また、他の参加者からも貴重な意見を頂きました。 この取組を通して、社内外の多くの方にIoT Platformを知って頂き、IoTを実現する沢山のアイデアに触れることができました。今後はそこで得られたフィードバックを活かして、さらに技術の品質を向上して行きたいと思います。

 技術は夢をかなえるためにあります。私は今後も、社内外の場で夢をかたちにするお手伝いをしていきます。