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外国人のリピーターを増やせ 五感と心に響く“おもてなし”を開発

富士通が主宰する共創コミュニティ「イノベーション・ファーム」が、日本の新産業として注目されるインバウンドビジネスを創出するプロジェクトを開始した。「o・mo・te・na・shi・2025」と題したこのプロジェクトで目指すのは、訪日外国人に「また日本を訪れたい」と感じさせる、五感に訴え、心に響く“おもてなし”。第1回のワークショップの開催会場には、こうした主旨に賛同した計13社、16名の参加者が集結。訪日外国人に直接話しを聞いたフィールドワークの結果やサービス創出に利用できる最新ICT(情報通信技術)などの情報を基に、自由闊達な雰囲気の中で、新サービスの商品企画に挑んだ。

 2015年、訪日外国人は約2000万人にまで増えた。特に、“爆買い”と呼ばれる買い物を目的とする中国からの来訪者をはじめとした、ビジネス目的ではない日本の自然や文化、社会に関心を持つ観光客が急増している。日本政府は、観光産業の育成と国際社会で理解を深める絶好の機会ととらえ、訪日外国人の数を「東京オリンピック」が開催される2020年には4000万人、2030年には6000万人にまで増やす目標を掲げている。

 ただし、現状の日本の社会システムや観光地のインフラは、訪日外国人を受け入れる体制が十分整っているとは言えない。海外からの観光客の潜在的なニーズに応えるサービスの整備が急務だ。現状を放置していては、訪れる人たちが一巡すれば、せっかくの勢いが一気に萎んでしまうことだろう。訪れてくれた人たちに「また日本を訪れたい」と思ってもらうため、日本ならではの体験と感動を与えるサービスが求められている。o・mo・te・na・shi・2025の目的は、こうした時代の要請に応える「訪日外国人のリピーターを増やすインバウンドビジネスの企画」である。つまり、訪日外国人の五感に訴え、心に響く“おもてなし”のかたちを深く探求し、新しい体験と感動を提供するサービスを共創することだ(図1)。

図1 「訪日外国人のリピーターを増やすインバウンドビジネス」を共創するワークショップ

そもそも感動する“おもてなし”って何だ

 ワークショップの会場に集まった参加者の所属企業や業界は多様である。参加した動機も「会社で検討しているサービスをインバウンドに生かしたい」「同じ目的を持つ仲間を作りたい」「創造的な共同作業を進める手法を勉強したい」とさまざま。ただし、インバウンドビジネスの成長につながる新しいサービスを生み出したいという思いは共通していた。さらに今回は、瑞々しい感性を生かしたアイデアを反映すべく、社会課題に取り組む女子大生が集うNPO法人ハナラボのメンバーも参加した。

 「訪日外国人のリピーターを増やすインバウンドビジネスの企画」という今回のワークショップの目的は、極めてシンプルなものだ。しかし、対象となるサービスの範囲や想定シーンが広すぎて、アイデア出しに際してのつかみ所がない側面がある。そのため、さまざまな背景を持った参加者が、限られた時間の中で議論を深めていくための起点として、o・mo・te・na・shi・2025を共に推進しているamidus代表取締役社長の田淵淳也氏が、「リピートしたくなる要素」と「“おもてなし”の定義」を次のように解説した。

 まず、訪日外国人が「リピートしたくなる要素」として、3つの切り口を示した。1番目は「やり残したことがある」こと。予約しなかったため入れなかったお店があった、日本に来て初めて知った穴場スポットに行けなかったといったシーンがこれに当たる。2番目は「ストーリーの続きが気になる」こと。農業体験で植えた野菜の成長が気になる、ホームステイ先の子供の成長が気になるといったシーンが該当する。3番目は「日本を恋しくさせる」こと。適切なタイミングで温かいおしぼりを提供する日本の飲食店、エスカレーターの手すりまでぞうきんがけする日本の駅など、日本以外ではみられない気遣いや社会の仕組みがこれに当たるだろう。

 そして、訪日外国人に向けた“おもてなし”を、「リピートを呼ぶ3要素を喚起するキッカケとなる、五感に訴え、心に響く体験」と定義した。こうした定義に沿ったサービスを企画するため、今回のワークショップでは、参加者を「目」「耳」「鼻」「口」「肌」「心」の6つのグループに分け、それぞれのグループ名に関わる感性に訴えるサービスについて、まず考えることとした。

イノベーションは自由闊達な「闇研」から生まれる

 ワークショップに入る前に、訪日外国人を“おもてなし”するサービスを考えるための方法論を学び、ビジネスのアイデアの材料となる情報を知る機会が設けられた。

biotope 代表取締役 社長 佐宗邦威氏

 まず、イノベーションのプロデュースを事業としているbiotope代表取締役 社長の佐宗邦威氏が、「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」と題して、新規ビジネスの創出に向けた方法論と勘所を解説した。同氏は、かつて勤めたソニーでの新規事業開発の経験から、別の組織の枠組みを越えて自由闊達に議論し挑戦できる現代版「闇研」と呼べる環境を用意することの重要性を強調。そして、「調査」「分析」「統合/課題の再定義」「プロトタイピング」というプロセスを繰り返しながらアイデアを深め、具体化していくデザイン思考の勘所を伝授した。

 次に、富士通が、インバウンドビジネスの創出の材料になりそうなICT技術の例を3つ紹介した。

 まず、「プレイスサービス基盤」。サービスの利用者がいる場所に固有の情報を、その人の特性や利用時刻に合わせて提供できる仕組みである。利用者のスマートフォンを、公共のディスプレイや店員もしくは利用者同士のスマホと、クラウドを通じて連携させて情報提供できる。

 次に、地図情報の中に、さまざまな情報を重ねて蓄積し、分析利用できる位置情報の活用技術「FUJITSU Intelligent Society Solution SPATIOWL(スペーシオウル)」。走行中のクルマの位置や動き、人や施設からの情報、各所に配置したセンサーで取得した情報、インターネット情報などを地図にリアルタイムで重ねて利用できる。屋内での活用も可能であり、展示会などの来場者にビーコンを渡して、海外からのお客さんがいるところに英語の話せる解説員を回すといった利用ができる。

 最後に「拡張現実」。ネットでの検索結果や解説などデジタル情報を、現実の風景にぴったりと重ね合わせて表示する技術である。利用シーンに合ったデジタル情報を、目や耳など五感に訴えるかたちで提供できる。

外国人が感じる日本の魅力と課題

 さらに、ハナラボのメンバーが、訪日外国人のせきららな意見や潜在的なニーズついて、事前調査した結果を発表した(図2)。

図2 NPO法人ハナラボのメンバーが事前調査の結果を発表

 調査は、多角的な方法で、より多くの切り口から意見を集約していた。まず、インターネット上で日本を訪れたことがない人を含む23人の外国人を対象にアンケート。さらに、浅草でフィールドワークを行い、14人の訪日外国人に直接話しを聞いた。加えて、旅行者と地元の料理を振る舞いたいと考えている人をつなぐマッチングサイト「EatWith」を利用したディナー会を開催し話しを聞いた。

 ハナラボの学生は、日本人でも共感できる声、日本人には意外に感じる声などを自身の旅行体験などを交えながら紹介していった。調査結果から、外国人は、日本人が気づいていないような部分で、多くの魅力を感じていることが明らかになった。また、観光客目線で、行き届いていない部分も多々あることも浮き彫りになった。

 例えば、「日本のどこに行ってみたいですか」というウエブアンケートの質問では、「京都、広島」「渋谷のスクランブル交差点」といった予想できる場所以外にも、「喫茶店」「吉祥寺」「とにかく外国人のいない、心地よいところ」といった理由をさらに深く聞きたくなるような意外な意見もあったようだ。また、「日本に来た目的は何」という質問でも、「四国でお遍路」「浮世絵と村上春樹に興味があって」「日本の若い子のファッションをチェックしに」といった、ステレオタイプな観光客像とは違った実にさまざまな声が聞かれた。

 さらに、「日本に来て困ったこと」という質問では、「見るべきモノの情報が多すぎて絞れない」「にこにこしているが、日本人の本音が見えない」といった、日本人がよかれと思ってしていることが、逆に外国人の困惑を呼んでいる現状も知ることができたようだ。

筋書きのない議論がイノベーションを生む

図3 グループに分かれて議論を開始

 さて、共有すべき情報を一通り知った上で、ワークショップがいよいよ始まった。これ以降は、各グループのメンバーの感性と知恵の勝負だ(図3)。

 イノベーション・ファームが開催するワークショップの特長でもあるのだが、一通りの知識を学び議論の材料となる情報が提示された後の進行は、各グループに一任されている。参加者の中から仕切り役は選ぶが、特にファシリテーターのような先導役を用意して議論をリードするわけではない。メンバーの自発的な議論こそが重要になる。ただし、これは既存のビジネスのあり方に囚われないイノベーションを生み出すための工夫でもある。

 今回のワークショップ参加者からは、「ファシリテーターを使わないでワークショップをしている点が新鮮で、議論にワクワク感がありました」とワークショップ後に感想を述べている。議論に自発的に参加する自由闊達な雰囲気を持った「闇研」のような、何が飛び出すのか分からない場が、共創でイノベーションを生み出す上で重要な条件なのだ。

図4 着々とアイデアを具体化

 確かに、議論をガイドするような筋書きなどなくても、各グループのメンバーは、今日初めて顔を合わせたとは思えないほど積極的に議論を交わしていた。自身の海外での体験を交えながら誰もが共感できる課題を徹底的に深めていくグループ、思いつくだけ課題とアイデアを付箋に書き、会場の壁を利用して顧客体験を分類・整理するグループなど、議論の進め方はさまざまだ。それでも、議論が迷走することもなく、ニーズや課題をまとめ、それに応えるアイデアを手際よく具体化していった(図4)。

多様で率直な切り口がとにかく新鮮

「人気スポットの情報ばかりが豊富で内容が画一的。もの足りないのでは」。
「ノースリーブで歩いている人が多いが、肌感覚が日本人と違うのでは」。
「地方を訪れる人も多いようだけど、方言はさすがに分からないよね」。
「公共の場でのタブーが分からず、戸惑う人も多いのでは」。
「海外から来た人は花粉症にはならないのだろうか」。
「高品質と言われる日本のクルマが生産されている様子を見学したいのでは」。

 議論の中で、参加者から挙げられたニーズや課題には、普段職場で行う会議では感じられないような多様で率直な切り口が数多くあった。

 参加者の一人は、「普段の業務の中では、これほど多様な人と議論する機会はありません。今回のワークショップでの議論は、同僚やいつものお客様からは聞けない話ばかりで、時間が足りないと感じるほど内容が濃かったように思います」と議論の様子を振り返った。

 また、「普段の業務では、お客様と業者という上下関係がある中で他社と協業することはあります。しかし、なかなか率直な意見を交わすというわけにはいきません。今回のワークショップを通じて、異業種の企業が対等の立場で共創することの重要性を感じました」といった感想もあった

 わずか2時間という短い時間だったが、密度の濃い議論を重ね、各グループは検討結果としてまとめていった(図5)。そして、訪日外国人のどのようなニーズ、課題に応えるサービスなのか、どのような特長と広がりを持っているのか、代表者がまとめてプレゼンテーションした(別掲の「6種類の感性を軸にインバウンドビジネスを考案」参照)。

図5 新ビジネスへの第一段階となるアイデアを発表

 o・mo・te・na・shi・2025は、3ステップで段階的に新ビジネスをかたちにしていく。第1回のワークショップとなる今回は、その第1ステップ「オープンイノベーションの場づくり」に相当する。今回の結果を受けて、2016年6月以降には、サービスのプロトタイプを作成し、第2ステップである「共創パートナー発掘」を進める予定である。そこで、サービス提供の中核を担う企業や技術を提供する企業など協力体制を検討する。さらに、開発したサービスの概要を7月20日から開催されるインバウンドビジネスの専門展示会「INBOUND JAPAN 2016」の展示会場でお披露目。そこで潜在顧客の反応を見て、事業化に向けた具体的な検討を進める第3ステップ「共創プロジェクト」へとつなげていく。

>>「INBOUND JAPAN 2016」の詳細はこちら

6種類の感性を軸にインバウンドビジネスを考案

目グループ:「おもてなしパスポート」

 日本各地の観光地、名所を回って、スマホのアプリを使ったスタンプラリーをしてもらい、帰国時に空港で各地での体験や写真、食べたものなどをアルバムの形にまとめるサービス。訪問先では、利用者の好みに合った現地情報をタイムリーに提供し、過不足があって判断に困る現状の情報提供の状況を改善する。観光地とその周辺の店舗には、利用者の国籍や年齢、行動履歴などのデータを提示することで、より適切なサービスや商品の提供に役立ててもらう。

耳グループ:「ACT Japan」
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 旅行会社でもカバーできていないような、ディープな日本を体験できるツアー情報をキュレーションして提供するインターネットサービス。お祭りに参加する、寿司職人になる、小学校の児童の生活を体験するといった、ありのままの日本人の生活を体験できる機会を提供する。SNSを有効活用して、体験を共有することで日本の魅力を来訪者視点で伝えてもらうのと同時に、日本を訪れたことのある人にも見逃していた日本の魅力を伝えてリピートを促す。

鼻グループ:「におい分析クンクン」

 スマホににおいセンサーを搭載して、日本のにおいを記録し、においで日本を恋しくさせるアプリ。さまざまな場所や食事で嗅ぐことができるにおいを、日本の魅力としてクローズアップするための試み。においの情報をデジタルデータ化して蓄積することで、訪日外国人同士で共有したり、利用したりできるようにする。例えば、日本らしいいいにおいを感じることができる場所を調べたり、逆に嫌なにおいを嗅ぐ可能性がある場所を訪れる前に知ったりことができる。

口グループ:「こんにちはフレンズ」

 外国の人と触れ合いたい日本人と、訪れた場所に住む人たちと交流したい観光客をマッチングするサービス。日本人と訪日外国人のコミュニケーションするキッカケを作り、交流を活性化して日本のよさを体験してもらうことが狙い。アプリに自分の属性と出会ってみたい人を登録することで、道ですれちがった時にアラートを鳴らして知らせる仕組み。このサービスをきっかけにしてできた友達の分かれた後の様子が気になるなど、長く、深いつながりを生むことが期待できる。

肌グループ:「イタイ目にあって日本の四季を知る保険」

 日本の四季に起因する、外国人には予測不可能な小さなトラブルを解決するサービスを提供する保険。夏は虫刺され、秋は肌の乾燥など、実際に日本に来ないと分からない小さなトラブルがある。この保険に加入しておけば、蚊に刺された時でも薬局に行って登録したスマホを差し出せば、おすすめの虫刺され薬を出してくれる。サービス提供に参加する店舗は、サービスを受けた後の評価などを通じて、観光客の集客にも効果が期待できる。

心グループ:「It's a スモールジャパン」

 日本各地の名物、産業、風習を体験できるテーマパーク。日本全国を回りきれない、どこにいったら日本らしい体験ができるのかわからない、日本人ともっと交流したいと考える観光客のための施設である。ここで、知らなかった日本の魅力を発見することで、次は本場を訪ねたいと思わせることも期待できる。大阪にはUSJが、東京にはディズニーリゾートがあるので、日本の真ん中にありながら今目立ったテーマパークがない愛知県が候補にあがった。