• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

INBOUND JAPAN 2016出展レビュー

「o・mo・te・na・shi・2025」のINBOUND JAPAN 2016出展レビュー

インバウンドビジネスを創出するプロジェクト「o・mo・te・na・shi・2025」は、2016年7月20日〜22日に東京ビッグサイトで開催された来日外国人向けサービスおよび製品の展示会「INBOUND JAPAN 2016」に出展した。目的は、これまで検討を重ねてきた新サービスのビジネスモデルを、展示会場に集まったインバウンドビジネスのプロの前で披露し、事業化に向けてブラッシュアップすることだ。展示したのは未知の可能性を秘めた未完成のビジネスだが、来場者から多くの共感や示唆、意見を得ることができた。

 富士通 イノベーション・ファームとNPO法人ハナラボなどは、2020年の東京オリンピックを機に日本を訪れた外国人が、「5年後にまた訪れたい」と感じるような新サービスの創出に取り組んでいる。「o・mo・te・na・shi・2025」と呼ぶこのインバウンドビジネス創出プロジェクトでは、2016年5月に、他企業から計13社、16名の参加者と、学生や技術者を集めて共創ワークショップを実施。「訪日外国人の五感に訴える“おもてなし”」をキーワードとして、新サービスのアイデアを出すとともに、それをベースにした新たなビジネスモデルを検討した。

本気の事業化が前提のプロジェクト

 o・mo・te・na・shi・2025は、単に新しいビジネスモデルとそれに基づく新サービスを考案するだけでなく、新サービスの事業化を本気で目指すプロジェクトだ。このため、5月に開催した共創ワークショップの際には、開催に先駆けて実際に訪日外国人に話を聞くフィールドワークを実施したり、サービス創出に利用できる最新のICT(情報通信技術)を調べたりするなど、それぞれの参加メンバーは綿密に準備した。そのうえで共創ワークショップに臨み、そこでいくつかの具体的なアイデアをビジネスモデルに落とし込み、各参加メンバーが自信を持って展示会で公開できる企画にまとめた。

図1 「INBOUND JAPAN 2016」に出展した「o・mo・te・na・shi・2025」のブース

 ただし、参加したメンバーがどんなに自信を持っていたとしても、サービスを利用する外国人の心に響かなかったり、パートナーが共感できなかったりすると、ビジネスとしての成功はままならない。そこで、これまでのフィールドワークや技術情報の収集とは別の視点から、アイデアを事業化に近づけるためのマーケティングを実施する必要があると考えた。そのための絶好の舞台が、INBOUND JAPANだった(図1)。来日した外国人に、よりよいサービスを届けたいと考えるインバウンドビジネスのプロや、訪日外国人に喜んでもらえるサービスを探す人たちが集まる場であるからだ。

 会場に集まった、その道のプロやサービス提供の当事者は、メンバーが持ち得ない専門的な視点を持っている可能性が高い。つまり、INBOUND JAPANの会場では、企画中のサービスを一段とブラッシュアップするための新しいヒントが得られるはずだ。言わば、展示会場の来場者を巻き込んだ、“出張公開共創ワークショップ”ができるわけだ。しかも、来場者の中に新サービスのコンセプトやアプローチに賛同する企業がいれば、パートナーになるかもしれない。そうなれば事業化に向けて大きく前進することになる。

より実現しやすく利用しやすい形へ

図2 「五感」をテーマにしたアイデアを試作品とともに展示

 INBOUND JAPANの会場では、11件の企画中のサービスアイデアを、1枚のパネルに簡潔にまとめ展示した。そのうち、5件の企画に関しては、共創ワークショップで検討したときの「五感に訴える“おもてなし”」という視点に沿って「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」のそれぞれに分類(別形記事参照)。具体的なサービスイメージを来場者に実感してもらえるように試作品も展示した(図2)。

 ただし、試作品として展示したサービスは、5月の共創ワークショップで生み出した企画のままではない。来場者に、利用シーンや実現時に活用するITシステムを、より具体的にイメージしてもらえるように、一段と洗練させた。その時の指針は大きく二つ。一つは、目新しい技術を使わずすぐに作って試せること、。もう一つは、スマートフォンなど誰でも持っているツールを活用できることである。

製品や完成品が1つもない展示

 今回のo・mo・te・na・shi・2025プロジェクトの展示は、極めて異例で画期的なものだと言える。何しろ、一般的な展示会のように、最終的な製品やサービスが1つもないからだ。あるのは、試作品と、構想中のサービスのコンセプトとアプローチを説明するパネル。さらに、それらのサービスを説明するプレゼンテーションだけである。「こんなアイデア段階のサービスを展示して何になるの。他の会社にマネされてしまうだけじゃない」という来場者もいた。ごもっともな意見だ。しかし、いまや1社で完結できるビジネスは少ない。新たなビジネスを立ち上げる際に、パートナー探しが欠かせない。つまりアイデアを秘密にしているだけでは、新しいビジネスを立ち上げるのが難しくなっている。

 実際、「ここの展示はすごいね。未完成の試作品だけを展示しているブースを初めて見た。これからの展示会は、このような展示をして仲間集めをしないと、新しい製品やサービスを出し続けることはできない」と感心する来場者もいた。「こうした公の場で、社内で開発しているものの価値を世に問う取り組み自体がすごすぎる」という声もあった。試作品と構想中のアイデアをまとめたパネルを見て、来場者は、この展示の意図を敏感に感じ取ったようだ。

 o・mo・te・na・shi・2025プロジェクトの展示は、異例ではあるが、展示会の未来を先取りしたものであるとも言える。最近、あらゆる産業で、異分野の企業との協業が重要になっている。IT系の企業が、農業、医療、建設などの企業と協業して生み出すIoTシステムの構築は、その代表例だ。また、エコシステムの構築が、商品開発やビジネスの前提となる例も増えた。このため、普段のビジネスの中では接点がない異業種企業との出会いを求め、事業開発のパートナー探しを目的として展示会に出展する例が増えている。

「未完の魅力」をブース全体で表現

図3 プレゼン・スペース背後のパネルに貼り付けられたアイデア・シート
[画像のクリックで拡大表示]

 ブースも極めて斬新な作りだった。未完成の企画の魅力を伝えたいという思いと意気込みが、ブース全体に充満していた。会場内で一際目を引く、日本の花の色をイメージした桜色に統一されたやわらかい雰囲気。そこで、スタッフが、自らが考え、かたちにしたサービスを熱っぽく説明していた。

 こうしたブースに、最初に反応したのが、女性の来場者だった。「ブースがかわいい」と足を止めて、展示パネルを眺めるうちにメモを取り始める。こうした女性来場者の数が時間とともにどんどん増えていった。男性の来場者からも、「“おもてなし”を盛り込んだ、心配りが必要なサービスを企画するのは女性の方が向いているかもしれない」という声が聞かれた。

 ブース内に設けたプレゼンテーションスペースの壁には、ワークショップでの検討に使った多くのアイデアシートが、ところ狭しと張られていた(図3)。一般的なイベントでは、成果と効果だけを端的に説明するスタイリッシュな見た目の展示が多い。しかし、今回の展示はその真逆である。ここで披露するアイデアに至るまで、どれほどの検討を積み重ねてきたのか、あえて泥臭く伝えている。事業のパートナー探しをしている企業は、こうした汗をかくことをいとわない企業と一緒に仕事をしたいと思うに違いない。

図4 ハナラボの女大生によるプレゼンテーション

 またプレゼンテーションでは、ハナラボの女子大生たちが参加し、寸劇を交えて懸命に新サービスのアイデアを説明していた(図4)。プロのコンパニオンが流暢な口調で製品やサービスを解説する他社ブースとは明らかに違う。たどたどしいが、それがかえって未完成の魅力を醸し出していた。近隣のブースでプレゼンテーションに参加していた外国人の役者が、「こうした表現方法は興味深いね」と、女子大生のプレゼンテーションに見入っていた。

考えもしなかった視点がここに

図5 来場者から集まる様々なコメント

 o・mo・te・na・shi・2025の展示やプレゼンテーションは、INBOUND JAPAN の来場者とプロジェクトのメンバー双方に多くの気づき与えたようだ。

 インバウンドサービスを開発しているというある来場者は、「いろいろなアイデアを検討してきたつもりでしたが、ここでは考えもしなかったような視点のグッドアイデアが数多くありました。心底感心しました」と言った。おみやげと食事券や観光地の入場券を兼ねるフィギュア型チケット「ガチャもぐ」のように、「今すぐにでも導入したい」「一緒に協力して実現したい」という企画もあった(図5)。

 地方の暮らしや仕事を外国人が体験できるサービスを自治体と開発しているという来場者は、訪日時に稲刈り体験をし、帰国後にそのお米で作った日本酒が届くという、 帰国後も楽しむ体験型おみやげ「HELL O・MI・YA」を見て、「体験を提供するだけではなく、帰国後のフォローをすることで口コミを呼ぶという発想はありませんでした。ここをシステム化できると強力なサービスになりそうですね」と驚いていた。

もっとよくなる、もっと広がる

 また、試作品を見ながら、サービスやシステムをよりよくするための具体的な示唆や提案も数多くあった。例えば、小売店で売っている商品のバーコードをスマートフォンで読み取り、商品の説明や評判を利用者の母国語で表示するサービス「ボーダーレスショップ」では、内容を「バーコードの読み込みではなく、画像認識に置き換えると、もっと使い勝手のよいサービスになる」と指摘する来場者がいた。

図6 試作機を使ってアイデア体験する来場者

 観光名所などで位置情報と利用者属性に沿った音声情報を提供する「EAR NAVI」では、「ありそうで実際にはない、あったら圧倒的に便利なサービス」という意見に加え、「このサービスは、来日外国人だけではなく日本人にとっても便利ですね」といった応用の広がりを提案する人もいた(図6)。

 SNSの中で語られている匂いに関する情報を抜き出し、それを地図上にマッピングすることで、日本の匂いを感じる散策ルートを見つける「OSHINOBI JAPAN」では、「人を匂いセンサー代わりに使うという発想には驚いた。これは、匂いの抽出以外にもさまざまな用途に使えそうですね」という意見が多く聞かれた。また、観光情報を提供している企業からは、「私たちの会社の情報は、動きのないものが多いので、こうした即時性のある動きのある情報は極めて魅力的です。ぜひ一緒に検討したい」という意見が出ていた。

 宗教やアレルギーなどの理由で食事に制限がある人に、食品のバーコードを読み取るだけで原材料などが分かる「食のおもてなしチャーム」では、「日本は世界から観光客を集めようとするのなら、こうした仕組みを作らないとね」とその意義に賛同するインバウンドのプロの意見の他、会場を訪れた海外からの留学生のグループから「こうしたサービスで、日本に来る外国人を助けてください」という励ましも寄せられていた。

 o・mo・te・na・shi・2025プロジェクトのメンバーも、自由闊達な環境を旨として進めてきた共創ワークショップの場では得られない、事業化にむけてクリアすべき点が見えてきたようだ。あるメンバーは、「さまざまなご示唆やご提案はもらえるのですが、パートナーになるような企業は、そう簡単に見つかるものではないというのが実感ですね。パートナーを開拓するには、企画したサービスによって得られるメリットを、もっと実践的な応用を想定して提示すべきだと感じました」と語っている。

図7 会場のアンケートでは今後の展開に注目する意見が続々

 それでも、開始期間中に会場で実施した来場者へのアンケートには、プロジェクトの展開や進化に注目する意見が数多くあった(図7)。例えば、「今後の取り組みを引き続き知りたい」「経過をサイトで知らせて欲しい」という要望や、「海外のメンバーもワークショップに入れると、さらに広がりのある企画ができるかもしれない」といった指摘だ。こうした結果から察すると、パートナーになり得る企業の関心は高まっているのではないだろうか。今回のINBOUND JAPANへの出展によって、o・mo・te・na・shi・2025プロジェクトの取り組みは、実用化に向けて大きく前進したと言えよう。

リアルな場でアイデアの事業性を検証

INBOUND JAPANでは、以前に開催した共創ワークショップから生まれたインバウンドサービスの企画を試作品とともに展示した。試作品では、それぞれの企画のキーポイントを来場者が実際に体験できる。ワークショップのテーマ「五感に訴える“おもてなし”」に従って、「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」の五つのカテゴリにそれぞれ属する五つの企画が展示された。概要は以下の通りである。

視覚:
食の不安はこれで解決「食のおもてなしチャーム」
図A 食事の選択を支援する「食のおもてなしチャーム」

 宗教やアレルギー体質などの理由から、食事に制限がある外国人が、安心して食事を選ぶことができるように支援するサービス(図A)。食品の中に含まれる原材料は、出来上がった料理や販売されている商品を一見しただけでは分からない。このサービスでは、個人のスマートデバイスや販売員のタブレットのカメラを用いて、バーコードや商品パッケージを撮るだけで、見えにくい原材料など商品情報を自分で確認することができる。同じ宗教の人の口コミなども表示する。共創パートナー候補として、小売業者、食品メーカー、飲食店などを想定している。

聴覚:あなた好みの耳寄りなご当地情報「EAR NAVI」
図B 好みに合ったご当地情報を提供する「EAR NAVI」
[画像のクリックで拡大表示]

 特定の場所に音声情報を配置し、位置情報と連動して、その人の属性に合った音情報を提供する音声情報サービス(図B)。観光中などにガイドブックやスマートフォンなどを眺めながら歩く煩わしさを解決する。一般に、同じ場所を訪れたとしても、訪れる人によって欲しい情報が異なる。このサービスを利用することで、自分に最適な情報だけを手に入れることができる。このため、膨大な情報の中から自分の欲しい情報が探せないという課題を解決する。共創パートナー候補として、観光事業者(博物館、美術館)、旅行代理店、テーマパーク、自治体などを想定している。

味覚:言葉要らずのフィギュア型チケット「ガチャもぐ」
図C 言葉要らずのフィギュア型チケット「ガチャもぐ」
[画像のクリックで拡大表示]

 ご当地モノの商品や体験のチケット代わりになるガチャガチャ(図C)。地域活性化の取り組みと連動させて、地域ならでは特産品や名物をフィギュア化、これをガチャガチャにする。観光客は、これをチケットとして食べ歩きや観光をする。食べるモノや体験するコトをガチャガチャに託すことで、外国人が未知の日本の魅力を発見できる。また、フィギュアがお土産になるため、思い出としても残せる。さらに、フィギュアがチケットも兼ねているため、小売店舗の決済の手間も軽くなり、地域の活性化にもつながる。共創パートナー候補として、自治体、百貨店、飲食テーマパークなどを想定している。

嗅覚:日本の価値を香りで感じる「OSHINOBI JAPAN」
図D 日本の価値を香りでアピールできる「OSHINOBI JAPAN」
[画像のクリックで拡大表示]

 その土地、その時期ならではの五感を刺激する、特別な散策ルートを案内するサービス(図D)。観光地の一般化されたルートではなく、ちょうど見頃の花や、期間限定の食べ物などがある場所を通るルートを、SNSなどで交わされている口コミをセンサーとして利用して抽出する。そして、訪日外国人にとって魅力的な、今しか体験できない散策ルートを地図上に表示する。匂いや味といった、機械的なセンサーでは集めにくい情報を、今あるインフラを利用して収集できる点が利点。共創パートナー候補として、自治体、商店街、デベロッパー、電鉄などを想定している。

触覚:言葉の壁をなくす買い物サポート「ボーダレスショップ」

 日本語が分からない外国人観光客が、商品のバーコードをタブレットやスマートフォンなどのカメラを使って読み取ると、商品の詳細情報を母国語で翻訳して表示するサービス(図E)。商品に事前に登録されている情報として、メーカーが提供しているものだけではなく、日本の商品に詳しい母国の仲間のアドバイス(文化習慣情報)やSNS、つぶやきなどの口コミ情報も得ることができる。共創パートナーの候補として、小売業者、食品メーカーなどを想定している。

図E 言葉の壁をなくす買い物サポート「ボーダレスショップ」