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機構部品に替わるタッチセンサーの魅力

 サイプレス セミコンダクタがクルマのカーナビゲーションやダッシュボードなどのHMI(Human Machine Interface)をタッチコントローラーに替え、接点を使わないスイッチやスライダーなどを提案してきた。今年1月開催のCESで、新しいタッチコントローラーを発表。クルマの厳しいノイズ環境に耐えながら、低コスト・低消費電力・高速性能を実現できるとしている。ここでは、クルマのユーザーインタフェースを支えている最新技術の詳細を紹介しよう。

西村 廣幸 氏
サイプレス セミコンダクタ
自動車事業部
カスタマープログラムマネージャー

 PSoC(ピーソック)といえば、サイプレス セミコンダクタが昔からずっと力を入れてきた、プログラム可能なアナログ回路を持つマイコン製品。サイプレスの代名詞にもなっているほどだ。電子回路設計に携わるもので知らない人はいないと言われるほどの人気製品となっているが、その進化は止まらない。今回発表されたPSoC製品とクルマへの応用について、サイプレス セミコンダクタ自動車事業部のカスタマープログラムマネージャーである西村廣幸氏に聞いた。

第7世代のタッチコントローラー登場

 サイプレスが今、力を入れているのはクルマのHMI(Human Machine Interface)向け静電容量型タッチスクリーンコントローラーで、これもPSoC製品の一種。2018年1月に米国ラスベガスで開催されたCESで、第7世代(Gen 7)のタッチコントローラー「TrueTouch CYAT817タッチスクリーンコントローラー」ファミリーが発表され、人気を博した。PSoCの中でもタッチコントローラー向けの製品は、静電容量型タッチが世の中に登場したころからスライダーやスイッチなどで実績を積んできた。

 自動車の運転において、運転手が走行時フロントパネルを操作することは安全上難しい。このため音声認識技術を使ったHMIも開発されてきているが、認識ミスはまだ多い。AIを使ったクラウドシステムはあるが、クルマではリアルタイム性が求められるため、走行中のクラウド利用は用途が限られる。

 サイプレスが提案するタッチスクリーンコントローラーは、Gen 7製品まで来ている。第6世代(Gen 6)の製品は量産しており、ディスプレイ内にセンサーを設置するIn-Cell方式や、マルチタッチ方式、力検出、ジェスチャー検出、厚い手袋での使用などの機能はすべてカバーしている(図1)。Gen 6の製品と比べたGen 7製品の特長は、スクリーンから最大35mm離れても操作できることである(図2)。加えて、将来のクルマのコックピットに対応できるようにするため最大15インチまでのLCDパネルにも対応する。

図1 タッチコントローラーの製品ポートフォリオ
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図2 タッチスクリーンから35mm離したガラスを用いたデモ(左)。ホバーは1本の指のみに対応。タッチスクリーンはマルチタッチ対応で10本の指を認識する(右)。
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 タッチせずに触れなくても指を検出するためには、感度が高くなければならない。サイプレスは指を浮かした状態の「ホバー」を検出するアルゴリズムを開発した。これまで、小信号をセンシングするときには、パルスを送りタッチないしホバーした場所の電圧パルスの変化を確認することで検出してきたが通常のスキャン方式だと信号がノイズに埋もれてしまい、検出能力が落ちてしまう恐れがある。そのため、このパルスの電圧としてより高い電圧をタッチスクリーンにかけて感度を上げていたが、電圧が高くなるとノイズを放射しやすい。一方、クルマではノイズの発生を抑え、ノイズに対して強くすることが求められており、これらを回避するために、新しい検出アルゴリズムを開発し、低電圧での小信号の検出を実現している。

浮かせて位置と圧力を検出、確認はハプティクス

 「実際にクルマのディスプレイでは、ホバーで座標を確認するとディスプレイ画面ではその部分が大きく浮き上がって見え、さらに強く押し込むことで圧力を検出し、入力を確定します。さらに、ブルブルと振動するハプティクスを使うことにより、確定を運転手に知らせます。この一連の作業をタッチパネルで実現するための機能を盛り込んでいます」と西村氏は語る。サイプレスは、このような利用シーンを想定したチップソリューションを提供しているといえる。

 この作業を図3のようなメータークラスターのディスプレイパネルで使う場合、タッチコントローラーはあくまでもディスプレイの近くに置く。センサーで位置と力を検出するとその情報をコントローラーのMCUを通して、クラスター内のマイコンやSoCのECU(図3右側のHead Unit)に知らせる。ECUでは入力を判断してハプティクスや音で知らせるかどうかを判断する。知らせる場合にはディスプレイ側のタッチコントローラーへ知らせ、振動や音を出すように指示をする。ホストのECUでは音の種類などを設定できる。

図3  ECU側で座標や力の判断や振動や音を選ぶ
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 「タッチやホバーによって座標の場所を検出する以外に押す圧力も検出しますが、圧力の検出にも静電容量の変化を利用しています。一般的なスマートフォンの場合、座標の位置を示すために、静電容量を並べたセンサーと圧力の大きさを検出する静電容量を並べた座標の2倍のセンサーを使っていますが。私たちの方法では、通常の位置検出のための静電容量センサーに加えて、圧力を検出する4つの静電容量センサーを4隅に配置することにより、より少ないセンサー数で、押される場所の座標と圧力の検出が1つのタッチコントローラーで実現できます」と西村氏は言う。だから低コストで座標の場所と圧力を同時に検出できる。

 クルマの環境ではノイズが最大の敵である。サイプレスはノイズの影響を回避する技術AutoArmor技術を持っており、検出感度を高められた。「Armor」とは「鎧(よろい)」という意味である。AutoArmorは、ノイズの周波数をずらしたりノイズを受けない周波数を選択したりして、ノイズに対して鎧を備える機能として開発された技術である。

消費電力を削減しながら高速の起動

 クルマ用のディスプレイのタッチ機能は常に動作しているわけではない。今後EVの普及に向け、待機時には消費電力を下げて、電池の消耗を減らすことが必要となる。しかし、ボタンをタッチすればすぐに反応してくれなければ困る。待機時のスリープモードからいきなり起動する場合にはクロックパルスの何倍分もの遅れを生じてしまうため、すぐには立ち上がらない。サイプレスは待機時にはスリープモードで電流を減らしながら、起きるときはすぐに反応できるようにするため、待機時中でも時々起きるという方式を使っている。例えば、100msのうち99msはスリープ、1msだけ立ち上がる、という状態であれば、1msに合わせて起動することができる。これにより、待機時の低い消費電力と、立ち上がり時の高速反応を同時に実現できる。

 Gen 7製品は図4のような回路構成で使えるようになっている。ハプティクスの振動を発生するソレノイドのドライバーを駆動する信号や音を出すためのDAコンバーターやアンプへ送るデジタルデータのI2Sバス、故障した場合どのホストCPUが故障かなど他のECUとやり取りするためのCANバスなどを設けている。タッチコントローラーはあくまでもセンサー信号を受け取り、アクチュエーターを動かすための信号を出すインタフェースのICである。判断や演算などの機能はメインのプロセッサーが担う。オプションで将来、暗号化するためのデジタルバスのI2CやSPIインタフェースも用意している。

図4 タッチコントローラーと周辺回路とがやり取り可能な構成
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今後は接点をすべて非接触に

 サイプレスはタッチコントローラーの製品ポートフォリオを広げることで、クルマの操作ボタンをすべて、非接触のタッチ式に替えることを想定している。事実、クルマメーカーはできるだけ機械部品を排除し、シリコンに替えるシステムを目指し、故障の撲滅を進めている。電源のスイッチでさえも機械式ボタンではなく、タッチ式に替えるように提案している(図5)。そのためのボタンやトラックパッド、スライダーとなるスイッチ部品の代わりを務めるのが触るだけで反応するコントローラーPSoCである。サイプレスはクルマ用の汎用PSoCである、Automotive PSoC 4とそのツールも充実させてきている。

図5 Automotive PSoCで凹凸のついたパネルに触ると反応する試作品
Automotive PSoCで凹凸のついたパネルに触ると反応する試作品(動画)

 「クルマは寒暖の差が激しい場合には露が付きやすくなりますが、そのような水分が付いていても、人体に反応するという性能は変わりません」と西村氏は性能を訴える。また、図6に示すように、外部ドア用途向けに、流れる水に浸かっていても動作するアルゴリズムも開発した。

図6 水が流れていてもタッチを検出できる(左が通電状態。筐体右上緑のランプが通電を表示)
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 サイプレスは、11年前からクルマ用のHMI向けICを開発してきており、クルマ用途での品質や信頼性、EMI(Electro-Magnetic Interference)などの問題に取り組んできた。また、将来に向けたPSoCの製品も拡充するロードマップも描いている。ただし、クルマ用半導体が実際の自動車に搭載されるまでに5年以上かかると言われている。このためクルマ用半導体の売り上げはまだ少ないものの、デザインインでの実績から、クルマ市場においても、サイプレスの役割が大きくなっていくに違いない。

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