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自動車の電動化・自動化の将来像を探る

カーエレクトロニクスとともに発展を遂げてきた日本の自動車産業
電動化・自動化に向けた将来像を探る

1908年にフォード・モデルTが発売されてから百年あまりを経て、自動車は今、大きな変化のときを迎えつつある。ひとつは内燃機関(エンジン)からモーターへの転換、もうひとつが運転の自動化だ。かつてデンソーで専務取締役を務め、現在は後進の育成などに取り組む加藤光治氏をお招きし、高性能なアナログ半導体を手掛けるアナログ・デバイセズ代表取締役の望月靖志氏とともに、カーエレクトロニクスの課題や将来像について聞いた。

自動車産業は今、電動化、電子化、自動運転など、大きな変化の時代を迎えています。最近の動きをどう見ていますか。

加藤:歴史を遡ると、日本初の大衆車として人気を博したトヨタの「パブリカ」が誕生したのが1961 年です。そこから日本の自動車産業は大きく発展してきたわけですが、とくに契機となったのが1970年にアメリカで発布された「マスキー法」(改正大気浄化法)で、排ガス中の一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)などの濃度を従来の1/10以下に一気に低減しなければならなくなったんです。ホンダを筆頭に日本の自動車メーカは、エンジンの改良や触媒の開発、トランジスタやICを使いながらクリアしたんですが、アメリカの自動車メーカはしばらくは実現できませんでした。さらにオイルショックで燃費向上が必須となり、マイコンも使いながら燃料噴射を電子制御化して排出ガス低減と燃費向上を進化させました。そのような経緯で日本のクルマは世界に飛躍したわけですけども、電子化がなかったら現在のポジションはなかったかもしれないんですよね。逆の見方をすれば、よくぞマスキー法を作ってくれたなと、そしてオイルショックになったものだと(笑い)。その後のエアバッグやABSやカーナビなどの進化は皆さんもご承知のとおりです。

 とはいえ、私がデンソーで開発部門長や専務を2010 年まで務めてきた中で、エンジンも、ブレーキも、ボディ系も一通りやり終えたこともあって、クルマの技術競争はもうほぼ終わりかなと思ってたんですよ。ところがこの数年で自動運転が見えてきて、EVへのシフトもものすごい勢いで始まっていますし、技術の進化はすごいなと。その意味でも自動車産業の中でのカーエレクトロニクスの役割はますます重要になってきていますよね。

アナログ・デバイセズ株式会社 代表取締役
望月靖志 氏

望月:私はもうずいぶん前ですけど、1980 年代にスーパーコンピュータの会社に勤めていたんです。1台30億円して、大きな会議室ぐらいのスペースが必要だったんですが、今ではその何倍ものパフォーマンスが小さなスマートフォンに入っていて、わずか数万円とか10万円ほどで買えてしまう。35 年ぐらい前にはまったく想像できなかったものが今現実に出ているわけですけども、それに貢献しているのが半導体で、ムーアの法則を具現化するようにデジタルがどんどん進化して、それをサポートするアナログもどんどん進化してきました。

 これから先、クルマでは電動化と電子化に加えてAIとの融合などが進んでいくでしょうけど、じゃあ今から35年後にクルマがどうなっているかというと、正直、想像が付きません。そのときそのときに天才が出てきて、既存のテクノロジーをはるかに凌駕したものを発明して、人々に恩恵を与えていくこともあるでしょうし、コンパクトでローコストでローパワーの半導体が開発されて、さらにドラスティックな進化を実現していくかもしれません。ただもしかしたら、未来のクルマは今のクルマの延長線上にはない可能性もある。そんなふうに私は思いますね。

加藤:クルマにしてもコンピュータにしても、過去の実績を単純に並べて、もう技術は飽和したから未来は何も変わらないだろう、などと考えるのはきわめて傲慢なんですよね。自動運転の前方認識でも人間の目よりもはるかに高感度で高精度なセンシングができてしまうわけで、さらなるドラスティックな変化はまだまだ起きるでしょうね。そう考えると、頑張って長生きすればするほど、技術の進化を見届けられる楽しみが味わえるなと(笑い)。

価値の源泉は半導体へとシフト

半導体はこれまで数十年にわたって自動車の進化を後押ししてきたわけですが、今後注目すべきはどのような分野が挙げられますか。

株式会社テン・シックス ファウンダー・代表取締役 株式会社サイコックス ファウンダー 有限会社MTEC フェロー・代表取締役 電気・電子系技術者育成協議会 理事長
加藤光治 氏
1969年3月東京工業大学理学部応用物理学科卒業。同年7月日本電装株式会社(現株式会社デンソー)入社。半導体、ECUの開発に従事する。98年 ITS事業部長兼取締役就任。2010年 専務取締役を退任。2012年 株式会社サイコックス創業。2014年8月に設立した、日本のエレクトロニクス技術者育成を推進する「電気・電子系技術者育成協機会」の発起人の一人として理事長を務めている。

加藤:ひとつはセンサーですよね。ミリ波レーダーとLiDARとカメラはいわば御三家ですが、これに加えてジャイロ(姿勢)やGNSS(GPS)などのセンサーの高性能化はますます必要になってくると思うんです。デンソーにいたときにLiDARやミリ波レーダーのモジュールを売り込むために全世界を歩きましたが、たとえばスウェーデンに行きますと白夜ですから太陽の光を真横から受けて信号が飽和してしまって検出ができなくなってしまうんですよ。ですから、世界のあらゆる環境に対応できるセンサーを作らないと自動運転が実現できないわけです。あとはセンサーのS/N比(信号対雑音比)ですよね。バックグラウンドの雑音をどう減らしてきれいな信号を得るかというところは、アナログ・デバイセズのオペアンプを褒めるわけじゃありませんけども、やはりノウハウの塊なんですよね。

望月:もうひとつが消費電力で、たとえばレーダーで検出可能距離を長くしようと思えばパワーを与えてやればいいわけですが、バッテリー容量が限られているクルマだと限度があるわけです。そして加藤さんが言われたように、センシングしたデータなり画像がきれいでなければいけない。ここがまさにアナログとデジタルとを結ぶシグナルチェーンのテクノロジーで、こういうところにアナログの技術力が求められるんですね。

 もうひとつの問題が回路サイズで、日本の多くの立体駐車場は車幅が1800mmに制限されていますから、それに収まるようにクルマを設計するとなれば、ECUの小型化を実現できるように半導体も小型でないといけない。半導体ベンダーからすればタフな課題ですけども、小型化、ローパワー化、ローコスト化、そして高性能化をさらに頑張っていかなければならないと思っています。

加藤:電動化に関してはパワー半導体が重要です。今主流になっているIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)がSiC(炭化ケイ素)あるいはGaN(窒化ガリウム)に置き換われば、損失が減って、同じバッテリー容量でも走行できる距離が10%ぐらいは延びるだろうと言われていて、大いに期待されてますよね。電費がたとえば10%延びれば、高コストなバッテリーの容量を10%削減できる。そうすると、それで浮いたコストをSiCやGaNや制御に振り分けられる。つまり、付加価値のシフトが起こるんですよね。

望月:バッテリーも注目ですよね。全固体電池が実用化されればリチウム電池に比べて電力密度を一気に高められますし、その先もさらに進化していくと思うんですね。

 もうひとつはバッテリーセルに蓄えられているエネルギーをいかに効率的に使うかで、各セルの電圧を精度高く測れれば、セルの上から下まで余すところなく使えるようになりますし、また、各セルの電圧は均等に下がりませんので、電圧の高いセルを放電させるバランス回路を設けないと、実効的に使える充電範囲がどんどん狭まってしまいます。このとき、電圧の高いセルのエネルギーをただ捨てるのではなくて他のセルに分配しようというICもアナログ・デバイセズでは出しています。電動化にあたってはこういった制御ICの役割も重要で、これからもさらに開発を進めていきます。

加藤:バッテリーマネジメントIC の分野では、アナログ・デバイセズは世界トップクラスだそうですね。

望月:おかげさまで好調です。とくに、国の政策もあって一気にEV化が進んでいる中国市場で、当社のバッテリーマネジメントICはきわめて高いシェアを得ています。

加藤:望月さんが言われたように、半導体が高機能なり複雑化する一方で、実はBOM コストという観点では十分にバジェットはあるんですよね。たとえばクリーンディーゼルの場合、エンジンや燃料噴射系を合わせると原価はだいたい30 万円ですが、EV になればそのコストをバッテリーマネジメントとかパワー半導体のノイズ抑制などに回せるんですよ。

 ワイヤーハーネスも同じで、今のクルマには2,000本から3,000本が使われていて、これらのコストが一本あたりだいたい50円なんです。このうちの一部がワイヤレスになったり、あるいは電源と一緒に信号を送るPLC(パワー・ライン・コミュニケーション)になれば、2,000本が一気に減って、そこからまたBOM コストに余裕が出てくるわけです。そうやって考えると、クルマの付加価値はこれからいろいろな形で半導体に移動していくんです。

望月:価値が半導体にシフトしていくだろうという嬉しいことをおっしゃっていただきましたけども、半導体の歴史を見ると、コストが高かったデバイスもあるときを境に値段がポーンと下がるんですね。デジタルテレビ用LSIもそうですよね。アナログ・デバイセズは、「切れない無線」と呼んでいる「SmartMesh®」などのワイヤレスソリューションや、オーディオ信号をローコストな2線ケーブルでやりとりできる「A2B®」などのインタフェースソリューションを持っていますけども、そういうテクノロジーが普及していけば、ワイヤーハーネスが大幅に減って、クルマの作りも大きく変わっていくかもしれません。

産業強化に向けた取り組みを

電動化、電子化、自動運転などをキーワードにクルマがますます複雑化していく中で、さらなる技術力や開発力が求められています。

加藤:最後はやはり人材なんですよね。冒頭で触れましたけども、パブリカが発売された1960 年代はアメリカの自動車産業がダントツで進んでたわけです。ところがマスキー法をクリアしようと始まった電子化を機に日本が一気に大逆転したわけですね。半導体でもコンピュータでも当時はアメリカがリードしていたはずなのに、それはなんでだろうと考えると、クルマに応用できる技術屋がいなかったとしか考えられないんです。ある意味「敵失」なんです。EVやAIの時代を迎えて、世界をリードできる技術屋が日本にどのぐらいいるかが本当に大事なんですよ。

望月:おっしゃるとおりです。かつて国は半導体産業やコンピュータ産業を育てたときに徹底した支援をしたわけですけども、今の日本の生命線のひとつである自動車産業に対して、政策も教育もしっかりとバックアップしていかないと、この生命線が万が一切れてしまったときに日本に何が残るんだろうかと。この点は甘く見てはいけないと思っています。

 それと、クルマを含めてあらゆるシステムが複雑になっていますから、一社だけでやっていける時代ではなくて、流行りの言い方をすると「エコシステム」を作っていかないといけません。われわれアナログ・デバイセズを例に挙げると、今まではTier1などのサプライヤーとのお付き合いが多かったんですが、最近はOEM(自動車メーカ)との直接の交流も増えていて、長い視点で、たとえば10年後にどういった半導体が必要ですか、という話をしています。

 そういう仲間作りや仕組み作りをしながら最高のソリューションをタイムリーに提供していくことが、日本の産業を強くしていくには不可欠ではないかと思うんですね。

人材含め日本の技術力の向上を

自動車産業の隆盛は日本の行く末をも大きく左右するかと思いますが、最後に、これからの展望や提言などをお聞かせください。

加藤:次の時代もやはり技術屋が頑張るしかないんですよね。今はシステムが複雑になりすぎて、アナログにしてもデジタルにしても、基礎や原理を理解してから使いこなすには時間が足りないわけですけども、技術者や若い人には普段の生活からいろいろなことに興味を持って欲しいなと思いますし、将来を担う子供たちにエレクトロニクスや機械の面白さを伝える環境作りも必要ですよね。いずれにしろ技術や市場が飽和したみたいに思えることもあるかもしれませんが、新しい時代は間違いなくやって来ますし、これからも時代の変化を目撃できることを楽しみにしています。

望月:今日はクルマがテーマでしたが、電動化や自動運転で培った技術はロボットなどにも広く転用できるんですよ。モーター制御、バッテリー制御、センサー、AI、ネットワーク機能など、共通的なプラットフォームに専用ソフトウェアを組み合わせることで、生産用ロボットや医療用ロボットにどんどん展開できる。そう考えると、やはりそれぞれのテクノロジーを日本でしっかりと押さえることが重要で、きちんとした投資もするべきなんです。とにかく今、テクノロジーを構築することに徹底的に取り組めば、10年先、20年先に明るい未来が待っている。私はそう信じています。

本日は示唆に富むお話を頂戴しました。ありがとうございました。

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