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<LTspice導入事例> 京大電気電子工学部、理論+実験+シミュレーションで回路の理解を深める

<LTspice導入事例> 京大電気電子工学部
理論+実験+シミュレーションで
回路の理解を深める

アナログ・デバイセズ(旧リニアテクノロジー)が提供する無償の回路シミュレータ「LTspice」を教育利用に導入する企業や学校が増えている。京都大学もそのひとつで、2016年度から、電気電子回路演習のカリキュラムで活用中だ。理論、実験、およびシミュレーションのそれぞれを行って学生に理解を深めてもらおうというのが狙いである。LTspiceの開発者であるMike Engelhardt氏が京都大学大学院を訪れて、電気電子回路演習を担当する久門先生ほかと面会した。

Mike Engelhardt氏
Analog Devices, Inc. Director of Simulation Development CTO Office
久門 尚史 氏
京都大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 准教授
木村 真之 氏
京都大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 生体医工学講座 複合システム論分野 助教

久門:京都大学工学部の電気電子工学科では、2016年度から、アナログ・デバイセズ(旧リニアテクノロジー)の回路シミュレーションソフト「LTspice」[*1]を電気電子回路演習のカリキュラムに取り入れているのですが、今日はその開発者であるMike Engelhardtさんがわざわざ来校してくださいました。Mikeさん、京都大学にようこそ。

Engelhardt:こちらこそ、緑豊かな京都大学の桂キャンパスを訪れる機会を与えていただいて、嬉しく思います。

久門:本学の電気電子工学科には毎年およそ130名の学生が入学してきます。回路の仕組みや理論を学生たちに理解してもらうために、どのようなカリキュラムを設定すべきかが常に課題になるわけですが、2016年度から新たな取り組みとして、理論、実験、およびシミュレーションの三つの観点を連動させたカリキュラムを組むことを考えました(図1)。

 具体的には、理論を補強するための数値解析ツールとしてGNUの「Octave」[*2]、実験を補強するためのツールとしてNI社のポータブルオシロスコープ「myDAQ」[*3]、そして、シミュレーションツールとしてLTspiceをそれぞれ導入し、1回生(1年生)前期から3回生後期まで、これら3種類のツールを活用したカリキュラムを設定しています。

Engelhardt:GNU Octaveは私も使っていますよ。グラフを描かせたりではなくて、どちらかというと関数電卓的な使い方ですが。ところで、「前期」「後期」というのは学期(セメスター)ですか?

木村:そうです。本校は4年制で、それぞれ4月から9月までの前期と、10月から3月までの後期に分かれています。

久門:カリキュラムに実験が入ってくる2回生前期の場合を説明すると、時間領域、周波数領域、2ポート回路、増幅回路、および帰還回路のそれぞれのシミュレーションと実験測定を15回の講義に分けて行っています。たとえばLCRを直列に接続した共振回路を題材にして、LTspiceを使ってシミュレーションを行うとともに(図2)、ブレッドボード上に回路を組ませてmyDAQで測定し、それらを1回生のときに学んだ過渡現象の理論と結びつけながら理解させます。

木村:このうちのLTspiceを使ったシミュレーションは事前課題として自宅でやらせて、本学の学習支援サービス「PandA」を通じてスクリーンショットなどを提出させています。

久門:パソコンは学生の個人所有を前提としていて、いわゆる「BYOD」(Bring Your Own Device)ですが、所有していない学生には学校から貸与します。ちなみにLTspiceは無償で利用できるので助かっています。

図1. 京都大学工学部 電気電子工学科における回路演習カリキュラムの目的
[画像のクリックで拡大表示]
図2. 2回生前期で学ぶLCR直列共振回路のシミュレーション例
[画像のクリックで拡大表示]
*1: http://www.linear-tech.co.jp/designtools/software/
*2: https://www.gnu.org/software/octave/
*3: http://www.ni.com/mydaq/ja/

理論+実験+シミュレーションの3本立てで理解を深める

久門:課題を講師側から与えるだけだとそこから発展しないので、シミュレーションと実験がひととり終わったあとは「発展課題へのガイド(指針)」を与えて応用を広げてもらうように工夫しています。たとえば直列共振回路の場合は、回路定数を変えたらどうなるか、電圧源の特性を変えたらどうなるか、エネルギーのやりとりはどうなっているか、キルヒホッフの法則は成り立っているか、など、いくつかの視点を与えるようにしています。

 それぞれの演習に対して発展課題を含むレポートを提出させ、最後に班単位で「ポスター発表会」(図3)を開催して終了です。発表テーマは演習に関係さえすれば基本的に自由で、理論、実験、シミュレーションのいずれでもよく、なかには電子楽器を作ってきた班もありました。

Engelhardt:なるほど、大変興味深いお話をありがとうございました。せっかくなので学生さんに役立つ機能をご紹介したいと思います。ひとつが波形ファイルのエクスポートおよびインポート機能です。LTspiceはシミュレーション結果を.WAVファイル(音声ファイル)として書き出すことができるようになっています。LTspice間でのデータの受け渡しにも使えるのですが、面白い使い方としては、得られた.wavファイルをパソコン上で再生すれば波形によっては音が鳴ってくれます。また、.WAVファイルをインポートして電圧源として与えることも可能です。

木村:波形のエクスポート機能に関連してひとつ教えてください。シミュレーション結果をPWL(区分的線形)テキストファイルとして出力してMicrosoft Excelなどでグラフ化しようとする際に、時間領域データのエクスポートでは問題ないのですが、周波数領域データを極座標(polar)または直交座標(cartesian)でエクスポートするとTABとカンマの二つがセパレータとして使われるため、セパレータをひとつしか指定できないExcelでうまく読み込めないという問題があって、学生がいつも苦労します。なにかいい解決方法はありませんか?

Engelhardt:手っ取り早い方法としては、セパレータ文字を変換するCプログラムを書くのが簡単と思います。必要なら作って差し上げますよ。

久門:私もひとつお尋ねしたいのですが、複数のコンダクタンスを含む伝送線路のシミュレーションはどうすればいいのでしょうか?

Engelhardt:マルチ・コンダクタンスのシミュレーションはかなり難しいんです。

久門:やはりそうなんですね。

Engelhardt:久門先生が言われるマルチ・コンダクタンスの伝送線路というのはケーブルや基板トレースを表したものと思いますが、LTspiceは基板設計などにも適用できる電磁界解析なツールではなく、あくまで回路設計を対象にしたツールです。LTspiceでシミュレーションするには、コンダクタンス成分を持つ分布定数線路をインダクタとキャパシタなどで構成される集中定数回路の集合とみなして等価回路を作り、K-statementと呼ぶSPICEディレクティブを使ってそれぞれの結合係数をひとつずつ定義してやらなけれならずとても大変です。適当な解決策を提案できずに申し訳ありません。

図3. 2回生と3回生の前期と後期にそれぞれ開催されるポスター発表会(班ごとの自由演習発表)
[画像のクリックで拡大表示]

ADIでもLTspiceを引き続きサポート

Engelhardt:すでにご存知とは思いますが、これまでご要望の多かった64ビット版の「LTspice XVII」(セブンティーン)を2016年7月にリリースしました。ウィンドウのフローティング表示やマルチモニター表示ができるようになって視認性と操作性が高まったほか、ダイオードのソフトリカバリパラメータの追加、およびIGBTシンボルの追加などを行っています。それからUnicodeに対応したことで、回路図中のノード名、部品名、コメントなどに日本語が使えるようになりました。新しいバージョンのLTspice XVIIもぜひ活用してください。

久門:LTspiceはノード数や素子数に制限がなく、また旧リニアテクノロジーをはじめとするさまざまなデバイスのパラメータが同梱されているなど、無償でありながらとても優れたツールと感じています。開発者であるEngelhardtさんと直接お話ができて今日はとても光栄でした。ありがとうございました。

Engelhardt:こちらこそありがとうございます。リニアテクノロジーは2017年3月を以ってアナログ・デバイセズの一員となりましたが、LTspiceについては開発とサポートを続けていきます。これからも京都大学のカリキュラムにお役に立てれば幸いです。

写真左から:京都大学 木村真之助教、同 久門尚史准教授、Mike Engelhardt氏、アナログ・デバイセズ株式会社 原田秀一氏
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