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バッテリのムダを最小限にするアクティブバランスIC、 92%という高効率でセル間のバランスを維持

バッテリのムダを最小限にするアクティブバランスIC、92%という高効率でセル間のバランスを維持

Liイオンバッテリを使った蓄電システムは産業機器から自動車まで幅広い用途で利用されるようになった。その性能を最大化するひとつの手段がセルバランシング制御である。先進的なアナログ半導体で知られるリニアテクノロジーは、残量の多いセルのエネルギーをセルスタック全体に再配分してセル間のエネルギーバランスを維持する、マルチセル・バッテリ・バランサIC「LTC3300-1」を開発した。セル間でばらついたエネルギーを92%もの高効率で再配分し、バッテリの実効容量を最大限に高めてくれる。

畠山 竜声 氏
畠山 竜声 氏
リニアテクノロジー株式会社
東日本地区
統括セールスマネージャ

 Liイオン電池の応用範囲が広がるにつれて、複数のセルを直列に接続したいわゆるマルチセル構成のバッテリスタック(ストリングやモジュールとも呼ばれる)を使ったアプリケーションが増えてきた。

 一般にLiイオン電池の性能を最大限に引き出すには、充電状態(State of Charge:SOC)を正確に把握しながら、過放電や過充電に至らないようにきめ細かく充放電制御を行う必要があるが、加えてマルチセルの場合は、各セルのSOCを揃える「セル・バランシング(均等化)」制御も必要になってくる。「各セルのSOCが等しくないと、バッテリシステム全体の容量が実効的に低下する現象が起こります」と、リニアテクノロジーで統括セールスマネージャーを務める畠山氏は課題を説明する。

 マルチセルのバッテリスタックにおいて、セルのアンバランスが与える影響とセルバランシングによって得られる効果を簡単に説明しよう。ここで単純化のために、セル容量は公称100Ah±10%とし、具体的にはセル1の実容量が110Ah、セル10が90Ah、残りのセル2からセル9は100Ahとする。また、セルの劣化を抑えるために、SOCは30%から70%の範囲で使用するものとする。

電池容量のリカバリー例
電池容量のリカバリー例
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セルバランシングなし:実効容量が25%低下

 まずバランシングを行わない場合を考えてみる。セルスタック全体が放電していくにつれて、実容量がもっとも小さいセル10が他のセルよりも先にSOC 30%(放電終止電圧)に到達するだろう。この時点で、実容量100Ahのセル2~セル9のSOCは37%、実容量110Ahのセル1のSOCは43%と、他のセルはまだエネルギーを供給できる余力を残しているが、これ以上放電を続けるとセル10のSOCが30%未満に低下してしまうため、放電を速やかにやめて充電サイクルに移行しなければならない。

 次に、セルスタック全体が充電されるにつれて、実容量がもっとも大きいセル1が他のセルよりも先にSOC 70%(充電終止電圧)に到達するだろう。この時点で、実容量100Ahのセル2~セル9はSOC 67%、実容量90Ahのセル10はSOC 63%と、他のセルはまだ充電できる余地を残しているが、これ以上充電を続けるとセル1のSOCが70%を超えてしまうため、速やかに充電を停止しなければならない。

 放電から充電に切り替わるときの残存容量は47Ah+37Ah×8+27Ah=370Ah、充電を終了した時点での残存容量は77Ah+67Ah×8+57Ah=670Ahなので、このセルスタックの実効容量は670Ah-370Ah=300Ahと求められる。あとで述べるように本来は400Ahが使えるので、セルのアンバランスによって25%もの容量が実効的に失われたことになる。

電池容量のリカバリー例:バランシングをしない場合
電池容量のリカバリー例:バランシングをしない場合

パッシブバランシング:改善されるも実効容量は定格の82%

 次に、パッシブバランシングを行った場合を考える。パッシブバランシングとは、SOCの大きなセルのエネルギーを抵抗器を介して放電し、SOCのもっとも小さいセルに合わせる制御方式である。バランシング回路が比較的簡単で、たとえば電圧測定精度0.04%を実現したリニアテクノロジーのバッテリ・マネージメント・システムIC「LTC6804」にも同機能が内蔵されている。

 パッシブバランシングでの放電はバランシングを行わない場合と同じである。つまり、実容量がもっとも小さいセル10によってスタック全体の放電終止点が決まる。エネルギーを供給できる余力を残した他のセル(セル1からセル9)のSOCを放電によって揃えることもできるが、熱として捨てるだけでシステムで利用することはできない。

 パッシブバランシングの効果が得られるのは充電時だ。すべてのセルが充電終止電圧(この例ではSOC 70%)に達するまで、先に充電終止電圧に達したセルのエネルギーをパッシブバランス抵抗を通じて放電させることで、すべてのセルのSOCを揃えることができる。10個のコップに水を注いだとき、すべてのコップが満杯になるまで、先に満杯になったコップから水を溢れさせて捨てるイメージだ。

 すべてのセルのSOCが70%に達して充電を終了した時点での残存容量は77Ah+70Ah×8+63Ah=700Ahになる。放電から充電に切り替わるときの残存容量は370Ahのままなので、パッシブバランシングを行ったときの実効容量は700Ah-370Ah=330Ahと求められ、バランシングを行わない場合に比べて30Ahほど増える。

電池容量のリカバリー例:パッシブバランスの場合
電池容量のリカバリー例:パッシブバランスの場合

アクティブバランシング:実容量をフルに利用可能

 パッシブバランシングでは熱として捨てていたエネルギーをSOCの小さいセルに「再配分」する制御方式が「アクティブバランシング」である。ここで「再配分」とは、SOCの大きなセルの余剰なエネルギーをインダクタなどに蓄えたのち、セルスタック全体に対して充電を行うという意味だ。もっともたくさん水が残っているコップの水を、ほかのコップすべてに均等に分け与えるイメージに近いだろう。

 先ほどのパッシブバランシングは充電側にしか効果が得られないが、アクティブバランシングは放電側と充電側の両方に効果が得られるのが特徴だ。

 つまり放電においては、すべてのセルが放電終止電圧(この例ではSOC 30%)に達するまで、SOCの大きいセルからエネルギーを取り出してセルスタック全体に分配することで、すべてのセルを放電終止電圧まで使うことができる。再配分におけるエネルギー効率を理想値の100%と仮定すると、残存容量は33Ah+30Ah×8+27Ah=300Ahになるだろう。

 充電側はパッシブバランシングと同様だが、エネルギーを再配分するため無駄な熱が発生しない。コップから溢れた水を捨てずに回収して、他のコップに分配するイメージだ。

 結果として、すべてのセルのSOCが70%に達して充電を終了した時点での残存容量はパッシブバランシングと同じ700Ahとなり、一方で放電から充電に切り替わるときの残存容量は300Ahなので、アクティブバランシングを行ったときの実効容量は700Ah-300Ah=400Ahと求められる。これは定格上の最大値に相当し、バランシングを行わない場合に比べて100Ah、パッシブバランシングを行った場合に比べても70Ahほど、それぞれ有効に使えるエネルギーが増えることがわかる。

電池容量のリカバリー例:アクティブバランスの場合
電池容量のリカバリー例:アクティブバランスの場合

高効率かつ短時間でセル間バランスを実現

 リニアテクノロジーが開発した「LTC3300-1」は、こうしたアクティブバランスを実現するマルチセル・バッテリ・バランサーICだ(図2)。1個の「LTC3300-1」あたり最大6セルのLiイオンバッテリまたはLiFePO4バッテリのバランシングと、最大12セルへの電荷再分配が可能である。また、スタッカブル・アーキテクチャを採用しているため、総出力電圧が1000Vを超えるような多段構成のバッテリシステムにも対応できる。

 「LTC3300-1」の最大の特徴はエネルギー変換効率の高さである。最大で92%もの電荷転送効率を実現しており、パッシブバランシングでは熱として捨ててしまうエネルギーの最大92%をSOCの大きなセルからSOCの小さいセルへと分配できる。「現時点で入手できるアクティブバランスICとしては群を抜いた効率を実現しています」(畠山氏)。

 エネルギーを再配分する仕組みはスイッチングレギュレータのPWM制御に似ている。SOCの大きなセルのエネルギーをFETを介してトランスの一次側に蓄え、次にFETを遮断してフライバックトランスの二次側に生じるパルス電流を他のバッテリセルに与えてエネルギーを転送するという仕組みである(図3)。なお、SOCの検出やバランシングアルゴリズムの実装には、「LTC6804」などのバッテリ・マネージメント・システムICや外部マイコンを用いる。

 「LTC3300-1」は外付け部品の定格にもよるが最大10Aまでの範囲でバランス電流を設定できるため、セル間のSOCの差が大きい場合でもバランシングに要する時間が短くて済む点も特徴だ。パッシブバランスでは電流を熱に変える抵抗器の大きさで電流値が決まるため、あまり大きなバランス電流は設定できず、バランシングに相応の時間を要してしまう。

図2. マルチセル・バッテリバランサーIC「LTC3300-1」
図2. マルチセル・バッテリバランサーIC「LTC3300-1」
図3. 同期フライバック方式を採用した「LTC3300-1」の動作波形
図3. 同期フライバック方式を採用した「LTC3300-1」の動作波形
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大容量アプリケーションに適したアクティブ方式

 セル間のアンバランスは、製造ばらつきで生じるほか、使用環境(たとえばセル間の環境温度差)などに起因して徐々に蓄積されていく。また、保守や修理などで一部のセルを交換した場合には、古いセルと新しいセルとの間で大きなアンバランスが生じることも考えられる。つまり、たとえ初期ばらつきの小さいセルを選別してスタックを構成したとしても、時間の経過とともに、実容量の一部がいわば失われた状態になっていく可能性が高い。

 「アンバランスに起因する実効容量の低下を見越して最初から大きめのバッテリを搭載しておく、といった対策も考えられますが、かなりのコスト高になってしまうでしょう。パッシブかアクティブかを問わず、Liイオンバッテリシステムの性能を高めるには、バランシング制御は不可欠と考えています」と畠山氏。

 なかでもアクティブバランシングは、自動車、産業機器、非常用蓄電池など、バッテリ容量が大きいアプリケーションに最適だ。パッシブバランシングでは大きなバランシング電流を設定することが難しいためである。「LTC3300-1」ならバランシング電流を最大10Aの範囲で設定でき、セル間のSOCの差が大きくても短時間をバランスを確保できる。

 「バッテリ容量を有効利用できるといったアクティブバランスのメリットが認知されるにつれて、容量が比較的大きなバッテリを搭載する産業機器や自動車分野のお客様からの問い合わせが増えています」と畠山氏は述べている。

 「LTC3300-1」はすでに量産状態にあり、バッテリ・マネージメント・システムIC「LTC6803」を搭載した12セル対応の評価キットも提供中だ(図4)。Liイオンバッテリの性能を可能な限り引き出したい、というアプリケーションには、アクティブバランスを実現する「LTC3300-1」を検討してみてはいかがだろう。

図4. 12セル2.5Aアクティブバランス方式の評価ボード(1A~4Aに設定可能)
図4. 12セル2.5Aアクティブバランス方式の評価ボード(1A~4Aに設定可能)

パッシブバランス機能を内蔵するとともに、セル電圧(SOC)の計測制度を0.04%にまで高めたリニアテクノロジーのバッテリ・マネージメント・システムIC「LTC6804」については、「バッテリセル電圧を精度0.04%で正確に計測、システム全体のコスト削減にも貢献」をご参照ください。またリニアテクノロジーでは、日経エレクトロニクス誌2013年4月1日号に、「アクティブ・セル・バランスで電池システムを長寿命に」というタイトルで「LTC3300-1」の技術論文を寄稿していますので、合わせてご参照ください。

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