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日経テクノロジーonline SPECIAL

進化を続けるアナログ技術、デジタルとの融合で新たな世代へ

1981年の創業以来、電源レギュレータ、A/DおよびD/Aコンバータ、シグナルコンディショニングなど、さまざまなアナログICを開発してきたリニアテクノロジー。共同創業者の一人で、現在は最高技術責任者(CTO)を務めるロバート・ドプキン氏は、社内でも10名ほどしかいない優れたアナログ技術者に贈られる「アナログ・グル」(guru:導師、第一人者)の称号の持ち主だ。来日した同氏に、アナログ技術者の育成やアナログ技術の将来について訊いた。

ロバート・ドプキン氏
(Robert C.Dopkin)
Linear Technology Coporation
最高技術責任者(CTO)

―リニアテクノロジーは以前からアナログ技術の重要性を唱えています。その理由を教えてください。

ドブキン:私たちが住んでいる実世界(リアル・ワールド)はアナログの情報でできています。光、温度、電圧、電流、時間、圧力、ノイズなど、すべての情報はアナログであり、そうした情報をデジタル値に変換してからデジタル的に処理するにしても、私たちが実世界とコンタクトしようとすればアナログ以外に方法がありません。情報化社会の中ではデジタル技術に注目が集まりがちですが、アナログ技術がなければデジタル技術は発展しません。アナログは避けて通ることはできないきわめて重要な技術なのです。

―ロジックとして理解できるデジタル回路に比べて、アナログ回路には難しいというイメージがつきまといます。

ドブキン:そういった側面はたしかにあると思います。デジタルの世界では情報は0と1だけで構成されており、順序どおり処理すれば、プロセッサを使おうと、ロジックを使おうと、FPGAを使おうと、最後には同じ結果が得られます。

 一方で、アナログは素子や回路方式によって得られる結果が違ってきます。あるアンプではドリフトが問題になるかもしれませんし、別のアンプではノイズが問題になるかもしれません。そういう意味ではアナログは回路がとても重要であり、処理の順番を含めて正しい回路を設計できるようになるにはアナログ技術に関して多くの経験が必要です。また、デジタルには正解がありますが、アナログは正解かどうかは回路を作ってみないと判らないときもあります。そういった違いもあって、アナログ回路は難しいと考えられているのでしょう。

アナログ技術の習得には先人の回路図の読み込みが近道

―ドブキンさんご自身はアナログ技術をどのようにして学んだのですか。

ドブキン:大学を卒業後に最初に勤めた会社はフィラデルフィア近郊にあるGE Re-entry Systems社です。当時は計測器のマニュアルには必ず回路図が載っていて、社内の較正室に行ってはマニュアルを借りてきて回路を読んでいました。なにしろアナログの大先輩達が設計した実際に動く回路ですから大変勉強になるわけです。ちょうど言葉を覚えていくときと同じように、回路の小さい部分を理解しながらアナログ技術のボキャブラリを増やしていきました。ただ、私がそうやって勉強した1970年代はマニュアルに全部の回路が載っていましたが、残念ながら最近はブロック図しか載らなくなってしまいました。

―ご指摘のようにドブキンさんが学んだ時代とは違って現在は回路図が開示されることがほとんどありません。若い人はどう学べばいいのでしょうか。

ドブキン:古いマニュアルはインターネットオークションなどで手に入りますし、「IEEE Journal of Solid State Circuit(JSCC)」のような専門誌のバックナンバーは大きな図書館に収蔵されているはずです。また、MIT(マサチューセッツ工科大学)で測定器の修理を担当し、その後リニアテクノロジーで共に働いたJim Williams(故人)と私とで著した「Analog Circuit Design」[*1]という書籍に動作検証済み回路と動作の仕組みが載っていますので、こちらを参考にしてください。

―リニアテクノロジー本社ではどのように若手を育成しているのですか。

ドブキン:新卒で入った社員やインターンシップとして大学から短期で来た学生は、ベテランのアナログエンジニアと最初からペアを組ませて、製品ICの開発を担当させます。設計技術を体得できるのはもちろんとして、それ以上に、チップが完成したときに感じる達成感ややりがいは相当大きなものになります。インターンで来た学生はいったんは大学に戻りますが、アナログ技術の楽しさと達成感を知っていますから、卒業後はほとんどがリニアテクノロジーへの入社を希望してきます。当社は「誰もやめない会社」[*2]と言われていますが、そんなところにも秘密があるのかもしれません。

―日本のメーカーでは、アナログ技術者がデジタル部門に配置転換されるなど、アナログ技術の弱化が指摘されています。

ドブキン:日本のメーカーにどういった事情があるのか詳しくは知りませんが、仮にアナログ技術者がデジタルを担当するようになったとしても、優れたエンジニアであればアナログかデジタルかを問わずにきちんとした仕事ができるはずですし、冒頭で述べたように実世界とのインタフェースにはアナログが必須ですから、両方を理解できるエンジニアはとても重宝されるはずです。それに一度身につけたアナログ技術は忘れないものですよ。

 米国のメーカーでは少数のアナログエンジニアが社内のさまざまなプロジェクトを横断的に渡りながら開発に携わるのが一般的です。また、優れたアナログ技術者は相応の待遇を得ています。つまり、優れたアナログ技術者を抱えていることは、メーカーから見てとても大きな価値になると捉えられているのです。

[*1]
・Analog Circuit Design: A Tutorial Guide to Applications and Solutions, Newnes, September 13, 2011(邦題「電源回路設計実例集: 制御ICのパフォーマンスを引き出すテクニック」および「アナログ計測回路設計実例集: 増幅, フィルタリング, ADC/DACの実用技術」、CQ出版)
・Analog Circuit Design, Volume 2: Immersion in the Black Art of Analog Design, Newnes, January 9, 2013
[*2]
「誰もやめない会社」、片瀬京子・蓬田宏樹著、日経BP社

絵を描くようにシリコンのキャンバスに回路を描く

―アナログ技術は今後どのように進化していくと見ていますか。

ドブキン:アナログの機能にデジタルが融合されていくことは間違いありません。たとえば、最近の電源レギュレータICには入出力電圧やダイ温度などを外部からモニタリングしたり、障害が発生したときにログをメモリに記録するような機能が備わっています。電源回路はアナログで構成されていても、アナログとデジタルの組み合わせによって高機能化が実現されているわけです。逆のことも言えて、A/DコンバータやD/Aコンバータがデジタル回路に統合されるようになってきました。

 回路方式や素子も進化していくでしょう。アナログ技術の進化はデジタル技術の進化に比べて緩やかですが、たとえば20年前には実現できなかった機能や性能が最新のアナログICでは実現できるようになるなど、さまざまな技術開発が今も進められています。

―どのようなところにアナログ技術の面白さを感じますか。

ドブキン:優れたアナログエンジニアはアーティストに似ています。シリコンをカンバスに見立てながら、トランジスタなどの素子を配置し信号の流れを高精度に描いていきます。多くの知識や経験に加えて、優れたセンスも求められます。しかしいい製品を開発できれば、30年以上ものロングセラーを生み出せるかもしれません。そういうところがアナログ技術の面白さではないでしょうか。

 また、これまで存在していなかった製品を作り出せるところにも面白さがあります。リニアレギュレータから負荷までの間で発生する電圧降下を補償する「ケーブル/ワイヤ電圧降下補償器」(LT6110)や、多系統の電圧を監視し調整する「パワー・システム・マネージメント」(PSMファミリ)などがその一例です。

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  リニアテクノロジーではアナログ技術に関するさまざまな情報をこれからも発信していきます。多くの方々がアナログ技術に興味を持ち面白さを感じてもらえれば嬉しく思います。

―ありがとうございました。

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  • アナログ・デバイセズ株式会社
    アナログ・デバイセズ株式会社

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