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日経テクノロジーonline SPECIAL

【リニア2011】第3回:LT3573 絶縁型フライバック・コンバータ

石田浩史氏
リニアテクノロジー
大阪支社
支社長

リニアテクノロジーの絶縁型フライバック・コンバータ用IC「LT3573」が,多くの電子機器設計者から好評を博している。同社が独自に開発した画期的な制御方式を採用することで,周辺回路の設計を簡略化。これによって多くの技術者が感じていた絶縁型DC-DCコンバータ設計の“ハードル”を一気に引き下げたからだ。しかも,電源回路の小型化,抵コスト化,信頼性向上にも貢献する。このICの登場によって,なかなか手が付けられていなかった電源回路の改良や,社外の技術に頼っていた電源回路設計の内製化に踏み切るメーカーがぐっと増えそうだ。

 フライバック・コンバータは,トランス(変圧器)における相互誘導を利用した絶縁型DC-DCコンバータの一種である。絶縁型DC-DCコンバー タは入力側と出力側が電気的に絶縁されており,雑音対策や感電対策を施すために用いられている。この特長を生かしてロジックコントローラや半導体製造装置といった産業用機器, CTやMRIといった医療機器など様々な分野で使われている。特に最近では高電圧部と低電圧部が内在するソーラーエネルギー関連や電気自動車などの需要が急速に増えてきた。

図1 絶縁型フライバック・コンバータIC「LT3573」の応用例
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 ところが,絶縁型DC-DCコンバータの設計が得意だと自信を持って言える技術者は,必ずしも多くはないのが現状のようだ。設計をする際に,アナログ回路設計の経験やノウハウが必要だからだ。「電源を専門に手掛ける技術者でなければ,なかなか踏み込みにくい領域です。このため社外からモジュールやユニットの形で調達したり,流用を繰り返しながら既存の回路を何年にも渡って使い続けたりしているお客様も少なくないようです」(リニアテクノロジー大阪支社 支社長の石田浩史氏)。ところが,ここにきてエネルギー利用の高効率化や機器の小型化の要求が市場で一段と高まってきたことから,設計を見直すに当たって,これまで避けていた電源設計の領域に踏み込まざるを得なくなってきた設計者が増えている。「LT3573」は,こうした技術者の前に立ちはだかる電源設計の“ハードル”を引き下げるための有力なソリューションを提供するICだ。LT3573は,制御回路を中心に絶縁型フライバック・コンバータの主要回路を集積したICである。入力電圧範囲は3V~40V。最大7Wの電力を供給できる電源を構成することができる。出力電圧は,一次側にある2本の外付け抵抗によって設定できるようになっている(図1)。

小型,高信頼の回路が簡単に設計できる

古川敦彦氏
ニアテクノロジー
大阪支社
フィールドアプリケーションエンジニア
マネージャ

 <小型化について>
 このICを使った絶縁型フライバック・コンバータの大きな特長は,一般的な絶縁型コンバータで2次側の電圧を制御するために使われているフォトカプラやトランスの3次巻線が不要なことだ。しかも,後述するように従来の絶縁型フライバック・コンバータに比べて小型のトランスが使える。またトランスを駆動するMOS FETも内蔵しているため,電源回路部品点数を減らすと同時に,回路全体の小型化を進めることができる(図2)。「フォトカプラ不要ということは,小型化のみならずコストにおいてもお客様のメリットになると思います」(同社大阪支社 フィールドアプリケーションエンジニア マネージャの古川敦彦氏)(図3)。

図2 今までの電源回路
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<信頼性について>
 もう一つ見逃せないのは,フォトカプラや3次巻線が不要になったことで,電源回路の信頼性を一段と高めることができることだ。「使用環境にもよりますがフォトカプラは時間とともに特性が劣化するため,一般には10年程度でメンテナンスが必要とされています。一方,3次巻線を使うとトランスが大きく,重くなるので,振動があるアプリケーションでは使いにくいといえます。LT3573は部品点数を減らしながら,信頼性を上げることができます」(古川氏)。

 <設計の容易さについて>
 MOS FETを内蔵しているとともに,選択が難しいといわれるトランスについては同社が推奨品のリストを用意している。その結果,IC回りの外付け部分の選定は,抵抗,コンデンサ,ダイオードに限られるため,多くの利点をもたらす絶縁型フライバック・コンバータ回路が,容易に設計できる。

図3 LT3573を搭載した評価ボード
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 実際,いち早く同ICの採用を決めた設計者の多くは,電源設計の経験は浅かったという。だが,この設計者は同ICの特長に注目し,慎重に試作検討したうえで量産品に導入に踏み切ったという。「既成のモジュールを利用すれば設計の手間は省けますが,搭載する機器の仕様に過不足なく合致した性能が得られるとは限りません。小型化を追求するうえでも限界があるでしょう。電源回路の合理化や改良を考えるお客様にとって,LT3573は有力なソリューションをもたらすはずです」(石田氏)。同社は,設計者が速やかにLT3573の検討に着手できるように評価ボード「LT3573-DC1228A」も用意している。

出力電圧の制御に
一次側フライバック波形を利用

図4 巻線比によりSW端子に発生するフライバック電圧に意味がある

 部品点数の削減やトランスの小型化などLT3573の多くの利点を生み出すカギとなったのは,1次側電圧だけで2次側の出力電圧を監視する同社独自の制御システムと,後述する「バウンダリ・モード」と呼ばれる制御方式のためである。

 出力電圧の制御システムは,1次側と2次側の電圧の関係がトランスの巻き線比に応じて一定であることを利用している(図4)。1次側で発生したフライバック電圧をICに内蔵した基準電圧と比較することで正確に把握。これによって2次側の電圧を制御する。ここでは電圧を検出する際に高い精度を要求される。「リニアテクノロジーは高精度の基準電圧源の設計で多くの実績があり,その精度の高さは市場でも定評があります。ここでは,この技術を活用しています」(古川氏)(図5)。

図5 優れた出力特性を実現
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 ただし,このシステムの場合,2次側の出力に直列に接続されるダイオードの温度特性が出力電圧に影響を与える。ダイオードは,温度が高くなると順方向電圧(Vf)が小さくなり,温度が低くなるとVfが大きくなるからだ。そこで,LT3573では,ダイオードと逆の温度特性を持つ補償回路を内蔵。これを利用してダイオードの温度特性に起因する誤差を補正している。この結果,出力電圧の温度による変動は,極めて小さい(図6

 バウンダリ・モード※とは電流モード制御方式のひとつで,2次側に流れる電流がゼロになるタイミングを正確に検出し,このタイミングで次のスイッチングサイクルを開始する制御方式である。つまり,負荷電流に応じてスイッチング周波数が変わる。「一見すると負荷によりスイッチング周波数が変化するのはデメリットに見えますが,2次側の電流がゼロのときに次のスイッチングサイクルが始まるので2次側の回路インピーダンスが出力電圧に影響を与えません」,「電流連続モードだと,まだ2次側に電流が流れているときに次のスイッチングサイクルが開始されるため,瞬間的にダイオードに流れる逆電流がノイズの原因になります。

図6 出力電圧の温度特性
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 ところがLT3573は2次側の電流がゼロのタイミングでスイッチングサイクルを開始するので,このダイオードのリカバリーによるノイズをかなり抑えることができます」(古川氏)(図7)。しかも,電流がゼロになるタイミングでスイッチングサイクルを開始するため回路で発生する損失もぐっと抑えることができる。この分,スイッチング周波数を高くすることができるので, 小型のトランスが利用できるようになるわけである。「また,固定周波数で動作をしていないということは,デューティ・サイクルが高い場合に検討しなければならない低調波発振も心配することはありません」(古川氏)。プロセス技術など半導体の技術ではなく,こうした回路の工夫によってICの付加価値を高める手法は,高性能アナログICを数多く手掛けるリニアテクノロジーならではといえよう。

製品ラインアップを着々と拡充

図7 雑音低減に有利な「バウンダリ・モード」(左上の波形)
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 同社は,様々な用途やユーザーの要求に対応できるようにLT3573と同様の特長を備えたフライバック・コンバータICの製品展開を着々と進めてきた。2009年12月には小容量の電源に向けた「LTC3574」を製品化している。「組み合わせて使う推奨トランスの種類やメーカーも増やしています。これとともに,より多くのお客様の要求に柔軟に対応できるようになるでしょう」(石田氏)。

 高度なアナログ回路の知識が求められる電源の設計を“聖域”にしている設計者は少なくないのではないだろうか。だが,設計の容易さと,回路の合理化を追求したLT3573のようなICを使えば,この“聖域”に足を踏み入れることができそうだ。市場の要求が厳しくなっていることから,従来の取り組みの延長だけでは市場の要求に対応できなくなっている。設計の一段と深い部分から見直そうとしている設計者に,リニアテクノロジーが開発した新たなコンセプトに基づいたフライバック・コンバータICは有力なソリューションをもたらすに違いない。

 ※バウンダリ・モード(Boundary 境界)は,電流連続モードと電流不連続モードの境目で動作することを意味する。

 ※ 会社名,製品名は,各社の商標もしくは登録商標です。

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