• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
日経テクノロジーonline SPECIAL

SiC MOSFETがいよいよ実用化段階へ マーケット・プルの技術開発で応用拡大

技術・応用動向
SiC MOSFETがいよいよ実用化段階へ
マーケット・プルの技術開発で応用拡大

インバーターやコンバーター、電源などの効率向上や小型化を狙って、次世代材料を使ったパワーデバイスに注目が集まっている。特にSiCベースのパワーデバイスは、その利用環境が急速に整ってきた。SiCダイオードは、太陽光発電や鉄道車両の分野で既に実用化され、自動車業界もその効果に強い関心を寄せている。さらに、SiC MOSFETも複数の半導体メーカーが製品化。いよいよ実用化に向かい始めた。こうした中で開催されたNE先端テクノロジーフォーラム「次世代パワー半導体のインパクト~SiCがグッと身近に~」では、パワーデバイス技術のさらなる進化を渇望する先進ユーザーと、それに応えようとするデバイスメーカーの間で活発な議論を交わした。

 地下鉄から新幹線に至る様々な鉄道車両、日々動き続けるエレベーター、電動化が進むクルマやバス、太陽光発電の高効化の要であるパワーコンディショナ—などSiCベースのパワーデバイスの応用が、急激に広がり始めた。この動きは、SiCベースのMOSFETが実用化することで、一層加速することだろう。

マーケット・プルで応用拡大

 SiC関連技術が進化してきた歴史の中で、日本の大学や企業が果たしてきた役割は大きい。日本では、エネルギーの有効活用と環境保全を重視する国情を反映して、戦略材料としてSiCを位置づけ、数々の国家プロジェクトを通じて基礎研究を積み上げてきた。

  SiCとその活用技術の研究開発に創生期から携わってきた京都大学 名誉教授 松波弘之氏は、量産可能なSiCベースのMOSFET技術が確立するまでに到達した現在の状況を見て、「SiCデバイスの技術開発の視点を、開発できた技術の応用を探す“テクノロジー・プッシュ”から、市場のニーズに合わせて技術開発を進める“マーケット・プル”へと移行すべき段階にさしかかっています。そして、大量生産できる市場を確保し、さらなる低価格化と一層の市場拡大を目指していくことが重要になります」と指摘した。

 SiCデバイスの活用を望む声が大きい応用の代表例として、無停電電源装置(UPS)が挙がる。UPSは、データセンターや交通・管制システムなど、一瞬たりとも止まることが許されないシステムを安定運用するための電源装置であり、不測の事態に備えて、絶えず動き続けている。そこにSiCデバイスを活用して、消費電力の削減や信頼性の向上が実現すれば、そのインパクトは極めて大きい。

  UPSは、コンバーターやインバーターなど電力変換回路を組み合わせて構成されている。これまでUPSを開発・供給するメーカーは、回路のトポロジー上の工夫や最先端のSi IGBTの活用によって、変換回路の効率向上や信頼性の向上を図ってきた。東芝三菱電機産業システム パワーエレクトロニクスシステム事業部 神達幸雄氏は、「SiCパワーデバイスを使うことで、UPS中の変換回路の効率が1%近く改善できると見ています。なるべく早期に製品に投入したい技術です。製品への投入の条件となる、一層の低コスト化、短絡耐量の向上、オン抵抗特性の温度依存性の改善が実現する日を、待ち望んでいます」と語った。

応用に即した新材料を選べる時代へ

  SiC以外の次世代材料を利用したパワーデバイスの技術開発と、その実用化に向けた利用環境の整備も着々と進んでいる。異なる材料をベースにしたパワーデバイスを、用途に応じて使い分ける時代が到来しつつある。

  SiCと同様に、実用化レベルに到達しているのがGaN。Siウエハー上のGaN層に形成した横型パワーデバイスが、既に実用化している。スイッチング損失の低減効果が大きく、高周波(数MHz~13.56MHz)で動作する電源回路に活用することで、受動部品の小型化による電源回路の小型・軽量化が実現する。ノーマリーオフのデバイスを作れないという課題があったが、回路上の工夫やデバイス構造上の工夫によって解決した。

  GaNベースの縦型パワーデバイスの研究開発も進んでいる。SiCデバイスは、オン抵抗をSiデバイスの1/450 に低減できる優位性を持っているが、縦型のGaNデバイスは、さらに1/2~1/4低減できる可能性を秘めている。2015年、豊田合成は、トレンチMOS構造を採用した縦型GaNデバイスを試作。1.8mΩcm2/1.2kVとSiC MOSFETのトップデータに肉薄する移動度が得られることを実証した。名古屋大学大学院 工学研究科 教授 須田淳氏は、「豊田合成の成果は、GaNデバイスの筋の良さを示しています。GaNデバイスの潜在能力を最大限まで引き出すため、しっかりとした基礎固めが重要になります」とした。

  早くもSiCやGaNを凌駕する可能性を秘めた新材料の活用も検討されるようになった。既にα型酸化ガリウム(Ga2O3)を活用して、世界最小のオン抵抗値0.1mΩcm2を実現した超低損失ショットキーバリア・ダイオードの試作例がある。移動度や絶縁破壊電界なども優れるα型Ga2O3のバンドギャップは5.3eV。4H-SiCの3.3eV、GaNの3.4eVよりも大きい。これまでは、α型Ga2O3の粉体を600℃に加熱すると相転移して、性質が変わってしまう問題があり、デバイス化は困難とされていた。この技術の開発に携わるFLOSFIA 共同創業者 京都大学 工学研究科 光・電子理工学教育研究センター助教の金子健太郎氏は「既に、加熱工程が問題にならない技術は確立済みであり、しかもコスト面でもSiデバイスに対抗できる競争力があります」とデバイスの実用化に向けて自信を見せている。