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日経テクノロジーonline SPECIAL

知的財産立国日本を影で支える技術者

高い専門性を持った技術者が、世界をリードする日本の産業を支えていることは間違いない。一方で、その貢献者であるはずの技術者が、持てる知見や経験を生かし切るキャリアパスを歩むことは、思いのほか難しい。産業構造が大きく変化する今の日本では、なおさらだ。技術者が培った力を生かし、一般企業ではとうに定年となっているような年齢まで、最先端の技術に触れながら活躍できる仕事。それが特許審査支援専門技術者である。日本最大の調査機関である一般財団法人 工業所有権協力センターの主席部員二人に、技術者の視点から見たこの仕事のやりがいと魅力を聞いた。

 工業所有権協力センター(IPCC:Industrial Property Cooperation Center)は、特許庁の審査官が特許、意匠登録、商標登録の出願を審査する際の業務を支援するために設立された機関である(図1)。「主席部員・調査員」と呼ばれる専門的な知見や経験を持った特許審査支援専門技術者(以下、「専門技術者」という。)が出願書類を読み下し、先行技術調査や分類付与など審査官の業務の一部を代行する。

図1 工業所有権協力センター本部(東京都江東区木場)の外観

 日本政府は、「世界最速・最高品質の特許審査」の実現に向けて、特許審査体制を整備・強化する方針を掲げている。その一翼を担っているのがIPCCであり、知的財産立国日本を影で支えている存在だといえる。

 世界をリードする技術が日々生まれる日本では、審査すべき出願の件数は莫大な数になる。IPCCには、特許庁から年間約10万件もの先行技術調査、約30万件もの分類付与の受注があり、それを専門分野の異なる4分門39グループで構成される約1600名の専門技術者が分担して当たっている(図2)。特許の新規性や進歩性を的確かつ厳正に審査するためには、専門的な知識と新しい技術を理解する高いリテラシーが欠かせない。このため、審査業務を支援する専門技術者は、民間企業や調査機関で技術開発に携わってきた技術者である。特定の専門分野での深い知識、新しい技術の価値を複合的に捉える広い知見など、技術開発の現場で培ったキャリアは、あればあるほどよい。このためIPCCは採用時の平均年齢が55.3歳と、ベテラン技術者を採用している。そして、嘱託員としては67歳まで、それ以降も最高73歳まで第一線で働くことができる。

図2 専門技術者の執務室内の風景

 3年目以降は目標とする業務量を希望に応じて設定でき、さらに68歳以降は勤務形態も、「常勤」「15日/月」「10日/月」の3タイプから選べ、それぞれ業務量に応じて年収が変動する。例えば嘱託員として標準的な業務量ならば年収は632万円であり、専門技術者を指導する副主幹さらに主幹(管理職)への登用制度を利用して、より責任の大きい仕事に従事すれば、さらに年収を高めることもできる。

 IPCCは、時代が求める働き方のダイバーシティ(多様化)を世に先駆けて実践してきた、見本のような職場だ。専門技術者が質の高い業務を継続的に行うことができる環境を作るため、一人ひとりの事情に合ったワークバランスを調整できる人事制度を採っている。フレックスタイム制(コアタイムは10時から15時)を採用し、専門技術者一人ひとりが個人の裁量で業務量や始業・終業時刻を決めることができる。こうした制度を活用することで、家族の介護に時間を割かなければならない事情を持つ人でも安心して、趣味を充実させたいと考える人も満足して、業務に携わっている。中には、仕事のおもしろさに魅せられ、業務スキルを向上して「1千万円プレーヤー」になった人もいるという。

仕事の内容を自分の裁量でコントロール

星野裕美氏
一般財団法人 工業所有権協力センター
調査業務センター 機械B部門 繊維包装機械グループ
主席部員

 IPCCの柔軟な人事制度を生かして、家族の介護と仕事を両立させて活躍している主席部員の一人が、繊維包装機械グループに所属する星野裕美氏である。

 2014年10月にIPCCに入団する前の同氏は、大手電機メーカーで半導体を微細加工するための電子線露光技術の開発に従事していた。技術者からの転身を考えたきっかけは、家族の介護に時間を割かなければならない事情ができて、時間の自由が利きにくい仕事に携わることが難しくなったためだったという。ただし、介護と仕事を両立できる職場は、それほど多くない。「時間の自由が利かせながら魅力的な仕事に就くことは、一般的な企業では望むべくもありません。IPCCは、仕事の内容を自分の裁量でコントロールできます。それが何より魅力でした」(星野氏)と、数ある転職候補先の中からIPCCを選択した理由を語った。

 前職での星野氏は、技術者として、一貫して新しい技術を生み出す立場に身を置いていた。長年携わってきた技術開発の仕事から特許審査支援の仕事に転じることに不安はなかったのだろうか。同氏は、「新しい技術を扱う仕事であることは変わりないので、違和感はありませんでした。しかし立場が、出願する側から審査を支援する側に変わるので、仕事の進め方や必要な知識の取得に多少の不安はありました。それでも前職の同僚で先にIPCCに勤めていた方がいて、十分な説明を聞いて安心して入団しました」。そして、実際に入団すると、不安はまったくなくなったという。特許庁での研修とその内容に対応したIPCCのバックアップ体制によって、新しい仕事を進めるうえでの知識などをスムーズに習得できたからだ。

働く人の事情と向上心を受け容れる包容力

 星野氏は、過去に開発してきた半導体製造技術とは異なる繊維包装機械グループに所属している。しかし、前職とは違った分野の最先端の技術に触れられる毎日を、新鮮で楽しいと感じているようだ。例え知識が足りない内容に直面しても、職場にいるのはその道の専門家ばかり、すぐにやさしく教えてもらえて知識の幅がどんどん広がっていくという。

 「発明は様々な技術の集大成です。今担当している分野で、過去に開発してきた技術に関連したことに再開できることもあります。そんな時にはとても嬉しく感じますね」(星野氏)という。近年の繊維の分野では、センサーを服に取り付けて利用するウエアラブルシステムのような特許が出てくるようになった。技術分野の境は、どんどんなくなりつつある。こうした時代の変化にも対応し、かつ主席部員の向上心を受け止めるため、IPCCには研修を受けて担当分野を拡大する「区分追加」と呼ぶ制度がある。星野氏は、「近々、半導体関連の部分も担当できるようになって、もっと仕事の幅を広げたいと思っています」と意欲を語った。

 現在、IPCCの専門技術者のうち、女性は24人にすぎない。ただし、彼女たちの結束は強い。月に一回、女子会と称して昼食を一緒に食べながら、仕事について、生活について、情報交換をしているのだという。星野氏は、「技術者として、男性が多い職場で仕事をしてきましたから、違和感はありません。むしろ様々な場面で気を使ってもらって、恐縮しているくらいです」と笑う。その一方で、特許審査支援の仕事は、実は女性が活躍できる場面が多いのだともいう。「調査した結果は、審査官に直接会って説明することになります。このとき、プレゼンテーション力が問われます。女性のやわらかい説明は、難しい内容を伝えるうえで、とても有利だと思います」という。こうした女性の適性はIPCCも感じているところであり、女性の専門技術者をさらに増やしていくべく奔走しているようだ。

知的シャワーを浴び続ける刺激的な毎日

佐藤兼一氏
一般財団法人 工業所有権協力センター
調査業務センター 電気部門 電話通信グループ
主席部員

 この上なく働きやすいIPCCの職場環境を生かして、セカンドライフをエンジョイしている人もいる。その一人である電話通信グループに所属する佐藤兼一氏は、仕事と趣味であるJ-POPのバンド活動の両方に打ち込む、充実した日々を送っている。

 IPCCに入団する前の同氏は、大手電機メーカーの通信機器部門に所属していた。1980年代に前職の会社に入社後は大型の電話交換機の開発に従事。その後は基礎技術の研究、システムエンジニアとしての顧客対応と、通信機器に関連した様々な仕事を経験してきた。同氏がキャリアを積んできた間の通信業界は、大型の交換機を使って電話網を集中制御する通信から、ルーターなど小型の通信機器を使ってデータネットワークを分散制御する通信へと、基盤技術のパラダイムシフトが起きた時代と軌を一にしていた。

 「激動の技術変革を現場で体感できたことは、今の仕事に役だっています。なくなることなどないと思っていた大型交換器が、小さな通信機器にあっさりと取って代わられたことは衝撃的な出来事でした。どんな技術にも、大きな可能性が秘められているのです」(佐藤氏)。同氏は、明細書に書かれた技術の可能性を丁寧に読み下すうちに、明細書の文面や添付されている図面に、それを書いた人の思いや背景が透けて見えることがあるのだという。そして、思いもよらなかったような技術との出会いの連続に、「知的シャワーを浴びているようなもので、とても刺激的な毎日です」と仕事のやりがいを語った。

仕事も趣味も全力投球

 そもそも、佐藤氏がIPCCに入団しようと考えたきっかけは、一般的な企業ならば定年を迎える60歳以降もバリバリと働き、趣味も楽しめるような充実した生活を送りたいと考えたからだという。そして、前職のセカンドキャリアの相談窓口で、技術者の経験を生かしながら佐藤氏が望む充実した生活を実現できる職場として、IPCCを紹介してもらったのだという。

 佐藤氏は、定年退職後に家で何もすることがない年寄りにはなりたくないと考え、50歳になったのを契機に、学生時代に練習したギターを引っ張り出してバンド活動を始めた。現在は、2つのバンドに所属し、自作の曲も作って、YouTubeで公開しているのだという。「IPCCはきっちりと仕事もしながら音楽にも打ち込める、願ってもない環境ですね。昨日も16時に退社して、カラオケボックスでボイストレーニングをしました」(佐藤氏)と声を弾ませる。

 バンド活動をしていると、同じ趣味を持った多くの人との出会いがあるという。電機メーカーに勤めていたころには、出会うこともなかったような分野・業種の人たちだ。趣味を通じて、視野はさらに大きく広がり、「楽器や映像などを含む音楽系の分野も担当したいと思っています」(佐藤氏)と仕事でも新しい目標が生まれているのだという。

 IPCCの専門技術者はみな、生きることに貪欲だ。仕事も、生活も、趣味も一切手抜きがない。ただし、それを可能にしているのは、働く人一人ひとりの目線で整えられた、IPCCの仕事の魅力、そして人事制度や職場環境があればこそだろう。

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