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日経テクノロジーonline SPECIAL

総論

製造業を巡る最先端の話題をテーマにフォーラムと展示会を繰り広げるイベント「FACTORY 2017 Fall」が、2017年10月11日(水)~13日(金)に東京ビッグサイトで開催された。今回のテーマは、「製造業再強化 ~プラットフォームを革新してデジタル化に挑む~」。デジタル化の取り組みで先行する企業などが、製造業革新を巡る最新の成果や技術、製品を披露した。ここではフォーラムの中から特に来場者の関心が高かった講演の概要を紹介する。

岡本 彰彦氏
リクルートホールディングス
執行役員

 FACTORY 2017 Fallの講演プログラムの中で最も注目を集めたのが、初日のオープニング・セッションである。AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)などの先進技術を活用したデジタル化の取り組みで先行する2つの企業が、それぞれの事例や戦略を披露した後、日経BP社の専門記者が壇上で公開取材を実施して、さらに踏み込んだ内容を聞き出すという企画だ。今回登壇したのは、リクルートホールディングス執行役員の岡本彰彦氏とDMG森精機常務執行役員、ビー・ユー・ジーDMG 森精機代表取締役社長の川島昭彦氏である。

 最初に登壇した岡本氏は、AIの実践的な活用事例を紹介した。同社は、AIの基礎理論を研究する「RIT(RECRUIT Institute of Technology)」を米国に設置するとともに、RITの成果を同社の事業に実装する役割を担う「RIT推進室」を日本に置いている。両部門が連携して事業への展開が進んでいる技術の一つが、「データ前処理オープンソースライブラリ『BigGorilla』」である。「BigGorillaは、データを分析するデータサイエンティストを支援するために開発しました。データ統合やデータの下準備に費やす時間を削減する様々な機能を提供します」(岡本氏)。例えば、表記のゆれを検出しながら、情報を整理してAIで処理しやすい形にデータを変換する機能である。「店舗の検索・予約サービスのデータベースでは、登録するお客様がデータを直接入力するようになっていることが少なくありません。ところが、この場合どうしても入力データにおいて表記のゆれが発生します。このゆれをBigGorillaが吸収することで、データの質を高めることができます」(岡本氏)。

 BigGorillaで変換したデータを使うことによって、社名や店舗名の名寄せ作業にかかる所要時間が、最大で1週間から5分へと短縮できるという。実際に同社は、約6万8000件の店舗が登録しているヘアサロンの検索・予約サイト「HOT PEPPER Beauty」の新規顧客開拓リスト作成にBigGorillaを適用。70倍以上も作業を効率化した。岡本氏は、このほかにRIT推進室が機械学習やBI(Business Intelligence)を活用して、同社が投資している企業のオペレーションを改善した事例なども紹介した。

「デジタル化」のインパクトに言及

川島 昭彦氏
DMG森精機
常務執行役員
ビー・ユー・ジーDMG森精機
代表取締役社長

 次に登壇した川島氏は、同社の工作機械などに搭載するOS(Operating System)「CELOS」を核とした新たなビジネスモデルについて語った。同氏は、工作機械の精度を追求するためには、工作機械の性能を高めるだけでなく、加工後の計測なども含めた一連の工程全体の最適化が不可欠と強調。そのための基盤を提供するために、CELOSを開発したと述べた。IoT化のための各種機能を含む、様々な機能を提供するアプリケーションが、CELOSに実装できるようになっており、顧客のニーズに応じたサービスを自由に構築できる。例えば、センサー類のデータを統合的に処理して異常をいち早く検知し、ダウンタイムを防止するサービスや、工具の主軸に取り付けた振動センサーを使って主軸の軸受けの部品交換タイミングを知らせるサービスなどを実現している。

 さらに同氏は、ベンダー横断の新たなプラットフォームとして、ドイツのベンダなどと設立したジョイントベンチャー「ADAMOS」にも言及した。ADAMOSではロボットや計測器なども含めて「工場長の目線でつながるシステム」を検討している。ここにCELOSも直結できる仕組みを実現する考えも明らかにした。

 講演後の公開取材では記者が、今回のFACTORY 2017 Fallのテーマでもあるデジタル化のインパクトや、業界の大きな変化を乗り切るうえでのポイントなどについて聞いた。その回答のなかで岡本氏は「AIはオープンソースでも提供されていますが、活用の局面で勝負を分けるのはデータの量と質」と指摘。さらに川島氏は「これからは連携できない技術は意味をなさない」と、俯瞰的な視点を持ってプラットフォームを作ることの重要性を訴えた。

深層学習で高度なロボット活用

藤吉 弘亘氏
中部大学
工学部
教授

 来場者の関心が高いAIに関する高度な取り組みに挑んだ中部大学工学部教授の藤吉弘亘氏の講演も多くの聴講者を集めた。藤吉氏は深層学習をロボットに適用した事例を紹介した。深層学習は、AIが自ら知識を蓄えていく点では機械学習と共通する。ただし、特徴点を手動で設定する機械学習と違い、深層学習では特徴点の抽出もAIが自動的に行う。藤吉氏は「畳み込みニューラルネットワーク」という手法により、局所の最大量を抜き出す作業を繰り返すことで特徴点抽出が可能と指摘。「特に難しいタスクで学習サンプルが多いものほど効果がある」(藤吉氏)という。

 藤吉氏は、米Amazon社が主催するロボット競技大会「Amazon Robotics Challenge」に出場するにあたり、深層学習を競技用のロボットに適用した。競技は物流倉庫の棚から指定された商品をピッキングする作業を競うもの。藤吉氏が所属する中部大学と中京大学、三菱電機の合同チームは2度目の参加となった2016年の大会から、ロボットに商品を覚え込ませるのに深層学習を活用している。あらかじめ指定された39種類の商品を3次元ビジョンセンサーで学習させて棚の中に入っているものを認識させる。そのうえで、そこまでの距離を算出し、適切な把持位置をロボットが見つけ出す。深層学習の応用により、90%の精度で正しく認識できるようになり、認識にかかる時間も、深層学習を使わなかった前回の1000ミリ秒から、269ミリ秒まで短縮している。

 2017年の大会では商品の種類が増えたことに加えて、一部の商品は競技30分前に公表される形式に変わった。つまり深層学習が一段と重要な環境となったわけだが、藤吉氏らのチームは3位という成績を残している。実際の物流に利用するにはもっと多くの商品に対応できるスケーラビリティーが必要なると藤吉氏は語ったうえで、「クラウド型の日用品データベースをつくり、それと深層学習を組み合わせた仕組みを設ければ、実用が可能になるのではないか」と提案した。

日本版のコンセプトを解説

徳増 伸二氏
経済産業省
製造産業局
参事官(デジタル化・産業システム担当)

 もう一つ、多くの聴講者を集めたのが、国際会議場で開催された経済産業省 製造産業局参事官 徳増伸二氏の講演である。「“Connected Industries”推進に向けた我が国製造業の課題と取り組み」と題した同氏の講演では、2017年3月に「我が国の産業が目指す姿を示すコンセプト」として経済産業省が発表した「Connected Industries」と、これに関連する施策を解説した。

 経産省はConnected Industriesを推進するために、様々な施策を展開している。先進事例の収集や中小企業への導入支援、国際標準化や人材育成などだ。先進事例は「ものづくり白書」に特集した第2節で約90件、ものづくり白書全体では約140件にのぼるという。中小企業支援では「スマートものづくり応援隊」として、全国25の商工会議所や大学でIoTのインストラクター育成支援を始めているほか、中小企業向けに使いやすいIoTツールの紹介などを行っている。

 国際標準化では、ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)内にアクショングループを設け、日独連携によるセキュリティーや標準化に関連する連携活動を進めている。その成果は日独の共同文書によってまとめられているという。徳増氏は「ドイツのIndustry 4.0と協力できるところは協力しながら、日本の強みを活かし戦う」と強調し、国際社会の中で日本の存在感を高める方針も示した。

タクトタイム半減も可能に

善家 充彦氏
安川電機
執行役員
技術部長

 今回のFACTORY 2017 Fallのフォーラムでは、製造業のデジタル化に関連する先進的な取り組みを進めている企業が数多く登壇した。その一つが、安川電機である。登壇した同社執行役員 技術部長の善家充彦氏は、産業自動化革命に向けた同社のソリューションコンセプト「i3-Mechatronics(アイキューブメカトロニクス)」を紹介した。「i3」は「integrated」「intelligent」「innovative」の3つのキーワードを表している。このコンセプトでは、ICT(情報通信技術)を導入した基幹システムの下でロボットやモーション製品に最大限の力を発揮させることを目指す。そのために同社は、ロボット制御用やモーション制御用等のコントローラを統合した新しい概念に基づくセルコントローラ「i3-Controller」を展開する方針だ。i3-Controllerは、同社が開発した「MECHATROLINK」以外の産業用ネットワークの規格にも対応することを前提にしている。基幹システムとの親和性も高める方針である。可視化や高効率化、高品質化のアプリケーションも同時に提供し、装置間連携や環境ロバスト性向上などを支援する考えだと語った。

 そのユースケースとして、善家氏は生産ラインでコンベアとロボットを同期させる事例を紹介した。一つのコントローラで両者を同時に制御することで、コンベアを止めることなく製品を流しながらロボットに作業をさせることができると言う。「これが実現すればタクトタイムを半減できるでしょう」(善家氏)。

ロボットをティーチレスで使う

滝野 一征氏
MUJIN
CEO 兼 共同創業者

 ロボットのコントローラを手がけるベンチャー企業MUJINのCEO 兼 共同創業者である滝野一征氏は、新しい考えに基づく同社のロボット・コントローラを紹介した。講演の冒頭で同氏は、ロボットの普及を妨げる4つの要因を指摘した。すなわち、「メーカーごとに操作方法が違う」「ティーチングが難しい」「知能化が難しい」「新規メーカーが参入困難」である。滝野氏はこれらの問題はいずれもコントローラに原因があると指摘。これらを踏まえて開発したのが同社のMUJINコントローラだという。

 MUJINコントローラの特徴の一つは、同社が開発した動作計画技術が実装されていること。「『ここに行け』という指令だけで自律的に動き方を考える技術で、ティーチレスで人間が期待する動きを実現することができます」(滝野氏)。干渉もロボットが自動的に回避し、また対象物やロボットのハンドが変わってもティーチングをし直す必要がないため、工数の大幅な削減が期待できる。もう一つの特徴は、コントローラがロボットのモータを直接制御している点だ。「メーカーの違いを超えてコントローラを共通化できます」(滝野氏)。このため、ロボットごとに異なる操作方法を覚える必要はなくなる。

 こうした特徴を備えたMUJINコントローラは、これまで適用が難しいとされてきた市場にもロボットを展開することを可能にしている。その一例が物流システムにおけるピッキング作業だ。ピッキングのための制御プログラムは、対象物が積まれている場所がパレットかケージかで大きく異なる。パレットはどの方向からでもアームを伸ばせるのに対し、ケージはアームを入れる方向が限定されるからだ。このような場合でも、同社の動作計画技術と自動干渉回避機能によりティーチレスで最適な方向を見つけることができるという。

無価値な搬送時間を圧縮

村松 啓且氏
ヤマハ発動機
IM事業部 FA統括部
統括部長

 ヤマハ発動機IM 事業部 FA 統括部 統括部長の村松啓且氏は、ロボットを導入した自動化生産ラインの構築を支援する基盤「Advanced Robotics Automation Platform」を紹介した。知覚、制御、動作などロボットシステムを構成する各要素について、構想や設計、調整など一連の開発工程を支援することで、自動化生産ラインの早期立ち上げを可能にする。

 村松氏は自動化の中でも、特に搬送の自動化の重要性を指摘した。「工程間の搬送時間は、組み立てのロボットが動かない無価値な時間」(村松氏)だからだ。同社はリニアコンベアモジュール「LCM-X」で、その短縮に努めている。ロボットとの協調動作が可能なほか、搬送中の衝突による機器停止を防ぐために衝突回避機能を設けている。またモジュール構造を取っていることも特徴で、現場での組み立てやラインの移設を容易にする。

 また生産ライン全体で最適化を図るために、ロボットを統合制御するコントローラ「YHX」を提供している。複数のロボットをスタッキング構造でつなぐことができるため、個々にケーブルをつなぐ必要がなく、省配線化が実現できると同時に、端子台数を減らすことで配電盤を小型にできる。同社製ロボットだけでなく他社製モータも制御できるため、ユーザーが独自に作ったユニットも制御可能だ。

見える化で「1ケタ違う品質」

生駒 昌章氏
富士ゼロックス
執行役員 モノ作り本部長

 富士ゼロックス執行役員 モノ作り本部長の生駒昌章氏は、スマート工場化による品質向上の取り組みについて語った。「複写機の世界ではコモディティ化が進み、販売量が数倍に拡大したことで品質トラブルが起きた時のインパクトは以前と比べものにならないほど大きくなりました」(生駒氏)。そこで現場の見える化をはじめとしたスマート工場化で、1ケタ違う品質レベルを目指しているという。

 生駒氏によると品質異常ゼロ化は、不良品を「入れない」「作らない」「出さない」「繰り返さない」の4つの「ない」を追求することで実現できる。そのために工程の何を見える化し、トレースすべきかを考えて構築したのが、スマート工場具現化ツールの「SCQM(Supply Chain Quality Management)」だ。

 SCQMでは、不良品を「入れない」ために4M2S変化点管理、「出さない」ために自工程完結、「作らない」ために良品条件の確立と監視、「繰り返さない」ために未然防止のノウハウ抽出をそれぞれ行っている。自工程完結は次の工程に不良品を引き継がないという考え方で、良品を作る条件を明確に定義してその条件が整う時だけ生産する。「例えばシステム点検により『今日故障する可能性がある』と判断できた場合は、ラインを動かさず、不良品を作るリスクを排除します」(生駒氏)。「繰り返さない」ための未然防止は、設計レベルにまで遡って不良品の原因を取り除くもので、部品を自動化システム前提で作り、自動化を高めることで不良品をなくす。同社は自社内だけでなくSCQMをパートナにも提供し、サプライチェーン全体での見える化と品質向上に取り組んでいる。

 以上のほかにも、オプティマル・プラス ジャパン、オムロン、ジェイテクト、シンクロン・ジャパン、HOYAサービスなどが登壇。それぞれ製造業革新に向けた最新の取り組みを披露した(ジェイテクトの講演内容)。