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先進テストシステム事例~車両走行試験システム

クルマの走行性能を作り込み、安全性を確保するためには、実車を使った走行試験が欠かせない。どんなにシミュレーション技術が進化したとしても、実車での試験の重要性は高まる一方だ。SUBARUは、堀場製作所、バーチャルメカニクス(VMC)と共同で、新コンセプトの車両試験システムを開発した。試験したい条件を自在に設定して、これまでの走行試験では得られなかった網羅性の高いデータを、短期間、低コストで得ることができる。開発したシステムは、自動運転車や電気自動車(EV)など、次世代車の安全性を確かなものにする際にも、強力な武器になることだろう。

 クルマの構造は、年々複雑化している。車内に搭載されるECU(電子制御ユニット)は増え続け、それらを密に連携させながら機構部品をより精緻に制御する方向へと技術開発が進んでいる。さらに自動ブレーキなど先進運転支援システム(ADAS)の搭載によって、複雑さはますます加速してきた。今後、ADASが自動運転システムへと進化していく中で、その傾向は一層高まることだろう。

思い通りの条件の下で、走行試験を実施したい

 クルマの走行性能を作り込み、安全性を確保するためには、システムを構成する個々の部品の動きだけではなく、それぞれの部品が正しく連携動作することを、多様な走行環境の中で検証しておく必要がある。その検証には、テストコースや公道での試験車を使った実路面での走行試験の繰り返しが欠かせない。シミュレーション技術が進化したとはいえ、クルマの複雑化により、実車を使った試験の重要性はむしろ高まっていると言えよう。

 ところが、実路面での走行試験には大きな課題がある。まず、走行試験を行うのには長い時間と膨大なコストが掛かる。試験車を作り上げるのにも時間や費用が掛かるが、試験する場所まで出向いて実施する際の時間とコストも大きな負担となっている。しかも、検証したい条件での走行試験が必ずできるとは限らない。走行試験を実施する実環境は、天候、気温、風、路面状態などによって常に変化するからだ。この点は、悪路の走行に向く四輪駆動車を中心に商品展開するSUBARUにとって、特に大きな悩みだった。

 同社は、極寒の雪道を求めて、ロシアやアラスカに行ってテストすることもあるという。ところが試験条件は天候次第。いざ現地に出向いても試験したい環境が本当にそこにあるとは限らない。雪質や積雪量などが変われば走行するクルマの挙動も変わってくるため、本来ならばさまざまな条件の下で走行試験をしたいところだ。しかし、実際には限られた条件下での試験結果から、検証を行わざるを得なかった。

  また、実路面での走行試験で出てきた課題への対応には、開発の大きな手戻りが発生してしまう。クルマの開発期間をむやみに長期化させないためにも、開発初期段階から“実車に近い検証環境”で課題を洗い出して解決することが求められていた。さらに、車両の制御の複雑化に伴って評価項目も格段に増加しており、試験の自動化と工数削減も必須であった。そこで、同社では試験条件の網羅性・再現性を高めつつ、これらの課題に対応できる「実路面に近いリアルな走行試験が可能な新しいシステム」の必要性を感じていた。

 SUBARUが望んでいるような車両試験システムは、今後の発展と普及が期待される自動運転車の実現にも欠かせない。自動走行中に遭遇するあらゆる環境の下で、徹底的にクルマの安全性を検証しておく必要があるからだ。ドライバーを補助するシステムであるADASとは異なり、自動運転車では危機を回避する責任と権限を、クルマに搭載したシステムが負う。このため、これまで以上に自動車メーカーがどれだけ網羅的な走行環境の下で安全性を検証し、自動運転システムを作り込んでいるかが問われる。

リアルな試験の条件をバーチャルな環境で生み出す

 SUBARUらが開発した車両試験システムは、試験条件を自在に設定可能であり、短時間かつ低コストで徹底した走行試験を実施できる画期的なものである(図)。

図 開発された車両試験システム
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日本ナショナルインスツルメンツ
マーケティングエンジニア 郭峰氏

 開発した試験システムは、試験車の車軸に想定する路面状況に応じた負荷を与え、その挙動を検知するダイナモメーターと、路面状況や車両運動を模擬的に作り出すシミュレーター、HIL(Hardware in the Loop)システムを組み合わせて構成されている。走行環境をバーチャルに作り出し、ダイナモメーターを通じて台上の試験車に与える負荷をきめ細かく制御する仕組みである。ダイナモメーターには堀場製作所の「SPARC」を、シミュレーターにはVMCの「CarSim」を使っている。両者をつなぐHILシステムの構築には、NIのシステム開発プラットフォーム「LabVIEW」とPXI対応のハードウエアを利用した。シミュレーターで路面状況を模擬したデジタルデータをダイナモメーターの制御に使うアナログ信号に変えている。「リアルとバーチャルをつなぐ、これまでになかった試験システムと言えます」(日本ナショナルインスツルメンツ マーケティングエンジニアの郭峰氏)。

 開発した試験システムの効果は絶大だ。SUBARUの試算によると、試験する場所への移動と滞在に要する時間は50%削減し、試験システムを運用するための人員も1/4に削減できる見込みだという。夏に日本で極寒の地の走行を想定した試験も実施できるし、首都高速のような試験車を走らせられない場所を想定した試験もできる。しかも、細かく条件を変えて、詳細なデータを取得することも可能だ。安全性を検証する上で最も肝心な精度も高く、「同じ条件の実路で走行試験した結果と比較すると、ほぼ同等の精度が得られることを確認しています」(郭氏)。加えて、特筆すべき点は、試験システム構築に要する期間とコストを劇的に削減できることである。

 路面状況を模擬するために利用したCarSimでは、シミュレーションで用いる車両モデルに、設計時の性能/動作検証に利用した3Dモデルをそのまま転用可能である。このため、改めて試験システム用にモデルを作る必要はない。また、ダイナモメーターのリアルな動きと、シミュレーターのバーチャルな動きを結ぶHILシステムに、柔軟で拡張性に優れたLabVIEWやPXIを使ったことで、システムの開発期間を1/12に、開発コストを約1/4に抑えることに成功している。LabVIEWは分かりやすいグラフィカルなユーザーインターフェースで、試験システムのプログラムを簡単に作成できる。SUBARUには、LabVIEWを使ったプログラミングができるエンジニアがいたため、システム開発を外部委託することなくシステム開発を進めることができたという。

 クルマの構造が複雑化し、自動運転車やEVが普及していく中で、効果的で効率的な走行試験ができる試験環境を保有していることは、自動車メーカーの開発力そのものに直結することだろう。SUBARUは、今回開発した新コンセプトの試験システムを、次期パワーユニット開発での電費/燃費の改善、フロントローディングでの開発、ドライバビリティーの改善、振動/騒音の改善にも活用していくという。自動車メーカーの新しいノウハウが、この試験システムの中に蓄積し、進化していくことになろう。

HIL (Hardware-​in-​the-​Loop)​シミュレーションについての詳細はこちら

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  • <2つの事例に学ぶ>
    SUBARU車両試験システム、HILプラットフォームを活用したTATA Motors~HILテストシステム技術資料と合わせて~

    実路テストをシュミレーションしたSUBARU:実装作業約2週間、ソフトウエア開発コストを1/6にした事例とは?さらに、TATA Motors社の事例としてパラレルハイブリッド車向けのHILテストシステムを紹介。HIL(Hardware-in-the-Loop)リソースキットも併せて、HILの全体像を知ることができる。HILに関する情報をまとめた貴重な資料だ。


    ■事例① SUBARU: 天候の影響を受けない、実路と同等の負荷条件を生成できる車両試験用システム構築を目指し、堀場製作所(HORIBA)ならびにバーチャルメカニクスと連携してシステムを開発。他社のソリューションを採用する場合と比べて製品購入コストは1/3、ソフトウエア開発コストを1/6に抑えた車輛試験システムを短期間で実現。

    ■事例② TATA Motors: PXIプラットフォームの拡張性と、NI VeriStandの即座に使用できる機能を利用して、相互に接続された6台のECUのテストを2ヶ月以内に完了。

    ■技術資料: HILテストシステムアーキテクチャやその実装方法、アプリケーションの作成方法、また、HIL テストシステム構築の際にリアルタイムプロセッサが使用できる様々なI/O インタフェースオプションなどについて解説。

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