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予知保全システムの実現には「計測」がポイント

IoTや人工知能(AI)を活用して、工場のスマート化を推し進める企業が増えている。しかし、いざ設備や機械の管理システム刷新に取り組もうにも、「何から始めたらよいのか分からない」「AIを活用しようにも、それを育てるためのデータがない」「システム構築に多額の費用が掛かりそうだが、投資対効果が見えない」といった悩みを抱え、頓挫している企業は多い。IoTやAIを活用して効果的な管理システムを構築するには、対象や目的を明確にした上で、適切な手順を踏んでシステム開発を進める必要がある。予知保全システムの構築を例にして、確実で効果的なスマート化を実現するための方法を解説する。

 IoTやAI(機械学習やディープラーニング)を活用して工場の生産性を向上させる取り組みが、あらゆる分野の製造業で活発化している。航空機のジェットエンジンや建設機械などでの成功例を範として、特に予知保全の実現を目指す企業が多い。生産に用いる設備や機械の故障や不具合の発生を事前に察知し、先回りして計画的に対処できれば、突発的な生産ラインの停止を回避できる。想定外の対処費用をなくし、高い生産性を継続的に維持するためには、ぜひ実現しておきたい管理システムのうちのひとつだ(図1)。

図1 設備や装置の状態を常時監視して故障や不具合を未然に対処
出典:ISO/DIS18434-1 Fig C.9
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IoTやAIの活用には前提がある

 予知保全システムの構築を検討し、既に開発に着手している企業も数多くある。しかし、IoTやAIなど高度な情報システムを導入するだけでは思ったような効果が得られないことに気づき、検討や開発の出だしでつまずく企業は意外と多い。

 予知保全システムでは、生産に用いる設備や機械にセンサーを取り付け、状態を知るためのデータを計測。IoTを使ってビッグデータ化し、AIなどで解析して故障や不具合を事前に察知し未然に防ぐ。予知保全システムの構築を目指す企業の多くは、こうした流れの中のIoTやAIの部分だけを注視してシステム開発を考える傾向がある。

岡田一成氏
日本ナショナルインスツルメンツ
シニアテクニカルマーケティング
マネジャー 

 しかし、これはとても大切なことを見失っていると言える。予知保全は、まずデータの計測から始まるという点である。IoTもAIも、現場で計測したデータを有効活用するための技術である。的確で高精度な計測が行えないと、いかに高度なIoTとAIを導入したとしても期待通りの成果が生み出せない可能性がある。

 ところが製造業の現場では、IoTやAIを活用する前提となる的確で高精度なデータ計測をしていないところが驚くほど多い。「当社が予知保全に関してコンサルティングを実施した国内企業は、過去2年間で200社を超えます。ところが、現場のデータを計測していない企業が8割以上を占めていることが分かりました。また、予知保全のセミナー参加者100名を対象にして実施したアンケート調査でも同様の傾向が見受けられました」と日本ナショナルインスツルメンツのシニアテクニカルマーケティングマネジャー岡田一成氏は言う。この状況でIoTやAIの活用を考えても、早晩先に進めなくなることは自明だ。

察知したいのは、装置の故障か、工場全体の不調か

 予知保全システムの検討・開発に際して、まず何をすべきなのか。多くの製造業の現場の実情を整理し、求めるシステムのあるべき姿を定め、その実現に向けた課題を考えて見よう。

 予知保全システムで管理する対象には、何段階かのレベルがある。システム規模の小さなものから順に「部品レベル」「マシンレベル」「プロセスライン・レベル」「工場レベル」と整理できる(図2)。そして、それぞれのレベルごとに、解析対象となる計測データの種類が違ってくる。部品の故障を事前に察知したいのか、工場全体の操業停止を察知したいのか。自社が予知保全を実現したいと考えるのはどのレベルに当たるのか、明確に意識してシステム構築に取り組まないと、思い描く効果を発揮する予知保全システムは出来ない。

図2 予知保全システムを使って管理する対象のレベル
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 そして、上位レベルになるほど、生産量や品質変動の推移やライン内での情報のやり取りといった、抽象度の高いデータの解析が重要になる傾向がある。例えば、製造設備の稼働状況の見える化が代表的な例であり、ITシステムの重要度が高くなる傾向がある。

 一方、下位レベルになるほど、機械の振動や音といった物理現象の精密な計測データが重要になる傾向があり、計測精度が求められるようになる。例えば、ジェットエンジンや建設機械の例で見られる予知保全、さらには工場内の個々の部品や機械を対象にした予知保全では、現場の状態を正しく知るための的確で高精度な計測が何より重要になる。

データ増大だけが課題ではない、計測の質こそが課題だ

 予知保全システムを構築する際の課題は、大きく3つに整理できる(図3)。「センサー計測時の課題」「センサー計測後の課題」「業界を超えた協力体制の必要性」である。このうちIoTやAIの活用は、「センサー計測後の課題」を解決するために有効な手段になる。しかし、この部分だけを解決しても効果的な予知保全システムを構築することはできない。特に、部品や設備、機械を対象にした予知保全システムでは、「センサー計測時の課題」と「業界を超えた協力体制の必要性」の部分の解決が極めて重要になる。

図3 予知保全システムを構築する際の3つの課題
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 「センサー計測時の課題」として、データ量の増加に対して、いかに対処すべきかを議論することが多い。その一方で、あまり気づかれていない重要な課題として、各種センサーの同期計測の実現がある。センサーで大量の計測データを取得しても、それが同期取りに失敗していたためデータ解析ができない例が意外と多い。

 例えば、大型装置の稼働状況をモニタリングする場合には、装置の各所に数多くのセンサーを取り付けてデータを計測することになる。ところが、それぞれのセンサーから得たデータに時間的同期が取れていないと、どんなに優秀なデータサイエンティストが解析したとしても、そこから価値あるデータを抽出することができない。

 また、Webカメラ、熱電対、加速度センサーなど異なるデータを組み合わせて分析する場合も多い。その際、それぞれのセンサーで得られるデータの形式が異なるため、関連性を的確に示せるようにしないと分析には使えない。

 Webカメラから得られるデータは、30フレーム/秒の動画像データだ。これに対し、熱電対のテータは毎秒1点の数値、加速度センサーのデータは毎秒1万点の数値で表現した波形データである。これら異質なデータをどのように的確に関連付けるかが、データ解析の成否を決める。加えて、それぞれのデータを扱うツール自体が異なるのが普通であり、データを取得する仕組みを作る段階で、データの同期を考慮して環境を整えておくことが不可欠になる(図4)。

図4 自動車開発で、走行時の映像、位置情報、各種センサーのデータを同期させて表示した例
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予知保全は医者の診断と同じ手順で進める

 では、的確で高精度な計測ができれば、後は高度なAIなどを活用して理想的な予知保全システムが構築できるのだろうか。実は、まだ解決しておくべき課題がある。次に考えたいのは、何を目的として予知保全システムを使いたいのかという点である。

 予知保全の目的は、大きく3つある。「異常検知」「原因診断」「寿命予測」である。この3つは、常にこの順番で解析を進める必要がある。つまり、「寿命予測」をするためには、まず「異常検知」、次に「原因診断」といった手順を踏む必要があるのだ。そして、それぞれの段階で、目的に応じて最適な解析手法を活用する必要がある(図5)。

図5 予知保全システムの利用目的によって、解析手法は変わる
出典:IMS Center Watchdog Agentの資料を基に作図
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 これは、検査、診断、予後観察などを、それぞれ別の視点から進める医者の診断手順と似ている。しかし、予知保全システムの構築を考えている多くの企業がAIの万能性を信じてシステム構築に臨み、壁に突き当たる例が多い。その一番の理由は、目的が明確になっていないことが挙げられる。

現場は異常への対処ではなく、根治を望む

 昨今、予知保全に関するシステム提案が数多く存在するが、大半は「異常検知」であり、原因診断ではない場合が多いことにお気付きだろうか。異常を検知した結果、部品交換や修理で対処するだけでよいのなら、この手法は効果的である。

 しかし多くの場合、単なる対処ではなく、故障や不具合を引き起こす根本的な原因を取り除いて根治したいと考える。例えば、データ分析の結果、ベアリングの外輪異常が見つかったとしよう。しかし、現場の担当者の仕事はこれでは終わらない。なぜベアリングの外輪異常が起こったのかを突き止めて根治しなければならないからだ。もし、ベアリングの取り付け穴の公差が大きいことによるガタが根本的な原因であったのなら、その対策が根治につながる。

 つまり、異常検知の次のステップである「原因診断」のプロセス構築が必須となる。蓄積した故障データから故障原因の候補が絞り込めるだけでも現場の保全業務効率は格段に向上するはずである。

 とはいえ、複雑な事象では、原因診断をAIや機械学習で実現することは極めて難しいだろう。そのため、こうした原因診断のプロセスを構築するためには、「業界を超えた協力体制」が必要とされる。データ解析の豊富な知識を持つデータサイエンティストと熟練エンジニアの協力体制により、原因診断における暗黙知を形式知に変えることができるようになるはずだ。

いきなり自動化を目指さず、まずは手動で手法を磨く

 予知保全システムは、設備や機械の稼働データを収集し、自動解析して、その結果をリアルタイムで知らせることを目指している。しかし、予知保全の対象や目的をハッキリさせないまま自動化システムを構築しても、効果的なものができあがることはない。日本ナショナルインスツルメンツは、より効果的なシステムを構築するためには、システム化する内容を手動で試してブラッシュアップしておくことを推奨している(図6)。「IoTは一日にしてならずです。手作業で実績を着実に積み上げながら、自動化していくことが大切です」(岡田氏)という。

図6 効果的な予知保全システムを構築するための実践的な手順
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 システム構築の手順は次のようなものだ。まず、解析の基準となるデータを計測する“ベースライン計測”を実施。そして、現場担当者を交えての故障モードの確認や熟練エンジニアの保全実施タイミングとの比較調査などを行い、計測手法や解析手法をブラッシュアップする。これまで、熟練エンジニアが属人的な暗黙知で判断していたことを、システム化できるまで作り込む。そして、ベースライン計測の結果を参照しながら、実際の計測データで満足できる結果が得られるようになった段階で自動化に踏み切る。

 実際、こうした手順を踏んで、効果的な予知保全システムを構築した実例が数多くあるという。例えば、回転機に加速度センサーを取り付け、振動データを取得し、周波数データ解析の結果を見ても判断できない異常をリアルタイムで検知する事例(図7)。この例は、大変シンプルで基本的ではあるが、ベアリングの異常検知のために、ベースライン計測として、基準データを100回収集し、傾向を判断するための機械学習を行っている。熟練のエンジニアでないと判断できないような回転機のベアリングのわずかな変化を確実に捕捉できる。

図7 回転機のわずかな異常をセンサーで検知
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 この他にも、品質工学のアルゴリズムを使って、出力音から品質基準の合否を判定する音響製品の出荷検査、加速度センサーで得た振動データを基にした旋盤の刃の摩耗検知、空回しした音で判断する回転機の出荷検査、非破壊検査と同様の方法でプラスチック製品に音を当てて実施する品質検査などに応用され、実際の生産ラインに導入されている。

 予知保全システムは、出来合いのシステムを導入すれば、すぐに成果が現れるようなものではない。システム構築は、現場を巻き込んだ開発である。そして、正しい現状把握と明確なビジョン、さらには的確な戦略が欠かせない。こうした、抑えどころさえ間違えなければ、製造業の競争力を底上げする効果的なシステムを作り上げることができる。

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  • 【IoTx機械学習の成功事例に学ぶ】
    機械学習を活用した異常検出システム、予知保全を実現!

    機械学習を活用した予知保全の成功事例を紹介。製造現場で事前に故障や不具合を防ぐ予知保全ソリューションへの期待が高まる中、機械学習アルゴリズムに「MT(マハラノビス・タグチ)法」の考え方を取り入れた、機械学習をベースとした予知保全を紹介する。また、追加資料としてIoTエバンジェリストが最新事情を1冊にまとめた資料も付属しており、予知保全を成功に導くためのポイントが学べる。

    近年、IoTやAIといったキーワードに注目が集まる一方で、製造現場では機械学習を使った予知保全には興味があるものの、何から始めたら良いのかわからないという声がよく聞かれる。実際、予知保全ソリューションを見てもコンセプトレベルで実際の成果がない場合も多い。そんな中、本事例では、既にいくつもの製造現場に導入され、着実に成果を挙げている予知保全ソリューションを紹介する。製造業でなじみ深い品質工学の「MT(マハラノビス・タグチ)法」の考え方を取り入れ、機械学習をベースとした予知保全を実現したもので、日本ナショナルインスツルメンツでは、本ソリューションのサンプルプログラムも提供している。後半では、IoTエバンジェリストが最新事情を1冊にまとめた資料も付属。多くのIoTシステムに関してアドバイスをしてきたNIのコンサルタントが、現場で得てきたノウハウを基に、IoTの代表的な活用法である「予知保全」の動向やセンサ計測や計測後の課題、異業種との協力体制の必要性など、多角的な視点でIoT実現に必要なポイントを一冊にまとめた大変貴重な資料である。

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