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日経テクノロジーonline SPECIAL

顧客の難題こそが進化の源泉、変化を続ける自動車市場に挑む

クルマの電子化と電動化を背景に重要性が高まる一方の車載半導体。回路の小型化、消費電力の低減、電磁波ノイズの抑制、開発効率の向上、高い品質や信頼性の確保など、自動車メーカーやサプライヤーが示すさまざまな「難題」に取り組んでいく必要がある。電源ICなどのアナログ半導体で知られるリニアテクノロジーと、車載用マイコンなどで知られるルネサス エレクトロニクスに車載半導体で今求められていることと、両社の取り組みを聞いた。

――リニアテクノロジーもルネサス エレクトロニクス(以下ルネサス)もそれぞれ車載分野で強いポジションを維持しています。ビジネスの現況について教えてください。

大村 ルネサスは、2011年の東日本大震災後、車載分野でのデザインイン(顧客採用)がいったん、落ち込みました。しかしながら2013年を底に回復し、2015年度には5000億円を超える過去最高のデザインイン金額を獲得しました。現在も車載用マイコンやSoC(システム・オン・チップ)では世界ナンバーワンのシェアですが、最近は特に、自動運転(ADAS)、車載情報システム(HMI)、低燃費エンジン、電気自動車(EV)などのいわゆるエコカーでの商談が活発化しています。

望月 リニアテクノロジーのビジネスもおかげさまで好調です。日本法人の売上高は公表していませんが、リニアテクノロジー全社の売上高の17%を占めており、その17%の半分強が車載関連です。実は日本で車載に力を入れ始めたのは2001年ごろですが、その当時はせいぜい売上高の数%で、自動車メーカーの近くにオフィスを開設しようとしても米国本社に重要性を理解してもらえず苦労した時代もありました。

 その後、クルマの電子化が進み始めた2008年ごろからご採用がようやく本格的に広がって、現在話題に上っているADASや自動運転のほかに、LEDライティング、ボディ系、それからリチウムイオン2次電池のバッテリー制御など、自動車のさまざまなところにリニアテクノロジーのアナログ半導体が使われています。

――自動車市場にはどのような変化が見られますか。

大村 これまでわれわれ半導体ベンダーは自動車部品メーカー(ティア1)様の仕様要求に合わせて製品を開発してきました。しかし昨今は、自動車メーカー様自身が、クルマの付加価値を決めるうえで半導体が大きな役割を果たしていることを認識されるようになり、自動車メーカー様と直接お話をする機会が増えてきています。すなわち、ビジネスの枠組みが大きく変わりつつあるという印象です。

 そうした背景もあって、半導体製品の個々の性能や機能というよりも、それらを使って、何が実現できるのかといった付加価値が重要な要素になっています。例えば、電気自動車のEVのモーター制御では、マイコンやパワー半導体のキットと相乗効果によって、従来は非常に大きかったインバーター回路を小型軽量化できるといったことが、クルマの付加価値に直結する提案として、今まで以上に求められるようになりました。

 一方で海外では、自動車部品のメガ・サプライヤーがECUのプラットフォームを標準化して世界的に展開しようという動きが活発になっています。当社のマイコンも、そのような世界レベルのプラットフォームにどんどん採用されています。また、次世代のプラットフォームに関するワークショップを定期的に開催するなどの取り組みも行っています。

望月 特に先進的な領域で、自動車メーカーと直接お話をする機会が多くなりました。私たちも課題が直接聞けます。その課題に対して何を開発し、何を提供していけばよいのかが分かってくる。こうした流れの変化は確かに感じます。

顧客ニーズに応える高い品質

――業績はそれぞれ好調とのことですが、市場での強みはどこにありますか。

望月 リニアテクノロジーでは「Solving tough problems. That's what we do.」、すなわち、「お客様の難問を解決すること、それが私たちの仕事です」というスローガンを掲げています。難しい問題を追いかけていたら車載にたどり着きました。クルマは居室空間やトランク容積を確保しようとすると、電子回路を搭載するスペースは実は意外と限られます。しかも電子化が進んで消費する電流が大きくなり、電磁波ノイズも増大しています。あらゆる意味で「tough problem」が多発するのがクルマなのです。

 そういった課題の中で、電磁波ノイズを抑え回路の小型化を図るには、優れたアナログ技術が不可欠です。デジタルがいくら進んでもよいアナログがなければ、適切な解がお客様に提案できません。一方、デジタル回路とは違ってアナログは、耐圧などの制約によって、プロセスの微細化から得られる恩恵が限定的です。このため、人間の頭脳で解決していく必要があります。

 例えば、「サイレントスイッチャー」と名づけたリニアテクノロジーのスイッチングレギュレータIC「LT8614」があります。これは、スイッチング動作に起因する電磁界ノイズは、その構造上ゼロにすることはできないという前提に立ったソリューションです。ノイズと逆向きの電磁界を発生させて打ち消すという新たな発想で開発しました。高度なアナログ技術を持った人の知恵で新しい切り口を考えて解を提供していく。そこが当社の強みのひとつですね。

大村 隆司氏
ルネサス エレクトロニクス
執行役員常務

大村 ルネサスが、車載用マイコンやSoCで今日のポジションを得ている最大の理由は「品質」です。お客様からはルネサスの品質は圧倒的に高いと評価していただいています。当社では「ゼロ・ディフェクト(欠陥ゼロ)」を追求しており、他の半導体ベンダーに比べて1桁高い品質を実現しています。実際に先端マイコンで0.1ppm以下(1,000万個に1個以下)という極めて低い不良率を実現しています。

望月 リニアテクノロジーも品質にはそれなりに自信は持っていたのですが、2001年ごろに日本の自動車業界とお付き合いを始めたときに品質のご要求に応えるのに苦労しました。それでも日本の自動車業界の要求を満足できればどの分野にも対応できるだろうと考えて、測定環境をそろえるところから始め、さまざまな努力をして認めていただきました。いわば日本のお客様に育ててもらったという感覚があります。

大村 もうひとつルネサスの強みとしてローパワーを挙げたいと思います。同じプロセスであっても、低消費電力の作り込み、チップ面積の縮小といった点で、他社にはない技術を持っています。お客様には、性能と消費電力の両方に満足していただいています。

望月 マイコンでパフォーマンスを上げようとすれば、単純には電流をたくさん与えればよいのですが、省電力という制約の中でいかに相反する要求に応えていくかが重要です。デジタルが進化することでアナログも進化していく。アナログとデジタルを分けて考えがちですが、実は表裏一体なのです。

クルマの大きな進化に期待

――自動車は今後どのように進化すると見ていますか。

大村 自動運転の実用化というのはもちろんあるわけですが、もうひとつ、クルマの価値が変わっていくのではないかと見ています。具体的には、これまでの「所有する」から「共有する(シェアする)」という流れが既に出始めています。すべてがサービス的なビジネスモデルに変わっていきつつあります。特に北米ではこうした動きを大きなチャンスと捉えて、自動車メーカー各社が積極的に取り組んでいます。ビジネスモデルが進化したときに、われわれが、どのような貢献をし、どのような事業を展開できるのかも、とても重要なポイントだと思います。期待してください。

望月 マーケットの成熟度合いを24時間で表すと、クルマはまだ午前10時ぐらいにすぎないと考えています。行き着くところまできたパソコンなどに比べると、クルマはまだまだ伸びしろがあります。ではクルマが午後10時とか午後11時ぐらいに進化したときには何が起きているかというと、究極の形としてモーターやインバーターとバッテリーだけで構成されていて、家電量販店で手軽にクルマを買える時代になっている可能性もあると思います。

 一方でエレクトロニクスの観点から解決すべきことは大きく2点あると考えています。ひとつがエネルギー問題です。回生ブレーキや太陽光発電のほか、振動を電気に換える環境発電(エナジー・ハーベスティング)技術なども活用しながらさらなるエコを目指していかなければなりません。

 もうひとつがケーブルハーネスの問題です。たとえば市販されている自動車の中には総延長が3km以上にも達するハーネスが搭載されるといわれています。クルマの重量、コスト、資源、製造タクトタイムなどに影響を与えています。

 リニアテクノロジーは、2016年11月にドイツで開催された「Electronica」展示会で、「切れない無線」として当社が展開するSmartMeshネットワークという技術を使って、バッテリーの各セルの状態をワイヤレスで監視するバッテリーマネジメントシステムを、BMW 社のEV「i3」に搭載して展示しました。

 また、安価な2線式のEthernetケーブルで信号と電源の両方を送れる「PoDL(Power over Data Lines)」規格に則ったソリューションも開発中です。

エンジニアコミュニティーを強化

――パートナー戦略やコミュニティー戦略について教えてください。

望月 アナログ技術は、やはり難しいのです。日本ではアナログのエンジニアがどんどん減っていて、シニア世代にしか残っていません。アナログは経験が大切ですが、失敗した経験や成功した経験を伝えるべき次の世代がいないわけです。

 そこで若い皆さんを中心に、アナログ技術に少しでも興味を持ってもらおうと、リニアテクノロジー社内で「アナログ・グル(導師)」と呼ばれる世界トップクラスのエンジニアを米国本社から呼んで、アナログ技術の面白いところや最先端の話題を紹介する「アナログ・グルとの集い」というイベントを開催しています。さらに、高性能なアナログ回路シミュレーター「LTspice」を無償で配布して、大学や企業で多数使っていただいています。「LTspiceユーザーズクラブ」の登録者数も4000人を超えるまでになりました。

大村 ルネサスにとっても仲間作りはやはり重要です。自動運転技術の進展やサービス的なビジネスモデルへの変化によって、仲間の種類も変化してきています。ですから、これまで車載用のソフトウエアを開発したことがないIT業界や大学・研究機関など、エンジニアや学生にも、ルネサスの車載用のノウハウを使ってもらえるように開発環境の整備も進めています。

 アイデアをソフトウエアとして具現化して、それを実際に実車に載せて評価してみるといったことを、より効率的に進めていただきたいと考えて、ソフトウエア開発用のスタータキットや、カメラ付きのADASビューキット、実車での実験用には高度自動運転ECU開発(HAD)キットなどを既に提供中です。半導体を食材とするなら、食材を提供するのではなく、すぐに食べられるような料理にして提供するという取り組みです。

クルマの新たな時代に向けて

――今後の展望を聞かせてください。

大村 クルマの標準化では欧州がトレンドセッターになっています。北米では自動車市場のゲームチェンジを目論む新興企業やIT企業の動きが極めて活発です。一方でエコに対して最も意識が高いのが、大気汚染問題を抱える中国がトレンドセッターになりつつあります。

 このように国や地域で考え方やマーケットの特性が大きく異なります。ビジネスチャンスを逃さないように、現地にエンジニアやマーケッターを置いて、情報収集をするとともにコミュニケーションを取って、最適なソリューションをいち早く提案するように努めています。

 そしてこれからのクルマは、基本的な「走る・曲がる・止まる」だけでなく、「見る・考える・感じる・コントロールする」が必要です。その4つの領域をトータルに考えて、ソリューションとしていかに提案できるかが、これからのルネサスの価値だと思っています。

 望月さんが難題を解決していくと言われたように、それぞれに異なるお客様の課題をしっかり理解し、同時に半導体の能力を引き出して、課題に応えるソリューションを提案していく。そういう活動を社員みんなで考えていきます。

望月 リニアテクノロジーを含めた半導体ベンダーは、以前はディスクリート部品だけを供給していれば足りました。ところが、設計効率を高めるとともに小型化を図るために、例えば電源回路をできるだけ集積して欲しいというニーズが高まってきました。リニアテクノロジーでは電源回路をワンパッケージに封止した「μModule(マイクロ・モジュール)」を提供していますがとても好評です。

 こうしたニーズに対応して開発したのが画期的な温度センシングIC「LTC2983」です。各種の温度センサーに対応しており、内蔵した演算回路を使って、0.1℃の精度で温度値を出力します。温度センシングは意外と難しく、さまざまな部品を組み合わせて、しかも温度センサーごとの演算が必要になります。それをワンチップ化しました。こうしたソリューションは今後の流れのひとつになっていくでしょう。

 これに限らず、先ほども述べた「Solving tough problems. That's what we do.」をこれからも追求し、お客様の難題解決に取り組んでいきます。

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