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社会を変革する自動運転技術、電子デバイスの進化が普及を加速

さまざまな社会の仕組みを支えるモビリティに革新的な進化をもたらす技術として注目を集めている「自動運転」。これを実現するうえで欠かせないのが、センシングや制御などを可能にするエレクトロニクスの技術だ。そこで半導体デバイスを提供するロームの代表取締役社長 澤村諭氏と、自動運転の技術開発で世界をリードするロボット開発ベンチャーZMP 代表取締役社長の谷口恒氏が、自動運転技術が社会にもたらすインパクトなどについて議論した。

澤村 自動車の電子化、つまりエレクトロニクスの技術を使った新しい仕組みを自動車に搭載する動きが進んでいます。例えば、自動ブレーキをはじめとするADAS(先進運転支援システム)が、高級車だけでなく大衆車にまで一気に普及しました。さらにADASの延長にある自動運転の技術開発に多くの自動車メーカーが力を入れています。

谷口 最近になって脚光を浴びている自動運転の技術ですが、1980年代には自動車メーカーを中心に自動運転の技術開発が始まっていました。ZMPでも2008年から自動運転技術開発車両プラットフォームを提供する事業に着手しています。世間の関心が高まるキッカケを作ったのは米Google社です。同社が無人運転車両を開発しているというニュースをメディアが取り上げたことから、多くの人たちが注目するようになりました。

 それまで自動運転技術を開発していた自動車メーカーのほとんどが、人間が乗車しているのを前提にした運転支援システムを実用化したうえで、これを段階的に発展させて最終的に無人の完全自動運転に到達するというビジョンを描いていたと思います。ところが、Google社が、いきなり完全自動運転の実用化に取り組んでいることが明らかになってから、完全自動運転の早期実用化を目指す方向に流れが変わりました。

澤村 完全自動運転の実現には、高度なエレクトロニクス技術に加えて最高レベルの安全性が求められます。ここでの課題を解決するうえで、電子デバイスを供給するメーカーとしての責任はますます大きくなると感じています。

社会課題の解決が目標に

谷口 恒氏
ZMP 代表取締役社長

谷口 ZMPは、社会の役に立てることを目標に自動運転技術の開発や事業化に取り組んでいます。具体的には、まず生活するうえで必要な移動手段が十分に確保できない「交通弱者」の皆さんのために、自動運転の技術を役立てたいと思っています。

 高齢などの理由によりご自身で自動車を運転できなくなったことで、日常生活においてさまざまな不便が生じているという方が増えています。この問題は、過疎が進む地域では深刻です。なかなか事業が成り立たないという理由で交通弱者の皆さんが頼りにしていたタクシー業者などが廃業すると、交通弱者をサポートするサービスがなくなってしまうからです。自動運転の技術はこうした問題を解決できる可能性があります。

 つまり、タクシー事業を維持するうえで必要なコストの多くを占めるのが人件費です。無人化して人件費を削減すれば、過疎地においてもタクシー事業を続けることができるでしょう。これが実現すれば、交通弱者の皆さんは格段に暮らしやすくなるはずです。交通が不便になったからといって住み慣れた土地を離れるという事態も避けられます。

澤村 今や企業が、社会課題を意識せずに事業を進めることが難しくなりました。ここにきて「地球温暖化」「エネルギー不足」「社会の高齢化」などのさまざまな社会的課題が世界的な規模で顕在化していますが、これらの課題を解決し、「持続可能な社会」を築くことは、すべての企業に求められているのではないでしょうか。ロームグループも、社会課題を解決しつつ企業活動を実施することで、社会と企業の両方に価値を生み出すCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を経営コンセプトに盛り込んでいますが、我々ロームにとってCSVは決して新しい考えではありません。創業当時より「企業目的」に基づき、品質を第一とした良い商品の供給やものづくりを通じて、文化の進歩向上に貢献することを常に使命としてきたからです。その代表が、製品を通じた社会貢献であり、ロームは長年にわたって、「省エネ、安全、快適、小型化」などをキーワードに自動車市場のほか、IoT(Internet of Things)化が進む産業機器市場、そしてスマートフォンに代表されるIT機器市場など、幅広い分野に向けて革新的なキーデバイスを提供しています。

谷口 実はZMPでは、当初から社会的な課題を解決することを目標に、自動運転の技術開発を進めていたわけではありませんでした。

 ZMPの事業の軸は、「移動を自動化する技術」ですが、その1つの展開先が自動車でした。その一環として自動運転技術開発車両を提供する事業を始めましたが、自動運転の技術が社会に必須の技術であるという確信はまだ持っていませんでした。お酒を飲んでも自動車に乗って家に帰れるなど自動運転がもたらす利点は思い浮かべていましたが、いずれも必ずしも社会に必要な技術というわけではありません。「あったらいいな」という技術だったのです。この考えが大きく変わったのは2013年のことです。キッカケは、体の具合を悪くした父を見舞うために実家に帰った時、地方の交通弱者が置かれている深刻な状況に気づいたことでした。

 いつもなら最寄りの駅まで父が自家用車で迎えに来てくれますが、その時はそうはいきません。そこでタクシーを利用しようとしたところ、利用者が減ったという理由で、いつも駅前で待機していたタクシーを運営していた会社が廃業していました。そうなると駅から実家まで移動する手段がもうありません。こうした事態に直面して、過疎地で交通手段がなくなることが、大きな問題であることに気づきました。この時に私の中で自動運転が、「あったらいいな」という技術から、「実現しなくてはならない技術」に変わったのです。

新たな市場を創出する自動運転

澤村 利便性はもちろん重要ですが、使命感はより大きな原動力になります。身近な体験をキッカケに自動運転技術の早期実用化に取り組む明確な動機ができたわけですね。

 自動運転技術の実用化に向けた動きが加速することで、私たちが展開している車載用製品のビジネスにも弾みがつくのではないかと期待しています。

 ロームは、抵抗器や小信号ディスクリート、オーディオICから始まった取引が、得意とするアナログパワー技術の代表である電源ICを中心にパワートレインや安全走行系に拡大してきました(図1)。近年は、SiC(シリコンカーバイド)を中心としたパワーデバイスのデザインインを展開しています。さらに、モジュール化や革新的なセンサデバイスなどの需要も出てくるのではないでしょうか。私たちにとって大きなビジネスチャンスであるとともに、CSVを実践し、社会に貢献できるよい機会といえるでしょう。

図1 ロームの自動車向けソリューション
(CEATEC2016でのデモンストレーション)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方で、完全自動運転の普及に貢献するために私たちが取り組むべき大きな課題もあります。例えば、「品質」や「精度(精密さ)」に対する要求は、従来に比べて一段と厳しくなるでしょう。完全自動運転を支える電子回路では、故障や誤動作が許容される余地はほとんどなくなるからです。

「品質を第一とする」という企業目的を掲げるロームは、一般的な半導体メーカーとは違い、開発から製造までを一貫してグループ内で手掛ける「垂直統合型」のビジネスを展開しています。これは創業以来、大切に守り続けてきた「品質を何よりも優先する」という当社のマインドの象徴でもあります。あらゆる工程で高い品質を作りこみ、確実なトレーサビリティの実現やサプライチェーンの最適化を図ることにより、製品としての貢献だけでなく、ものづくりを通じた安心の提供もできると考えています。

 この品質という強みを生かして、自動車の技術革新を後押しするつもりです。

谷口 自動運転向けに開発した技術は、自動車以外の分野にも広がる可能性があります。そうなると、自動運転技術の実用化を契機に生まれた電子デバイス市場の規模は、もっと大きくなるかもしれません。自動運転の基本は、「認知」「判断」「操縦」の技術を組み合わせて実現した自律移動です。この技術はさまざまなアプリケーションに展開できます。

 実際にZMPでは、自動運転の技術を物流システムにも展開しています(図2)。「CarriRo」と名づけたこのシステムは、荷物の運搬に用いる台車にロボット技術を適用した商品です。台車を押す力をアシストする機能を搭載して作業者の負荷を軽減。さらに、作業員が押す台車の後を、複数の台車が付いてくる「カルガモモード」を実現しました。1人の作業者が、複数の台車を同時に操作できるので、生産性の向上にも役立ちます。

図2 ZMPが展開している製品
[画像のクリックで拡大表示]

 今、物流業界では、少子・高齢化に伴う若年労働者の減少により、慢性的な人手不足が大きな問題になっています。「CarriRo」のようなシステムがあれば、力仕事が苦手な方が働ける現場が増えるでしょう。

モビリティの進化に貢献

澤村 完全自動運転の実現は、非常に高いレベルの目標だと思います。その分だけ、技術が横展開できる領域が広がるのではないでしょうか。

 完全自動運転のほかにも、ICT(情報通信技術)を駆使したITS(高度道路交通システム)など、自動車の近未来を見据えたアプリケーションの開発が一段と加速しますが、普及には「省エネ」が大きなポイントになるのではないでしょうか。電子化が進むと車載システム全体の消費電力が増えるため、デバイスレベルでの省エネを追求する必要が出てきます。ここでは、次世代材料SiCを使った高効率のパワー半導体などの最先端デバイスや、超低暗電流・高効率の電源ICなどのアナログ製品が役に立つはずです。

 また、危険を低減するための機能安全への取り組みが進んでいますが、今後は予防保全という考えも進むと考えています。例えば、モータなどでのさまざまな異常信号をいち早く検知し、フィードバックする高精度の制御技術(モータドライバ)です。民生機器や一部の産業機器でも導入が進みはじめており、将来的に自動車に展開できると故障の予防にもつながると考えています。

谷口  今、社会のモビリティ全体が、自動運転だけでなくIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)などの先端技術を採り入れながら大きく進化しようとしています。

 例えば、モビリティの進化をキッカケに「情報革命」が起きる可能性もあります。つまり、パソコンや携帯電話がインターネットにつながったことで、従来の概念を超えたシステムへと発展しました。同じことが自動車においても起きるかもしれません。自動車を対象にしたコンテンツのダウンロードなど自動車を中心にしたさまざまな新規サービスが始まると、自動車は、移動するスマートフォンになるでしょう。その過程で、電子デバイスだけでなく、セキュリティや通信などさまざまな分野の新技術が必要になります。実際、こうした可能性に期待している多くの企業が、続々とモビリティの分野に新規参入しています。

澤村 自動車だけでなく、製造業全体のイノベーションに対する期待が高まっています。イノベーションの実現を目指して新しい領域に進出する企業は、ますます増えるでしょう。ここで、私たちの事業を発展させるためには、日本だけでなく、世界へ目を向ける必要があるのは当然ですが、ターゲットとする市場をマクロな視点でとらえて、さまざまな立場のお客様のニーズを的確に把握し、製品に反映することが重要です。このためにロームは、大学や研究機関との協業や、標準化活動などに積極的に参画する考えです。主要な大学との基礎研究の継続だけにとどまらず、新たに若手研究者への助成公募や、ものづくりに携わるエンジニアを支援するアイデアコンテストの開催などにも取り組んでいます。今後も多様な交流の場を積極的に増やすつもりです。多くの方に参加いただけることを期待しています。

お問い合わせ
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    ローム株式会社

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