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日経テクノロジーonline SPECIAL

ITで変わる日本のものづくり

東洋ビジネスエンジニアリングは2017年2月16日、ユーザーカンファレンス「B-EN-G IoT Forum/mcframe Day 2017」を開催した(東京・港区、ANAインターコンチネンタルホテル東京)。IoTをはじめとした製造業のICT活用をテーマに、20本以上のプログラムを並べ、数多くの製造業の経営層が活発な情報交換を行った。
ここでは産学官の識者によるオープニングトークライブと、2016年リオ五輪のオフィシャルサプライヤーである三英の社長によるスペシャルトークライブのダイジェストをお送りする。

オープニングトークライブ「何が我が国製造業の活力となり得るか?」
IoTは製造現場だけのテーマではない
バリューチェーン全体を結び付け新たな価値を創造する

写真は左から、パネリストの平林裕司氏(株式会社デンソーアイティーラボラトリ 代表取締役社長)、西垣淳子氏(経済産業省 クリエイティブ産業課長)、白坂成功氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン研究科)、モデレーターの八子知礼氏(株式会社ウフル 専務執行役員)、イベントホストの羽田雅一氏(東洋ビジネスエンジニアリング株式会社 常務取締役CMO/CTO)

 ものづくりの新しいテーマにIoTやAIがありますが、これ自体は古くからある考え方のように思えます。実際、皆様のお立場から見てどうお考えですか。

 IoTは、1990年代末にもてはやされた「ユビキタスコンピューティング」と基本は同じです。基幹ネットワークやセンサー、クラウドが発展して現実化したのが現在のIoTです。おっしゃるとおり特別な存在ではないと思います。

 確かにIoTは、今までやってきたことの延長線上にある存在です。しかし今までは技術的に無理があり、活用のアイデアがあっても実現をあきらめざるを得ませんでした。それが安価で可能になったことで、全く違うビジネスが登場してくるでしょう。

 1980年代に日本が提唱したIMS(Intelligent Manufacturing Systems)という国際プロジェクトが注目されましたが、当時の構想が技術的な進展を通じて、やっと現実化したのが現在のIoTやインダストリー4.0かと思います。こうしたプロジェクトにおいては、当時から産学連携の重要性がうたわれていますが、日本でも、ロボット革命イニシアティブ(RRI)などにおいて産学官の協力を進めています。

 ドイツでは産学連携が当たり前のように行われていますが、日本は産学の共同研究が長続きしません。“学”の立場として“産”を満足させる結果を出せるような形になる必要性を感じています。

 学生が製造業に興味を持ってもらうために、製造業ができることもあると思います。例えば、製造業が生産現場のデータを大学に提供し、そこから機械の故障原因判定など工程監視の実践問題に取り組んでもらうような方法もあるでしょう。

 日本人はデータを見るためにシステムを抽象化、モデル化することが苦手なように感じています。でも実際はできないわけではなく、教えられていないため苦手なように見えるだけなのです。教育がカバーすべき課題ですね。

 インダストリー4.0の世界は、実は「日本のものづくりの現場では昔からやっていた」という声をよく聞きます。でも日本のものづくりは、一つの企業の中で工場の中の機器を全部つなげてしまう「1人インダストリー4.0」です。インダストリー4.0は製造現場のFA化のことだけを言っているわけではなく、バリューチェーンを通じた他社との協業や標準化を念頭においた汎用品の活用なども含みますが、そこが十分浸透していません。コンセプトの違いを改めて考える必要があるのではないでしょうか。

設計と製造の連携がリードタイム短縮の有効な手段に

 そうした現状のもとで、日本の製造業がこれから取り組むべきことは何でしょうか。

 製造業の大きな特徴は「競争が常にグローバルレベル」という点です。グローバルな視点で日本の製造業の価値を考え直すことが必要かと思います。

 欧米の製造業のシステムは、他のシステムとつないで無人化を追求しますが、日本の製造業は現場の改善力に支えられています。つまり人と機械が協調して発展していく形です。そのためには機械から人に情報を伝える可視化だけでなく、人の知恵を機械に教え込むために人から機械へフィードバックする仕組みも必要でしょう。

 私は以前、三菱電機で人工衛星の開発を担当していました。人工衛星は最後のインテグレーションに半年から一年かかるものですが、エアバスはOneWebという企業と共同で150kg級の小型衛星を1日で3機作る計画を発表しました。このためには設計のやり方そのものを変えていく必要があります。この新しい設計のやり方を大型衛星にも適用されたら到底かないません。実現のポイントは設計と製造の連携なのです。現在の日本のインダストリー4.0では製造のみにフォーカスが当たっており、設計へのフィードバックを考えていない場合が多い。海外のメーカーがここに力を入れてきたら日本のメーカーにとっては脅威です。

 当社はPLMで設計と製造の連携を支援しています。両者を連携させることで、製造現場を意識した設計作業を可能にし、設計情報を製造現場に落とし込んだときのギャップをなくすことが可能です。

 やはりカギを握るのはPLMと思います。日本の製造業は生産ラインの自動化はできていますが、そのラインを作る前の設計段階にどれだけ時間がかかっているかに、目が向いていないことがよくあるようです。PLMとIoTのツールを組み合わせることで製品開発期間を短縮し、ラインを早期に立ち上げ、全体のリードタイムを短縮できるでしょう。IoTの意義はデータを取ることだけでなく、開発工程をデジタル化することにあるのではないでしょうか。

 現物に近いところでみんなが一緒に考える日本流のものづくりは、いわゆる「デザイン思考」に通じるところがあります。つまりデザイン思考は日本のものづくり発であり、米国の大学が参考にするぐらいなのに、逆に日本ではその良さを認識していないように思えます。もう一度その良さを認識すべきでしょう。

 当社はすべての生産設備を内製するために、設計と製造がお互いの仕事を理解するようにしています。情報の可視化とそれをもとにコミュニケーションできる人材の育成が進めば、デザイン思考は進むと思います。

 日本の製造業は、作るものや作り方がそれぞれ違っても、すりあわせで全部カバーしてきました。しかし、もはやそれだけに頼ることはできなくなっているのではないでしょうか。デジタル化でシミュレーションできる領域を増やすことで、強みを高められるのではないかと考えています。

IoT導入の前にトップが考えるべきことがある

 日本のものづくりをさらに強くするためには、全体を俯瞰する力が必要と思います。俯瞰するために必要な抽象化も必要です。現在のシステムズエンジニアリングはこれが重要ですが、これらは学ぶことだけではなく、学んで実践してはじめて自分たちにあった活用ができるようになります。合わない部分が見つかればそこで改善すればいいのです、それは日本のものづくりが得意な領域のはずです。

 自社のコア技術を基に、誰に何を売って、どう収益につなげるか。そのビジネスモデルの構築が、強みを高めるためにまず必要なことでしょう。IoTというと製造現場が取り組むべきことと思われがちですが、その前にトップが経営戦略として考えるべきことがあると思います。

 やはり重要なのはスピードですね。強みと弱みをはっきりさせ、スピードが必要な領域には社外にパートナーを求め、自分たちはさらに上のレベルを目指していくべきと考えます。

 日本は生産工程という強いハードを持つ一方で、ソフトはまだ十分強さを出し切れていません。ソフトはグローバルで実績のある汎用品があります。それを組み合わせることで、ハードの強さが生きてくるのではないでしょうか。

 デジタル化は製造現場だけでなく、バリューチェーン全体に必要なものであり、広い視点で取り入れることで、日本の製造業がさらに強くなるビジネスモデルが見えてくることを実感しました。

本日は皆様ありがとうございました。

次のページでは、スペシャルトーク ライブ
「日本の美・技術・品質を世界の舞台へ」
オリンピック公式サプライヤーのものづくり企業インタビュー