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日経テクノロジーonline SPECIAL

新時代を切り開くAIチップの本命は?

本格的なAI時代が到来しようとしている。そのインパクトは、ものづくりや医療、金融、物流・交通、農業と広範な分野に及ぶ。その一方で、AI機能を実装したIoTシステム(AIシステム)の研究者やエンジニアの多くが、AIを活用していくうえで解決すべき課題を感じている。AIの用途拡大を阻む「3つの壁」を打破し、時代を切り開く基幹技術――AIチップの開発競争が始まっている。

 現在のAIは、一般的に、情報を活用する現場(エッジ側)と、クラウド側のサーバーから構成されるIoTシステムへの実装が前提となっている。AIの「学習」と「判断」の機能は、工場や病院といった現場(エッジ側)から遠く離れたデータセンター内の高性能サーバーの中にある。また、エッジ側で収集したデータはネットワーク経由でサーバーに伝送され、データの蓄積(「記憶」)を行っている。

 こうしたクラウド型のAIシステムには、用途の拡大を阻む3つの壁――「データ量の壁」「エネルギーの壁」「リアルタイム性の壁」が存在する(図)。

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図:クラウド型AIシステムの用途拡大を阻む3つの壁

 今後10年間に生み出されるデータ量は、現在生産可能なストレージ機器の蓄積容量の10倍以上に達すると予測されている(①データ量の壁)。また、エッジ側からサーバーへとデータを伝送するために必要な電力量は、2020年の時点で世界中の発電所が作る全電力を使い果たしてしまう(②エネルギーの壁)。さらに、エッジ側とAI機能を実装したサーバーが離れていると、通信速度がボトルネックになり、エッジ側で起きた出来事に瞬時に対処できない(③リアルタイム性の壁)。完全自動運転車や二足歩行ロボットのように、エッジ側の状況が目まぐるしく変わる中で迅速かつ高度な判断を下す応用では、1ミリ秒を超える遅延も許されない。

AIチップの本命はまだ見えない

 ここで挙げた3つの壁は、エッジ側に学習と判断ができるAI機能を置くことができれば打破できる。しかし、既存のマイクロプロセッサーやGPUを使ったソフトウエアベースのAIでは実現できない。要求性能が高すぎて、エッジ側の機器に実装可能な消費電力と大きさには収まらないからだ。

 そこで注目されているのが、AI機能のハードウエア化である。IBM社、Google社、Apple社、Samsung Electronics社、NEC、富士通など世界中の名だたる企業が、AIチップの開発に注力している。そして世界のトップ囲碁棋士を破って名を馳せたAI「AlphaGo」の実装に利用された「TPU(Tensor Processing Unit)」のようなチップも出てきた。ただし、先に述べた「3つの壁」を打ち破り、今後数十年間のAIの進化を支えるような決定的な技術は登場していない。

 こうした中、「東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター」(CIES)は、スピントロニクスを応用したメモリー素子である磁気トンネル接合(MTJ)素子を応用したAIチップを開発した。記憶・学習処理に適したMTJと、判断処理に適したCMOSとを組み合わせることによって、これまでに企業が開発したAIチップよりも高性能かつ低消費電力を実現している。真のAI時代を開くブレークスルーとなるか。今後の開発の方向性が注目される。

(日経エレクトロニクス企画編集チーム)

エッジ側の機器に学習・判断機能を搭載 MTJメモリー素子が理想のAIチップを生む

東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)
センター長 (工学研究科 教授)遠藤哲郎氏