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日経テクノロジーonline SPECIAL

IoT最後の難関「アルゴリズム開発」

製造業におけるIoT利用が広がっている。生産や開発に効率化を与え、市場投入後の製品運用とメンテナンスに価値向上をもたらす手段として、その活用には大きな期待が掛かっている。しかし、生産現場のデータを取得する仕組みを作るだけでは、IoTの潜在能力を引き出すことにはならない。そこにはデータを意味あるものとして判断し、次の制御につなげるアルゴリズムの開発が不可欠なのだ。アルゴリズム統合開発環境として先行しているMathWorksに、IoTをめぐる効率的な開発を実現する戦略を聞いた。

阿部 悟 氏
MathWorks Japan
インダストリーマーケティング部 部長
阿部 悟 氏

 製造業では、インダストリー4.0などに代表されるIoT(モノのインターネット)による製造工程の高度な自動化が進行している。ひと言で製造業といっても企画・開発・生産・販売・メンテナンスといった製品ライフサイクルがあり、莫大なデータが刻々と生み出されている。そうしたデータの中には、製品品質や生産効率、顧客満足度を向上させるための貴重な情報が潜んでいる。

 現在多くの生産ラインが、製造装置にセンサーを取り付け、膨大なデータを吸い上げて、製品品質や生産効率の向上に役立てようとしている。しかし、とりあえずデータを集め、ビッグデータと称してデータサイエンティストに丸投げしても、そこから有益な情報を得ることは難しく、画竜点睛を欠いている。

6カ月で予知保全システムを開発

 ここで1つの事例を紹介しよう。世界有数の包装・製紙メーカーであるドイツのMondi Gronau社の“予知保全”の事例である。同社は、プラスチックの製造工場で課題を抱えていた。製造機器が不具合を起こすと、途中に大量の原材料廃棄物が出て、その処理作業とともに製造機器のメンテナンス作業があり、これが長引いて生産効率を低下させて、大きな損失になっていたのである。

 すでに製造機器にはセンサーが取り付けられており、温度、圧力、速度などのデータが収集されている。このデータを基に製造機器の予知保全を行えるようになれば、ベストタイミングで問題回避して、効率的なメンテナンスができるので生産性はアップする。同社はMathWorksのアルゴリズム統合開発環境『MATLAB』を使うことで、6カ月という短期間で予知保全システムのプロトタイプを開発できた(図1)。

プラスチックフィルム製造用機械
予知保全のモニタリング画面
図1 Mondi Gronauのプラスチックフィルム製造用機械(左)とその予知保全のモニタリング画面(右)

 Mondi Gronauの予知保全の事例に関して、MathWorksのインダストリーマーケティング部 部長の阿部悟氏は、「諸々のデータを継続的に見ていくことで、例えば機械部品の摩擦熱を温度センサーが感知して、あとどのくらいでメンテナンスが必要になるかといった予知モデルを想定します。そのためには統計処理や機械学習をうまく活用し、モデルをより精密化していきます。これを自前のシステムで突き詰めていくのは大変ですが、Mondiの場合、当社の『MATLAB』を使うことで、効率的に開発できました」と開発効率の高さをアピールする。Mondiはこれにより故障の発生による機会損失や処理費用を年間5万ユーロ削減できたという。

 予知保全システムの開発には数多くの障害が立ちはだかる。まず生データをベースに、サンプリングレートをどうするか、時々混入するノイズをどう排除するかなど、「データクレンジング」作業がある。次に時系列で複数のデータの相関関係をつかみながら「摩擦熱が不良品を生む」といったモデリングによる「アルゴリズム開発」をするのだ。

 予知保全に限らず、各装置やライン全体の動きをモデル化し、理想的な稼働状況の再現や不具合原因の探求ができる。製品や生産ラインのモデルを使ったシミュレーション結果と、IoTのエッジデバイスを使って取得した現場のデータを比べることで、現場にある装置が正しく稼働しているか、手に取るように分かる(図2)。

図2 アナリティクスシステムの全体像
図2 アナリティクスシステムの全体像

データ分析の専門家の代わりにツールを使う

 これら一連の開発は、現場をよく知る技術者、ITシステムの開発者、そして統計処理に詳しいデータサイエンティストなどが協力して行われる。阿部氏によると、その3者のかかわり方の違いで開発に差が出るという。

 Eコマースなど、バーチャルな世界で莫大なデータを扱うビジネスでは、ビッグデータを効果的に扱う高度な理論を熟知したデータサイエンティストが価値あるデータを分別・加工・分析する作業を担っている。しかし、IoTで扱うリアルなデータを対象にする場合には、データサイエンティストに作業を託すことはできない。現場で発生する現象やそこで使う装置の特性などを勘案しながら、データを扱う必要があるからだ。データサイエンティストは、必ずしもIoTシステムの応用固有の物理現象や機械の特性まで熟知しているわけではない。

 「データサイエンティストに現場のことを分かってもらうよりも、現場の技術者に統計処理やアルゴリズム開発のツールを渡した方が開発効率が格段に上がります。MATLABは操作が簡単で習熟しやすいので、機械学習の専門知識をもつデータサイエンティストがいなくても開発ができるのです」(阿部氏)。同社では、信号処理や統計、数式処理、さらには機械学習や深層学習を使ったデータ解析や可視化機能を簡単に実行できる「Toolbox」を用意している(図3)。

図3 MATLABで実現するデータアナリティクス統合開発環境
図3 MATLABで実現するデータアナリティクス統合開発環境
宅島 章夫 氏
MathWorks Japan
アプリケーションエンジニアリング部
(テクニカルコンピューティング)部長
宅島 章夫 氏

 開発されたアルゴリズムを製造機器やセンサー制御といったエッジに組み込む開発があり、さらにオペレーターがモニターしたり制御したりするソフトウエアの開発や、バックヤードのデータベースの構築も必要だ。

 MathWorksのアプリケーションエンジニアリング部(テクニカルコンピューティング)部長の宅島章夫氏は、「MATLABはデスクトップの開発環境ですが、開発したアルゴリズムを、IoTシステムのエッジ側とクラウド側のいずれにも実装可能です。例えばエッジのCPUやPLC(Programmable Logic Controller)に組み込んだり、AWSやAzureなどのクラウドサービスを使ったエンタープライズシステムへ容易に展開することができます。IoTシステム全体を俯瞰し、データのトランザクションやエッジ側の消費電力などを勘案しながら、処理を柔軟に最適分担できます」と、MATLABにはスモールスタートで開発を進めるフェーズからエッジへの組み込みやエンタープライズシステムへの展開までをカバーする、柔軟性・拡張性の高さがあるという。

広がる製造業でのIoT活用

 MATLABをデータ解析の統合環境として利用することで、生産や開発のオートノマスを実現した事例が次々と生まれている。

 日立製作所は、管理のシステム化が困難な作業員の作業状況を、カメラ画像を使って検知し、作業員の動線を認識することで作業内容をデータ化。製造設備を管理する異常検知技術と組み合わせることで、装置と作業員の両方を管理できる作業異常検知システムを構築した。MATLABの活用によって、多様な専門技術を集約した複雑なシステムを短期間で実現できたという。

 市場投入後の製品の効果的な運用に、MATLABを活用している例も多い。半導体露光装置メーカーであるオランダのASMLは、半導体回路パターンの転写原版であるマスクの重ね合わせを短時間で正確に調整する計測ソフトウエアをMATLABと機械学習を活用して開発。全点検査と同等の精度の重ね合わせ計測を、より少ない点の計測で実行できるようにした。

 今後は、市場投入後の製品の稼働状況を検知して、開発やメンテナンスを効果的に進める動きも広がりそうだ。例えば、これまで自動車の設計では、次世代車の開発要件を過去の経験の蓄積を基にして定義していた。既に市場投入されたクルマがどのように利用され動いているのか、実測データを集め、これを基に効果的な次世代車の設計ができるようになるだろう。さらには、不具合が発生する前に予知して、修理勧告やリコールを先回りして実施できるようになる。

 他にも自動車メーカーは競って、自動運転のシステムを開発中であるが、ドイツのBMWは自動運転のアルゴリズムを開発するのに、MathWorksの製品を使って進めている。

 IoTシステムを製造業に応用し、オートノマスを推し進めるためには、効果的なデータの扱いと、それに基づくシステムのアルゴリズム開発が極めて重要になる。そこでMATLABとその拡張機能が、システム開発に携わるエンジニアを強力に支援することだろう。建機・農機、航空宇宙、ウェアラブル医療機器など、まだ数多くの成功事例が生まれており、その動向をチェックしたい。

<関連リンク>
10月31日に開催された『MATLAB EXPO 2017 Japan』では、IoTシステムやオートノマスでの活用実例、データ活用を成功させるためのワークフローなど多数の講演が行われました。

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  • MathWorks Japan

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