—変化する自治体ITのニーズとは「すべての業務・住民サービスをクラウドへ」IT先進都市が見据えるシステムの未来像

一般企業同様、自治体においてもクラウド化の流れが加速している。背景にあるのが、増加するサイバー攻撃などのセキュリティリスクだ。システムを用途別に"分離"することを国が推奨する中、自治体は、クラウドを視野に入れたシステム基盤の最適解を模索している。そうした中、注目されているのが自治体向けのクラウドサービス「LGWAN-ASP」である。その活用メリットと、さらなる拡充への期待について、IT先進都市である神奈川県藤沢市の大高 利夫氏に訊いた。

年金機構の事故を契機に、自治体ITに訪れた変化の波

藤沢市 総務部参事 兼 IT推進課長 大高 利夫氏
藤沢市 総務部参事 兼 IT推進課長 大高 利夫氏 1981年から情報統計課(現IT推進課)で、住記、税、保健福祉総合システムの開発、電子申請・電子入札・地域イントラ・GIS(地理情報システム)などの導入に従事。情報セキュリティの推進にも携わり、「ISO/IEC 27001」や「ISO/IEC 27031」の認証取得、内閣官房「NISC重要インフラ専門調査会」、総務省「自治体情報セキュリティ対策検討チーム」などの委員を歴任する。

2015年に日本年金機構で起きた大量の個人情報流出を受けて、総務省は各自治体に対して情報セキュリティ対策の抜本的な強化を求めた。その方向性として示されたのが、「三層分離」だ。

これは、求められるセキュリティレベルに応じて、システムのネットワークセグメントを分けるアプローチのこと。総務省では、「マイナンバー利用事務系」「インターネット接続系」「LGWAN(総合行政ネットワーク)接続系」という3つの定義を設けており、それぞれに見合った安全性とシステム活用の利便性を実現することを求めている。

例えば、住民の個人情報であるマイナンバーのデータや、それを専門に扱うシステムなどは、最も高度なセキュリティ対策やアクセス制限を施したマイナンバー利用事務系に置く。これは分かりやすいだろう。

「また、インターネット接続系はアクセスなどの自由度が高い半面、最もセキュリティリスクにさらされやすいセグメント。Webアクセスが必要なシステムを配置すれば、業務の利便性は高められますが、サイバー攻撃を受けるリスクなども考慮すると、どんなシステムでも配置できるわけではありません。配置する際も、高度なセキュリティ対策を実施しなければならず、そのためのコストや運用負荷が増大するからです」と藤沢市 総務部IT推進課長の大高 利夫氏は説明する。


いよいよ自治体でも“所有から利用へ”が本格化

この状況の下、重要性が高まっているのが、もう1つのセグメントであるLGWAN接続系、およびその業務を担う「LGWAN-ASP」である。

LGWAN-ASPは、ソリューションベンダー各社がLGWAN向けに提供するクラウド型のサービス/アプリケーションのこと。国がLGWANに定めたセキュリティ要件やサービスレベルを満たすソリューションのみが登録・提供されているため、各自治体は自前で追加のセキュリティ対策を施すことなく、安全・安心な業務システムを利用することができる。

「これまでオンプレミスで運用してきたシステムを、LGWAN-ASPにリプレースすれば、システムを資産として保有せず、セキュリティを担保したシステムを利用できるようになります。運用保守や更新作業なども、ベンダーが行ってくれるため、自治体側はより住民サービスに直結する業務に人的リソースを充てることも可能になるでしょう」と大高氏はメリットについて話す。

この“所有から利用へ”の流れは、企業システムでは数年前から顕著だが、三層分離をきっかけに、自治体システムでもいよいよ加速しつつある。藤沢市でも「施設予約」のように、市民と自治体職員の双方が利用するようなシステムから、LGWAN-ASPを活用するケースが増えているという。


LGWAN-ASPのラインアップ充実に期待

一方で、大高氏は「まだLGWAN-ASPのラインアップは足りない」と語り、さらなる充実に期待を込める。

「2017年6月現在、LGWAN-ASPには数百のアプリケーションやコンテンツサービスが登録・公開されています。確かに、以前と比べるとバラエティ豊かになり、ジャンルも網羅されてきた感はあります。しかし実際には、ある業務でLGWAN-ASPを検討したいと思って探しても、現状では数件程度しか見つけられません。一般のクラウドサービスのように、同じ分野で10件、20件といったソリューションが登場してくれば、本当に自分たちに適したソリューションを検討することも容易になるでしょう。ユーザーとしては、『選択肢がたくさんある』という状況を、何より望んでいます」(大高氏)

期待するサービスの例として大高氏が挙げたのが、安全性を一層強化したLGWAN-ASPだ。

今後、マイナンバーが一層様々なシステムに連携してくるようになれば、マイナンバー利用事務系のネットワークセグメントから、LGWAN-ASPを利用するニーズも高まってくるだろう。例えば、国が進める「子育てワンストップ」のオンライン申請情報を取り扱うような例もある。「もともとLGWANは通信の暗号化を実現していますが、そこにベンダー独自のセキュリティ強度を一層高める仕組みを組み込んだLGWAN-ASPがあれば、採用を検討する自治体は多いのではないでしょうか」と大高氏は言う。

また、同じ業務でも、自治体規模や職員数などによってそのプロセスは異なる。それぞれの業務プロセスに見合った、多様なサービスが拡充されることも、今後LGWAN-ASPに求めたいことの1つだという。

これは一見、LGWAN-ASPのコンセプトに反する。なぜなら、元来LGWAN-ASPは自治体業務の標準化を推進する目的で提供されるもの。理想は「全自治体が同じアプリケーションをノンカスタマイズで使う」ことにあるからだ。これにより、現在は自治体ごとに存在している同じ用途のシステムを集約し、共同利用による“ワリカン効果”でサービス利用コストを低減する。

「ただ現実には、全業務プロセスを一人の職員が担当する小規模な自治体がある一方、藤沢市のように、業務プロセス内の1つの作業に複数名を配備するような大きな自治体もあります。このように、業務プロセスのまったく異なる自治体が同じアプリケーションを使うことには、どうしても無理が生じます。業務効率化の観点では、規模や業務フロー別に、同じシステムでいくつかUIのバリエーションがあるとよいと思います」と大高氏は提案する。

例えば、藤沢市と同じ、人口40万人台の自治体は全国に約20存在する。30万〜50万人規模まで幅を広げれば、その数は倍以上。あるいは、10万人以下の自治体にフォーカスすれば、大半の自治体が該当することになる。利用規模を踏まえた標準仕様サービスが登場すれば、比較検討できるサービスが増え、より多くの自治体でLGWAN-ASPの活用が進むだろう。また、そこから市場をさらに拡大させる好循環も生まれてくるはずだ。


LGWAN-ASPは、自治体とベンダー双方の希望の星となる

藤沢市 総務部参事 兼 IT推進課長 大高 利夫氏

このように、自治体が直面するIT活用の課題を解決する上では、LGWAN-ASPのラインアップ拡充が重要なカギを握っている。またベンダー各社にとっては、自治体のニーズをくみ取ったLGWAN-ASPを開発・提供することで、新たなビジネスチャンスを広げることができるだろう。

「制度改正への迅速な対応や、運用負荷・コストの削減といったことを考えると、もはやクラウドは、避けて通れないテクノロジーになりつつあります。この状況においては、我々自治体側も、システム活用に対する認識を変えなければなりません」と大高氏は述べる。

従来は、すべてのサービスに等しく最高レベルの品質を求める傾向があった。しかし、往々にして品質は、コストや運用負荷に跳ね返る。クラウド時代のシステム活用においては、実現したいことの本質を捉えることで、「オンプレミスで保有すべきシステム」「“利用”に切り替えるべきシステム」を判断し、必要十分な環境を用意することが望ましいという。「それが結果として、スピードやコストといったクラウドのメリットを最大化することにつながるからです。個人的に、あらゆる自治体システムは、将来的にLGWAN-ASPに移行できると考えています。これからの自治体システムの最適解を、我々も継続的に考えていきたいと思います」(大高氏)。

迫る変化の波に合わせて、高まるLGWAN-ASPへの期待。自治体の未来は、サービス提供事業者の努力にかかっている。


LGWAN-ASP市場への参入を検討する事業者を強力に支援 —「LGWAN-ASP基盤サービス」

富士通エフ・アイ・ピーの「LGWAN-ASP基盤サービス」は、LGWAN-ASPによるサービス提供を検討する事業者に向けた、インフラ基盤サービスである。

拡大するLGWAN-ASP市場へ参入を考える事業者は多いだろう。だがLGWAN-ASPの場合、国が定めた接続ルールやセキュリティのガイドラインを満たす必要がある。アプリケーション自体はもちろん、サービスを支える基盤部分にも設計上のポイントが多数あり、これがボトルネックとなって参入を断念するケースも多い。

その点、LGWAN-ASP基盤サービスは、あらかじめ必要なルールやセキュリティ要件を満たしたインフラ基盤を提供する。仮想マシンやファイアウォールなども設定済みの状態で提供されるため、事業者はアプリケーションの開発やテストにリソースを充てることができる。早期のサービス化が実現できるほか、インフラ部分の運用も不要になる。

また、必要最小限のリソースから利用開始できるため、新ビジネスの開始に伴う投資リスクも抑えられる。豊富なノウハウを持った富士通エフ・アイ・ピーのSEによるサポートもあり、初めての取り組みでも不安なく進めることができるはずだ。

事実、LGWAN-ASP基盤サービスは、三層分離が自治体の新たなミッションとなって以降、問い合わせが急増しているという。サービス提供を考える事業者は、ぜひ検討してみてほしい。


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