ターゲットは自治体とシニア――食と健康を軸にヘルスケアサービスの“種”を考えた

ABC Cooking Studioは2012年から食を中心としたヘルスケア事業に力を入れている。2017年6月、東京の「ABC HEALTH LABO」に男女が集い、次世代のヘルスケアサービスを考える「ABC クッキングスタジオ アイデア会議」が開催された。ABC クッキングスタジオがアイデアソンに込めた狙いも含め、活発な議論の様子をレポートする。

リアルの場とデジタル空間の融合が、独自の強みを生み出す

 全国125カ所(2017年6月中旬現在)に料理スタジオを構え、国内最大規模を誇るABC クッキングスタジオ。2012年、同社は“健康”をキーワードとした「ABC HEALTH LABO」を東京・丸の内にオープンした。以降、レシピ提案や健康に関するセミナー、料理レッスンを通じ、食によって健康な体をサポートする取り組みを実践している。

 2014年にはNTTドコモと資本提携。リアルな料理教室とデジタルを掛け合わせ、「dマーケット」内の「dグルメ」など、料理教室外において、PCのみならずスマホやタブレットで学べる「ABC Online Lesson」などを提供してきた。

用意された健康メニュー


ABC クッキングスタジオの強みについて説明した木下氏

 こうした背景もあり、2017年6月13日、NTTドコモ・ベンチャーズのイノベーション創出プログラム「ドコモ・イノベーションビレッジ」と日経BPイノベーションICT研究所によるプロジェクト「未来協創Lab」が協力して、アイデアソンが開催された。テーマは食を通して考える次世代のヘルスケアサービス。参加者たちはまず、同社のヘルスケア事業部が用意した健康メニューを食べながら、ABC クッキングスタジオの持つ強みやアセットについての事前説明を受けた。

 ABC クッキングスタジオ ヘルスケア事業部 部長 木下富枝氏は、これまでのヘルスケアサービスの実績について振り返った。「BtoCだけではなく、BtoBにも注力している。自治体との取り組みとしては神奈川県との“未病”レッスン、北海道の特産物で栄養価の高い食材である“ペポナッツ”をPRするレッスンなどを開催した実績がある。また、健康経営では企業向けの栄養学セミナーを出張開催している」(木下氏)。この上で木下氏は、今回のアイデアソンに含んでほしいアセットを次のように説明した。

北海道から沖縄まで、全国に125カ所のスタジオを構えること
女性の生徒が多いこと
全国にスタッフがいてレッスンが受けられること
レシピがたくさんあること
食を通して健康をサポートするコンテンツがあること
自社で商品(レシピ)や動画撮影ができること

 このアセットをもとに、いよいよアイデアソンがスタートした。

「自治体」と「シニア」、この難題にどう挑む?

ファシリテーターを務めた日経BPの林氏。今回のテーマを提示した


切り分けたアイデアシートを分類している様子


メンターとして参加したフードプランナーの大皿彩子氏(右端)。最初のアイデア出しではシニアチームに加わった

 アイデアソンは6人ずつ1チーム、合計2チームに分かれて実施した。運営側からは考えるサービスのターゲットとして「健康経営」「自治体」「アクティブなシニア」の3つが提示され、協議の結果、自治体とシニアがテーマに選ばれた。

 最初にテーマに沿ったニーズを、1分間で次々にアイデアシートに記入していく。ここでは「~がほしい」「~してほしい」「~したい」という、ある意味原始的なアイデアを羅列する。絞り出した後にアイデアシートを切り分け、切り分けたシートをざっくりと傾向別に分類。この分類をもとに、今度はサービス内容をアイデアシートに書き込み、再び切り分けてサービス内容を分類する。

 ここまでが準備段階で、続いて個人ワークによって「サービス名」「ターゲット層」「サービス内容」を整理する。個人ワークで整理したアイデアを最後にグループで検討、最も優れたものを選出し、その詳細をパワーポイントに資料として落とし込み、3分間のプレゼンに備える。

 食と健康は身近なテーマだけに、ポンポンとアイデアが飛び交う。例えば「自分の父親がまさにシニア世代。父親に自分自身で健康な食事を作ってほしい」「親の健康を思う子ども世代にアピールするサービスはどうか?」「自治体の補助金を利用して資金を確保できるのではないか」など、それぞれの考えは多岐にわたる。

 ここに、前述したABC クッキングスタジオが持つアセットを組み合わせていく。アセットの組み込みを条件としたのは、ある程度のフレームを設けないと考えが広がりすぎてしまい、焦点がぼやけるためだ。運営側からは、こういうアセットを作ってくれたら、こんなサービスを追加できるといった提案もしてほしいとの声も上がった。

 2時間強と長い時間を設定したが、アイデアの原材料を精製して研ぎすませていく作業を繰り返したため、参加者たちは頭をフルに働かせながら臨んだ。そしてアイデア発表を迎える。最初の自治体チームが発表したのは「地域の伝統料理を空き家で学ぶツアー」。発表者は「OFFICE DE YASAI」を運営するKOMPEITO(コンペイトウ)代表取締役社長の川岸亮造氏が務めた。

 これは自治体の観光課と地域外から来るツアー客に向けたサービスで、観光課には地域伝統料理のレシピ、先生、予約システムを提供。これによってツアー客は地域に根づいた伝統料理を学べる。

 「地元の野菜を使った料理を作りたい人は、家に帰ったらABC クッキングスタジオが運営するECから野菜を購入できる。せっかく学んだ料理を作りたい場合は、スマホでレシピ動画を見ながら振り返って学習できる」(川岸氏)

 自治体にとっては地域の料理をPRしながら、観光促進と産業活性化が見込まれる。自らが食のビジネスを展開しているだけに、川岸氏は「地産地消の推進や食育にもつながるのではないか」と自信をのぞかせた。

自治体チームが発表した「地域の伝統料理を空き家で学ぶツアー」の概要

自治体チームの発表を担当したKOMPEITOの川岸氏

 続くシニアチームが発表したのは「パパおいし♥」。こちらの発表者は、快便サポートアプリ「ウンログ」を提供するウンログ代表取締役の田口 敬氏で、双方奇しくも勢いのあるベンチャー企業の代表がプレゼンする形となった。

 サービス内容は、女性ばかりの環境に参加しづらいシニア男性をターゲットとした男性限定の料理教室だ。もちろん場所はABC クッキングスタジオを利用する。ここには「年を重ねてもモテたいと思う男の欲求」(田口氏)が根底にある。

川岸氏のチームには、弁当ケータリング「ごちクル」「シャショクル」を展開する株式会社スターフェスティバルから、河合孝弥氏(右)も参加した

 具体的には料理教室で3カ月程度、女性がキレイになる料理、例えば「腸が美しくなる美腸レシピ」(田口氏)などを学ぶ。そして3カ月後にコンテストを実施するのだが、その場では若い女性に食べてもらうことを想定している。

 「タダ飯が食べれるということで、暇でお腹の空いている女子大生におじさんたちによる高級食材を使った料理、美腸レシピの料理などをふるまう。その中で一番美味しいと言われたおじさんが表彰される仕組み。健康情報を学んでもらいつつ、男性限定にすることで参加しやすくする。何より、健康レシピによってシニア自身が健康になってもらう」(田口氏)

 女子大生は将来のABC クッキングスタジオユーザーになる可能性を秘めていることから、場所の体験を兼ねたプロモーションができる。また、シニアたちが「若い子としゃべることで元気になる」(田口氏)といった効果もあるという。

 会場の挙手により、多数決でシニアチームの案を最優秀賞としたが、その差はわずか1票でほぼ同列の評価となった。講評したABC クッキングスタジオ 取締役の吉海秀彦氏は「自治体チームは明日にでも売り込める。シニアチームは目のつけどころが良い」と高く評価。今後、同社がサービスを考える際の参考にしていきたいと語った。

シニアチームが発表したパパおいし♥の概要

ウンログの田口氏

最優秀賞を獲得したシニアチーム。最右がABC クッキングスタジオ 取締役の吉海氏

門戸は広く開放、ぜひチャレンジしてほしい

吉海氏はNTTドコモ出身。ドコモ・イノベーションビレッジの創業メンバーでもある

 ABC クッキングスタジオでは、こうした試みを通じてアイデアの種を探るとともに、効果的な協業ができるベンチャーとの出会いを求めている。改めて吉海氏に、同社が目指すゴールについて話を聞いた。

――今回のアイデアソンを振り返ってみての感想は。

吉海氏:私はもともとNTTドコモの出身で、ドコモ・イノベーションビレッジの創業メンバーでもあった。そのため、こうした取り組みは非常に興味深い。これらのアイデアからいろんなヒントが出てくるだろうなという思いがある。

 2000年初頭、iモードが賑わっていた頃にたくさんのベンチャー企業の出資を担当していた。そこで実感したのが、1つのプラットフォームにさまざまな企業が参加することの意味だ。

 弊社では2012年からヘルスケアビジネスを手がけているが、当初は自分たちのアセットだけを使ってビジネスを立ち上げようとしていた。しかし私はそこに、IT系ベンチャーのスピード感、発想力を活用したいと考えている。

 ベンチャーの躍動感に、我々のリアルの場所、豊富な人的リソースを上手く組み合わせて新しいビジネスに生かせるのではないか。ABC クッキングスタジオも、ある意味ベンチャースピリットを持っている企業なので、さまざまな人たちとコラボレーションすることに抵抗感がない。上手くマッチングできれば、非常に面白いものが生まれる。今回のアイデアソンを開催した背景には、こうした狙いがある。

――どんなベンチャーが理想なのか。

吉海氏:あくまで一例だが、ログを記録するサービスと食は相性がいい。しかしダイエットやランニングなど明確な目的があれば別だが、実際の生活者の行動は異なるのが実情で、主体的にログを記録してもらうのは非常にハードルが高い。普段の生活をサポートするところには、サービスが追いついていない。そこに我々のアセットを使い、ベンチャーと一緒になって負担にならないサービスを生み出してみたい。

――パートナー候補に向けて期待することは。

吉海氏:ABC クッキングスタジオは美味しい料理を楽しく作って、楽しく食べることがもともとの出発点。しかし、食の意味はそれだけに限らない――その思いからヘルスケア事業が始まった。ヘルスケアの世界は、目的別でも生活密着型でもたくさんのチャンスがある分野。だからこそ今でもたくさんのベンチャーが参入しているし、大企業も注目している。

 我々には美味しいだけでなく栄養価を考えたレシピを開発するノウハウや、手際よく料理をするためのテクニックなど、食に関する知見がある。門戸は広く開放している。何かアイデアを持っていれば、ぜひ飛び込んでほしい。

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ドコモ・イノベーションビレッジ事務局
E-mail:village-application@nttdocomo-v.com