急成長のインバウンド市場に向けNTTドコモがパートナーと仕掛ける次の一手

パートナーと二人三脚、「VR配信の舞台裏」とは

会期中は「飾り山笠」が福岡市内14カ所に設置される。写真は十番山笠で「おんな城主 直虎」がモチーフ

 山笠の期間中は市内14カ所に10メートル前後もある美麗な「飾り山笠」が公開され、市民や観光客の目を楽しませてくれる。今回の取材ではモデル・タレントのあやきいくさんとともに7月14日の福岡市を周り、数々の飾り山笠を見学した。時代物の題材ばかりだが、見送りと呼ばれる裏面には『サザエさん』『アンパンマン』『スター・ウォーズ』など、親しみやすいキャラクターを取り上げている飾り山笠もあった。

 NTTドコモでは山笠VR配信のパートナーとして、浜松市のクロスデバイスとパートナーシップを結んだ。まずは追い山笠のスタート地点となる櫛田神社の境内に2台の4K対応の高精細360度カメラを取り付け、神社内施設に配信用ノートPCを配置してVR生配信を行う。

櫛田神社の境内に設置された360度カメラ(左、中)。神社内ではVR中継室を用意し、高性能パソコンでVR配信を行った(右)

 もう1つ、台上がりのカメラは今年の一番山笠 中州流(表標題「一喝百雷如(いっかつひゃくらいのごとし)」)に設置された。台上がりの左右に木札があり、その木札に360度カメラをくくりつけた(こちらのVR映像は録画のみ)。ちなみに一番山笠とは最初に櫛田神社の境内に舁(か)き入る(「櫛田入り」)山笠のことである。

台上がりに360度カメラを設置した一番山笠 中州流。左右の木札にカメラをくくりつけた。あやきいくさんと一緒に

 以下、あやきさんが関係者に聞いたVR配信の舞台裏をお届けしよう。答えてくれたのはNTTドコモ 法人ビジネス本部・法人ビジネス戦略部 2020・地方創生営業推進担当課長 望月 謙氏と、クロスデバイス 首都圏営業グループ 企画営業 VRソリューション事業ユニット 伊都好古氏。

あやきさん:望月さんは積極的にVRを自治体に提案していると聞きましたが、どのような取り組みをされているのでしょうか。

望月氏:福岡市とは、1年ほど前に「ツーリズムEXPOジャパン2016」でVR配信を行いました。そこでの経験も、福岡市をはじめとした各自治体へのVR提案のノウハウとして培われています。

あやきさん:クロスデバイスとは良好なパートナーシップを結んでいるようですね。

望月氏:はい。我々にとってクロスデバイスはVR業界では最も信頼できるパートナーの1つです。これまでに浜松市事業の「直虎360度 ヴァーチャルツアー」のVRシステム構築で連携した経験もあり、今回の企画も一緒に提案したものです。

伊都氏:弊社も地方創生にVRを生かそうと力を入れています。NTTドコモとともにVRを盛り上げたいとの思いがあったので、今回の取り組みを聞いたときはぜひ参加したいと思いました。

NTTドコモ 法人ビジネス本部・法人ビジネス戦略部 2020・地方創生営業推進担当課長 望月 謙氏


クロスデバイス 首都圏営業グループ 企画営業 VRソリューション事業ユニット 伊都好古氏

あやきさん:取り組みにあたって苦労したのはどんな点ですか?

伊都氏:カメラの選定には気を使いました。描画の精細さに加え、過酷な条件に耐える耐久性も重要でしたから。

望月氏:7月15日のVR配信本番に向けて、我々は11日から福岡入りしてリハーサルを重ねました。初めてのことだらけなので、毎日のように夜遅くまで作戦会議をしてきましたね。

あやきさん:この取り組みは本当に画期的だと思います。2020年には5Gも開始され、VR配信もぐっと楽になるのでは?

望月氏:そうですね。イベントや祭りでのVR配信は、まずカメラを置く場所を選んで、そこからインターネットにアップロードする必要があります。現状でベストな方法は、安定していて高速性も担保されることから光回線なのですが、何しろケーブルを敷くのが大変。イベントのためだけに臨時で準備するのは相当手間がかかります。

 一方でVRは見てもらえば一瞬で感動します。通信回線に5Gが適用されれば光回線を敷く手間が一切なくなりますから、魅力を手軽に伝える手段としては最適です。今回の経験から、VRの快適な配信には5Gが必要だと痛感しました。

あやきさん:5Gは大きな可能性を秘めているんですね。

望月氏:はい。いずれは高負荷の処理もすべてクラウドサーバーで行われて、手元に小型の360度カメラやスマートフォンさえあれば、誰でも簡単に高精細なVR映像のライブ配信ができたり、視聴を楽しめたりするようになるのではないでしょうか。NTTドコモとしては、こうした新しいチャレンジを「+d」の精神で進めていきます。弊社ですべてのアセットをそろえるのではなく、パートナーシップを組んで臨機応変に組み合わせて活用していくのが目標です。

インタビューするあやきさん。テスト配信の様子をHMDで体感して感動する一幕も

 NTTドコモが自治体に向けて観光VRを提供するきっかけを作ったのは、NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズが共同で手がけるドコモ・イノベーションビッレジの取組み「Villageアライアンス」である。ここではNTTドコモとベンチャー企業とのパートナーシップにより、新しい価値を創造することを目指す。

 ドコモ・イノベーションビレッジでは2017年3月、ハードウエア制作、ソフトウエア制作、コンテンツ制作、企画プロデュースなど多方面からVRに関わる企業が集ったマッチングイベントを開催。全11企業に加え、VR映像研究の第一人者としても知られる早稲田大学基幹理工学部表現工学科の河合隆史教授を招いて講演を行うなど、有機的なマッチングに尽力してきた。事実、このイベントから新たな関係が生まれ、ビジネスに発展しているケースもある。NTTドコモスマートライフ推進部 アライアンス推進担当課長の平野右平氏は「ここまで大きな取り組みに発展したのは、支援した我々としてもうれしい」と率直な感想を漏らす。

VRが日本の祭り体験を変える!

追い山笠における一番山笠 中州流の様子

  毎年7月1日から7月15日まで福岡市の中心部を舞台に繰り広げられる山笠は、最終日15日の早朝4時59分にクライマックスの追い山笠を迎える。「流」(ながれ)と呼ばれる複数の地域が一番から八番まで参加し、約5キロにわたり山笠を舁(か)く行事で、その勇猛果敢さはつとに有名だ。

 2017年7月15日。博多駅前から続く大通りの「大博通り」には、まだ空も白んでいない午前3時頃から続々と人が集まりはじめた。午前4時59分、追い山笠は大太鼓の合図とともに一番山笠から櫛田神社に「櫛田入り」し、その後、大博通りを通過して約5キロのコースを駆け抜ける。我々取材陣が陣取った地下鉄・祇園駅前は格好の見物スポットで、たくさんの人がひしめき合っていた。

 ようやく空も白みはじめた午前5時過ぎ、360度カメラを搭載した一番山笠の中州流が大博通りに現れた。初体験となる山笠の激しさは、得も言われぬ迫力に満ちている。そしてアドレナリンが体を駆け巡り、祭りならではの興奮が襲う。沿道から見ていてもこれだけ高ぶるのだから、台上がりの視点ならなおさらだろう。

東京プリンスホテルで山笠のVR中継を楽しむ人たち

 同時刻、東京プリンスホテルでの中継も上手く行ったという。参加者それぞれがHMDを見ながら遠く博多で行われている山笠に没入した。こうして最新テクノロジーは、コンテンツ体験に新たな感覚をもたらしてくれる。VRが日本の祭り、ひいては観光そのもののマストアイテムになる――今回のプロジェクトは、そんな可能性さえ感じさせてくれるものとなった。

お問い合わせ

ドコモ・イノベーションビレッジ事務局
E-mail:village-application@nttdocomo-v.com

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