熊本地震から立ち直り、未来へ希望をつなげるために――人気YouTuberとともに地元の魅力を世界に発信

 2016年の熊本地震により甚大な被害を受けた熊本県益城町。町では「益城町復興計画」において“住み続けたいまち、次世代に継承したいまち”を将来の復興像に掲げ、さまざまな取り組みを行っている。こうした中、益城町、NTTドコモ九州支社、ドコモ・イノベーションビレッジが連携し、著名なYouTuberを招聘して益城町の魅力を世界に発信する動画制作のワークショップを開催。イベントは地元の若者たちのはつらつとした思いを凝縮したものとなった。現地からの密着レポートを報告する。

日本人が除外してしまう対象に、外国人が惹きつけられることも多い

 震度7の激震に襲われた2016年の熊本地震で、最も大きな被害を受けた熊本県益城町。県都・熊本市の隣に位置し、熊本空港や大型展示場のグランメッセ熊本などを擁するこの町では、実に町内の9割以上に及ぶ家屋が損壊した。

 あれから1年4カ月あまり。すでに9割以上の損壊家屋が撤去され、復興は着々と進んでいる。その一方、ワークショップの舞台となった熊本県益城町役場の仮設庁舎別棟は、典型的な仮設のプレハブハウスである。仮設庁舎から道路を挟んだ向かい側には仮設住宅が並び、熊本地震が残した爪痕の大きさをまざまざと見せつける。

現在、益城町役場は仮設庁舎で運営(左)。役場の向かい側には仮設住宅が並ぶ(右)

 2017年8月26日、ワークショップ当日。朝からの豪雨にもかかわらず、会場には地元の若者たちが詰めかけた。イベントに先立ち、益城町副町長の向井康彦氏が挨拶。向井氏は今も3000世帯・7000名を超える町民が仮設住宅に暮らす現状を訴えながら「今後はハード面に加え、ソフト面の充実も重要になってくる。YouTubeには大きな可能性があるだけに、インターネットを利用していかに益城町の魅力を発信できるかが楽しみだ」と、参加者たちに激励の言葉を贈った。

 続けて登壇したNTTドコモ 熊本支店 支店長の岡園勇治氏は、震災以降の通信環境整備をはじめとする復興支援に言及。今後も継続的な支援をしていきたいと述べ、イベントを通じて「益城町から世界へ情報発信をしていくきっかけづくりに貢献したい」と語った。

益城町副町長の向井氏(左)、NTTドコモ 熊本支店 支店長の岡園氏(右)

 ドコモ・イノベーションビレッジはパートナーとNTTドコモが協創しながら新しい価値やイノベーションを創造していくプログラムで、これまでに5G、VR、AI、IoT、ドローンなど多岐にわたる新技術をテーマにコラボレーションを行ってきた。また、仙台市と組んだドローン活用のアイデアソンや大阪市でのIoTアイデアソンなど、地方でのイベントを積極的に手がけている。

 NTTドコモの石原淳氏は今回のワークショップの狙いを「益城町に加え、組織ではなく“個人”であるYouTuberと連携した新しい取り組み」と説明した。YouTuberとして招聘したのは、在日カナダ人女性のSharla(シャーラ)さんだ。

ドコモ・イノベーションビレッジの概要を説明した石原氏(左)。YouTuberにはシャーラさんが招かれた(右)

 カナダのビクトリア市に生まれたシャーラさんが日本に興味を持ち始めたのは13歳のとき。17歳で初めて来日し、岩手県で2年間のワーキングホリデーなどを体験した。一旦帰国するものの2011年の東日本大震災の悲報を聞きつけ、同年9月に再来日。その後、千葉県の大学に編入し、以降は日本に住み続けている。

YouTubeのコツを紹介したシャーラさん


参加者の質問に気さくに答えるシャーラさん


ファシリテーターを務めた前田氏


益城町の「ない」ものをさがすのがテーマ

 当初、日本の大学生活を母国カナダの学生向けに紹介するために始めたYouTubeの投稿は、いつしか彼女のライフワークとなった。外国人旅行客を中心に絶大な人気を誇っており、YouTubeの公式チャンネル「Sharla in Japan」の登録者数は累計70万人(2017年1月現在)を超える。

 その特徴は“カナダ人ならではの視点”で日本の魅力を紹介する点にある。彼女が大きな注目を浴びた動画は、日本の食パンを食べながら、ひたすらその魅力を語り下ろすシンプルな内容だった。これはシャーラさんが日本の食パンの美味しさにカルチャーショックを受けたからこそ生まれたもので、逆に日本人なら見過ごしてしまう題材と言える。

 シャーラさんはこれまでの豊富な経験を踏まえて、ご当地紹介系YouTubeのパターンとして4つのコツを披露した。それは1.一日の流れを追って時間にフォーカスする、2.気に入った場所にフォーカスする、3.人にフォーカスする、4.その地に伝わる伝承や民話などにフォーカスする、というもの。そしてタイトルには必ず「Japan」「Japanese」と入れることを念押しした。

 「今、日本は海外の旅行客から人気があるが、“Mashikimachi”とタイトルに入れてもYouTubeで検索されにくい。益城町を紹介するときは“A small japanese country side town”などと工夫したほうがいい」(シャーラさん)

 ワークショップは全7チームに分かれて進行した。ファシリテーターを務めたのは、動画制作に造詣の深いフレイ・スリーの前田考歩氏。前田氏はまず、シャーラさんの食パン動画を例に取り、「日本人には当たり前すぎて、映像に残そうと思わないものを動画にしたら100万回以上再生された。ここに皆さんに映像を作ってもらうヒントが隠されている」と切り出した。

 前田氏によれば、地元の人にとっては当たり前、観光資源として取り上げるほどでもない対象であっても紹介する価値があるのだという。「皆さん、街のすごい部分を撮りたがる。しかし冷静に考えて、横浜市や京都市のように唯一無二の存在感のある街は限られている。だからこそ、地元の人しか知らない情報を発信する必要がある」(前田氏)。

 そこで提案したのが、益城町の「ない」ものをさがすというテーマだ。配布したシートに、この一週間ほどで食べたもの、町内で訪れた場所、体験したこと、通勤・通学路で見かけたものなどを片っ端から記入する。その後、書き出した言葉から観光パンフレットや町のホームページの観光情報、地元スーパーのチラシなどに書いてある言葉を消していく。そこから外国人が体感できるリアリティのある等身大のキーワードを絞り込み、残った情報を整理して実際の絵コンテ(動画のシナリオ)に落とし込む。

 頭をひねりながら撮影対象を絞り込んだ後、撮影機材の操作説明を行った。動画撮影に用いたのはiPhoneと、テンプレート機能を備えた動画制作アプリ「1Roll」(フレイ・スリー製)だ。そして前田氏がモデルとなり、実際に参加者たちが1Rollを使ってデモ撮影を実施。平易な操作性とあいまって、参加者たちは素早く撮影の手順を体得した。


ワークショップで地元のチラシや地図を見ながら益城町の魅力を必死にさがす参加者たち。シャーラさんも会場を回りながらアドバイスした



絵コンテのサンプルとにらめっこする参加者(左)。前田氏をモデルにデモ撮影に挑む(右)

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