熊本地震から立ち直り、未来へ希望をつなげるために――人気YouTuberとともに地元の魅力を世界に発信

町にはたくさんの魅力が溢れていた

 昼食を挟み、午後の部はいよいよ町に出ての動画撮影へ。我々は地元の人気和菓子屋や仮設商店街を取材するチームに同行したが、突然の訪問にもかかわらず店の方々が快く受け入れてくれた。

地元の人気和菓子屋「九ちゃんまんじゅう」(左)。仮設商店街にある「戸島屋」はドローンやラジコンを扱うが、なんと発祥は草履屋(右)

 見学していて感じたのは、動画制作のスキル以上にコミュニケーションが重要ということ。特産品の説明をしてもらうにしても、店の特色を聞き出すにしても、まず店主の懐に入り込まなくては円滑に事は運ばない。とりわけ店舗取材のYouTube動画では突撃系が多いため、いかに不信感を持たれることなく交渉を進めるかが鍵となる。

 仮設商店街には前日に撮影を済ませたシャーラさんも訪れたが、すっかり店のスタッフと打ち解けていた。持ち前の笑顔を振りまきながら流暢な日本語で雑談を交わしている。恐らくシャーラさんは、初めて訪れた場所でもこのようにリラックスしながら撮影するのだろう。そこに、人気YouTuberならではの“コミュ力の高さ”を垣間見ることができた。

仮設商店街の文具店で談笑するシャーラさん(左)。九ちゃんまんじゅうでは、シャーラさんのリクエストに応えてまんじゅうづくりの実演も(右)


今回のワークショップとは別に、シャーラさんが独自に撮影した益城町の魅力を伝える動画


 およそ2時間後、各チームの撮影が終了。会場に戻り、全員での鑑賞会と審査員による講評を行った。7チームが取材したテーマは「店舗紹介系」(4チーム)と「名所紹介系」(3チーム)に大別されたが、取材先はすべてバラバラ。結果的にアウトプットはバラエティに富む内容となった。

 店舗紹介系では、商品や人に焦点を当てたものが目立った。地元で人気の「益城プリン」や先述した和菓子屋では商品の良さをダイレクトに説明し、ドローンの取扱店では店主とともにジャンプを決める。また、仮設商店街の食堂では常連客にも店の良さをアピールしてもらうなど、地域住民をも巻き込むことに成功した。

撮影後は皆で“力作”を鑑賞した


 名所紹介系は、3チームそれぞれが奇しくも益城町の“美しい水”にスポットを当てたものとなった。中でも天然水が湧き出る貯水池の「そうめん滝」は、その風景を見るだけで訪れてみたいと思わせる透明感を湛えていた。手作りの動画だけに、より素朴な美しさが引き立っていたのも印象深い。

左から、審査員を務めたNTTドコモの坂本氏、日経BPの林氏、シャーラさん

 審査員はシャーラさん、NTTドコモ九州支社 企画総務部 経営企画担当 課長の坂本亨氏、ドコモ・イノベーションビレッジとパートナーシッププロジェクト「未来協創Lab」を運営する日経BPの林誠氏が担当。シャーラさんは、「皆さん初めてとは思えないクオリティ。好きなことを発信し続けていけば支持者が増える。これからもYouTubeを続けてほしい」とアドバイスした。そのほか、「この短時間でよくこれだけ工夫した。わずか1日でこれだけできるのであれば、継続的に取り組めばもっと面白い作品ができるだろう」(日経BP林氏)、「映像を見ると魅力はたくさんある。知らない人たちからすると、行ってみたいと思わせる仕上がりになっている」(NTTドコモ坂本氏)との評価を得た。

 ワークショップを振り返り、参加者たちからは「価値がないと思っているものに価値があり、新しい発見ができた」「YouTubeの制作のコツを詳しく聞けたので、これからに活かしていけそう」「益城町がいろんなことに協力してくれる温かい町だと再認識した」「町民との通常の会話から魅力を引き出せたのがとても大きかった」と前向きなコメントが並んだ。

最後にシャーラさんからトップ賞を授与。わずか2時間で河童のコスプレをしたことが高く評価された


自治体が民間企業とコラボする意義は大きい

益城町の戸上氏

 言うまでもなく、今回のイベントをもり立てたのは益城町の若い力である。2016年10月、町では若者のアイデアを取り上げていく場として「益城町未来トーーク」を開始。以降、継続的にワークショップを重ね、現在はコミュニティスペース建設、オリジナルジェラートの開発、未来の益城マップ作成など、5つのプロジェクトが進行中だ。

 益城町総務課の戸上雄太郎氏によれば、若者の意見を吸い上げることを提案したのは町に暮らす年配の方々だったという。

 「年配の方々からの『子どもたち、孫たちにも益城町にずっと住み続けてほしい。若者たちが主役になるまちづくりをしたい』との声が後押しとなって益城町未来トーークは始まった。復興に向けて新しいまちづくりを考えていく中で、未来のことを考えていくためには若者の意見が不可欠だった」(戸上氏)

 NTTドコモは熊本地震発生後から、住民のために安定した通信環境の確保に奔走した。緊急時だからこそなおさら、携帯電話(スマートフォン)による連絡網は重要な生命線になる。「皆さん、携帯電話だけは肌身離さず持って避難する。我々は携帯電話基地局の復旧に加えて、避難所となった体育館にWi-Fiを設置したり、充電器を配布したり、自治体に衛星携帯電話をお貸ししたりして、円滑にコミュニケーションが取れる状況を整備した。それこそ、通信インフラを運営するNTTドコモの使命だからだ」(坂本氏)。

NTTドコモの坂本氏


東日本大震災後、シャーラさんはYouTubeを通じて日本の良さを発信し続けた

 東日本大震災後に日本に戻ってきたシャーラさんは、日本に対する世界中からの風評被害を払拭すべく、YouTubeにたくさんの動画を投稿した。「誤解を解くために、自分が無事に住んでいる姿を発信した。そして観光客が来るように、日本の良いところを撮ってアップし続けた」(シャーラさん)。日本でのワークショップは今回が初となるが、今後も機会があれば、地域住民に対してYouTubeのコツを教えることを続けていきたいと話してくれた。

 東日本大震災は津波による被害の影響もあり、復興まで長い時間を要した。しかし熊本地震の場合は復興のペースが早く、冒頭に記したように益城町でも9割以上の損壊家屋が撤去された。被災地に暮らす人たちを除き、熊本地震の記憶は徐々に風化しつつある。

 だからこそ、益城町の魅力を改めて世界に訴えかけ、力強く復興する姿をアピールすることが求められた。ワークショップの橋渡し役となったドコモ・イノベーションビレッジ/NTTドコモの石原氏は、「参加者の方がイベント後にも継続して取り組みたくなるような企画にすることで、長期的に町を活気づけたい」との思いから今回の取り組みに臨んだ。
 
 ドコモ・イノベーションビレッジ/NTTドコモの平野氏は、「ドコモ・イノベーションビレッジでは、これまでもさまざまなパートナーとコラボレーションして取り組みを実施してきた。今回は、『復興支援』という枠組みで自治体である益城町、若手の住民で構成される未来トーークの皆さん、YouTuberのシャーラさん、日経BP社、ドコモでそれぞれの知見やノウハウなどを出し合って、『益城町の新たな魅力を発信』という新たな価値を協創する取り組みをサポートした。住民の皆さんまで巻き込んだ今回の取り組みは我々にとっても新たな挑戦だった。今後も“協創による新しい価値”を提供できるように取り組んでいきたい」と語った。

 戸上氏は自治体、民間企業、個人が連携したコラボレーションに挑んだ理由を、「将来的に、自らが企画して行動する人たちを増やしていくため」と話す。自治体の中だけで閉じることなく、外の人たちと触れ合うことは新たなアイデアが生まれるきっかけとなる。「だからこそ、コラボする意義は非常に大きい」(戸上氏)。

ワークショップを支えたメンバー。最右はドコモ・イノベーションビレッジに携わるNTTドコモの平野氏

 坂本氏は、NTTドコモが益城町と協創したきっかけを「安定した通信の提供というミッションをクリアした後、もう少し踏み込んだ価値を住民の方に提供できるのではないかと考えた」と語る。そして真摯に住民と向き合う自治体と組むことで、お互いのリソースを持ち寄りながらこれからもチャレンジを続けていくつもりだ。

 いずれにしろ、シャーラさんが指摘するように継続することに大きな意味がある。ここで学んだ動画制作のノウハウを生かし、YouTubeを活用した益城町のまちおこしに弾みがつくことを願う。

お問い合わせ

ドコモ・イノベーションビレッジ事務局
E-mail:village-application@nttdocomo-v.com

<前へ