風光明媚な佐久島で花開いた産学官コラボによるデジタルアート”

2017年10月7日〜8日にかけ、愛知県・佐久島で「夜空と交差する森の映画祭2017」が開催された。そこで展示したスマートフォン連動型のインタラクティブデジタルアートに、愛知県西尾市、愛知工業大学、NTTドコモ東海支社/ドコモ・イノベーションビレッジが協力した。産学官における1つのロールモデルとなった画期的な取り組みを紹介する。

アートの島に惹きつけられた
映画祭と地方創生プロジェクト

愛知県西尾市に属する佐久島。三河湾上に浮かぶ面積1.73平方キロメートルほどの小さな島だが、“アートの島”として全国的に知られている。1990年代から島内での現代アート展示に力を入れ、島の至る所で美しい自然とアートが調和。最近はInstagramやFacebookなどで“SNS映え”するとの評判が高まり、人口わずか230人あまりの島に年間10万人もの観光客が訪れる。

砂浜にある島の代表的アート「おひるねハウス」

これは島の“昼顔”に対する評価だ。実は宿泊施設の少なさもあり、宿泊込みの観光客はわずか1割ほど。そのため以前から、島民たちには“夜の佐久島”の魅力を伝えきれていないもどかしさがあった。西尾市地域振興部佐久島振興課課長の内藤貴久氏は、「佐久島で夜のイベントを開催したいとの思いがありました。そこでタイミングよく森の映画祭実行委員会から声がかかり、ぜひ映画祭をやりましょうとなったのです」と映画祭開催の経緯を語った。

2014年に始まった「夜空と交差する森の映画祭」(以下、森の映画祭)は、野外映画フェスのパイオニア的存在だ。野外ロックフェスにインスパイアされたその内容は、野外の複数シチュエーションにスクリーンを貼り、観客が各スクリーンを移動しながら夜を徹して映画を楽しむイベント。上映作品も長編メジャー作品から気鋭のインディ作品までとさまざまで、毎回趣向を凝らしている。

森の映画祭実行委員会代表のサトウダイスケ氏は、あるイベントで内藤氏と出会い話を持ちかけた。これまで埼玉県秩父市、山梨県北杜市と山間のキャンプ場で行ってきたが、もともと島で開催したいとの思いを持ち続けていたからだ。西尾市の積極的な姿勢もあり、下見に来て数回のやり取りで決めたという。「ここは島の中にも離島があり、小中学校のグラウンドがあり、山中のステージもある。3つのまったく違うバリエーションに加え、島の雰囲気も素敵だったので佐久島に決定しました」(サトウ氏)。

並行してNTTドコモ東海支社では西尾市とともに、地方創生の取り組みに関する話し合いを重ねていた。当初は防災の観点だったが、折よく森の映画祭の招聘が決定。方向性を観光に改め、森の映画祭に照準を合わせてデジタルアートの展示を企画することとなった。そこで白羽の矢が立ったのが愛知工業大学 情報科学部情報科学科の水野慎士教授である。NTTドコモ東海支社 営業部 営業企画 アライアンス担当課長の森木亮子氏は、コラボレーションのいきさつをこのように説明した。

話を聞いた関係者。左から水野氏、サトウ氏、内藤氏、森木氏

「弊社では産学官連携フォーラムを開催しており、もともと地元の自治体や大学とのつながりがありました。“夜、佐久島、ICT”のキーワードを聞いたとき、プロジェクションマッピングの第一人者として名高い水野教授のことを真っ先に思い浮かべました。まさに適任だと思い、ご協力いただいたのです」(森木氏)

水野氏は「森の映画祭で私たちの技術を応用したコンテンツが作れるのであれば、研究者としてもやりがいがあります。ぜひやりたいとお願いしました」と、イベントへの参加を即決した。この動きにアイデアソンやワークショップの豊富な知見を持つドコモ・イノベーションビレッジが全面協力。2017年8月、各地から参加者が集い、佐久島にてワークショップを行った。

自らの足で島を回り、
デジタルアートの種を発掘

ワークショップでは、水野氏があらかじめ「スマートフォン(スマホ)連動プロジェクションマッピング」「スマホ連動LEDアート」の2種類をマスタープランとして提供。まずは映画祭当日に実現可能な手法を用意した上で、「さまざまな表現方法、インタラクション方法、森の映画祭のコンセプトに沿った表現、参加者の心をつかむ表現などをアイデアとして出してほしい」(水野氏)と要望した。

ワークショップでアイデアを出す参加者たち(左)。佐久島を歩きながらアイデアを練る(右)

ドローンの映像で見る美しい佐久島の風景

参加者たちはプロジェクションマッピングチームとLEDアートチームの2つに分かれ、テーマに肉付けする形でアイデアを膨らませていった。テーブルに台紙を広げ、活発に会話しながらアイデアを書き込んでいく様子は、ほかのアイデアソンと変わらない。だが今回は室内にとどまることなく、自然豊かな佐久島を実際に歩いて観察した。このフィールドワークは参加者たちの想像力をさらに掻き立ててくれたに違いない。

プロジェクションマッピングチームは、砂浜をスクリーンに見立てた幻想的なアートを提案した。投影している映像とスマホに映る映像がリンクし、スマホにタッチすると砂浜の光が消える仕掛けだ。シャボン玉や海ほたるから発想を得たという。そのほか、スマホの画面に描いた絵を砂浜に映像で表示するという斬新なアイデアもあった。

プロジェクションマッピングチーム(左)とLEDアートチーム(右)の発表の様子

LEDアートチームは、島にかかる桟橋にLEDを敷き詰め、「佐久島の夜光虫のような雰囲気」で橋が光る仕組みを提案。そこに、光に沿って“けんけんぱ”をしながら橋を渡りきる遊び心を取り入れた。

水野氏は「どちらも研究室で1人で考えていては思いつかないアイデア。純粋に素晴らしい」と高く評価。同じく、ほかの関係者にとっても今回のワークショップは刺激的だったようだ。内藤氏が「ちょうどワークショップに参加している若い世代が島の観光客のメイン層と重なる。映画祭を通じて、その世代がどんなものに興味があるのかを知りたいですね」と言えば、森木氏は「官としての西尾市、学としての愛知工業大学、産としての NTTドコモ、アートとしての森の映画祭といった今までにないスキームで新たな価値を創造することにワクワクしています」と語る。サトウ氏は「映画祭は3連休の初日。前後で佐久島観光を楽しめるはず」と、森の映画祭が地域の活性化にもたらす効果に言及した。

集まった観客はインタラクションに大興奮!

10月7日から翌8日の朝にかけて行われた森の映画祭は約1800人を動員。観客たちは開放的な雰囲気の中で映画を楽しみ、大成功のうちに幕を閉じた。その中で、ワークショップのアイデアを反映した2つのデジタルアートは少なからぬインパクトを与えた。水野氏は当日の様子をこう振り返る。

森の映画祭で披露したプロジェクションマッピング(左)、橋を利用したLEDアート(右)

「プロジェクションマッピングは予想以上の反響でした。自分のスマホの操作に映像が即座に反応するインタラクションは初体験の人が多かったようで、大勢の人が集まって写真を撮影していたのが印象的でした。

LEDアートは橋に70台ほどのマイコンボードを設置してスマホで制御しました。遠くから色や光り方を定期的に変えてみたのですが、その幻想的な雰囲気を多くの人に楽しんでもらえました」(水野氏)

研究室でテストを重ねていたものの、これだけ多くのデバイスを野外の環境で制御するのは初めてだったこともあり、水野氏は無事成功したことにほっと胸をなでおろしていた。また、「自分たちの作品を多くの人に見てもらえるのは大きなモチベーション。大勢が集まった今回のようなイベントでは責任感も伴いますから、協力してくれた学生にとっては非常に意味のある経験になったと思います」とも話してくれた。

自然豊かな島を舞台に、産学官の熱意と最新テクノロジーが融合したプロジェクトは、こうして上々の成果を収めた。このスキームはどんな地域でも対応できるだけに、今後の横展開に期待したい。

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