中小ビルTOPICS

ビルからの転出も歓迎
敷金を半額にした「出世ビル」

老舗の髙木ビルが始めたテナント支援サービス

2018/03/14
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ビル入居時の敷金が相場の半額になる「次世代型出世ビル」、創業まもない企業をサポートするコワーキングスペース「BIRTH KANDA」――。1961年創業の髙木ビル(本社:東京・港区)が始めた取り組みが話題になっている。いずれもテナントを支援する仕組みを取り入れているのが特徴だ。狙いについて、同社の専務取締役兼COO(最高執行責任者)を務める髙木秀邦氏に話を聞いた。取り組みの背景には「テナントのパートナーになる」という考え方があった。(聞き手:編集部)


虎の門髙木ビル(写真提供:髙木ビル)

虎の門髙木ビル(写真提供:髙木ビル)

――次世代型出世ビル、BIRTH KANDAなど、次々と新しい取り組みを続けておられます。どういう思いで取り組んでいるのですか?

髙木(髙木秀邦氏 以下、髙木)次世代型出世ビルとBIRTH KANDAを始めたのは、「ビルオーナーとテナントとが、どうやって向き合えば価値を生み出せるのだろうか」について、私なりに考えた結果なんです。私のなかには「テナントと同じ土俵に立って、ともに成長したい」という思いがありました。では、どうやって一緒に成長できるのか。今までのビル経営、今までの賃貸借の関係と何が違ってくるのだろうか。いろいろ考えて「テナントとパートナーになる」という考えにたどり着きました。

かつてのビル経営、ビルオーナーの考え方の中には、「大家と店子」という表現を引きずって、貸してあげる、貸してもらっているという、縦の関係でとらえる傾向もありました。しかし、パートナーになるということは、縦関係とか、向き合う相手とかというのではなく、隣に同席させていただくような感覚です。

■次世代型出世ビル

ビルに入居時の初期費用の削減など、ベンチャー企業の成長を支援する目的で2016年5月にスタートしたプロジェクト。日本商業不動産保証(東京都港区)が展開する保証金の半額保証サービスを利用して、テナントがビルに入居する際の敷金を半額に設定している。プロジェクトの支援企業には第一勧業信用組合やNTTドコモ、E3、弁護士ドットコムなどが名を連ねており、テナントはWi-Fi環境の整備やITソフトの提供、資金相談といったさまざまなサポートも受けられる。髙木ビル以外の賃貸ビル会社も参加、現在、東京都区部21棟のビルに入居することができる

次世代型出世ビルのウェブサイトhttp://jisedaigata.com/

次世代型出世ビルのウェブサイト
■BIRTH KANDA

東京・千代田区にある神田髙木ビルの6~7階にあるコワーキングオフィス。住居部分をリニューアルした。席を固定していないフリーのワーキングスペースのほか、3~8人用の個室オフィススペースが3部屋ある。無料の「法人登記」「専用POST」「専用ロッカー」といったサービスも提供している。共有のラウンジやバルコニーも備えており、定期的なイベントや勉強会を開催して、入居企業の交流を促し、コミュニティーを生み出す仕掛けも積極的に展開している。

BIRTH KANDAのウェブサイトhttp://t-bldg.jp/birthkanda/

(写真提供:髙木ビル)

(写真提供:髙木ビル)

――出世ビルについて、利用しているテナントさんの反応はどうですか。

髙木私どもの本社が入っている虎の門髙木ビルに、出世ビルスキームで2社ご入居いただいています。1社は入居から2年が経ちました。当初はスペースの6割ぐらいしか利用していなかったんですけれども、会社が成長してもうスペースが足りなくなっています。

出世ビルのスキームでは、通常の賃貸借に比べると敷金が半額程度で済みます。オーナーとしては、敷金の半額を保証会社との契約に切り替えてもらうだけですから、テナントから敷金を全額預かるのとリスクは同じです。仮にテナント企業がデフォルトしても、半分は保証会社で担保できているので同じになりますね。

テナントにとっては、もともと敷金はオーナーに預けている間は凍結することになりますよね。出世ビルでは、預ける金額が少なくなる分、浮いたお金を事業資金に回せるんです。いまご入居いただいている2社は、成長フェーズにあり、創業期から事業の成長を2倍、3倍に加速させていて、どうしても人的なリソースを欲しいという段階なんですね。ですので、浮いたお金を人材確保に投下し、内部の事業を加速させています。

(資料提供:髙木ビル)

(資料提供:髙木ビル)

(資料提供:髙木ビル)

(資料提供:髙木ビル)

また、敷金が少なくなる分、入居を検討してこなかった一つ上のグレードのビルに入れるとなると、コーポレートブランディングにもつながるので、人材募集にいい効果が出てきます。

――テナントの成長を後押ししているということですね。

髙木先日、出世ビルで入居している企業の社長さんとお会いしたら、スペースが足りないので何かできませんかと、ざっくばらんに相談してくれました。ですので、今ビル内でBIRTHのような共用スペースをつくろうかなどと考えています。こうしてテナントからの提案を受けて、我々も新しいことにチャレンジできる「ウィン―ウィン」な関係を築くこともできます。

テナント企業から経営の話や困っていることなど、いろいろなお話を伺うことができます。私も社員も、テナントといろいろな形でコミュニケーションを取れています。これって、実はビル経営の一番のリスクを軽減しているんですよ。

テナントを知れば知るほどリスクは減る

――どういうことでしょう?

髙木テナントさんのことを知れば知るほどリスクは減るんですよ。テナントさんが近ければ近いほど、テナントさんのことがよく分かるじゃないですか。それで、テナントさんのデフォルトのリスクなどもわかりますので、急に倒産されてオーナーとしての備えが遅れることを防ぐにも有効です。

実は一番近いところにいて情報をいろいろ共有することによって、この企業はどういうフェーズにいるのか、逆にちょっと調子が悪いのであれば、パートナーとしてどういう提案ができるかを考えることもできます。賃借床を半分にしましょうとか。

オーナーが相談に乗れる関係は実はリスクを軽減できるのですが、今までは「テナントさんとオーナーの間には管理会社を挟んでやり取りしたほうがいいよ」「何かあったときにもめると大変だから、間に壁をつくらなきゃだめだよ」というのが定石だったんです。

でも、それによって、テナントさんのことがどんどん分からなくなっていく。テナントさんの顔色が分からなくなっていく。ニーズも分からなくなっていく。そうすると、オーナーとして応えるものもなくなっていく。心は離れていて、ただ賃貸借だけの関係性になっている。そうなると、何かあったときに、すぐにビルから出ていってしまうことが起きると思うんです。

――なるほど。ただ、出世ビルの場合には、企業が成長してスペースが足りなくなって、ビルから出ていく可能性もありますね。成長してほしい一方で、ビルから出ていってほしくないというのは矛盾しませんか?

髙木いえ。どんどん出世していって、どんどん出ていってほしいと思います(笑)。出世ビルで入ったテナントさんが、本当に出世してビルを出ていくという話になれば、こんなに縁起のいいことはないと思うんですよ、ビルとして。

――ああ。なるほど。

髙木あのビルは、あの企業が出世して出ていったところなんだよということが価値になると思っていて。しかも、そんなサポートを受けて出世していったんだということになれば、自分もそういう環境で働きたいと思う経営者さんが必ずいると思うんです。

ビルというのは、箱ではなくて、ビルの中にどういう人がいて、どういうことが行われているのかとか、どんなリレーションがあるのかという、その中身の方に目を移していかないといけないと思っていす。

ただ、これまでのやり方から1歩踏み出すのは怖いとか、自分1人で何ができるんだろうというオーナーさんって多いと思うんですよ。ですから、そういうオーナーさんが集まって、お互いに思いを共有できないかと考えているんです。がちがちした会員組織ではなくて、同じような思いでビルを運営しているんだという、緩やかなコミュニティーのようなものですね。最初は情報交換だけでもいいんですけれども、そういうものができれば、すごくアイデアにもなるし、心支えになると思います。

(写真提供:髙木ビル)

(写真提供:髙木ビル)


文:編集部、写真:菊池くらげ(特記なき写真)

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