事例研究・バリューアップ術

賃料アップを約束するリノベーション

清水建設の「サステナビリティ・リノベーション事業」

2018/04/11
事例研究・バリューアップ術

清水建設が、稼働中のオフィスビル(築22年)をリノベーションして、25%の賃料アップに成功した事業スキームが注目されている。ビルオーナーが定期的に行う建物の大規模修繕や設備のリニューアルだけでは困難だった賃料アップを、テナントのニーズに合わせたリノベーション提案によって実現したからだ。


既存ビルの再生では、テナントが退去した後にリノベーションを行い、テナントを募集するケースが一般的だ。ただ、工事終了後に想定する賃料でテナントが決まらないリスクがある。ビルオーナーとしても、リノベーション投資によるバリューアップには慎重にならざるを得ない。

今回の事業スキームは、清水建設がテナントに対してリノベーション提案を行い、賃料アップと長期間の定期借家契約の合意を得たうえで工事を行う。ビルオーナーは、リノベーションのコストをいくら費やせばよいかを悩まなくても、収益性を見て投資できるのが魅力だ。

清水建設が手掛けた事例を見てみよう。JR京葉線の潮見駅から徒歩5分、砂町運河に面した敷地に建つ「DSBグループ潮見ビル」である。地下1階・地上10階建ての鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造で、設計は三菱地所設計、施工は清水建設で1995年4月に完成した。2014年10月からは野村総合研究所の子会社、だいこう証券ビジネス(DSB)グループが本社ビルとして使用している。

リノベーション後のDSBグループ潮見ビル(資料:清水建設)

リノベーション後のDSBグループ潮見ビル(資料:清水建設)

以前の所有者はドイツの投資ファンドだったが、築20年が経過した2016年に清水建設にビル改修の相談があった。同社では今回の事業スキームを実行するべく、ビルの買い取りを提案。投資ファンド側が応じる意向を示したので、テナントのDSBグループに対して12月にリノベーションのプレゼンテーションを行い、年内に了解を得ることに成功した。

2017年に入ってバリューアップ後の売却先の選定を行い、ヒューリックに決定。3月末付けで、清水建設は下記の3つの契約を同時にまとめた。

1)ドイツの投資ファンドとの間で、ビルの信託受益権を購入する契約

2)DSBグループとの間で、賃料変更と15年間の定期借家契約、ならびにビルの資産管理(PM)・ビル管理(BM)会社を清水建設のグループ会社に変更する契約

3)ヒューリックとの間で、リノベーション工事完了後にビルの信託受益権を譲渡する契約

清水建設では4月からリノベーション工事に着手。ヒューリックからの申し入れで、工事完了前の9月に信託受益権の95%を譲渡し、工事は2018年1月中旬に完了した。

「この事業スキームで、リノベーション工事の費用がいくらかかったのかは、ヒューリックにも、DSBグループにも伝えていない。賃料アップに応じてもらえるリノベーションを、いくらの費用で実現できるかは当社のノウハウになる」(清水建設LCV事業本部・陰山恭男副本部長)

通常の請負工事であれば、発注者に工事費用を支払ってもらうために、費用を開示するのが当たり前である。しかし、この事業スキームでは、ビルオーナーやテナントが直接、工事費用を負担するわけではないので、費用を開示する必要はない。その代わりに、ビルオーナーや投資家には期待する投資利回りを、テナントには賃料アップに見合うリノベーションを、それぞれ提案できるかが事業成功の鍵を握っている。ゼネコンにとっては全く新しいビジネスモデルだ。


文:千葉 利宏

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