万博で賑わうミラノでクールジャパンのシンポジウム開催

日本の近代文化やポップカルチャーに対する関心が高まるイタリアで、内閣官房は9月12日、クールジャパン戦略の促進を目的としたシンポジウム「クールジャパン―― ダブルインパクト」を開催した。
 会場となったミラノ市の元修道院ウマニタリアには、日本文化に関心を持つアーティストや学識経験者を始め、新聞・雑誌などのメディア関係者、ブロガー、旅行・観光業界関係者、デザイナーなど110人が集まり、1時間半にわたる活発な議論に熱心に耳を傾けた。
 「今日はクールジャパンに関して従来とは違うアプローチを繰り広げたい」。シンポジウムのモデレーターが冒頭でそう宣言。日本が海外に売り込みたいコンテンツを一方的に紹介するのではなく、イタリア人が考える日本のクールを掘り下げ、日伊両国の文化的な交流がさらに深まる議論への期待を述べた。
 これを受けて基調講演を行った内閣官房知的財産戦略推進事務局長の横尾英博氏は、慶長遣欧使節団が海を渡りローマ教皇パウルス5世に謁見してから今年はちょうど400年、そして来る2016年が日本とイタリアが修好通商条約を締結して150年の節目になることを指摘。両国が長い友好と交流の歴史を持つことを訴えた。
内閣官房知的財産戦略推進事務局長横尾英博氏による基調講演
 日本の現代カルチャーだけでなく伝統文化もイタリアで広く受け入れられている現状に感謝を述べた横尾氏だが、そうした人気をビジネスに結びつけられていない現状を課題として挙げた。日本とイタリアはともに、米旅行メディアによる「世界の人気観光都市ランキング」の上位(1位京都、4位フィレンツェ、5位ローマ)に入る観光地を持つ。また、日本貿易振興機構(ジェトロ)が世界の7つの国・地域で「好きな外国料理」を聞いた調査では日本料理が1位、イタリア料理が2位となった。観光と食の分野で世界の人気を争う両国だが、日本を訪れる外国人の数は、イタリアを訪れる外国人の数を大きく下回り、日本の食品輸出金額も同様にイタリアのそれを大きく下回る。「イタリアが上手に自国のイメージをビジネスや観光に結び付けているやり方を日本も学んでいきたい」と述べた。
 そのための方法として横尾氏が挙げたのが「地方の魅力の発掘と発信」そして「海外の視点の導入」だった。特に後者に関しては、日本の「しらたき」がイタリアで「ゼンパスタ」として人気を博している事例を紹介。低カロリーで食物繊維を豊富に含むしらたきが、美容・健康に気を使う若い女性を中心にイタリアでパスタ料理に使われることが増え、輸出が急増している事実は、「しらたきを鍋料理の具材と考える日本の発想から生まれてこない。相手国の食習慣やニーズをきちんと把握して求められているものを作っていけば可能性は大きく広がる」と語った。
 日本はイタリアのパスタ料理を「スパゲッティー・ナポリタン」に、牛生肉料理の「カルパッチョ」を「鮮魚のカルパッチョ」に換骨奪胎した。横尾氏はイタリア料理を日本風にアレンジしたこうした和洋折衷料理を例に、「互いの文化が影響し合い我々の暮らしはさらに豊かになった」と語り、「クールジャパンの普及活動を通じて経済発展と両国文化にプラスの影響を与えていきたい」と結んだ。
 次に登壇したのは、デジタルマーケティング会社でデータアナリストを務めるエレオノラ・チポレッタ氏。イタリア人がインターネットを通じて「日本」および「日本人」のどのような情報をどれくらい収集しているのかを明らかにした。それによると、イタリア人が1年間で「日本」に関する情報を収集する件数は、イタリア人が「フランス」や「ドイツ」に関する情報を収集する件数の約2/3に当たる。イタリアとドイツ、フランスの地理的・歴史的結びつきを考えると、日本への関心の高さを証明する数字と言える。
 よく検索されている日本関連情報の1位は旅行情報で目的地としての「富士山」や「京都」、桜の満開時期情報など多様な旅行に関する情報が収集されている。2位がミラノで開催中の万国博覧会の日本館関連情報。開催イベントや販売商品、待ち時間などが調べられている。3位の時事情報(経済、災害、スポーツなど)に次いで4位には寿司をはじめとする食関連情報が入っており、日本食の人気の高さが伺える。
パネルディスカッションの様子
 また、日本に関する情報収集の特徴のひとつが、デザインと関連付けた検索が多いことだという。フランス情報の2.7%が、ドイツ情報の2.0%がデザインと関連付けられた検索なのに対して、日本の場合、その割合は3.0%に上る。さらに細かく分析すると「ミニマリズム」「エッセンシャリズム」「天然」「自然」「瞑想」といったキーワードとともに検索されるケースが多く、ジャパンデザインが持つ自然を手本としたシンプルで本質重視の美的感覚への関心の高さが垣間見える。
 ミラノと東京を拠点にするビジネスプランナーの安西洋之氏、ミラノ工科大学准教授のアレサンドロ・ビアモンティ氏、ミラノ大学准教授のロセッラ・メネガッツオ氏、英国のライフスタイル雑誌「ウォールペーパー」が運営するオンラインショップのプロダクトマネジャー、ジル・マッセ氏によるパネルディスカッションでは、それぞれの専門分野から日本に対して有益なアドバイスが相次いだ。
 頻繁に日本を訪れる日本通であるメネガッツオ氏は「エキゾチックな外国文化としての日本ではなく、海外文化と融合した日本文化の促進を目指すべきだ」と指摘した。日本人は往々にして海外で変容した日本文化を“まがいもの”と考えがちだ。だが、メネガッツオ氏は浮世絵が印象派の画家に大きな影響を与え、新しい美術の創造がなされた例を挙げ、日本の文化をイタリア人が解釈し、日本のオリジナルを離れて支持を得るようになった文化やデザイン、モノは「既に日本のものでも、イタリアのものでもない」と主張する。「世界中の文化はどんどんハイブリッド化している。その流れを怖がるべきでない。現地で変容した“ハイブリッドな日本文化”は現実である。日本はその現実を積極的にプロモートしていくべきだ」と語った。
 洋服やアクセサリー、雑貨、インテリア商品などのバイヤーとして豊富な経験を持つマッセ氏は、日本製品の素材や仕上げ、デザインを高く評価した上で、2つの課題を指摘した。
 ひとつはサイズ。ヨーロッパ人の感覚からすると日本製品は概して小さい。「まず見た目の比較で日本製品は小さい割に高いという第一印象を持たれ、店頭で選ばれにくい面がある」と言う。もうひとつがコミュニケーション上の問題だ。「日本の地方には優れた製品を生み出す小さな会社が数多くあるが、英語を使って商品の素晴らしさを訴え、英語を使って商売相手と交渉をしなければ、商品をヨーロッパに持ってくることさえ難しい」と語った。ともに単純な指摘だが、重要である。
 ダブルインパクト――クールジャパンを日本から海外への一方向の普及活動ではなく、発信側と受容側の相互作用であると位置づけたシンポジウムの終了後、参加者はウマニタリアの回廊に囲まれた中庭に場所を移動して、日本とイタリアのフュージョン料理と酒を楽しみながら、さらに議論を深めた。

Cool Japan Double Impact MILANO 2015 ——内閣官房

レセプションの料理は日本の食材に詳しいイタリアの人気フードスタイリストフランシスコ・ドラジオ氏が監修した。