Seminar Reviews 経営課題解決シンポジウム Review ワークスタイル変革編 〜「個の力を高めるワークスタイル変革」を探る〜   国の経済・社会政策としても語られるようになったワークライフバランスとワークスタイル変革――。その推進にあたっては、“良い”制度設計に加えて、マネージメント層の理解を深め、一人ひとりの能力を生かすための具体策を講じることが重要だ。基調講演と特別講演では、ワークライフバランスに詳しいコンサルタントと既実施企業の経営トップが理念と現状を語った。

基調講演 大介護時代到来、労働人口減少、高齢化率上昇 社会状況が求めるワークスタイル変革 株式会社ワーク・ライフバランス ワーク・ライフバランスコンサルタント 松久 晃士 氏

株式会社ワーク・ライフバランス
ワーク・ライフバランスコンサルタント
松久 晃士 氏

労働人口の減少と大介護時代が促す
ワークスタイルのイノベーション

「大介護時代が到来する2017年、そこがワークスタイルイノベーションを達成すべきタイムリミットになります」

基調講演のステージに立った松久晃士氏は、こう強調した。団塊世代の退職がピークに達した2007年から10年が過ぎると要介護者や要支援者割合が高まり、企業の中核を担う団塊世代ジュニア(35歳から45歳)の中にも親の介護をするための"時間制約者"が増えてくるというのである。松久氏は「その時までにワークスタイルイノベーションができていないと、事業を継続できなくなることも考えられます」と述べて、従業員の多くが時間的制約を持つ中でも勝ち続けるには、今すぐ実行する必要があると指摘した。

このほかにも、わが国の企業が働き方を変えるべき理由はある。国の推計によれば2060年における労働力人口は現在の58%まで減り、全人口に占める高齢者の割合は2025年には30%を超えると見込まれている。その一方で、この20年ほど、日本の労働生産性は先進7か国中最下位に留まっており、「時間をかけただけの成果を出せていない」(松久氏)という状況にある。

しかも、日本は1990年に人口オーナス期(人口重荷期)へと転じたため、戦後の高度成長期のような働き方はもうできなくなっている。労働力が年々減少する状況下では従業員に長時間労働を求めることはできず、「なるべく男女ともに働く」「なるべく短時間で働く」「なるべく違う条件の人を揃える」といったルールへと転換しなければならないのだ。

チームのゴールイメージに向かって働き方改善のサイクルを回していく

では、企業と従業員は働き方を変えるために何をするべきか――。

これまでに900社以上にワークライフバランスのコンサルティングをしてきたという松久氏は、一緒に働く5人から10人がチームを編成し、どういうワークスタイルに変えたいかというチームなりのゴールイメージを固めることが重要だと説く。しかも、コンセプトやキャッチフレーズではなく、具体的なイメージを持つことができて全員が共感する文章であることが条件だ。 その上で、そのゴールに向かって「現在の働き方の確認」→「業務の課題を抽出」→「働き方を見直す会議を開催」→「見直し施策の実施」→「現在の働き方の確認」……というサイクルを回していく。このプロセスをうまく進めていくための手法として、松久氏は2つの手法を紹介した。日単位の作業時間配分を毎日確認する「朝メール・夜メール」と、業務改善策をチームで話し合う「カエル会議」(仕事のしかたを変える/早く帰る/人生を変える)である。

このようなワークスタイルイノベーションは、すでにさまざまな成果を上げている。残業時間削減以外にも、コア業務に割り当てる時間を14.5%増加したインフラ系企業や、業務フローの見直しによる割り込み業務の削減を果たした製薬会社、未来を語る時間を増やして技術開発競争力の強化した研究開発機関などがあると松久氏は紹介した。

特別講演 経営課題解決シンポジウム、ワークスタイル変革編 「個の力を高めるワークスタイル変革」を探る 株式会社ウィルド 代表取締役 大越 賢治 氏

株式会社ウィルド
代表取締役 大越 賢治 氏

制度を実際に利用できる風土を作り
従業員満足度を高めて生産性アップ

「ウチはIT企業ですが、アナログな取り組みで仕事を効率よくやり、生産性を高めています」

東京ワークライフバランス認定企業(長時間労働削減取組部門)として認定されているウィルドの大越賢治氏は、特別講演をこのような言葉で始めた。成功の秘訣は「制度を実際に利用できる風土を作る」「利用できると従業員満足度が高まる」「従業員満足度が高まると生産性が上がる」という連鎖である。

例えば、大越氏が「私の独断で効果があった第1位」だとする「おやつタイム」がある。毎週火曜日の15時からの30分間、会社負担のお菓子を食べながらみんなで雑談するという取り組みだ。実施する際のポイントとして大越氏は「全員が仕事から離れて」「仕事ではなくプライベートな話をする」ことを挙げ、「プライベートな話をしているとそれぞれが大切にしていることや個別にかかえる境遇などが見えてきてメンバー間に信頼関係が生まれ、『みんなが助けてくれるから私もがんばろう』と自らが積極的に取り組む姿勢になります」と言う。

その結果、管理工数が減り、仕事の生産性が上がり、残業が減り、無駄なコストが減り、経営成績が良くなり、プライベートが充実し、従業員満足度が高まるというわけだ。

休日の農業体験が実ビジネスに
結実時間は多少かかるが結果は必ず出る

このほかにも興味深い取り組みはたくさんある。

第2位の「プライベート予定公開」では、各自の有給休暇を具体的な用件とともに会社の共有スケジューラーに書くようにする。結婚記念日、家族の誕生日、子供の運動会、ボランティアや地域の行事、新作ゲームの発売日といった具合だ。効果としては、「プライベートな予定を全員が共有することによって、それをみんなでかなえてあげようという空気になった」(大越氏)ほか、異業種交流会で知り合った農家とのプライベートな交流が有機米販売ECサイト「蔵出し米.com」や地域活性コンサルティングなどの実ビジネスに結実した例もあるという。

セッションで紹介されたその他の取り組みとしては、「月1個人面談」(妊娠・出産や配偶者の転勤といった個別事情に合わせて働き方を柔軟に変更)、「自分設定ノー残業デー」(各自の都合に合わせてノー残業デーを自己設定)、「WLB社内発信」(有給休暇取得率の実績値などをグループウェアの掲示板に公開)などがあった。

ウィルドがワークライフバランスに向けた取り組みを始めたのは、2011年4月のこと。2013年からはワークライフバランス度も生産性も連続して高まっているという。「ただ、最初の2年間は生産性が思いっきりダウンしました」と、大越氏。「私がワークライフバランスの目的をよく理解していなかったこともありますが、風土改革にはとても時間がかかるもの。短期での結果は求めず、長い目で取り組んでいただきたい。そうすれば、必ず結果はついてきます」と結んだ。

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