繁殖農家における母牛の減少が深刻に

国内の和牛生産が抱える課題

 和牛の生産は、母牛を飼育し仔牛を分娩し育てる繁殖農家と、その仔牛を購入して肉牛として市場に出すまで育てる肥育農家に分かれる。高齢化による離農や、口蹄疫(こうていえき)の流行、大手牧場の破綻で、いま繁殖農家における母牛の減少が深刻になっている。

 数字で見ると、平成22年の68万4000頭をピークに母牛は年々4〜5%減り続け、平成27年には58万頭まで減少した。結果的に仔牛の数も減り、直近7年間で仔牛の価格は約36万円から約75万円と高騰、肥育農家の経営を圧迫する事態になっている。

 この課題を克服するツールとして期待されているのが、分娩事故を防止するために開発された、母牛の遠隔監視システム「モバイル牛温恵」だ。

分娩事故を防いで母牛と仔牛の頭数を増加

神谷氏

神谷 誠治
JA全農
畜産生産部 次長

「仔牛は1年に1頭しか生まれないため、分娩事故の痛手は大きい。現在牛の分娩事故率は5.3%あり、これを防げれば約3万頭の仔牛が市場に出ることになる。牛の分娩時期は予定から10〜20日ほどズレることも多く、夜回りをする農家の負担も大きい。分娩時期が正確に予測できれば分娩事故を減らすことが可能です」。そう語るのは、「モバイル牛温恵」を販売するJA全農 畜産生産部 次長の神谷誠治氏だ。

分娩兆候特有の体温変化を検知しメールで通報

宇都宮氏

宇都宮 茂夫
株式会社リモート
代表取締役社長

 開発したのは、大分県のベンチャー企業であるリモート。元外資系半導体メーカーのエンジニアで、若い頃に畜産の経験をも持つリモート 代表取締役社長の宇都宮茂夫氏は、牛の分娩兆候として体温が微妙に低下する点に着目、半導体のノウハウを使って2007年に開発した。

「『モバイル牛温恵』は、分娩が近い母体の膣内に体温センサーを留置し、牛の体温を0.1℃単位で5分ごとに測定することが可能です。分娩のおよそ24時間前に現れる分娩兆候特有の体温変化を検知してメールで知らせる『段取り通報』のほか、体温センサーが一次破水で膣外に出たときの『駆けつけ通報』、その間の体温上昇を検知する『SOS通報』などの機能も搭載しています」と宇都宮氏は説明する。

 母体を傷つけない構造で、電池交換なく5年間稼働するのが特徴だ。導入した農家は余裕を持って出産に立ち会えるようになり、分娩事故率は5.3%から0.4%まで削減できることが期待される(JA全農試算)。「畜産農家の従事者にとっては、分娩事故を防ぐための夜回りや、外出の制限など、精神的・肉体的に負担がかかる重労働から解放されるメリットが大きい」と宇都宮氏は明かす。

 2年前からJA全農とドコモがリモートとパートナーシップを組んだことから、普及が一気に加速し、今年2月時点ですでに全国633カ所の繁殖農家が採用。プロジェクトベースが多い畜産ICTの中で、収益モデルが確立している成功例として注目されている。

システム概略図