篠田真貴子

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「ほぼ日」の上場は、
私にとっての「顧客の創造」です。

東京糸井重里事務所 取締役 CFO

篠田真貴子

SHINODA Makiko

2016. 11 .8 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

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日本を代表するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」。糸井重里さんが1998年にスタートし、61万冊を売り上げる「ほぼ日手帳」の大ヒットなどでも知られる「ほぼ日」。事業主体である株式会社東京糸井重里事務所がいま、株式上場を視野に入れている。
そのプロジェクトをひっぱるのが最高財務責任者(CFO)の篠田真貴子さんだ。帰国子女として金融機関を皮切りに名だたる外資系企業に勤め、華麗なキャリアを築いてきた篠田さんが、5社目の就職先として転職したのは、社員数十人の「ほぼ日」の現場だった。稀代のクリエーター、糸井さんが創り上げた、どこにもない、何にも似てないこの会社。篠田さんは、「クリエイティブ力のマネジメント」、そして「クリエイティブ企業の上場」という課題に挑む。

———「ほぼ日刊イトイ新聞」で篠田さんはどんな仕事をしているんでしょう。

その前に、「ほぼ日」のビジネスについて簡単に説明しますね。「ほぼ日」は月間150万人ほどが訪れるウェブサイトとして知られていますが、誰もが無料でご覧になれますし、糸井重里という広告コピーをつくっていた人間が主宰しているにもかかわらず、いっさい広告を掲載していません。では、何で売り上げを立てているかというと、さまざまなオリジナル商品を企画し、主にウェブサイトを通じて販売している。その代表が「ほぼ日手帳」で2016年版は61万冊を売り上げました。2015年は約32億円の売上高があり、営業利益も4億円ほど出しています。そして、私はこの会社の「お金の流れ」を見ています。最高財務責任者=CFOという肩書です。いわゆる管理部門です。というとなんだか堅苦しい仕事に聞こえるかもしれませんが、「ほぼ日」でバックオフィスを担当し、お金の流れを管理するのは、すごく挑戦的で面白い仕事です。ものをゼロからつくるのと同じくらい「クリエイティブ」ともいえるんです。

———管理部門がクリエイティブ? 一般の管理部門の仕事のイメージとはずいぶん違います。なぜでしょう?

私が「ほぼ日」に合流した時点で、この会社は糸井を筆頭にクリエイティブに満ちていました。ユニークなコンテンツをつくり、面白い商品を産む。ところが、そこに欠けているものがありました。それが、バックオフィスであり、管理だったんです。

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———なるほど! 篠田さんはその仕事をクリエイトしたわけですね! では、「ほぼ日」に合流する前の篠田さんの経歴を教えてください。

小学校の1年から4年までアメリカに住んでおりまして、帰国したのちに慶應義塾中等部から慶應義塾女子高校を経て慶應義塾大学経済学部へ、卒業して日本長期信用銀行に入行、そのあと留学してMBAと国際関係学修士の学位を取得し、マッキンゼー、ノバルティスファーマ、ネスレで仕事をしてきました。と、会社の名前だけをずらずら並べるとバリバリの帰国子女のキャリアウーマン街道まっしぐら、というか、典型的なジョブホッパー(短期間で転職を繰り返す人)に見えますね(笑)。あくまで結果的にこういう職歴になっただけなんです。途中で子どもも生まれていますし……。

———外資系を渡り歩く方って、転職するたびに自分を売り込んで、年収がどんどん跳ね上がるイメージがあるんですが……。

それがぜんぜん売り込んでいないんです。
戦略コンサルティングのマッキンゼーから、製薬会社のノバルティスファーマへの転職も、ヘッドハンティングされたわけでもなんでもなくて、コンサルタントとしての自分の限界を痛感したからです。
ノバルティスファーマからネスレに移ったのは、単に自分のいた部門がネスレに買収されたから。
意図せずに、「なんかそうなっちゃった」という転職ばかりなんです。

———ただ、その次が日本企業、しかも規模も数十人程度のこぢんまりとした「東京糸井重里事務所」に転職したのはどんなきっかけだったんでしょうか?

私自身がもともと「ほぼ日」の一読者でした。読み始めたのは、「ほぼ日」がスタートした1ヵ月後の1998年7月。我ながらかなりの古参ファンですね。
当時、私は、MBAの米国留学から一時的に帰国して、その後勤めることになるマッキンゼーでインターンをしていました。そのとき、知り合いがインターネットで連載を持ってエッセイを書いているらしいぞ、という話を聞いたんです。
SNSはもちろんブログもない時代だから、インターネットでエッセイを書いているって、とってもハードルの高いことだったんですね。身近にそんな人がいるんだ! で、調べてたどり着いたら、なんと「ほぼ日」で連載をされていたんです(笑)。
http://www.1101.com/otousan/1998-06-08.html

他の連載も読み始めたら、ものすごく面白い。それが「ほぼ日」との出会いです。
その後、私はビジネススクールを卒業するためにいったんアメリカに戻りました。当時は、まだインターネット上に日本語コンテンツは少なく、ホームページはネタ系サイトばかり。日本の日常を感じられる場所は、「ほぼ日」くらいでした。最後のアメリカでの学生生活に寄り添うようにあったのが「ほぼ日」だったんです。すっかりファンになりました。

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———いちファンだった篠田さんが、「ほぼ日」の一員になったきっかけはなんだったのでしょう。

別の知り合いから「ほぼ日でCFO、探しているみたいだよ」と紹介されたんです。
彼女が、あるとき糸井にインタビューをしたそうです。「東京糸井重里事務所で、CFOをやってくれるひと、探しているんだ」と糸井から聞いて、その瞬間、思い出したそうです。「そういえば、篠田が『ほぼ日』ファンだったな」と。
しかも、すごい偶然が。その翌日、なんと彼女と私は、道端でばったり出会うんです。もはや運命ですね(笑)。
「昨日、糸井重里さんに会ったんだけど」と切り出され、「今度、『ほぼ日』に遊びに行かない?」と誘われました。もちろん断る理由はありません。
2008年の3月のことでした。私は第2子が生まれたあとの産休明けで、パートタイムで復職していたタイミングでもありました。当時は転職しようなんて発想はまったくなく、ただ「ほぼ日」のオフィスに行ってみたい、糸井重里と話してみたい。ただそれだけのミーハー心で遊びに行ったんです。すっかり舞い上がって(笑)。

———糸井さんとお会いして、どんなお話をされたんですか?

実は、この頃、糸井はすでに一度「ほぼ日」の上場を構想していたんです。そのために財務とマネジメントをきっちりやる必要がある。だからCFOを外から呼ぼうと考えていたんですね。糸井からは単刀直入に「『ほぼ日』を上場しようと思うんだけど、どう思いますか?」と聞かれました。で、なんて答えたか、というと、「止めたほうがいいんじゃないですか」と。糸井は「みんなそう言うんだよね」と笑っていました。
意見の合った話もあります。
吉本隆明さんの講演の音源をたくさん譲り受けたんだけど、後世まで残るようにデジタル化した。そのコストだけ回収できるように、これをまず商品化して売り上げを立て、そのあと段階的に誰もが吉本さんの講演を聴くことができるフリーアーカイブにしたい。収支をトントンにすることが目的のこのプロジェクト、どうやったらうまくいくだろう、と糸井に相談されました。「じゃあお手伝いしましょう」と返事をして、私と「ほぼ日」のかかわりができました。私は当時の仕事をやりながら、パートタイムでこのプロジェクトをお手伝いすることになったのです。
ちなみに、この吉本さんの講演録は、2008年に『吉本隆明 五十度の講演』というCDセットとなり、7年後の2015年、その全講演録は現在どなたでもアクセスできるフリーアーカイブにちゃんとなりました。有言実行です。
http://www.1101.com/yoshimoto_voice/

話を戻しましょう。
私はまず、自分がこのプロジェクトで何ができるのか、提案書にまとめました。
そして仕事の対価としての「報酬」をどうするか、というところではたと手が止まったんです。
最初は1カ月作業量から計算しようとしたのですが、私にとってこのプロジェクトをお手伝いすることで一番ほしいものは、「お金じゃない」ことに気づきました。

この機会でなければ得られない、私がいただけたらほんとうにうれしいものはなにか。
私は、「報酬」の部分にこう書いたんです。

「吉本隆明さんに会わせてください」

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Column CLÉ de Cartier

Simplicity is an Art.

凛とした強さこそ、美しい。

CLÉ DE CARTIER

クレ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 31mm ¥485,000(税抜)

Simplicity is an Art.

凛とした強さこそ、美しい。

自立した現代的な女性のファッションやライフスタイルにマッチし、対等なパートナーとして気持ちを奮い立たせるモノ……。それがカルティエの時計である。

どのコレクションもかれんなフォルムを持っているが、単に美しいだけでなく“凛(りん)とした強さ”を感じるのは、カルティエが時代の変革者であるからに他ならない。
170年を超える歴史と文化、伝統は守りつつ、そこに安住するのではなく、時代の変遷に合わせて明確なビジョンを持ち、常に新しいスタイルを作り出してきたという実績が、時代を切り開いていく女性たちから支持されるのだろう。

「クレ ドゥ カルティエ」はクッション型のたおやかなケースと小ぶりなローマン数字のインデックス、そして華やかに広がるフランケ模様のギヨシェという、カルティエらしいディテールを持っている。

しかし最大の特色は、目に飛び込んでくる角型のリュウズだろう。これはクレ(フランス語で“鍵”の意味)と呼ばれ、ケースのサイドフォルムを際立たせるために考案されたもの。デザインと機構の両面で常に新しいチャレンジを行ってきたカルティエらしい斬新なディテールだが、角型にすることで指先にフィットし、針を操作しやすくなったという実用的なメリットも見逃せない。

バリエーションも豊富で、日常使いに適したステンレススティールモデルもあれば、特別な時間を過ごすためのダイヤモンドが配されたモデルもある。その“鍵”は、幸せの扉を開くアイテムとして、貴女にそっと寄り添ってくれるに違いない。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ