福田淳

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ライブラリーからライブの時代
だからこそコンテンツが王様なんです。

ソニー・デジタルエンタテインメント 社長

福田淳

FUKUDA Atsushi

2016. 12 .13 公開

interview : YANASE Hiroichi 
photo : KIM Yongduck

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福田さんは、プラットフォームが多様化するメディアの現場で先端を走り続け、ユニークなコンテンツを配信してきた。衛星放送事業「スターチャンネル」、アニメ専門チャンネル「アニマックス」。2000年代に入ってからは携帯電話=ガラケーのiモードでの待ち受けや着メロサイト展開。木村伊兵衛写真賞受賞の写真集『浅田家』などをプロデュース。だが、2011年の東日本大震災を機にガラケーからスマートフォンに、メディアのプラットフォームがごっそり移った瞬間、大きな事実を再認識する。ライブラリーからライブへ。コンテンツこそキング。
福田さんが見据えるメディアの今と未来を訊く。

メディアの世界で長生きするのはプラットフォームじゃない、コンテンツだ。

── 福田さんは、映画、テレビの衛星放送、携帯電話のiモードでの着メロや待ち受けなどのサイト、そしてスマートフォンやSNSでのキャラクタービジネスなど、新しいメディアが誕生する瞬間、いち早くコンテンツビジネスを展開してきました。

僕はいろいろな場所で、いろいろなメディアを立ち上げて、いろいろなコンテンツを展開してきました。そこで、得た結論があります。
メディアの主人公は数十年単位で見るとこうです。
プラットフォームじゃない、コンテンツだ、と。

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僕はもともと映画の仕事をしようと思っていた人間です。
大阪で中学生のとき、「スターウォーズ」を見てぶっ飛んで、ジョン・カーペンターの「ハロウィン」を見て、昔懐かしい8ミリフィルムで映画を撮りはじめたのが、メディアの仕事を意識した瞬間でした。選んだ大学も日本大学芸術学部です。
就職のときは1980年代後半のバブル景気の真っ最中。入社したのは、映画の製作や配給を行う東北新社です。ここでは当初「映画」を扱っていました。ハリウッドでの映画の買い付けなどが仕事です。そして「テレビ」業界で衛星放送事業がスタートすると、今度は衛星放送「スターチャンネル」の開局準備に取り掛かることになりました。
98年に転職したハリウッドの大手スタジオ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでは、衛星放送「スカイパーフェクTV!=スカパー!」のチャンネルとしてアニメーションの専門チャンネル「アニマックス」や海外ドラマ専門チャンネル「AXN」の立ち上げに関わりました。
2000年代、インターネットが台頭し、携帯電話の普及とiモードが登場したのを見て、待ち受けサイトや着メロコンテンツをビジネスにするようになります。

iモードでメディアビジネスをやろうと思ったきっかけは、今でもよく覚えています。
2002年のある日、夜10時ごろ。東京郊外の自宅近くの駅に降りたときのこと、駅前のコンビニエンスストアに若者がたむろしている。何をしているのかなあ、とのぞいてみると、カップラーメンを地べたに置きながら、みんなで携帯電話をいじっている。iモードをやっていたんです。今から見たらとても粗末な映像のゲームに興じていたり、キャラクターをダウンロードしていたりする。

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映画のような「大きなメディア」に比べると、携帯電話のiモードなんかはすごくちゃちに見える。なにせたった数インチの画面ですからね。実際、iモードが出た頃、「こんな小さな画像で何かを見たりやったりすることなんか流行らないんじゃないか」と言われたりもしました。
でも、僕は、コンビニにたむろする若者たちの様子を見て、なぜかそう思わなかった。むしろ、こちらが主流になるぞ、と感じたんです。理由はよくわかりません。そう感じた、としか言いようがない。

当時は大手家電メーカーが40インチ以上の大型液晶テレビを発売してブームになっていました。自宅に帰れば、かつてでは考えられないクオリティの映像で、映画を見たり、ゲームを楽しんだりできる。にもかかわらず、この子たちは、キャラクターをダウンロードして待ち受け画面にしたりしている。
波はこっちに来る……。最初は「おまけメディア」、みたいな扱いだろうけど。

僕は、「アニマックス」で放映しているアニメのキャラクターや、明治製菓のお菓子『きのこの山』をモチーフにした「きの山さん」というキャラクターをiモードのサイトで展開しました。
携帯電話がメディアのプラットフォームとして主流になったのは、それからすぐでした。J-PHONEがカメラ機能を搭載した機種を発売して、「写メ」が撮れるようになり、携帯電話が写真でコミュニケーションをとる手段に進化した頃です。2002年、iモードの有料コンテンツ市場はすでに2000億円に成長していました。

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©明治製菓/デハラユキノリ お菓子『きのこの山』をモチーフにした「きの山さん」

── すごい規模ですね。

ええ。2000億円って宮崎駿アニメが公開されない年の日本映画の劇場総収入の規模です。僕がかつて身を投じようと思っていた、伝統ある映画業界の規模に、iモードは登場から数年で追いついてしまった。500インチの市場より数インチの市場のほうが大きくなろうとしていた。
これまでのメディアプラットフォームは、ひとつのプラットフォームに1種類のコンテンツが載るだけだった。でもiモードは、もっと大きく言うとインターネットのようなデジタルのプラットフォームは、映像も画像も音声もテキストも載せられる。これは何を意味するのか。
最初にお話ししたように、プラットフォームには寿命があったり、栄枯盛衰があるけれど、優良なコンテンツは、プラットフォームの寿命を超えて、ずっと生き続けることが可能だ、ということです。
僕がソニーグループから出資を受けるかたちで現在経営しているソニー・デジタルエンタテインメントを設立してからは、古いプラットフォームで人気があったコンテンツをデジタルの市場、iモードの市場に連れてくる仕事に注力しました。
たとえば、日本が誇る最強のコンテンツ、漫画とアニメのデジタル化権を一気に獲得しました。水木しげる先生、楳図かずお先生をはじめとする有名漫画家の作品を中心に109万ページ分を揃えました。そのキャラクターが、電子書籍になったり、携帯電話の待ち受けキャラクターになるわけです。
紙の書籍は、よほど人気のある作品でない限り、いつかは絶版になります。実は多くの有名漫画家の作品がすでに絶版となっていました。アニメに関しても、キャラクターは記憶にあっても、もう十数年もテレビで見たことがない、という作品のほうが多いはずです。
デジタル市場がプラットフォームになると、いつでもどこでも好きなコンテンツにアクセスすることができる。また、長年人気のあるキャラクターの知名度は不変ですから、携帯電話の待ち受け画面などにおいてはスターとして降臨できる。何よりこうしたコンテンツを生み出してきたクリエイターたちに安定的な収入を確保できる。

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©浅田政志 木村伊兵衛写真賞を受賞した『浅田家』

その後iモードのサイトからケータイ小説ブームをつくったり、木村伊兵衛写真賞を受賞した『浅田家』のような写真集のプロデュースも行ったりしましたが、これも、iモードという「プラットフォーム」全盛の時代に受ける「コンテンツ」とは何か、ということを常に念頭に置いていたからです。 2000年代以降、インターネットや携帯電話の市場では、プレーヤーの多くが、「プラットフォーム」を誰が制するか、ということに血道をあげていました。確かに、iモードが典型ですが、インターネットの世界では、プラットフォームはいくつも存在できません。1つのプラットフォームが「総取り」する場合が大半です。だからこそ「コンテンツが面白い」と思っていた僕たちのやり方に存在意義がありました。 といいつつ、僕たちもまた、プラットフォームに寄りかかり過ぎだったことを思い知らされる瞬間が訪れます。携帯電話の衰退とスマートフォンの台頭です。

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Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ