仕掛け人が明かす、茨城県のネット広報戦略 脱・テレビ的発想でネット動画“日本一”

全国47都道府県中、最も発信力がある自治体のインターネット動画サイト。それが、茨城県の「いばキラTV」だ。その強さの秘密は、どこにあるのか。「成功する自治体のネット広報戦略」について、ネット動画を知り尽くした2人が語り合った。

1, テレビとの違い
一度離れた視聴者は帰ってこないのがネット

鶴野:茨城県のインターネット動画サイト「いばキラTV」は現在、「日本一、見られている自治体の動画サイト」と言えます。コンテンツ数、YouTubeでの再生回数、チャンネル登録者数で全国1位。いわば「三冠王」です。

取出:ところが開局当初は全然、見てもらえませんでした。茨城県には民放のテレビ局がなく、「だったらネットで配信を」というのが出発点。当初は番組の作り方も見せ方もテレビ的で、毎日決まった時間にいばキラTVのウェブサイトで30分、60分といった長さの番組を「ライブ」で流していました。

鶴野:それが裏目に出たんですね。ネットの視聴スタイルは「その時、見たいものを短時間で見る」が主流。実際、ネット動画は数分程度の短いものが多いので、その対極にあった、と。

取出:テレビはチャンネルを変えられても、一定の確率で視聴者が戻ってくる。対するネット動画は、「つまらない」と思われた瞬間に視聴者が離れ、戻ってきません。

鶴野:一方で、テレビと違ってマスを狙わなくてもいいという面もあります。そう考えると当然、動画の作り方や見せ方は変わりますよね。

取出:当初は「いばキラTV」のサイトに1日1万人の訪問者を集めることが目標でした。まずこれを「動画を見てもらえて、茨城の魅力が伝わればいい」と再設定した。この目標を軸に、作り方や見せ方を考えました。

2,コンテンツの作り方
多様な層を呼びこむ“多品種大量生産”

鶴野:今のいばキラTVには2つ、大きな特徴があります。茨城県に縁のあるタレントの「冠番組」が多いことと、とにかく動画の数が多いことです。

取出:知名度を生かして視聴者を呼び込み「この人の動画をもっと見たい」と思ってもらうと同時に、茨城を好きになってもらう。タレントさんの冠番組が多いのには、そんな狙いがあります。人気番組の1つ、女性タレントの桝渕祥与さんが茨城県内でデカ盛り料理を食べる「いばらきペロリ」が代表例です。

鶴野:そういう意味ではキャラクターの「ねば〜る君」も、いばキラTVのブレークに貢献した“タレント”と言えますね。彼が「連れてきた」視聴者は、相当多かったでしょうから。では、動画の多さはいかがですか。弓道から入試の解答速報まで、「よくぞこれだけ微に入り細をうがち」という印象です。ネットでは、ライバルがいないニッチなコンテンツがヒットしやすいですよね。

取出:弓道がまさにそうです。茨城国体2019を見据えて作ったのですが、当たるなんて思わなかった(笑)。ネット上に弓道の動画が少なかったこともあり、予想外のヒットになりました。

鶴野:「県立高校入試の解答速報」も同じ文脈ですね。これは確実に、大きな需要があるだろうと思いました。それにしても、動画数約8500本はすごい。通常、自治体が自分たちの魅力をアピールするとなると、多くの人が題材を有名な観光地や名物に絞り込んでアピールすることを考えますよね。しかし、すべての人がメジャーな観光地に興味を持つわけではない。

取出:そうなんです。地元のおいしい店など「ちょっと気になる」程度の情報にも、実は十分に訴求力があるんです。何に魅力を感じるかは、人それぞれ。ニッチなものを多く揃え、多様な層を呼び込むのは、ネットならではの戦略です。お金をかけて長く、豪華な動画を年に1〜2本作るよりも、同じ金額を使うなら短いものを数多く作った方が、自治体の魅力は伝わると思います。

3,コンテンツの見せ方
地名は検索されない。タイトルはより具体的に

鶴野:それはある意味で、動画の「見せ方」にもつながりますね。その見せ方ですが、どんなことに気をつけられましたか。

取出:シンプルではありますが、キーワード検索を意識してタイトルをつけるようにしています。例えば番組名だけでなく具体的な内容も入れる、文字数を短くするなどです。これはウェブに携わっている人には当たり前のことですが、映像分野の人はあまり知らないんですよね。それから、「ご当地ラーメンは地元でしか食べられていない」という話をご存知ですか。

鶴野:そのココロは?

取出:「茨城ネタ」は茨城の人しか見ません。だから「具体的」といっても検索ワードに入れるのは「水戸」「東海」といった市町村名ではなく、タレント名などヒットする確率が高いものを優先させています。

鶴野:シンプルだけど、面倒極まりない。よくぞ実行されてきましたね。「ダントツ三冠王」も合点がいきます。いばキラTVのブレークが、自治体のPR手法を変えるかもしれませんね。

取出:ただ、ウチの“強さ”の大きな秘訣は「自由度の高さ」なんです。よその自治体さんでも、ここまで自由にできれば面白くなるでしょうね。

問い合わせ先

茨城県広報広聴課(いばキラTV担当)
〒310-8555 茨城県水戸市笠原町978-6
TEL:029-301-2129
FAX:029-301-6330
http://www.ibakira.tv/

 

ネット動画日本一

いばキラTVは公開している動画の本数(約8500)、再生数(約1200万回)、ファン数(YouTubeチャネル登録者=約1万8000人)、の3項目すべてで全国47都道府県中ダントツだ。特に再生数、ファン数では“ダブルスコア”に近い差をつけている。※データは茨城県調べ

ネットとテレビの違い

同じ動画でもテレビとネットでは、大きな違いがある。多くのネット放送が失敗するのは、テレビは不特定多数に向けた「受け身」のメディアであり、ネットは「自ら見にいくメディアである」ことを踏まえずに番組を作るからだ。「いばキラTV」も開局当時は、その例外ではなかった(上)。

ねば〜る君

大豆を父に、納豆菌を母に持ち、「納豆」「茨城」「世界中の子どもたち」を応援するために生まれた納豆の妖精。それが、ねば〜る君。いばキラTVには2014年1月、「ibadas(イバダス)〜四コマで学べる用語辞典」で初登場。冠番組「ねば〜る君が行く!」などで人気を博す。

ニッチなコンテンツ

取出、鶴野両氏が声を揃えたのが「マイナーなジャンルで、ネットにコンテンツがアップされていないジャンルは当たる」ということ。「キラスポ」で取り上げた弓道(上)が代表例。県立高校の入試の解答速報など「あったらいいな」という潜在的ニーズがあるものも、よく見られたという。