モロッコの農地改善に取り組む鳥取再資源化研究所の本社スタッフの面々

その2:ガラスが、砂漠を農地に変える!

ケーススタディ 鳥取再資源化研究所
鳥取県東伯郡北栄町→モロッコ

鳥取といえば砂丘、砂丘といえば鳥取。私の鳥取のイメージです。すみません、実は訪れたことがないんです。

その鳥取にある鳥取再資源化研究所が、鳥取大学乾燥地研究センターと共同開発した土壌改良材が、いまモロッコの農業の役に立っているそうです。

地中海に面するモロッコは気候が穏やかでトマト、インゲン、オリーブなどを生産する農業国。課題は、農地に水を供給する灌漑(かんがい)システムの充実です。サハラ砂漠にも面しているモロッコは乾燥地でもあり、農業用水の確保には常に苦労しています。

そこで、鳥取再資源化研究所の出番です。同社の技術で、モロッコの乾燥地は水を十分供給できる農地へと変わろうとしているそうです。

長年、鳥取砂丘近くの乾燥地での農業で培った灌漑技術を持ってモロッコへ乗り込んだ――と、思っていたのですが、どうやらそうではないとのこと。

国際事業部を総括している佐藤重臣さんは、国際協力銀行(JBIC)の出身。主に投融資の仕事をしていましたが、アフリカの現地で働きたいという思いが強くなり退社。人脈づくりを目的にセネガルの大学でMBAを取得してから、鳥取再資源化研究所に出会ってアフリカでのビジネスを展開しています。佐藤さんに、同社が実現した灌漑のアイデアについて聞いてみましょう。

国際事業部長 佐藤重臣さん(左)
国際事業部 狩野直之さん(右)

―モロッコの乾燥地で、どうやって水不足を解消させたんですか?

当社特製の土壌改良材を活用しました。こちらをご覧ください。見た目は真っ白な玉砂利のようですが、実際に触るとサンゴのかけらのような多孔質、つまり無数の小さな孔が空いた小さな粒なんです。これが土壌改良材です。この小さな孔に水を蓄えるので、土に混ぜると保水性がぐんと高まります。

秘密は原材料にあります。廃ガラスが主な材料。ポリマーの保水剤よりも耐久性があります。また、軽いので植物の発芽の妨げにもなりません。

ガラスが原料の土壌改良材

このガラス製の土壌改良材、実はずっと日本で使っていたものですが、もともと農業用ではなかったのです。

多孔質のガラス製で重量が軽いうえに保水力もあるので、建設工事の軽量盛土として、土木資材の世界で利用されていました。

農業はというと、雨の多い日本の農地ではさして需要がなかったんですね。
ただ、土木資材の競争は激しいので、ほかの用途で使えないかと鳥取大学乾燥地研究センターに相談したところ、乾燥地での土壌改良に使えるのではないかというアイデアが浮かんできました。ちょうど同大に留学していたモーリタニアの学生と実証実験を行ったところ、いいデータを得られました。

―なんと、農業用の土壌改良材という用途は、あとから生まれたものなんですね。モーリタニアの学生さんと実験したのに、モロッコへ進出したのはなぜですか。

モロッコはトマトの大生産地で世界第4位の輸出国です。そんな農業国である一方で、乾燥地が多く、灌漑にはいつも苦労している土地。ならば、潜在ニーズが大きいはず、とにらんだのです。

トマト農園に土壌改良材を投入している様子

トマトの多くはヨーロッパへ輸出されています。そして、ヨーロッパ市場では、どの農産品がどんな環境で育ったのか、トレーサビリティを非常に気にします。土壌改良材として化学物質が含まれる保水性ポリマーを使った場合、仮にトマトに影響を与える可能性が出たりするとヨーロッパでの市場価格は下がってしまいます。その点、ガラスでできた土壌改良材は有害物質をいっさい出さないことをヨーロッパの人たちは知っています。TICAD Ⅵでも、ケニアの人から環境への影響について尋ねられました。環境問題への関心は確実に高まっていると感じました。

試験圃場でのトマト収穫

モロッコの人たちには新しい技術を受け入れる気質があります。農業のイメージは世界中どこでも「保守的」。でもモロッコの農家は、実に先進的です。水不足に対応するため、地下250~300メートルから地下水を汲み上げて灌漑農業を行うなど、「技術」がなければ作物ができない、シビアな環境だからです。実際、モロッコの農家と話していると、ロジカルに物事を考えて判断します。モーリタニアやセネガルでも挑戦したのですが、モロッコほどうまくいきませんでした。現地の人の考え方が違うのです。

私たちは今、モロッコで、大規模農家を対象としたビジネスを進めています。規模が大きくなると節約できる水の量も多くなりますし、従業員の人たちも安心して仕事を続けられます。これまでモロッコでは、大きな農家は、その土地が水不足になると別の土地へ移動することも珍しくありませんでした。ただ、そうなると、農地で働く小作人たちも、家を離れて新しい農地に出向かねばなりません。当社の土壌改良材を使ってもらうことで、ひとつの農地がずっと使えるようになるのです。

—モロッコといえば、若い日本女性にも人気の観光地ですね。私自身もデザイナーとしてマグレブの文化にはとても興味があります。しかし、ビジネスとなると困難もあるでしょう。現地で活動する国際事業部の狩野直之さんも協力隊出身者ですが、現地の人と良好な関係をつくるため、どんなことに配慮しているのでしょうか。

最低限、挨拶はアラビア語でするようにしています。また文化や習慣に対し、否定的にならないというよりも、リスペクトして行動するようにしています。予定通りに物事が進まないことも隊員時代からわかっていましたから、今もそれには気をつけています。

前日にアポを確認して出かけていっても、「やはりダメ」となることは珍しくありません。でも、そこで傷ついていては前に進めません。相手がそれだけ融通を利かせることを求めるということは、こちらも同じことを求めていいのだと受け止め、それを前提に考えています。

もしも私が大企業の社員なら、日本にある本社とモロッコの現場との間で板挟みになっていたかもしれません。当社の場合、竹内義章社長自身もモロッコを経験していて、「モロッコ流」のビジネスを理解しているので、その心配がありません。

—鳥取再資源化研究所では、2017年、モロッコで土壌改良材の生産工場を稼働させる計画があります。また、パートナー企業は原料となるガラス瓶のリユースを始めています。これからの目標を教えてください。

農業は陣取り合戦なので、できるだけ早く多くの農地に私たちの土壌改良材を導入してもらえるようにしたいです。パートナーを上手に選べばそれほど難しいことではないと考えています。アフリカでのビジネス全般に言えることですが、成長している企業は資金力を得ると、頭一つ抜け出そうとして新しい技術に貪欲になります。現地の勝ち組企業は、新しい技術を求めているのです。私たちはそういった企業と積極的にビジネスを進めていくつもりです。

日本の企業のみなさんは「アフリカにはインフラがない」とおっしゃいます。が、少しずつ充実してきました。海外の先進国や大企業などがこうしたインフラ整備に尽力しています。そしてそのあとには、私たちのような中小企業にとってのビジネスチャンスがたくさんあることを、多くの人に知ってもらえればと思います。

—ガラス瓶のリユースと農地に水をもたらす土壌改良材が一体となったビジネスはますます広がっていきそうです。

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