ガーナの赤ちゃんの栄養不足を解消する乳幼児向けサプリメント「KOKO Plus」

第2章 - その2:世のため人のためがビジネスになる!
食・健康・トイレ、ニッポン大企業がアフリカをバージョンアップ

アフリカにおける日本の大企業のビジネス、といえば、これまで「インフラ」と「資源」が中心でした。道路、橋梁の建設から石油、天然ガス、鉱物、レアメタルに至るまで。私がこれまでアフリカで出会ってきたビジネスパーソンもインフラや資源のビジネスに関わる大手建設会社や商社の方が大半でした。

しかし、今回TICAD Ⅵの会場で会った大企業のビジネスパーソンは、アフリカの一般消費者の生活を本気で変え得るビジネスを展開する方たちでした。

資源の国際価格の下落に伴い、アフリカにおける資源バブルはやや停滞ぎみ。そんな中、日本の大企業はどこに注目しているか?

アフリカの人口です。

国連の人口推計によると、現在10億人のアフリカの人口は2040︎年までに20︎億人を超えると予想されています。しかも現在、アフリカ諸国の平均年齢は20代。つまり、未熟で手付かずの巨大なマーケットが未来に向けて開かれている。

そして、今回ピックアップした3社の共通点は、アフリカの「健康と衛生」に目が向けられていることです。

アフリカ諸国の多くの人々が、いまだに不衛生な生活環境の中で、栄養のアンバランスな食生活を強いられています。しかも、サブサハラ・アフリカ地域の貧困率(1日当たり1.90ドル未満で暮らす人の比率)は35.2%(2015年の世界銀行の見通し)。南アジア地域の13.5%などに比べても、まだまだ厳しい状況です。

そんなアフリカの人たちの食生活や衛生環境をどうやって変えていくのか?

すでに東南アジアでは一大マーケットを築いている味の素、アフリカを市場とするビジネスにいち早く取り組んできたサラヤ、そして循環型社会の構築に奮闘するLIXILのお話をお届けします。

その1: 栄養改善プロジェクトはソーシャルビジネス確立、
調味料はビジネス拡大

味の素×ガーナ、ナイジェリア etc.

TICAD Ⅵ ジャパンフェアの味の素ブースで同社の取出恭彦さん(右)と和田見大作さん(左)

味の素は、自動車や家電と並んで、世界、とりわけアジアにおいては最も有名な日本企業のひとつかもしれません。看板商品のうま味調味料「味の素」が、アジアのほぼ全地域で料理の必需品となっているからです。加工食品や冷凍食品、アフリカでの本格的な市場進出はまさにこれから。同社は、いま2つのプロジェクトを手がけています。

ひとつは、ソーシャルビジネス確立を目指した栄養改善プロジェクト。こちらは、JICAの調査支援制度で案件としても採択されました。もうひとつは、ナイジェリアを起点に一般の人々に「味の素」を知ってもらい、調味料市場を拡大することです。年収3000ドル以下の人々が購入できる商品を継続的に提供する。いわゆるBOP(Base of the Pyramid=ベース・オブ・ザ・ピラミッド)ビジネスです。

まずは、ガーナとマラウイで栄養改善プロジェクトを率いる、研究開発企画部新事業開発部グループシニアマネージャー(途上国母子栄養改善 担当)の取出恭彦さんに話を伺います。

―栄養改善プロジェクトでは、何をしているのですか?

アフリカの人々の栄養改善はアフリカ全体の大きなテーマです。ガーナでは赤ちゃんの離乳後の食事の栄養不足が問題になっています。「koko」と呼ばれる、発酵コーンでつくったおかゆが伝統的な離乳食なのですが、「koko」だけでは炭水化物ばかりでタンパク質やアミノ酸、ビタミンやミネラルが足りないのです。

当社では2009年から「KOKO Plus(ココプラス)」という大豆の粉でつくったきな粉に似たサプリメントを開発、提供しています。ガーナでは「ココ」に砂糖で味をつけるのが伝統的ですが、砂糖の代わりにこの「KOKO Plus」を使ってもらえば、たんぱく質などを補うことができるわけです。

ガーナで発売している乳幼児向けサプリメント「KOKO Plus」
ガーナの伝統的な離乳食「koko」に混ぜてお母さんが赤ちゃんに食べさせます

―ガーナのお母さんたちは、赤ちゃんの栄養改善に対してどの程度の知識を持っているのですか?

大半のお母さんは栄養改善に対する知識を持っていません。赤ちゃんの食事を改善して、必要な栄養をとれるようにする。栄養改善の大切さを理解していただく必要があります。私たちは、ガーナ保健省など公的セクターや国際NGOと一緒に、この「KOKO Plus」というサプリメントの普及に努めてきました。2009年からこのプロジェクトをスタートして、これまでに約2万人の赤ちゃんに「KOKO Plus」を試してもらいました。

こうしたパイロット事業で「KOKO Plus」がある程度認知され、栄養改善の重要性をガーナの人々が認識するようになった段階で、今度は規模を拡大し、持続可能なソーシャルビジネスの成立を目指していこうと考えています。

私たちは「KOKO Plus」を1袋10円程度で販売しようと考えています。ガーナの農村の人たちの1日当たり支出額は200円程度なので、これでも決して安くない値段です。栄養改善について理解がないと買っていただけないでしょう。

1年間のテスト期間で手応えは得ています。実際に「KOKO Plus」を使ったガーナの方々からも好意的な意見を多数いただいており、勇気づけられています。

—1袋10円でビジネスになるのですか?

「KOKO Plus」の事業は、まず採算を求める前にガーナの赤ちゃんの栄養改善に寄与することを目的としたソーシャルビジネスです。「KOKO Plus」を普及させ、認知度が高まれば、「KOKO Plus」そのものも持続可能なビジネスになるでしょうし、ガーナの多くの母親たちが味の素のファンになっていただけるなど、当社が長期的に得られるリターンは少なくないと考えています。

味の素は、100年ちょっと前、日本で創業したときから食を通して人々の健康に貢献することを目的としていました。その意味では、「KOKO Plus」の普及もそのような創業の理念に沿った活動です。

—ずいぶん長期的な計画ですね。

長期的に構えられるのは、100年を超える歴史を持った会社だからかもしれません。手前味噌かもしれませんが、100年間同じ「味の素」という商品を売り続けている会社は世界を見渡してもなかなかありません。100年単位でビジネスを考えてきた会社だから、未来に対しても長期的なアプローチができるのかなとも思っています。最終的には「栄養改善のことなら味の素グループに任せよう」とアフリカを含む世界中の人たちに信頼していただけるようになりたいですね。

―「KOKO Plus」を低額で販売するというのは、BOPビジネス、年収3000ドル以下の所得の少ない人たちへのビジネスに発展させようというわけでしょうか?

私たちはソーシャルビジネスという言葉を使っていますが、低所得の人々の大きな社会問題である栄養不良の問題をビジネスを通して解決することを目指しています。このプロジェクトを通してソーシャルビジネスの成功モデルをつくりたいと考えています。世界中の多くの先進国の企業がソーシャルビジネス、BOPビジネスをアフリカで展開しようとしていますが、うまくいっていないケースが多いのが現状です。

「KOKO Plus」はソーシャルビジネスとして地元の企業と協働で、持続可能なビジネスに進化させることが最終ゴールです。道のりは長いですが、最終的には社会貢献の側面を持ちながらきっちり収益を上げ持続可能となる「ソーシャルビジネス」のモデルをつくり上げたいですね。

―続いて、ナイジェリアの現地法人社長で、調味料ビジネスご担当の和田見大作さんに伺います。味の素はいつからアフリカで調味料ビジネスをしているのですか。

1970年代にトーゴに事務所を構えています。その後、外資系企業への規制が強くなったことからトーゴ国外に出て、フランス企業との合弁なども経て、1992年にナイジェリアに味の素の100%子会社を設立しました。現在はコートジボアール、ケニアにも事務所を持っています。

―なぜナイジェリアから再スタートを切ったのですか?

1億7000万人とアフリカ最大の人口を誇る国だからです。食品ビジネスは、「胃袋」の数で決まりますからね。

―胃袋の数! 説得力がありますね。主力商品を教えてください。

アフリカオリジナル調味料「MaDish」。これはアフリカオリジナルの調味料です。
「味の素」と「塩」をブレンドし、チキンフレーバーを加えています。
2016年からは、日本でもロングセラーの「アジシオ」の販売も始めました。

ナイジェリアの「キオスク」では、「MaDish」を販売中

私たちは、過去にアジア全域で「味の素」を広めた実績があります。中華料理でも東南アジア料理でも、もはや「味の素」は欠かせない調味料となっており、多くの模倣品を生んでいるほどです。

では、アフリカでもすぐに味の素が普及できるか? 

アジアでの成功のような道のりをとるのはすぐには難しいと考えています。というのも、アジアにおける味の素の普及は、まず中華料理の世界で華僑の方たちが広めてくれた側面が大きいのです。アジアの料理の多くは中華料理の影響を受けており、また華僑ネットワークは世界中に広がっていて、あらゆる地域に中華料理が存在しています。

一方、アフリカの食文化は、中華料理を含むアジア系の食文化とはやや離れています。そのため、私たちはアフリカ向けにオリジナルの商品を開発し、新たな販売ネットワークを構築する必要があります。このためある程度時間がかかると最初から考えています。

味の素製品は、アジアを中心に世界各地で消費されています
アフリカは最後の未開拓市場

―宣伝やPRはどのように行っているのですか?

看板広告、テレビ、ラジオで宣伝を行っています。ナイジェリアの場合、ラジオを積極的に活用しています。新商品はラジオでの広告がいいと現地で言われているからです。テレビ普及率はまだ20%程度なので、地元の人にリーチするにはラジオが一番です。

また、インターネットの活用も研究中です。スマートフォンはアフリカで急速に普及しており、SNSを多くの人が使っています。スマホ経由でのインターネット利用者はアフリカに数多い。ここでの告知は必須になるでしょう。

アフリカ各地の幹線道路沿いや、街角に積極的に看板広告を打ち、アピール

―「MaDish」の現時点での感触はいかがですか?

使ってくださった方は「おいしい」と言ってくれます。BOPビジネスとして、低額で小口の商品をたくさん用意し、一刻も早くファンとユーザーを増やしていきたい。

「味の素」の主成分はグルタミン酸ナトリウムです。これが「うま味」の正体です。では、天然の食品でグルタミン酸を大量に含んでいるのは何か? なんとトマトなんですね。つまり「トマト」を多用する食文化と「味の素」はとても相性がいいのです。

そして、アフリカの多くの地域では、トマトを調味料として使っています。その意味で、「味の素」が普及する素地がきっちりある、と考えています。

「味の素」はアフリカの食文化にもフィットするはず

―私の暮らすエチオピアで「MaDish」を売る可能性はありますか? アフリカではナイジェリアについで2番目に胃袋、つまり人口が多い国なのですが。

エチオピアにも進出したいところですが、現時点では外資系企業への規制が厳しいのがネックですね。アフリカの場合、国によって政治状況が事細かに異なるので、その点を考えて慎重に進出の計画を立てる必要があります。それから、エチオピアの料理は、ナイジェリアと異なり酸味が非常に強い。「MaDish」をそのまま販売するのが向いているかどうかはこれからの課題です。一方、ラーメンのような加工食品や飲料には十分な可能性があると考えています。

―ナイジェリアの事務所には日本人の方は何人くらいいらっしゃるんですか。

500人くらいですね。

―そんなに! これからビジネスを展開する、というのに実に大人数ですね。

最初から大きな市場をつくるつもりで人員を配置する。それでも普及には時間がかかります。10年間やってようやく芽が出る、というスケジュールです。

最初から大人数でビジネスを展開するのには、もうひとつ理由があります。「Madish」をはじめ、味の素の商品は効能に関する説明が必要なものが多い。このため、最初の段階では現地の代理店任せにはできないのです。アフリカの小さなお子さんからご老人まで「味の素」を知っている。そんな未来を自ら出向いてつくるのが私たちのミッションです。

アジアをはじめ世界の大半の地域で調味料として普及している「味の素」ですが、アフリカでの普及はまさにこれから。そのために味の素では長期的な展望で計画を立てています。まずは先行投資の意味合いでアフリカの栄養改善に寄与する。そこで信頼を勝ち取り、知名度を上げて、次に低額の商品を展開するBOPビジネスを行う。ビジネスの基盤をつくり、より大きなビジネスに発展させる。10年単位の長期プロジェクトです。

食品ビジネスは、その国の文化や習慣の根幹に入り込むこと。それゆえ、最初は地元の人々の健康を改善する、という国際協力の側面を打ち出し、「好きになって」もらい、消費者になってもらう。食ビジネスとは、その地域の文化に時間をかけて入り込むことなのだ、というのがよくわかる話でした。

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