その2:トイレ革命で、きれいな生活、おいしいアフリカ。

LIXIL×ケニア

アフリカの多くの人々にとって大きな課題、それは衛生環境の改善です。

サラヤは学校や家庭での石鹸による手洗いと病院での手指のアルコール消毒の普及を通じて衛生環境の改善をウガンダで講じています。

もうひとつ、公衆衛生の問題に取り組んでいる企業があります。LIXILです。

住宅やビルの水回り設備・建材を幅広く手がける同社がアフリカで展開しているのは、清潔なトイレの普及事業です。下水道が普及していないアフリカの多くの国では、トイレまわりの衛生問題は非常に深刻です。病原菌などの発生源になり得ますし、垂れ流された汚水は、周辺の環境や河川の汚染を直接招きます。

清潔なトイレシステムの普及は、アフリカ各国にとって喫緊の課題。その大きな課題に取り組む女性が、ケニアにおりました。山上遊さん。彼女に話をうかがいましょう。

SaTo(Safe Toilet) の説明をする山上遊さん
トイレに懸ける情熱に圧倒されました。

―真っ青な便器が展示されています。

私たちがいまアフリカで普及させようとしている3つのトイレのうちのひとつ「SaTo(Safe Toilet)」です。これはプラスチック製で、持っていただければわかりますが、とっても軽いんです。「SaTo」は、農村部やスラムなど上下水道がなくまともなトイレが普及していない場所での利用を想定しています。

ケニアの農村部に行くと、トイレは掘った穴に板を渡しただけ。臭いが漂うといったレベルではなく、蠅が飛び回り、大腸菌や病原菌の巣窟になる。

そんなアフリカの農村部のトイレ事情に対応したのが「SaTo」です。このトイレの場合、用を足したのち、少量の水で流せば、自重で下に落ちて、そして蓋がしまるため、臭いがもれず、蠅も発生しません。蓋付きのトイレもありますが、閉め忘れる可能性もある。「SaTo」の場合、用を足すたびに自動的に蓋が開け閉めされるため、その心配がありません。しかも価格は5ドル以下で、他のトイレに比べても安いのが特徴です。

糞便と少量の水の自重で下に落ちる「SaTo」の仕組み

もともとこの「SaTo」は、アメリカン・スタンダード・ブランズというアメリカの水回りのメーカーが、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏が創設したビル&メリンダ・ゲイツ財団と一緒に普及させようとしていた製品です。2013年にアメリカン・スタンダード・ブランズがLIXILグループ入りしたことをきっかけに、今ではLIXILグループ全体で、その普及を行っているわけです。

ところで鮫島さん、普段みなさんが使っている水洗トイレは1回当たりどれくらいの水を使っているかご存じですか?

―まったく想像がつきません。

ケニアで手に入る節水型トイレでも6リットルです。節水タイプでない、安い製品では10リットル使うものもあります。

しかも、ほかのアフリカ諸国もそうですが、ケニアでは、上水道も下水道もまだまだ普及が進んでいません。上水道普及率は63%(2014年)。下水道設備の普及率は30%(2014年)。一方で首都ナイロビなどでは、都市化が進み、住宅が高層化しています。当然、トイレは水洗トイレです。

そうなると、あまり収入がない家庭でも、貴重な水道水をトイレを流すために確保する必要が出てきています。家によっては、水道が来ていないので、どこからか水を汲んできて20リットル入りのウォータータンクに入れてそれを部屋まで運んで、トイレに使っています。が、貴重な水をトイレに使うのをついついケチって、なるべく水を流さないようにする家庭がけっこうあります。結果、配管詰まりなどのトラブルを引き起こします。

―悪循環ですね。

そこで私たちが普及を進めている2つ目のトイレは、「たった1リットルの水で流せる」水洗トイレです。こちらの製品はすでに日本でも売っています。日本の島しょ部や山間部とか、下水処理設備が整っていない地域で使われてきた「簡易水洗トイレ」です。下水処理施設がないところでは、昔ながらの「ぼっとんトイレ」しか、選択肢がなかったのですが、そんなところでも使える水洗トイレ、それがこれです。

「便槽」というタンクを用意して、そこにうんちとおしっこと、流した水を溜めておいて、定期的にバキュームします。あまり水を多く使うと便槽がすぐに一杯になってしまうので、少ない水で流せるように設計されているのです。

日本の僻地に対応してできた「簡易水洗トイレ」がいま、水洗トイレを導入したいけれど、水をたくさん使うことができないケニアの都市部の人たちのニーズに合致しました。そこで、いま、ケニアの都市部ではこちらの製品の普及を進めています。

1リットルの水で水洗トイレが実現する「マイクロフラッシュトイレ・システム」の仕組み

―アメリカ生まれのトイレと、日本生まれのトイレが、アフリカの農村と都市で拡がっていく。3つめのトイレは?

3つめは、環境に配慮した「グリーントイレ・システム」。循環型無水トイレ・システムです。こちらは名前の通り、なんと水を使わずに排泄物を便器から運搬し、集まった排泄物を資源として循環させることを目指したトイレです。

水を使わずに糞便を清潔にリサイクルできるグリーントイレ・システム
私が持っているのはリサイクルしてできた有機肥料です。

アフリカには、最低限の水にアクセスできない人々が大勢います。そして、水以上にないのがし尿処理設備です。かつての日本だと下水道が完備していないときは、「ぼっとんトイレ」に溜まった便をバキュームカーで汲み取り、し尿処理施設に運んでいました。が、アフリカには下水道はもちろん、し尿処理施設がそもそも滅多にないのです。するとどうなるか。便槽にたまった糞便は、そのまま投棄されます。本当にそのあたりに撒き散らされたり、川に流されたり。

投棄された糞便には大腸菌や病原菌が残っています。こうした糞便がたとえば水源近くや、井戸水のそばに捨てられたりすると、今度は飲み水が汚染されます。糞便の処理は、人々の命に関わる問題なのです。

そこで、私たちは便をコンポスト化し、肥料に変える仕組みをつくりました。それが「グリーントイレ・システム」です。コンポストとは、糞便とおがくずなどを混ぜ、微生物に分解させ、そのときに発生する熱で便の中に残っている菌を死滅させる仕組みです。そうしておしっこからは液体肥料、うんちからは堆肥をつくります。

グリーントイレ・システムを試験導入したケニアの農村

糞便をコンポスト化してつくった有機肥料で農作物を育てます

―日本でも肥料をそうやってつくっていましたよね。都市部で出る排泄物を肥料として郊外へ届ける。

今ここでは、コンポストでつくった肥料が現地の農家の人たちに受け入れられるか、許容性の確認をしているところです。価値のあるものとなれば、みんな競って集めるようになるんです。たとえば江戸時代や明治時代、東京の都市部の糞便は周辺の農地にとって貴重な肥料の原材料でしたから、とても価値がありました。アフリカでも原理は同じ。糞便を肥料として利用し、完全リサイクルする流れができれば、衛生問題も解決です。

―つまり、かつての日本がたどってきた道が、そのままアフリカでは新しいビジネスとして展開でき得るということですね。

先進国の下水処理の仕組みはとても良くできています。でも、巨額の初期投資が必要なので、アフリカでそれをやろうとしてもすぐに実行できません。しかも都市部では人口が激増していますから、すでに人が住んでいる地域の地下に下水管を敷設するのには大変なコストがかかります。

こうしたコンポストを使った「グリーントイレ・システム」が普及すれば、大規模な工事なしで、糞便の処理ができます。しかも、雇用を創出できます。便を集める仕事ができて、肥料をつくる仕事ができて、それを使って農業ができる。このサイクルを回していくのが私の理想です。

―それは素晴らしいことですね。私がビジネスをしているエチオピアも農業が盛んですが、焼き畑式農業が中心で、土地が痩せ細ったら別の場所へ移るので土地の砂漠化が問題になっています。でも、人々の糞便由来の有機肥料ができればそれも解決。夢のような話です。

そう、夢のような話なんです。ただ、その夢のような話に取り組んできた人はこれまでにも何人もいましたが、なかなか広まっていません。それはきっと、糞便の処理と肥料をつくることは衛生上不可欠だから、というアプローチでしかアフリカの人たちに説明できていなかったからだと思うんです。糞便の処理やリサイクルは、むしろ積極的にビジネスになる!だからみんなでグリーントイレ・システムを導入しよう!とならなければ。かつての日本の農村部と都市部を結んだリサイクルシステムは、都市部の糞便と農村の農業とが見事につながった事例です。アフリカでも同じ市場を実現したいですね。

それから、トイレや衛生にお金を払うという習慣がない人もまだいます。5ドル以下の「SaTo」に対しても「そのあたりでタダで用を足せていたのになぜトイレを買う必要があるのだ」と考える人もいます。衛生環境を改善することが、ケニアやアフリカ、みなさんの子どもや孫にとってとても大事なことなんだということを、なんとか伝えていかないとなりません。その点で、JICAなどの政府機関や国際機関の力を借りる必要があります。

―LIXILのような大企業にとって、JICAの果たす役割というのはどういったものなのでしょうか。

ケニアでのLIXILの知名度はまだほとんどありません。どんなに日本でシェアがあっても、みなさん、ご存じじゃない。そのときにJICAに「JICAがこの会社をサポートするのはこういう実績があるからです」と説明してもらえると、すんなり打ち合わせに入れます。

私自身はケニアで仕事をするようになって、3年たちました。プロジェクトはまだリサーチ段階ですが、私たちはケニアに事務所を設立し、現地ビジネスパートナーと共に働いています。ケニアの人たちに「私たちは出張者ではなく、ビジネスを成功させるためにここで暮らしているんだ」という姿勢を見せないと、真剣に向き合ってもらえないからです。

―ケニアで学んだことは何ですか。

“I can do everything”と言う人をあまり信じ過ぎないことですね(笑)。みんなとにかく、軽く「なんでもできますから」と言ってくるんですよ。“can”「できる」の意味合いが、日本とこちらとでは違うんです。最初の1年くらいは“I can do everything”と言う人のことを日本の感覚で「あ、この人できるんだろう」と信用してしまって失敗もしました。そこでわかったのは、簡単にできるとは言わない人、「難しいですよ、時間がかかりますよ」と率直に言ってくれる人、そんな人との信頼関係を構築するようにしています。

まだスタートしたばかりですが、ケニアを起点に、アフリカ全土での衛生問題の解決に全力で取り組みます。トイレが変わればアフリカも変わる。そう信じています。

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