第3章 - ルワンダ ICT立国編
ジェノサイドを知らない若者たちが、ルワンダの未来を創り始めた

ルワンダ、という国をご存知ですか。

ルワンダは水資源が豊富

首都キガリの空港近辺の整然とした街並み

アフリカのマーケットは治安が悪いところが多いですが、
ルワンダのマーケットは清潔で、子連れのお母さんも出入りしています

アフリカ大陸のちょうど真ん中に位置する内陸の小国です。

多くの日本人は、ルワンダ、という名を聞くとひとつの映画を思い出すでしょう。

2006年に日本で公開された『ホテル・ルワンダ』。1994年、当時730万人の人口のうち100万人前後が100日間でルワンダ国民同士間で虐殺された事実を描きました。

しかし、この悲劇から20年あまり。ルワンダは大変身しました。

首都キガリは美しい街並みを誇り、夜も気軽に歩けるほど治安もよく、ゴミひとつ落ちていません。そして「アフリカの奇跡」と呼ばれるほどの経済成長を果たしています。

その起爆剤となっているのは、なんとICT(情報通信技術)と高付加価値の農業。

その発展の陰には日本の国際協力によるものもありました。

アフリカの未来のひとつの理想形が見えるルワンダの今。

現地から報告します。

第3章 - ルワンダ ICT立国編 : その1

ジェノサイドの地がアフリカダントツの
平和で美しい国になったわけ

2016年8月末、ケニアの首都・ナイロビで開かれたTICAD Ⅵは、安倍晋三首相が3年間で官民総額300億ドル(約3兆円)の投資を約束し、「ナイロビ宣言」と「ナイロビ実施計画」が採択されて大盛況のうちに幕を下ろしました。

私たちもたっぷり取材を行い、前回までの連載でその内容をご紹介しました。しかし、今回のアフリカ取材はこれで終わりではありません。いまアフリカで最も経済成長著しい国の現場を取材することになったのです。

その国の名は、ルワンダ。

ケニアのほぼ西。赤道のほんの南に位置する四国より一回り大きな国土に人口約1200万人が住む、アフリカ大陸でも人口密度が高く、しかも貿易や製造業に不利な、海に面していない内陸国です。

最初に申し上げておきましょう。今回初めて私はルワンダを訪れました。

その感想は、「ここに住みたい!」「ここでビジネスをしてみたい!」

それほど魅力に満ちあふれた国だったのです。

4つの国に囲まれたルワンダは山と川と湖の国

ルワンダ、と聞いて、あのルワンダ?と首を傾げる方も、いらっしゃるかもしれません。

大変皮肉な話ですが、日本でルワンダという国が有名になったのは2006年1月、『ホテル・ルワンダ』という映画が公開され、ルワンダの現代史の一端を日本人が知ることになったときでした。

この映画でも取り上げられていますが、いまから22年前の1994年、ルワンダでは自国民同士が殺し合う凄惨な内戦が起きました。

ルワンダにはかつての宗主国であるベルギーが故意に作り上げたツチ族とフツ族という民族がおり、ベルギーは、民族間の諍いを利用して、ルワンダを統治していました。1962年の独立後も民族間の対立は解消されず、ついに94年、フツ族系だった政府に半ば先導されたフツ族の過激派たちが、ツチ族とフツ族の穏健派を虐殺します。100日間で80万人とも100万人ともいわれる人々が殺され、大量の難民が周辺国に押し寄せる事態に陥りました。

いまでも、多くの日本人はルワンダと聞くと虐殺=ジェノサイドのイメージが強いかもしれません。実際「ルワンダ」で画像検索すると、地図に混じって、当時の虐殺や人々の頭蓋骨が並んだ凄惨な写真が上位に出てきます。

エチオピアで起業し、周囲にアフリカ事情に詳しい友人の多い私も、これまでルワンダの現状について耳にする機会は何度かあったのですが、それでも、今回実際に訪れるまでは、まさにこれらの強烈なイメージから離れることができずにいました。

けれども、今度は「RWANDA」と英語で画像検索してみてください。虐殺の写真はほんのわずか。その代わりに、近代的な街並み。美しい自然の様子。伝統的なダンスや眩しい笑顔の人々。そしてゴリラの写真が並びます。

ルワンダは、あのジェノサイドから22年を経て、著しい経済成長の真っ只中なのです。

牽引力となっている産業は、おもに3つ。

1つは、ICT=情報通信技術がいまルワンダでは大きく羽ばたこうとしているというのです。スマートフォンを活用したアプリやサービスが登場したり、ドローンの専用空港の建設が進められていたり、さまざまなITベンチャーが立ち上がったり。

もう1つは、農業。ルワンダ国民の約7割が農業に従事していますが、最近成長が著しいのは、高付加価値の商業作物の生産です。赤道近くにありながら標高1500m台の穏やかな気候を利用したルワンダコーヒーは世界中のコーヒー業者の注目の的。さらにマカデミアナッツなど高付加価値のナッツの生産も盛んになってきました。また、ヨーロッパ市場を見据えた花卉(かき)の生産も注目を浴びています。ヒマワリに加えて日本のリンドウが結婚式のブーケ用に輸出されているとのこと。

さらにもう1つは、野生のマウンテンゴリラに出会うツアーに象徴される観光です。ルワンダとウガンダ、コンゴ民主共和国の3つの国の国境が重なり合う山岳地帯は、世界で唯一確実に野生のゴリラに出会える自然が残っており、ルワンダのボルカノ国立公園では高額のネイチャーツアーが催行され、世界中から観光客が訪れているそうです。

首都キガリにあるファブラボ(FabLab)では、若者がさまざまな製品をどんどん開発

日本の自治体と企業が、ルワンダにヒマワリとリンドウの花畑を

穏やかなルワンダの気候は、マカデミアナッツの生産にうってつけ

ルワンダの観光といえば、野生のマウンテンゴリラに出会うツアー
Photo:INGO ARNDT/MINDEN PICTURES/National Geographic Creative

なぜルワンダはわずか20年あまりで、ここまでの経済成長の波に乗れたのか? 

その陰には日本人の存在がありました。とりわけICTビジネスの発展と高付加価値農業の指導に、日本の国際協力が重要な役割を果たしていたのです。

私もケニア・ナイロビのTICAD Ⅵの会場で、ルワンダに拠点を構えてICTや農業に取り組んでいる人たちの話をうかがいました。彼らの話(今回の連載で登場します!)を聞くだけで、この目でルワンダの経済成長の現場を見たいと心動かされます。

実際に、ナイロビの空港からルワンダへと飛行機で向かってみましょう。フライト時間はわずか1時間30分。あっという間に到着です。

飛行機がルワンダの上空に差し掛かると景色が一変します。アフリカ特有の赤茶けたひらべったい大地が広がっていた風景から、木々や段々畑に覆われた緑の山谷がいくつも連なっている風景に。大きな湖と、右へ左へと蛇行する川。ルワンダは別名「千の丘の国」と呼ばれていますが、いくつもの丘があり谷があり水と緑が豊かなのが機上からもうかがえます。

首都キガリの空港へ到着して入国手続きをすませると、出口近くに到着客の荷物に目を光らせている人たちがいました。密輸品のチェックをしているのでしょうか?麻薬?はたまた銃器?すると取材チームのひとりが検査官につかまりました。え、何がまずかったの?

なんと、彼がつかまったのは、ナイロビの空港で買ったお土産品の入ったビニール製のショッピングバッグを持っていたからでした。

ルワンダでは、環境に配慮した国づくりを行っており、使い捨てのビニール袋やプラスチックバッグの利用がいっさい禁じられているのです。さらに、そうしたゴミになるものを“使わせない”だけでなく “国内にも一切持ち込ませない”ために、空港でも厳しく水際チェックがされているのでした。なんと徹底したエシカルポリシー!日本でも見習いたいくらいです。件の取材チームの彼は、検査官の指示に従い、決められたゴミ箱にビニールバッグを捨て、お土産品をスーツケースにねじ込むことになりました。

ルワンダ国内はビニールバッグは使用禁止!
海外からの持ち込みは空港でシャットアウト

代わりにみんなエコバッグで買い物をします。超エコ!

「さっそく洗礼を浴びましたか」と笑顔で迎えてくれたのは、JICAルワンダ事務所次長の室谷龍太郎さんです。

室谷さんにルワンダの首都キガリの街並みを案内してもらうことにいたしましょう。

JICAルワンダ事務所次長の室谷龍太郎さん

空港からは並木が続く片側2車線の道路が、首都キガリまで私たちを連れて行ってくれます。走っている車のほとんどは日本車。

「日本車のシェアはおそらく7割を超えているでしょうね」と室谷さん。

自動車で街を走っていてすぐに、厳しい「ビニール袋禁止令」の効果を知ることができました。確かに、とにかく街が清潔なのです。車道にも歩道にもビルの谷間にも、まったくゴミが落ちていません。

20数年前、内戦とジェノサイドがあったとは思えないほど美しいキガリの街並み

道路にも市場にもいっさいゴミが落ちていないのは、
カガメ大統領の「お掃除作戦」のおかげ

「2000年に就任したポール・カガメ大統領の政策です。2008年から、ビニール袋などいわゆるプラスチックバッグの製造も持ち込みも利用も全面禁止となりました。もし市内で持ち歩いていたら没収されますし、ビニール袋を売っているのが見つかれば最高30万ルワンダ・フラン(約5万円)の罰金をとられます。それから、たくさんの清掃員を雇用し、毎日欠かさずキガリの街じゅうを掃除しています。その結果、ゴミひとつ落ちていない美しい国になりました」(室谷さん)

つい数時間前まで滞在していたケニア・ナイロビは、アフリカの中では先進都市ですが、それでも路地やビルの片隅にはゴミが山積していました。ナイロビだけではありません。私が普段暮らしているエチオピアの首都アディスアベバでも、田舎の村でも、世界遺産の美しい山でも湖でも、ビニール袋やプラスチックなど土に還らない製品の慣れの果てたちがそこらじゅうに吹き溜まっています。ゴミ処理の問題は、アフリカにとどまらず世界中の途上国の課題です。

ところがルワンダの首都キガリでは、カガメ大統領の号令で一気に「ゴミゼロ都市」が実現してしまいました。このあと3日間にわたり、キガリのダウンタウンから官庁街、市場や郊外の農村部を取材して回りましたが、ほんとうにゴミを見ることが少ない。徹底した「ゴミゼロ」対策です。

丘の上からキガリの街並みを見渡すと、赤と茶色に統一された住宅が起伏の多い地形に沿って並び、谷には川が流れ、緑の回廊が続いています。なんだか昔訪れた地中海のリゾートを思い起こさせる、実に洗練された風景です。

街を彩る建築も洗練されています。

2016年7月に完成したばかりのドーム型の国際会議場。夜になるとさまざまな色にライトアップされます。すでに国連の会議なども誘致されており、キガリの新しいランドマークになっています。

2016年7月に完成したドーム型の国際会議場。
夜は妖しく光ります

それから案内されたのは公共図書館。2013︎年にできました。オープンテラスにカフェが併設され、大学生や若いビジネスパーソンがノートブックパソコンを持ち込み、勉強や仕事をしています。WiFiは無料で使い放題。イベントスペースも併設されています。日本でもここ数年、民間企業プロデュースによる公立図書館が話題となっていますが、「日本のそれと比べても全然負けていない!」と取材チームのひとりがつぶやきます。

2013年に完成したキガリの公共図書館は、
日本のおしゃれ図書館が裸足で逃げ出すかっこよさでした。
カフェのご飯がまた美味しい。

しかも気候が素晴らしい。気温は25度ほど。標高約1500mにあるために、赤道近くにもかかわらず、まるで夏の避暑地のような過ごしやすさです。

室谷さんにルワンダの経済と日本の国際協力について基本的なポイントをうかがってみましょう。