前編

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パナマ運河とシェールガスと日本の関係

2017年1月6日、新潟県上越市の中部電力上越火力発電所に、米国ルイジアナ州からやって来たLNG船「オーク・スピリット号」が到着しました。

搭載されている7万トンのLNG=液化天然ガスは、米国産のシェールガスです。実は米国のシェールガスが日本に到着するのはこれがなんと第1号です。

米国で増産が進むシェールガスは、原油価格に連動しているアジアや中東のLNGに比べ、値段が安いのが魅力です。日本はLNGを主に東南アジアのインドネシアやブルネイ、中東のカタールなどから購入していますが、米国産のシェールガスを購入できるようになれば、こうした取引先に対して価格交渉力を持つことができます。エネルギー安全保障の観点からいっても、米国産シェールガスの利用は、日本にとって少なからぬ意味を持つわけですね。

にもかかわらず、これまで日本に米国産のシェールガスは輸出されていませんでした。

なぜでしょう? 理由の1つに「物流コスト」問題がありました。米国産シェールガスはメキシコ湾から出荷されます。日本に届けるには、大西洋から、地中海を経由してスエズ運河を通るか、アフリカの南を通り、インド洋から太平洋へ出て、という長い航路を経なければなりません。せっかく安く仕入れても、物流コストが高過ぎて、うまみが少ないというわけです。

では、なぜいま米国産シェールガスが日本に輸入できるようになったのか?

ひとつは、オバマ政権が、シェールガスを液化して輸出するなら、液化の過程で新たな産業が生まれるとして、ゴーサインを出したこと。

もうひとつは、パナマ運河の大変化にあります。

太平洋から大西洋へと貨物船が航行する。全長約80キロのパナマ運河

パナマ運河は、ご存知の通り、北米大陸と南米大陸のつなぎ目にあたるパナマ共和国の真ん中を通り、太平洋と大西洋とをつないでいます。この運河のおかげで、船舶は、南米の沖を遠回りすることなく、太平洋側と大西洋側を行き来できます。

本来ならば、メキシコ湾からシェールガスを積んで出港したLNG船は、南下してパナマ運河を通れば、すぐに太平洋に出て、21日で日本に到着できる計算です。

ただし、1914年に開通したパナマ運河の幅は約33メートル。このため全幅32.3メートル、長さ294.1メートル、喫水12メートル以下のサイズの船しか通ることができませんでした。このサイズを「パナマックス」といいます。

幅32メートルの貨物船が旧運河を通る。岸壁との距離はわずか50センチ!

その後、世界の船舶は巨大化が進み、パナマ運河を利用することができないサイズの船も増えてきました。一般的なLNG船は幅33メートルをはるかに超えるサイズで、パナマ運河を利用するのは不可能でした。

そうなると、大西洋を渡り地中海からスエズ運河経由でインド洋から日本に向かうか、アフリカの南端である喜望峰を回って日本に向かうしかありません。日本海事センターのデータによれば、パナマ運河経由だと21日で日本に到着するのに比べ、スエズ運河経由だと34日、喜望峰経由だと36日もかかるそうです。

当然物流コストが余計にかかります。そのせいもあって、アメリカ産のシェールガスの輸出が認められても、すぐには日本に届かずじまいでした。

この事態は、2016年6月に変わります。

パナマ運河に、およそ100年ぶりに新たな運河が完成したのです。新運河は幅約50メートルあり、最大で長さ366メートル、幅49メートル、喫水15.2メートルの船が通ることができます(これをネオパナマックスといいます)。旧運河に比べて最大で約3倍もの積載量の船舶が航行可能となりました。

新運河は幅40メートル台の船舶も楽々通れるようになった

かくして、LNG船も楽々通れるようになりました。冒頭のLNG船もパナマの新運河を通って日本に到着したわけです。

パナマ運河の新航路開通は、日本のエネルギー需給問題に、アメリカのシェールガスが利用可能となるという選択肢を与えてくれたわけですね。

しかし、このパナマ運河には「危機」が訪れていました。

新運河開通どころか、運河全体が使えなくなってしまうかもしれない、という問題が生じていたのです。

その問題を解決したのは、日本の協力でした。
いったいどんな問題があったのか? 

2016年6月、パナマ運河がバージョンアップ!

こちらがパナマ運河です。巨大な船が次々と通り過ぎます。
まずは 1914年に開通した旧運河を見てみましょう。

タンカーと岸壁の隙間はわずか50センチ! 
もう手が届きそうな距離です。

旧運河に大西洋から太平洋へ向かう貨物船が到着

岸壁からわずか50センチしか隙間がないため、高度な航行技術が求められる

管制塔から手が届きそうな距離を船舶が太平洋へと向かいます

実に見事な操舵ぶりですが、船が岸壁とぶつからないのは、両岸に船と並行して走っている電気機関車のおかげです。この電気機関車が船の左右のバランスをとって、まっすぐ航行できるように調節しているんですね。

ちなみにこの電気機関車、日本の三菱重工の製品です。日本の技術が、パナマ運河の安全な運航に寄与しているのを目の当たりにしました。

日本製の電気機関車が、旧運河での船の曳航の鍵を握ります

そして2016年6月に開通したばかりの新運河がこちらになります。

ちょうど日本の商船三井の貨物船が通り過ぎていきます。日本を出港し、アメリカの東海岸に向かうそうです。食料品から工業部品に至るまで、さまざまなコンテナが混載されています。商船三井のパナマ駐在員、宮崎洋介さんに話を伺いましょう。

「いま通っているこの貨物船は、従来のパナマ運河だと狭過ぎて航行不能でした。このため、以前は別の航路で利用されていたのです。新運河の開通で、晴れてパナマ運河を通ることができるようになりました。日本とアメリカ東海岸との貿易でこれまで利用できなかった巨大船を活用できます。この運河は日本にとって大きな意味を持つことになりますね」

新運河を日本からアメリカ東海岸を目指す商船三井の貨物船が通行中。
旧運河は、このサイズの船を通すことができませんでした

商船三井のパナマ駐在員、宮崎洋介さんによれば、この船の乗組員は全員外国人

次から次へと船がやって来ます。大西洋から太平洋までの総距離は約80キロ。船は24時間かけて、この運河を通ります。

パナマ運河を通るのは、貨物船やタンカーばかりでなく、遊覧船も

パナマ運河には年間約1万4000隻の船が通行し、世界の海上物流の約3%を占めるといわれています。さらに新運河の開通で、通行可能な隻数は2倍以上になると目されています。運河の通行料は往復で1隻あたり約1億円、パナマにとってパナマ運河そのものが最大の産業の1つです。

パナマ運河を監督するパナマ運河庁のマヌエル・ベニテス副長官は語ります。

「パナマ運河は世界の船舶物流の要です。そしてもちろんパナマにとっても最大の産業です。新運河の開通で、パナマ運河の重要性はグローバル社会の中でさらに高まりました。これまで航行できなかった巨大船が楽々通れるようになるため、事業者の物流コストを大きく下げることに寄与できます」

パナマ運河庁のマヌエル・ベニテス副長官と新運河を見学

とりわけ重要なのは、アメリカの東海岸と日本や中国、韓国などの東アジア、そして東南アジアとを結ぶ航路です。

「世界でもトップクラスの市場であるアジア地域と、北米や南米の東海岸を巨大船で結ぶことができるようになりました。新パナマ運河の開通で世界の物流は大きく変わることでしょう。巨大船を活用できることで二酸化炭素の排出削減にも効果をもたらします。経済のみならず、環境にも優しい運河なんです」

さて、ここで問題です。
パナマ運河に流れている水は、どんな水でしょうか?